黒色花

黒色花

第三十五話「否めない言葉」


爆炎が目を覚ますとそこは万事屋の中だった。
体中包帯だらけで動きづらい。
「・・・、何でこんなところにいるんだ?確か隕石山で倒れたはずじゃ・・・。」
「ウッス、気がついたか?」
「オマエは修羅か、何でオマエが・・・、てか、よくもとんでもないところにいかせてくれたな!」
「まあ待て、結果的に帰って来れたからいいじゃねーか。」
「よくねー!命落としそうになったんだぞ!つーかどうやって俺たちをここに?」
「ああ、月光の転移魔法で送ってもらったんだ。」
「信吾は?」
「隣で寝てる。」
爆炎の隣では信吾がぐっすり寝ていた。
当分起きる気配はない。
「で、爆炎、心器の方はどうなんだ?」
「ん?ああ!ばっちりだぜ!」
「お前、心器覚醒したのか?」
驚きの表情を隠せない修羅、大抵はポーカーフェイスを気取る彼だが流石に無理のようだ。
「おうよ!」
「凄いな、やはり俺があそこに行かせてよかったぜ。」
「そして死にかけたけどな。」
「まぁだ、引っ張るか?もういいんだよ、その話は。」
「ケッ。」
一気に機嫌が悪くなった爆炎。
当然といえば当然かもしれない。
「で、今この町で大変なことが起こっていることを知っているか?」
いきなり修羅が真剣な表情をし始めた。
「知るわきゃねーだろ、寝ていたんだから。」
「終戦管理局(ヤツラ)からの襲撃事件だ。」
「んだと・・・?」
「ここ最近、何を狙ってかヤツラの襲撃事件があとを絶たなくてな、現段階ではまだ目的すらわからん。」
「そうか・・・、ってことは・・・。」
「そうだ、ここもいつか標的(ターゲット)になるかもしれん。」
「そりゃヤバイな。」
「こっちも色々調べてようと襲撃事件があった町へいっているんだが、あっという間に逃げてしまう、でまた別の町で行い俺たちが駆けつけるとまたどこかへいく、まるでイタチごっこだ。」
「んじゃ、その襲撃場所に少しぐらい手がかりが・・・。」
「たつ鳥跡濁さず・・・。」
ボソッといった修羅。
その一言の意味は最初はわからなかった爆炎だったが、少しづつわかってきた。
「・・・、なるほど・・・。」
「このままなんの情報もないまま襲撃が続けられると終いにゃ、ここまで戦場になっちまう、そうなれば関係のない命も消えていくだろうな。」
「うーん、どうしたものかねぇ・・・。」
「そういえば、どういうタイプの心器なんだ?」
「んー、ハンマーみたいな感じ。」
「フム、ならパワータイプの心器だな、威力が高いが、心力(シンリョク)を多大に消費する。」
「心力って何?」
「お前、それがわからずに使ったのか?それ。」
「大変だったぜぇ、力は少しずつ抜けるわ、終いにゃ立つこともままならなくなったからな。」
「心力って言うのはな、いわば心のエネルギーだ。」
「エネルギー?」
「そう、心器は心力を使いはじめてこの世に具現化する、まあ早い話、エネルギー使って、触れるようになるってことだ。」
「大雑把過ぎてよくわからん。」
「なら複雑にいってやる。」
めんどくさそうな顔をして修羅は続けた。
「心器は心の武器、って言うのはわかるよな。」
「ああ、そうだ。」
「で、何かするには何かのエネルギーが必要だ。」
「当たり前だろ、何もなしに何か出るわけでもないし。」
「そのエネルギーが心のエネルギー、心力だ。」
「ふむふむ。」
「心器が発動するには条件が二つ、一つは強い心、二つは心力を注ぎ込むこと。」
「んじゃ、心力なしでは発動できないと。」
「そうだ、さっき言ったように心器は心力がないとこの世に具現化できん、心器は所詮空想の中の武器、空想を現実に入れることはできない、心力はそれを可能にするエネルギーだ。」
「ふーん、質問だけど、心力を使い果たすとどうなるんだ?」
「感情を心力に変換されちまう。」
「へ?」
「要するに、また別のエネルギーを心器は食うってこと。」
「ははあ、そういう意味か。」
「心器は装備しているだけで心力を食うからな、ボケーっとしているとあっという間に心力吸い取られるぞ、そして・・・。」
すこし間をあけて修羅は言った。
「感情の一つを心力に変えられて吸い取られちまう。」
「ってことは・・・。」
「心力をお前が使い果たしたとしよう、すると心器は具現化を続けるため、感情を一つ心力に変えちまう、そして具現化を継続させるために心力を吸い取る。」
「怖いな・・・。」
「そして心力となり吸われた感情は二度と帰ってこない。」
「それじゃ俺があのまま心器を使い続ければ・・・。」
「感情を心力に変換されてその感情は消えていただろうな。」
「あっぶー・・・、感情なくなるところだった。」
「大丈夫だよ、ちゃんと心器を引っ込めれば心力は回復する。」
「そ、そうか。」
「だが、心器にも強さ(レベル)があってな、心がそのレベルに達していない場合、心器に心をのっとられる。」
「一見強そうだけど・・・。」
「そうだ、恐ろしい一面もあるってワケよ、俺も心力を使い果たしかけたけどな。」
「結構危ない橋渡っているんだな。」
「そうだ。」
「・・・うーん。」
信吾が目を覚ました。
「お、信吾が起きたぞ。」
「あ、爆炎さん、おはようございます。」
「ウッス、信吾。」
「あ、修羅さん、おはようございます。」
「大丈夫か?信吾。」
「僕は大丈夫です、爆炎さんは?」
「俺は大丈夫だ。」
「よかった・・・、アレ?黒影さんは?」
「あ・・・、すまんわからん、おそらく紅蓮の相手をさせたのが原因だな。」
「そうですか・・・、心配ですね。」
「ま、アイツのことだ、きっと生きているだろう。」
「そ、そうですよね、ハハハ・・・。」
元気のなさそうな笑みを浮かべる信吾。
「どうした?まだ疲れているのか?」
「いえ・・・、大丈夫です。」
「ならいいけど。」
信吾に元気がないのには理由があった。
その理由とは隕石山での出来事である。
信吾の脳裏に鮮明に記憶されている出来事。
夢に吸い込まれた事、もう一人の自分の存在。
心に巣くう邪悪は今もなお進行していた。
自分が自分でなくなる。
これはある意味死より恐ろしいかもしれない。
自分という存在が消えてなくなるようなものである。
いつ邪悪なるもう一人の自分に人格が支配されるかと思うと不安で仕方なくなる。
そしてもう一人の自分が言った言葉。
今も走馬灯のように駆け巡る。
「やっぱ、君も誰かを殺すことに快感おぼえているんじゃないの?ねえ。」
否めないこの言葉。
信吾がリオルを叩き落した時のことだ。
ぐったりとして動かないリオル。
表では動揺していても裏は違う。
心の裏は信吾はこう思っていた。
無力な自分が命を壊せた・・・、ククク・・・。
実に楽しかった。
とても嬉しかった。
この快感は何事にも劣らなかった。
・・・違う!僕は快感なんて覚えていない!
僕は命を尊さを知っている!
何が楽しいだ!何が嬉しいだ!
そんなこと思っちゃいない!
僕は・・・、命を壊したくない・・・、殺したくない・・・。
僕は・・・、違う・・・、違う・・・、殺してなんかいないんだ!

