だって 好きなんだもん♪

だって 好きなんだもん♪

Cigarette Flavor  

最後のキスは 
タバコのflavorがした
ニガくて 切ない香り

  明日の今頃には
あなたはどこにいるんだろう
 誰を想ってるんだろう

 『First Love』 by宇多田ヒカル


『Cigarette Flavor』 


彼を拾ったのは 夕方のうちの前だった
学校から帰ってきたら、玄関前に 何か黒い物がある
恐る恐る近づくと それは人だった
額に汗をうかべたその姿は本当に苦しそうで、
あたしは放っておけずに声をかけた
「大丈夫ですか?救急車よびます?」
彼は弱々しく首をふる
「病院はあかんのや…保険入ってへんし…」
あたしは ひとつため息をつく
そばに彼のものらしい自転車があった。
自転車で旅行中なのだろうか・・・

「家に入りたいんですけど…」
あたしがそう言うと はじめて彼が顔をあげて あたしを見た
 ドキン と心臓が跳ね上がる
「あんた、この家の人?」
あたしが黙ってうなずくと
彼はよろよろと 立ち上がろうとし やはり倒れそうになる
とっさに手がでて 彼をささえる
ふと 触れた腕がひどく 熱かった 
「大丈夫ですか?」
もう1度声をかけたが もう返事もなかった


どうしよう?
救急車を呼ぼうか?
でも・・・
彼がダメだと言うことはしたくなかった

ただ あたしは もう1度 彼の目をあけた顔がみてみたいそう思っていた 


 「ふぅ~っ」あたしは 思わす大きく息を吐いた
どちらかというと彼は小柄でやせていたけど
あたし1人で運ぶのは本当に大変だった

さすがに2階には 運べず とりあえず ソファーに寝かせて 一息つく
「…」
何か聞こえて 振り返ると
彼が「水…」と繰り返していた
急いで水を汲んで戻り、彼に飲ませようとしたけれど
零れてしまってうまく飲めない                       

あたしは 少し躊躇って 自分の口に水を含むと
彼の唇に自分の唇をよせた
少しずつ彼の口に水を流し込んでみる
彼が飲み込むのを確かめながら
あたしは何度もそれを繰り返した 


それはあたしのファーストキスだった 
  もし、それをキスと呼べるのならば・・・                   

「ここ・・・どこや?」彼はまる1日眠り続け 翌日の夕方目をさました

「良かった、気がついて。キミ、あたしの家の前で倒れたの。
あたしが中まで運んだんだよ。大変だったんだから」
あたしは 彼に水の入ったコップを渡した。

「おおきに」
彼は小さく言うとコップを受け取り 一息に飲み干すと
大きく息をはいて首や肩をまわす
「あ~、思い出してきたわ。
昨日の朝からなんや体がだるいと思ってたけど、
昼過ぎたらどうにもこうにも動かせんようになってな
少し休もうと思って座り込んで、
あとはようわからんようになってしもうた。」
ちょっと照れたように 肩をすくめてみせる


「なんや、えらい迷惑かけてしもうて・・・
今、アンタ一人?
家の人 おらへんの?」

「誰もいないよ。
この家にはあたしと兄貴と二人で住んでるの。
兄貴は 一昨日から出張中」

あたしは少し離れたダイニングテーブルの椅子に座って彼の方を見る

「え?ほんなら、昨日はアンタ一人やったん?
あかんよ。女の子が一人なのに 知らん男 家に入れたりしたら
なんか、あったらどないするん?」

その知らん男がまるで 自分ではないような言い方をするのがおかしくてあたしは 笑い出す

「だって、放っておいたら 死んじゃいそうだったんだもん
兄貴にもよく怒られるんだけど
あたし、弱ってる生き物に弱いんだ
猫とか鳥とか、死にそうなの拾ってきちゃう。
兄貴が 文句言いながらも病院に連れて行ってくれるんだけど
結局、死んじゃって・・・」

消えてしまった小さな命を思い出して あたしは 少し言葉をとぎれさせる

彼は 何も言わなかった

立ち上がると彼に近づいていく

「だから、キミが死ななくて 本当によかった。病院にも行ってないのに、すごいね」

「まあ、猫や鳥よりは頑丈にできてるんとちゃう?
それより、キミなんて言われると、なんかこそばゆいな
アンタ俺より年下やろ?俺は・・・」


おそらく名前を言おうとしただろう 彼の口を手でふさぐ
驚いたのか 彼はそのまま 言葉を飲み込んだ


「名前は言わなくていいよ。」
あたしは彼の口をふさいだまま言った

あたしの手をはずしながら彼が聞く「なんで?」


「だって、名前で呼んだら情が移っちゃう」
「情が移るって・・・犬や猫やあるまいし・・・」
「一緒だよ。あたしが拾ったんだもん。」

「あ~そうか!俺がいい男だから、惚れそうってことか?」

にやっと笑った彼の顔がすごく眩しかった

悔しい
あたしはきっと、もう彼に惚れてるんだ・・・だから、名前は聞かない
絶対に 聞かない


「なんや、怒ったんか?冗談やって」

あたしが黙り込んだから そう思ったのか
彼は急にしおらしい顔をした。
そして、真顔になると きちんと座りなおした

「けど、ほんまに世話になったな。
なんとか熱も下がったようだし、
俺は これで帰るっちゅうか、行くことにするわ。」

立ち上がろうとする彼を ソファーに押し戻す

「でも、今日は雨が降ってるよ病み上がりで濡れたらよくないよ」

なんて 言い訳がましい言い方だろう
彼を引き止めたがってる事を気づかれないように、
できるだけ さらっと言ってみた

彼は窓の方に目をやると困ったようにあたしを見る


「ほんまに降ってるみたいやな
ほんなら、とりあえず、今日はどっか安い宿に泊まるわ
合羽を着とけば、多少やったら濡れても大丈夫やし」

「いいよ。あたしが拾ったんだから、最後まで面倒見るから雨が止むまで ここにいなよ。」


「いや~。そういう訳にもいかんやろ。
やっぱり、女の子が一人の家に泊まるっちゅうのはまずいて・・・」
「何?なにか良くない事しようとか思ってるの?」
あたしは ちょっと笑っていってみる


「いや、そんな事ないけど・・・」
彼は困ったように言いよどむ

「じゃあ、いいでしょ?明日には止むよ」

お願い もう少しここにいて

今度断られたら あたしはもう引き止められないそう覚悟したけど 意外にも彼はあっさり同意した。

「ほんなら お言葉に甘えて
もう1晩 世話になります。
どうぞ、よろしゅう」

あたしはほっと安堵しながら それを気づかれないようにわざとはしゃいで言う

「うん、お世話させていただきます。ご飯食べようか?お腹すいたよね?」

「あ~、せやね・・・アンタがつくってくれたん?」

「こう見えても、上手だよ あたし」

ちょっと 得意げな顔をしてみせると

「そか?それは楽しみやな」と彼は子供のような笑顔を見せた


この笑顔が見たかったのかもしれない
ずっと見ていたいと思う笑顔だった


2人で向かい合って夕食を食べた。

「ねえ、キミどこの人?
やっぱり、大阪から来たの?
自転車で旅行中なんでしょ?」

「そう、日本1周をめざしてんねん。
大阪やなくて兵庫県やけど。尼崎から太平洋側をず~っと南下して 日本海側を今、北上中って訳や
北海道をまわって、また太平洋側を南下しようと思ってるんやけど」

「日本1周?」
あまりにも大胆な彼の計画に驚いて
あまり見ないようにしていた彼の顔を まじまじと見てしまった

「そう、日本1周」

「自転車で?本気なの?いつになったら終わるわけ?」

「さあ、どの位かかるやろ?あんまり 寒くなる前に終わらせたいけどな~」

「なんか、適当だね~」
呆れていうと 彼はなんでもないことのように笑う
「そう、適当。
好き勝手するのももう最後にしようと思ってるから
とことん好き勝手しようと思って」

「いいな~」

自分に比べて 彼があまりにも自由に思えて本当に羨ましいと思った

もし あたしがしたいと思っても自転車で日本1周なんて 絶対に兄貴が許さない

それ以前に あたしには 絶対無理だと 自分でわかってしまっている


あたしは このまま高校を卒業して
適当な短大か専門学校に進学して
適当にOLとかして、
そのうち 結婚して子供なんて産んじゃたりするんだろうか?
その姿は すごく自然な気がして
でも、吐き気がするほどあたりまえで、憂鬱な気分になった

「なんや、アンタもやってみたいんか?
挑戦してみたら、ええんとちゃう?日本1周は無謀やけど、
近場やったら、ケッコウ女の子でもありやろ?」

彼はこともなげに言う

「違うよ。
なんか、キミって自由なんだな~って思って」
あたしはちょっとため息をつく

「ああ、確かに自由やけど 大人になって好き勝手やるのは、結構大変なんやで」

「そういうもんなの?」
「そういうもんや。
俺にしたら、アンタが羨ましいわ。
今、いくつや?まだまだ なんでもできるやろ?」 
「そうかな?何もできないよ」
「できるって。」

そう言いながら 彼はポケットをあちこち探しだした

「何?」
「いや、タバコ探してるんやけど…
おっ、あったあったって…空やったか~」

彼は心底残念そうに言って頭をかく

「買ってきてあげるよ。何がいいの?」あたしは 立ち上がって財布を手にとった

「ええよ。もう遅いし、
未成年者は買われへんやろ。この辺に買えるとこある?ちょっと行ってくるわ」
そう言って立ち上がる彼に あたしは近所のコンビニの場所を教える

「ほな、行ってくるわ」
彼が玄関をでてから 雨が降っている事を思い出して
あわてて 兄貴の傘を持って追いかけた

「傘!ぬれちゃうよ」

肩をすくめて歩いている彼に声をかける立ち止まって振り返った彼に差してた傘を手渡す。

受け取って、その傘をあたしに差しかけて「ええのに。わざわざ、さんきゅ」と 困ったように笑った

「これを借りたら、アンタが濡れるやん」慌てたあたしは1本しか持っていなかったのだ。

「大丈夫!持って行って」
来ていたパーカーの帽子をかぶりながら 1歩後ろにさがる。
そして クルッと振り返って走りだした


玄関に入ると 前髪についた水滴をはらう
「ふぅ~」あたしは大きく息をはいて深呼吸をする

胸がドキドキしたそれは走ったせいだけではない・・・

「ただいま」彼はすぐに戻ってきた

「おかえり」
ソファーに座って見てもいないテレビを見ているふりをしながら答えると
後ろから ポトリと何かが膝の上に落ちた
ずいぶん大きなアイスクリームだった
首を捻って後ろに立っている彼を見上げると

「おみやげ」
彼はタバコのパッケージをあけながらあたしを見て笑う
1本取り出すと 嬉しそうに火をつけた
「ふぅ~」
深くすいこんで 満足そうにゆっくり煙をはきだして あたしの隣に座った

兄貴とは違ったタバコの香りがした

「ありがと」

あたしは立ち上がると 彼に兄貴の灰皿をさしだしソファーの下 彼の足元のあたりに座って アイスクリームのふたをあける

彼は黙ってタバコをすいあたしも黙ってアイスクリームを食べた

正直それは大きすぎて 食べきれそうにない
「ねぇ、コレって大きすぎるよ」
ちょっと不満そうに後ろの彼を振り返った

「そうか?ほな、残りは頂きやな」
彼があたしの手からアイスを取り上げて 食べようとする
「あっ!ダメだよ!」
あたしは慌てて取り返す
「食べないなんて言ってないじゃん」
本当はもういらなかったんだけど とにかく彼に逆らっていたかった
「なんや、ケチやな~」
彼は又新しいタバコに火をつけた

テレビでは 天気予報をやっている

「なぁ、世話になった礼に どっかからうまいものでも送るから、
ここの住所と 名前教えてや?」
「いらないよ。何も送ってこなくていいから」

テレビから目を離さずに答える

「そうは言ってもな・・・俺の気がすまへんよ。
鶴だって 助けてもろたら 恩返しするねんで。
なんかお礼させて欲しいんやけど」

「じゃあ」

あたしは彼をまっすぐに見上げる

「タバコちょうだい?すってみたいな」

彼もあたしをまっすぐ見て キッパリ言った

「それはアカン!子供がすうもんやないで?」

子供という言葉にあたしはカッとなった
「いいじゃん!1本位!」立ち上がり 彼の手から火のついた タバコを取りあげた
口にした瞬間 目の前で 取り上げられる。

「アカンて言うてるやろ。なんでそんな欲しがるんや?」

あたしはふてくされて ドサッとソファーに座りこんだ

「ケチ…タバコの味、知りたかったの。キミがいつも すごくおいしそうに吸ってるから」

そっぽをむいたあたしの頭が グイッとひきよせられる。

「しゃあないな」

気が付くとあたしの顔のそばに彼の顔があった

何をしたらいいのかわからずに ただ黙ってみていたあたしに彼の顔近づいてくる。

反射的に目を閉じる


彼の唇があたしのそれにふれた
ゆっくり煙が あたしの口の中に満ちてくる
にがくて 苦しくなって少しだけ その煙を吸い込んだとたんに咳こんでしまった
涙ぐんでしまう

ずるいよ こんなの


「ほらな、子供には無理やったろ?」

あんまり 彼が普通に言うからさっきの事は夢だったのかと思えてしまう


「無理じゃないよ。驚いただけ
もう1回、ちょうだい?」

まっすぐ彼を見て言う自分から 彼に近づいていった

彼は黙ってタバコを口にして、ゆっくり吸い込むともう1度 あたしの口に送り込む

唇を離すと 彼から離れて 吸い込んだ煙をゆっくり吐き出してみる

にがい・・・

「どや?」

さっきより真面目な顔で彼が聞く

「やっぱり、にがいおいしくないよ・・・」

あたしはソファーの彼に背を向けて テレビの前に座る

「そやろ?」

背中で彼の声がする


アイスクリームは溶けてしまっていた

どれ位黙っていただろう

「明日は晴れるみたいやな」彼がつぶやいた

天気予報はとっくに終わっているのにいったい いつの間にみていたのだろう

「うん、そうみたいだね」あたしは天気なんか知りもしないくせに 同意する

「晴れたら、行くわ」

「うん、そうだね」  つぶやくように そう答えた

いつの間にか眠ってしまっていた気づくと人の動く気配がする

彼が行こうとしているんだ

そう気づいたけど、そのまま目を閉じ寝たふりを続ける

彼の気配が、1度部屋から出て行って
あたしが目を開けようと思った瞬間
また 戻ってきた

タバコの香りが近づいてくる

あたしの頭に大きな手がおかれる少しだけ 髪をくしゃっとして ゆっくり離れていった

カシャカシャと自転車を動かす音
玄関をあける音
ガシャンとしまる音

すべての音がしなくなってから あたしは目をあけた
ゆっくり 立ち上がって部屋を見回す
タバコの香りがまだ残っていた


テーブルの上にメモが1枚

『大事な恩人さんへ

いろいろ世話になりましたおかげで 助かった

けど、今度人間が倒れとっても、うかつに拾ったらあかんよ。恩を忘れて噛み付くやつもおるかもしれんから。

俺は恩人の事はずっと忘れへんから

ほんまにありがとう

名無しの野良より』

バカ


キミよりたちの悪いのは きっといないよ


あたしは灰皿に残ったタバコを1本取ると
口にくわえて火をつけてみる

本当のタバコの香りはずっとにがくて 苦しいような気がした

すぐに灰皿で揉み消すと 窓を大きく開ける雨上がりの朝の光が 眩しかった



歌詞は コチラ






煙草の香りのキス ってどんなかな~?って考えたらこんなカンジになりました
実際には どんなカンジになるのか試した事がないのでわかりませんが 体には悪そうですね~(笑)
間接煙の方が 確か体に有害だったハズ・・・

あと関西弁・・・かな~り適当です・・・すいません・・・(汗)


© Rakuten Group, Inc.
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