いちこの部屋

いちこの部屋

天使を捕まえても・・・



 ボクが次に目を覚ましたとき、ボクを助けてくれたその子は眠っていた。
傍らで美しいその人は少し苦しそうにボクを見た。「この子を見守って、あなたはあの時のつばめよね?もう私はこの子の役にはたてないから・・・・」ボクは、羽を震わせた返事をするように・・・・・・・・

     瑠未花と初めて会ったのは彼女がまだ夢を追いかけて毎日を忙しくそれでいて幸せな、そんな頃だった。                    「いや、このこけがしてるよ!」瑠未花のとなりで夏乃は叫んだ。「かのちゃん、稽古場に連れて行こう。」「えー大丈夫?東さん怒るよ!」夏乃はかわるがわるボクと瑠未花を見て言った。「しかたない、いっしょに怒られてやるよ!」夏乃はボクをそっと手にのせて言った。
 二人はそれから信号を急いで渡り小さなビルの2階へと走った。厚い扉を開けると大きな声で怒鳴られた。「遅い!」なにもない稽古場の真ん中にポッンとイスがあり、1人の男が座っていた。「ごめん、遅くなりました!」瑠未花は、手を合わせて言った。「他もいまそろったところよ」壁際で蓉子が微笑んだ。「かの、おまえなにもってんの?」蓉子のとなりで、竜樹が聞いた。
  「あ、これ、るかがみつけてね・・・」
 ボクは竜樹の手に渡された。
   「あれれ、かわいそうだな・・羽傷ついてるよ!」
 瑠未花が心配そうにのぞき込む・・東也がそのわきから手をだして言った   「おい!だれが手当するんだ?」
 一斉にみんなは東也を指さした。 
   「おれ?なんでだよ」
 東也はみんなを見回した。
    「だって、そりゃやっぱり東さんだからだろう」
 賢太が笑いながら言った。東也はため息をついて言った、
    「おい!るか救急箱持ってきて!」
 瑠未花は笑いをこらえながら隣の部屋へ急いだ。

「かあさま・・・」幼い瞳が瑠未花を覗き込む。ボクは、静かに体を持ち上げた。
 「なあに・・この子は大丈夫よ。すぐに飛べるようになるわ」
ボクは精一杯羽をばたつかせた。
 「あ、ほんと元気だね」 
ボクをやさしく小さな手はなでた。

 それからしばらくボクは瑠未花のそばにいた。なぜなら彼女が長くないことを、知っていたから・・ボクは彼女を看取るために必死でこんな、なにもない静かすぎる山奥まで飛んできたのだ。


 「るか!」秀司が呼んだ。瑠未花は眠い目をこすりながら秀司の顔を見た。
 「おまえバイトの時間じゃないのか?」
 「え!あ、ほんといそがなきゃ・・秀、早く起こしてよ!」
 「ゴメン、つい顔見ちゃってさ!」
秀司は笑って瑠未花に軽くキスした。彼女は、着替えの手を休め彼の腕に体をあずけた・・つきあい始めて半年おなじ養成所に通う仲間なのだがそれまではお互い必死でレッスンを受けていたのであまり意識していなかった。今回11期の東也と10期の竜樹、賢太が劇団を立ち上げてはじめて公演を行うので15期の秀司と瑠未花は声をかけられたのだ。
 瑠未花は竜樹に声をかけられたことを思い出していた。それは、タップダンスの練習のあとのことだ。 
 「るか、おれと賢、東也で劇団作ろうとおもってるんだが、いっしょにやらないか?」
 「えっ!ホント?やります!」
 「おいおい、そんなに即答していいのか、舞台にバイト、レッスンと忙しくなるんだぞ!」
「だって東さんたちとなら、おもしろそうだもの!」
 「ははは・・・ま・たしかに東也に声かけられて俺も賢もきめたからな!」
養成所に通うほとんどが役者志望なのだがまれに東也のように演出や脚本に入れ込む者がでてくる。東也はその中でも一目おかれる存在になりつつあった。
 瑠未花はその後、同期の秀司、美帆、に声をかけ、竜樹は、12期の海、蓉子、高志、弘則に声をかけた。