へえ、まだ言うかい?

誰だ!

僕だよ、僕、君の中のもう一人の存在さ。

僕の心から出ていけ!

そうはいかない、僕は出ない、出られない、そして消えもしない。

・・・!

あの時はびっくりしたね、いきなり喧嘩モードなんだもん。

君の存在はなんなんだ?

僕の存在は君の心。

なぜ僕の心の中にいる。

いたいから。

ふざけるな!

僕は君の心が欲しい、君の体を僕がのっとるんだ。

そんなことはさせない!

ま、正論だろうね、はいあげます、って体を渡すやつなんていないもん。

僕は君が嫌いだ。

僕も君が嫌い、すっごく嫌い、なぜなら自分の意思を隠しちゃうから。

殺しなんて楽しくもないし嬉しくもない、これが僕の意思だ。

嘘つき。

は?

君は隠し事をしている。

そ、そんなことはない!

嘘つき、だって君は快感を覚えたはずでしょ?殺すことに。

だ、黙れ!

否めないでしょ、少し動揺し始めたよ。

うっ・・・。

僕は君が手に取るようにわかる、何がしたいか、何を願うか。

黙れ!黙れ!黙れ!

僕は君の願いをかなえる事ができるよ。

やめてくれ・・・。

ねえ、オシえテよ、キみのネガいをサ。

やめて・・・。

マア、わカってイルけどネ。

言うな、何も言うな!

キみのネがイは・・・。

もう・・・、いやだ・・・。

ジブんのテをチデまッカにソめるコと♪

やめてくれぇぇぇぇぇぇ!

続く・・・。


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