灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

第八話


あたし達、猫族が暮らすには、自然が多くてまあまあ良い環境ってとこね。
はいね親分があたしを産んだ古い家は木造平屋建て3LDK。
あの子が小学1年生の時に新しい家を建てたんで、人間はみんなそっちに引っ越したらしい。
ここは物置兼猫小屋になってて、古いマットレスに古着が散らばってるのはみんなあの子があたしたちのためにやったんだって。
もちろん派遣募集にも書かれていたように、もっと広いくてトラクターやトラックの納まっているD型ハウスや、わら壁の本物の納屋や、何故か犬小屋まである。
ちょっとごちゃごちゃしたそこから出ると、真向かいにあの子達人間の住処。
いつまでも「あの子」と言うのは面倒なんで、後に付けることになるハンドルネームの「羽衣音」とこれからは呼ぶことにするわ。
はいね親分と同じ名前だけれど、親分はひらがな、羽衣音は漢字で見分けるように。
1階の台所や2階の窓から、羽衣音はよくあたし達を見ていたの。
そこから東側にまわると玄関があって、そこがあたし達の食事場所だって親分は教えてくれた。
もとは犬のものだったと言う大きな銀色の水飲みとご飯入れ。
はいね親分とちゃとらん子分とあたしの3人で頭を突っ込んでも、仲良く食事が出来るってもんね。
日の出と日の入りの2回、それから羽衣音の会社がお休みの時に美味しいおやつをくれるんだって。
さらにぐるりと南側にまわると家の中がのぞけるリビングの窓に出る。
その前にはうっそうと伸び放題に放った庭があって、例の犬小屋がまるで山小屋のごとく建っている。
急に雨が降った時なんかは、ここが避難場所なんだって。
中央に鎮座するオンコの木は、あたしたちの絶好の遊び場になった。
咲いたばかりのシャクヤク。
ようやく今年の春に花をつけた桜。
ぐんぐんと日増しに伸びる名も知らぬ植物。
その上には真っ青な雲一つない大空。
なかなか気持ちの良い場所じゃない。
リビングの外側にはコンクリの足場があって、ここから羽衣音の様子がよく見えるの。
背伸びして顔を覗かせると、ソファに座っていた羽衣音は立ち上がって、ゆっくりとあたしの側に来た。
ゆっくりと、あたしを驚かせないように、窓越しに手を延ばす。
よろしく、羽衣音。
あたしを見たその嬉しそうな笑顔が、あたしは気に入った。
窓越しの大きなその手にあたしの猫手を添える。
それがあたしと羽衣音の記念すべきファーストコンタクトだった。



だから…ごめんなさい.jpg


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: