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いっせいピョン
おねがいサンタさん
おねがいサンタさん
今日は12月24日クリスマス・イブです。
12匹のねずみの子ども達は布団の中で頭をくっつけ合いながら小さな声で話したり、寝たふりをしてみたり、ひっしに笑いをこらえたり、、、。楽しい明日を思うと、わくわくした気持ちでいっぱいでした。 どうしたことか、枕元にはくつしたが1つもありません。それでもみんなはサンタさんが必ず来てくれると心から信じていました。
「今年の冬は厳しいかもしれないなぁ。」
あたたかい土の上を時折冷たい風が吹き始めた頃、ねずみのお父さんはぽつりとつぶやきました。
今、赤や黄色、緑にオレンジと色とりどりのこの山も、冬が来ればあっという間に真っ白な雪におおわれてしまいます。今のうちにできるだけたくさんの食料を集めておかなければ、冬の間に体が弱ってしまったり、途中で食べる物が全部なくなってしまうことだってあるのです。
ところが今年は作物の実りが悪く、冬ごもりの為の食料がなかなか集まりません。そして、これはねずみ一家だけの問題ではなく、この山に暮らすすべての生き物達にのしかかる大きな問題でした。
12匹の子ども達はというと、そんな事はこれっぽっちも知らずに毎日山の中を駆けまわっていました。
お父さんとお母さんはよく知っていました。
冬は外で遊べなくなる季節、友達と会えなくなる季節、そして、おさない子ども達はおとな以上に長い長い時間を過ごさなくてはいけないというこを。
だから今のうちに自然の中で思い切り遊び、今しかできないことをたくさん経験してほしい、それぞれの季節を大切に過ごしてほしい、そう思っていたのです。
「お父さん、今日もお仕事忙しいの?」
クッキーは12匹いる子ども達の中の8番目のねずみです。
「冬が近いからね。少し風が冷たくなっているから風邪ひかないように気を付けるんだよ。」
「ぼく、大丈夫だよ。だって走ったらすぐ暑くなるから。」
そう言いながらクッキーは大きくて形のいいどんぐりをポケットから出し、お父さんに手渡しました。あわただしく出かける準備をしていたお父さんは手を休め、それをじっくりと眺めました。
「ああ。これはなんていいどんぐりだ。とてもつやがある。この丸みのある形もいいなぁ。」
あまりにも真剣に言うのでクッキーは思わず笑ってしまいました。
クッキーは毎日友達とどんぐりを探して遊んでいました。時々、丘の上からお父さんとお母さんがお仕事している姿を見つめながら。
ある朝のことです。
「お母さんと一緒に遊びたい。」
子ども達の中で1番小さなチョコはエプロンのすそをギュッと握ったまま、お母さんの顔をじっとのぞき込んでいました。
「お母さんもチョコと遊びたいな。でも、みんなのごはん見付けて来ないとお腹すいた時困るでしょう。冬になったら、いっぱい一緒に遊ぼうね。」
「あした冬来る?」
チョコは絶対に手を離そうとはしません。
それを見ていた11匹のお兄さんお姉さんねずみは、チョコの気持ちがよく分かりました。
「よし、チョコ。今日はみんなでお父さんとお母さんのお手伝いをしよう。そしたらお仕事も早く終わって、すぐに一緒に遊べるよ。」
「うん、そうする。一緒にお手伝いする。」
とたんにチョコは笑顔になりました。お父さんとお母さんもにっこり。12匹のねずみのきょうだいは張り切って山へ出掛けました。
先頭は1番上のお兄さんです。チョコはクッキーと手をつないでいます。
みんな背中のかごには入りきれない程の食料を集めるつもりでしたが、どうしたことか、食べ物はなかなか見当たりませんでした。
それでもさすが、お兄さんお姉さんねずみ、
「あそこにみかんがあった。」
「ここ掘るの手伝って!お芋がある!」
「カラスさーん。そこになってる柿をいくつか落としてよー。」
と、こんな調子で少しずついろいろな食べ物を集めていきました。
クッキーの背中のかごにはどんぐりがたくさん入っていました。形や色がいいどんぐりはポケットに入れました。
「思ったよりないなぁ。でも冬を過ごすには、暖炉に火をともす為の木や、葉っぱだって必要だからな。使えそうな物は何でもかごに入れていいぞ!」
すると、お姉さんねずみがきれいな鳥の羽を見付けてかごの中に入れました。お洋服を作るつもりです。チョコは、きれいなもみじを見付けました。お部屋に飾ったら楽しいなと思いました。
12匹のねずみ達のかごの中は、それぞれ、食べ物や木の枝などでいっぱいになってきました。
