第二話 「あがたつ川」






「ふぅ~どうにかこうにか形になってきたな、ここまで来るのに三ヶ月だ

ぜ、やっと堤らしくなって来やがった」

 レクは一人ごとのように呟き、壮大なるルーズ川を封じ込めるように高く

積み込まれた土砂を見上げてほっとした、ここまで高く積めばちょっとやそ

っとの洪水は怖くないだろう。

 「そろそろ飯の時間だ!!」

親方のリュームは大声を上げた。

店に入るとこざっぱりした女性店員が親方のオーダーした日替わりランチを

持ってやってきた。

「これ、すごくいい匂いがするね」

女性店員は嬉しそうに言った。

「ああこれね、うちの自家製のソースを使ってるのよ。18種類の野菜と50種

類のスパイスで煮込んであるのよ、他じゃ真似できないわうちの自信作

よ!」

レクは少し後ろに倒れながら、目を大きくして言った。

「驚きだね!食うのが楽しみになってきた!」

スープにレクの笑顔が浮かび上がって波となって揺れている。

「これお魚にとってもあうのよ、今ならキングサーモンのソテーが出せるけ

ど、お昼からそんなに贅沢しちゃ親方に怒られるわね」

レクは頭を抑えた。

「ああ我慢するよ、何しろ俺には金がないんだ。。。。」

女性店員は少し眉を下げた。

「ちゃんと働いてればそのうち贅沢できるようになるわよ!その時はうちの

店にたっぷり恩返ししてね、それまで安くて美味しいものをたくさん用意す

るわ」

レクは申し訳なさそうに小声で呟いた。

「恩返しは誰宛かわからないとだめだよな」

女性は少し微笑みを浮かべた。

「そうやって私の名前を聴きだそうとしてるのね!その手には乗らないか

ら!」

レクは慌ててスープを一口口に入れた。

「うんやっぱりすごく味がいい!」

「当然でしょ!毎日ここに来てくれるお客さん多いのよ、自信作って言った

でしょ」

親方の大声が響き渡った。

「いつまで話し込んでんだこの色ボケ野郎!もうおれたちゃとっくに食い終

わってんだ。ここに金おいとくからちゃんと領収書もらってこい!先行く

ぞ!」

慌ててレクは残りのパンをかきこんだ。

「じゃこれ領収書ね!ちゃんと親方に渡すのよ」


ランチ 10食  3800ゴールド

   「アボガド亭」

ほっと一息、いい食事。

      領収者 カズホ

「はやくあの暴れ川なんとかしてね!」

カズホは笑顔でレクに言った。

「親方に言ってくれよ」

カズホの目から次第に輝きが消されていく。。。

「私のおじいちゃんとおばあちゃんあの川に引き裂かれてしまったの。

おじいちゃんは街きっての医師だったの。

大戦が終わったばかりで隣のヒューイの丘の街はすごく荒れてたの。

おじいちゃんは一人でも怪我人を救いたいってヒューイの丘に旅たった

の。

その一週間後に台風で洪水が起きて、あの川は驚くほど凶悪に姿を変えた

の。

地形自体が変わったの。

それ以来あの川に何度も橋を架けようと頑張ったけどみんな失敗。

渡し舟も川の流れが速すぎて渡れない。

あそこを渡れる人間は誰一人いなくなったわ。

お願いあの川を緩やかな流れに変えられるのは貴方しかいないの。」

レクはなんだか胸が熱くなった。

そして確信した。

<おれの仕事は無駄じゃない>

外に出るとさっきまで高く積みあがった土砂はたちどころに姿を消してい

た。

       つづく


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