灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

その2


「おはよう。早く顔を洗いなさい。ご飯出来てるよ。」
冷たい水でばしゃばしゃと顔を洗って食卓テーブルにつくと、母さんがご飯をよそってくれた。
大盛り。
「男の子はこのくらい食べなくちゃね。もうすぐ小学校最後の運動会だし。」
お茶碗をもう1個かぶせたようなご飯をはしですくって1口食べる。
「今年は明くんが児童会長だもんね。」
鮭の塩焼きを1カケ食べる。
「開会式の時、挨拶するんでしょ?」
ご飯を食べる。
「由記ちゃんも副会長だし。」
ニラ玉のみそ汁を食べる。
「司会進行するのよね?」
ご飯を食べる。
「それで、書記のあんたは何するの?」
エリンギとアスパラのバター焼きを食べる。
「マイクを出したり引っ込めたりするんだよ。」
ぼそりと言ってまたご飯を食べる。
「…。」
切り干し大根を食べる。
「どうしてか、あんたは昔から明くんと由記ちゃんにはかなわないわねえ。」
ご飯を食べる。
「本当に今年が最後なんだから、明くんと由記ちゃんに負けないように頑張ってちょうだいよ。」
冷たいお茶を1口飲む。
「…なんか、最近のご飯、美味しいくなったような気がする。」
「あら、大介、ようやく気付いたの?」
母さんがうれしそうに、ちょっとあきれたように言った。
話題を変えたくて言ってみただけだけど、それは成功したようだ。
「1週間前からね、はちみつを入れてるよ。」
「はちみつぅ?げー。」
思わずはしが止まった。
父さんはももくもくと食べている。
「何よ。その態度は。」
「だって、はちみつって言ったらお菓子とか甘い物限定じゃん。それをご飯に入れるなんてさ。」
半分ほどに減ったご飯茶碗をじっと見た。
これにあの甘いはちみつが入っているとは。
「はちみつって言っても小さじ2杯くらいよ。この前来た養蜂家の人に聞いたんだけどね、ご飯をかみ続けると甘く感じるでしょう?」
「ああ、保健の時にやったけど。唾液に中のアミラーゼって酵素がご飯の中のでんぷんを分解して糖になるとかって。」
「そう。はちみつにはアミラーゼって酵素と同じ物が入ってるんだって。それがご飯の甘さを出しやすくしているの。」
「へえ。」
そうなのか。
「まあ、昔ははちみつどころか牛乳かけてご飯を食べたもんだ。」
父さんがぽつりと言った。
ご飯に牛乳よりははちみつの方がよっぽどましかもしれない。
そう納得して残りのご飯をかき込んだ。


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