「さあ、今日はこのくらいにしてそろそろ帰ろうか。」
1番お兄さんは、さりげなく日当たりの良い場所を選びながら歩きます。
3番目のお姉さんが、「はい、これあげる。」と大きな柿をチョコに持たせてくれました。
「わあ、みてみて、すごいでしょう。」
大喜びのチョコは、その柿をかごには入れず大切に両手で持って帰ることにしました。
時々チョコは、どこまでも広がる落ち葉のじゅうたんの所々にひだまりを見付けてはしゃがみ込み、きれいな石を探したりしていました。ほのかな大地のあたたかさを感じながら、「雪の上に落ち葉が積もったら、冬も外で遊べるのになぁ。」と思いました。
しばらくすると大きな川がありました。流れはおだやかで幅が広く、あたたかい太陽の日ざしがキラキラと水の上に落ちてはゆっくりと沈んでいくように見えました。その川のそばには丘がありました。
「ねぇ、この丘の上にはまだ行ってないわよね。ちょっと寄ってみない?」
と、お姉さんねずみが言った時、たくさんの枯れ葉がきしむ音がしました。
「やあ、いい物持っているね。」
そこに現れたのは、なんとくまの子どもでした。子どもといっても大きな立派なくまです。ねずみの子ども達から見れば、それはもう大きな大きな大きなくまです。チョコは初めて見る大きなくまを見上げたまま、少しも動くことが出来ませんでした。
「ぼくも朝から食べ物を探しているんだけど、なかなかなくてねぇ、、、。」
大きなくまくんはがっかりした顔でそう言いました。
すると体が1番大きなお兄さんが、
「ぼく達は下の方からずっと登って来たけど、もうあまり残っていなかったよ。丘の上はまだ行ってないから探すならあっちの方がいいと思うよ。」
と、励ますように教えてあげました。
「どんぐりはいっぱいあったけど、、、。」
クッキーはそう言いながら、くまくんみたいに体が大きかったらいくつあっても足りないだろうな、と思いました。
「そっかぁ。じゃあ丘の上に行ってみるよ。教えてくれてありがとう。」
くまくんが立ち去ろうとした時、チョコがとっさに大きな柿を差し出しました。
くまくんは驚いてねずみ達の顔を見回しました。みんなもびっくりしました。
クッキーが「あげていいの?」と聞くと、チョコは少し照れながら「あげる。」と言いました。
すると、他のねずみ達も「ぼくの栗も分けてあげるよ。」「みかんもどうぞ。」と、少しずつでしたが、くまくんの大きなかごの中に入れてあげました。
クッキーは、くまくんがお腹いっぱいになるような物を1つも持っていませんでした。
「ぼく、あげられる物何も持ってなくてごめんね。でもこれ、とっておきのどんぐりだから。丘の上で食べ物が見つかるお守り。」
そう言って1番お気に入りのどんぐりをポケットから出し、くまくんの手のひらにのせました。
きょとんとしていたくまくんでしたが「ありがとう。どうもありがとう。」とみんなにお礼を言って丘の方へ歩いて行きました。
夜、山から戻ってきたお父さんとお母さんは大喜び!12個のかごの中には柿やみかん、栗、お芋、まつぼっくり、どんぐり、木の実、そして大切な薪、葉っぱ、鳥の羽などなど、みんなが一生懸命集めてくれた物でいっぱいでした。そして子ども達は、食べ物を見付けた時の様子や発見したことを次々に話しました。チョコは、ポケットにきれいな石が入っていることをお母さんだけにこっそり教えました。
「うれしいなぁ。みんなありがとう。お父さんとお母さん、本当に助かったわ。今日は寝る前にひとつ、みんなが好きなお話をしましょうね。」
外は木枯らしが吹いています。でも、ねずみの子ども達のこころはとてもあたたかでした。
「サンタさん、いつ来るのかなぁ。」
チョコは青空を見上げて言いました。
「どの雲の上にお家があるのかな。」
「もっと見えないくらい上の雲だよ。きっと。」
子ども達はクリスマスを楽しみにしていました。ところが、なぜか1匹だけしょんぼりとうつむいているねずみがいました。
「サンタさん、本当に来るのかな、、、。」
「え、なんで?来るに決まってるよ。どうしてそんなこと言うの?」
「だって森のおとな達はみんな、今年は大変だ、大変だ、、、って言ってるよ。もしかしたらサンタさんも大変なんじゃないかなと思って。」
「どうして?サンタさんの国には何でもあるんじゃないの?」
「でも足りないかもしれないよ。だって世界中の子ども達にプレゼントあげるんだもの。」
「そんなぁ、、、。」
みんなそれまで、サンタさんが来ないなんて1度も考えた事はありませんでした。でも12匹の子ども達は、確かにいつもと違う雰囲気を感じていたものですから急に不安になりました。