 「おれ、反対だな・・」
東也は、竜樹に向かって言った。
 「・・ん・・わからなくもないけど、どうしても養成所仲間ばかりじゃ、新しい風は入ってこないだろう?」
 「それは、そうかもしれないけど・・・」
東也はしばらく考えていた。賢太が、東也の肩を叩いて言った。
 「芝居に出さなくても、スタッフは多い方がいいぞ、芝居がそこそこできるなら使えばいいんだし・・」
 「・・・そうだな、じゃ頼むよ竜さん」
 「おうまかしとけ!」
 「って、お前が一番ぼけたおしてるからなあ~」
三人は笑いながら、芝居の脚本を書きだそうとしていた。
「ところで、どこに募集するんだ?」
 「やっぱり・・竜さんボケてる・・賢さんたのみます・・」
 「おう!雑誌のメンバー募集欄とかでいいよな・・」
賢太と東也は竜樹を無視して話しを進めた。
 「おーい俺もまぜてくれよう!」

ボクはその後も瑠未花のそばにいた。彼女の命が燃え尽きるまで・・彼女の願いを聞くのがボクの役目だったから。
瑠未花は子供ともうすぐダムに沈む小さな村にいた。病に沈みがちな、彼女の世話は、夏乃がしていた。
 「ごめんね、かの・・結局迷惑かけっぱなしで・・・」
 「なにいってんの、私のことは気にしなくていいから、この子のためにがんばるんだよ!」
 夏乃は笑って瑠未花を見た。

 竜樹は何通かきたハガキに目を通した、何人かに連絡をして自分たちの研究生公演に来て欲しいと伝えた。はたして何人くるか・・少し不安だった。賢がハガキをみて竜樹の肩を叩いた、
 「大丈夫さ!きっといいのが見つかるよ!」
 「ん・・でもななんか、みんなあまり熱心そうに感じなかったんだよね声だけなんだけどさ」
 「どのぐらいきた?」
 「男は5通、女の子は6通・・」
 「かわいい子だといいな」
竜樹は苦笑した。
 「お前ってば・・」

研究生公演は無事すんだ。竜樹は少し疲れていた。まだ誰も来てはいなかった。
 「竜樹がっかりするなよ!また募集してみればいいんだし・・・」
 「・・・・そうだよな・・・ 」
そこへ蓉子が誰かを伴ってこちらへ来るのが見えた。
 「竜樹さん、お客さまよ!」
蓉子の後ろに遠慮がちに覗き込む丸い顔が見えた。
 「あの・・・ハガキ出した・・・川原 夏乃です。」
竜樹は飛び上がり満面の笑みをうかべて言った
 「よろしく!ようこそ劇集団ジャック・ポットへ!!」

 夏乃は普通の女子大生だった。教育学部で学ぶ先生を目指している普通の
・・・しかし彼女はなにか探していたのだ。同じゼミの子たちと飲みにいったりそれなりの楽しい毎日だったが夏乃はなにかが違うと漠然と思っていた
 「なんか・・・・楽しいことないかねぇ~」
そしてある日その募集をみつけたのだ。
 「あ・これいいかも名前気に入った・・・」
(募集!!新しい風求めてます!劇集団ジャック・ポット)
それから急いでハガキを買い自分のプロフィ-ルを書いて出したのだ。

 夏乃は少し怖かった 目の前にはずらっと東也 竜樹 賢太 に並ばれ囲まれた 夏乃の後ろから 瑠未花が声をかけた
 「ちょっと 怖がってるよ ごめんね 結局あなただけだったから 必死なのよ」
 「あ いいえ・・ お芝居おもしろかったです」
 「ほんと!」
瑠未花はくるっと 目をひらいて笑った
 「えっと 川原さん・・」
東也が 静かに声をかけた ちょっと賢太と竜樹は驚いた 東也は初対面の人間にあまり話しかけたりしないのだ
 「はい?」


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