第四話 「打ち砕かれた思念」





置時計の太い針は二時を差している。アボガド亭に残されたのはレクと泥酔した男と店主のみとなっていた。

酔った男はレクに話しかけてきた。


「若いの!お前も随分長い事飲んでいるな。」

男の目の下には深いくま、やつれきった頬、酒は飲んでいるものの鋭い視線だけが光る


「あまり飲んだら酒も毒になるさ」

レクは静かに呟いた。


「なんだどこのくそやろう俺に文句があるってのか!」

アボガド亭の主が迷惑そうに呟く。


「おいおいやるなら表でやっておくれよ。」

店の主がしばらくの沈黙の後、男に語りかけた。


「旦那何かあったんですかい?」

店の主が心配そうに呟いた。


「忘れらんねいんだ。。。いまでもあいつの事が」


「またその事ですか、あれはもう三年も前の事じゃねいですか」


「俺は何の為に生きているのかわからない」


「旦那のせいじゃありませんぜ運命だったんですよ」

レクは少し話しに興味を持ち始めていた。

「何か俺にできる事はないですか?一体何があったんですか?」

男は少しためらった後に語り始めた。


「俺はあいつを心から愛していた。

あいつは俺を裏切りやがった、

そんで死んじまいやがった。

あれは禮火祭の前の日の出来事だった。

あいつはオカリナの演奏会に以前から俺に何度も連れてってくれと言っていた。

俺は仕事が忙しくて連れてってやるさと以前から言っていたのだが、それをしてやれなかった。

あいつはどこかの男を誘って一緒にオカリナの演奏会にいちまいやがった。

あいつが演奏会の会場にたどり着く事はなかった。

男ともどもゲリラの打った流れ弾に当たって死んじまいやがった。

あいつが待ちきれなかった理由が俺にはどうしてかわからねぇんだ。

なんでどこの誰とも知らないやつとあいつが本当に大切に思っていたオカリナの演奏会に出かけたのかが。。」

レクは話を聞いて頷いた。

そして持っていたダイスを振った。

転がった賽の目は5と4である。

レクは躊躇わず言った。

「この紙に奥さんの名前を書いてください」

「一体何をする気だ?まぁいいんだろ書いてやるさ。」

「奥さんの形見の品はありますか?」

「俺はあいつの事を愛している。もちろん持っているさ、これがあいつの大切に持っていたオカリナだ」

 レクは男が書いた紙に火を着けた。

あっという間の出来事だった。

そしてレクはその灰を肩身のオカリナにふりかけ!オカリナを思いっきり地

面に叩きつけた!



鋭い破裂音がこだました。



男は呆然としていた。

「何もそこまでする事は」

アボガド亭の主は砕け散ったオカリナを見て呟いた。

次の日の朝の事である。

男の息はなかった。

男の寝顔は安らかだった。

街医者の話によるとアルコールによる急性心不全が原因らしかった。

男は三年前に妻と別れて以来、

一人暮らしで子もなく身近な者は誰一人居なかった。

レクは男の身柄を灰にした。

そして砕けた肩身のオカリナと共に深いダークルーズの河に灰を注いだ。

「定められし時の歪められた時間よ、新たなる命とならん事を」

レクは暗く深いダークルーズの激流を見て涙した。


           -つづくー


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