「うち、12コもいるもんな。」
「いくつだったらもらえるんだろう。」
「えーっ、ぼくもらいたい。だっておりこうにしてたのに。お手伝いもしたもん。」
「でも、それを言うなら家で1番えらいのは、お父さんとお母さんじゃないかな。だって、みんなが遊んでいる時も寝てしまってからも、ずっとぼく達の為に働いてくれているよ。」
そう言ったのはクッキーでした。
「じゃあ、やっぱりサンタさん、うちには来ないの?」
みんな何だかがっかりしてしまいました。
「そうだ、いいこと思いついた。今年はお父さんとお母さんにプレゼントあげてもらおうよ。」
「え?お父さんとお母さんに?」
「だってサンタさん来ないのも寂しいし、きょうだいの中で何匹かだけもらえるっていうのもおかしな話だもの。
12コは無理でも2コなら大丈夫だよ。」
「うーん、、、。確かに。」「0コよりはいいけど。」
「でもチョコはサンタさんからプレゼントもらいたいよね。」
とお姉さんが聞きました。
「うん。もらいたい。でも、みんなでもらえないならお父さんとお母さんにあげてもらいたい。」
12匹の子ども達はサンタさんにお手紙を書くことにしました。
「お手紙はふうせんでお空に飛ばそうよ。」
「ねぇ、せっかくだからクリスマスプレゼントもあげようよ。」
「いいね、それ!ぼく達サンタのサンタだ!」と、クッキーが大きな声で言いました。
「サンタのサンタ。それってすてきだね。」
本当はみんなの分も持って来てほしいなと思っていた子ども達でしたが、このすてきなアイデアに大賛成。気持ちはひとつになりました。
それからみんなは、それぞれサンタさんに贈りたい物を箱に入れました。
かわいいどんぐりゴマ、押し花で作ったしおり、手作りのリース、木の実のネックレスなど、、、。どれもみんなが大切にしていた物でした。チョコはサンタさんの似顔絵と、宝物にしていたお花の種をあげることにしました。そして、朝からみんなで焼いたパンケーキも、お姉さんがきれいに包んで入れました。お手紙にはこう書きました。
だいすきなサンタさんへ
こんにちは。 ことしは たいへんなので
ぼくたちねずみのきょうだいは
プレゼントはいりません。
そのかわり おとうさんとおかあさんに
プレゼントを あげてください。
よろしくおねがいします。
12ひきのねずみのきょうだい より
最後に、箱を何色ものリボンでかわいく飾り、いよいよ箱にふうせんをつけて空に飛ばすことにしました。
ところが、重くてちっとも浮かびません。10コつけてもまだダメです。
「普通のふうせんじゃ飛ばないよ。」
「あっ!お姉さんが大好きなきれいな羽の鳥さんだ。」
空の上からずっと様子を見ていた鳥が、ねずみ達の前にふわっと舞い降りてきました。
「雲ふうせんにするんだよ。」「え?雲ふうせんって何?」
「君達では無理だよ。いいからビニール袋をもっておいで。」
お姉さんがあわてて家の中からビニール袋をもってきました。
「ちょっとまってな。」そう言って鳥さんは大きな羽をひろげ、空の中へ消えていきました。それから、くちばしをうまく使ってビニールの中に雲を集め、ねずみ達の所へ戻ってきました。確かに雲のふうせんは、ふわふわ浮かぼうとしています。鳥さんが何回も雲を集めてきてくれたおかげで、8コ目のふうせんでプレゼントは、すうーっと空に吸い込まれるように高く高く上っていきました。
「やったぁ!!サンタさんの所に届いてね。」「鳥さん、どうもありがとう!」「おねがいね、サンタさん。」
それから、何日かたちました。サンタさんからのお返事はありません。
「お手紙、、、本当に届いたのかなぁ。」
クリスマス・イブの日、今日も子ども達は家の中でいつも通り元気に遊んでいました。なぜかいつも通りに。
お母さんが、「サンタさん来るかな。」と子ども達に話しかけましたが、みんな「いいの、いいの。」と言うばかり。毎年24日はサンタさんの話で持ちきりなのに、、、。いつもと違う子ども達の姿に、お父さんとお母さんは顔を見合わせて首をかしげるばかりです。外は雪がしんしんと降っています。
「トントン。」 誰かがドアをノックするような音がしました。しかし、こんな雪の中、誰かが訪ねてくるはずがありません。 ところが、「トントントン。」 今度ははっきりと聞こえました。
子ども達は、はっと息を呑みました。さっきまで騒がしかった家の中は静まり返っています。
「トントン。こんばんは。」 まさかサンタさんがこんなに早い時間に!?
「どなたですか?」 お父さんが戸を開けようとすると、ねずみの子ども達は布団も敷いていないのに、その場に全員寝たふりをしました。
「こんばんは。くまです。」 「え?くまくん?」 「メリークリスマス!」
子ども達は飛び起きました。そこにはくまくんと、くまくんよりも大きな大きな大きなくまのお父さんとお母さんがいました。
「こんばんは。以前山で、うちの息子がみなさんにとても親切にして頂いたそうで。」
「これはその時のお礼です。みなさんでどうぞ。」
すると、くまくんがかわいいリボンを巻いたビンをチョコに手渡しました。
「これははちみつだよ。ぼく達の宝物なんだ。とってもおいしいよ。」
「わあ!ピカピカしてて、とってもきれい。」「すごーい!どうもありがとう。」
「くまくん、こんなに雪が降っているのに来てくれてありがとう!」
ねずみ達はみんな、くまくん一家の姿が見えなくなるまでずっと手を振っていました。
「はちみつパーティーだ。」「チョコ!くまのサンタさんが来たね。よかったね。」
思いがけないクリスマスプレゼントに、みんなはうれしい気持ちでいっぱいになりました。
夜、本当にサンタさんにお手紙が届いたのか心配になったチョコは、小さな窓から空を見上げました。すると、真っ暗な夜の空に1つだけ、明るくて大きな雲がありました。何かキラキラ光っています。なんだろうと思ってよく見てみると、雲の上に星のお花がたくさん咲いているではありませんか。そのお花は風に吹かれ、雲の上からチラチラと舞ってきました。チョコは少しだけ窓を開け、それを手のひらにのせてみました。すると、白くて小さなお花は手の中ですぐになくなりました。そしてまた、手のひらにおちては消えました。
「チョコがあげたお花の種が雲の上で咲いたんだ。」
雪になった星のお花は、「お手紙届きましたよ。」というサンタさんからのお返事だと思いました。
翌朝、「あ、何かプレゼントがある!」 誰かの大きな声でチョコは目を覚ましました。
寝ぼけながら手を伸ばすと、確かに何かありました。あわてて飛び起きてみると、そこにはなんとチーズがありました。
「サンタさんが来た!」 みんな大喜び。しかもこんなに大きなチーズは初めて見ました。チーズなんてめったに食べられない、とても貴重なものなのです。
「あれ?でもどうして?お父さんとお母さんにプレゼントは?」
みんな、はっと我に返りました。
「そうだった。お手紙出したのに届いてなかったのかな。」
ねずみの子ども達が顔を見合わせているところに、ちょうど、お父さんとお母さんが来ました。
「おはよう、みんな、聞いてくれ!昨日、お父さんとお母さんのところにもサンタクロースが来たぞ!」
「え?本当?」 「何もらったの?」
「それはひみつ。でもね、お母さん目を覚ましちゃって、つい話しかけちゃったのよ。」
「え?サンタさんとしゃべったの?」
「うん。どうして今年はおとなの私達にプレゼントを頂けるのですか?って。」
「そしたら何て?」 みんな真剣に聞きました。
「そしたらね、サンタさん、今年はわしもプレゼントもらったから、、ってそう言ったのよ!」
「わあー!すごーい!(お手紙届いていたんだ。)」 それからみんなは大騒ぎ。
「ありがとう!サンタさん。」「あ!このさんかくのチーズ、みんなの分を合わせると丸いケーキみたいになるよ。」 「本当だ。やってみて。」
合わせてみると、みんながもらったチーズは、大きなチーズを12等分したものでした。
「お父さんとお母さんはチーズのケーキもらわなかったの?」
「そうね、もっと違うものだったわね。」 「わぁ、何だろう。」 「とてもとても大切なものだよ。」
それからみんなでチーズを食べました。
1番目と2番目のお兄さんが、お父さんとお母さんに自分達の分を、そっとあげました。
「いいのよ。あなた達が食べなさい。」
それを見ていた3番目と4番目のお姉さんが、自分達の分を半分こにしてお兄さん達にあげました。
チョコは体が1番小さいのに、全部ひとりで食べてしまいました。
だって、本当においしくて、全部ぜんぶ自分で食べたかったかんだもの。
ねずみの家の小さな窓から外を見ると、一面雪景色でした。チョコにはそれが、星のお花畑に見えました。
チョコは、冬がとても好きになりました。
おしまい
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