第六話 「遥かなる河を越えたメッセージ」





「今日はこれぐらいにしとくぞ!さぁ~引き上げだ!」

リューム親方の大声が響き渡る。

「今日はだいぶ進んだな~」

レクは積み上げた土砂の堤を見上げて頬が緩んだ。

夕焼けが映えるダークルーズ河の激流を眺めているとレクは川岸に光る物を見つけた。

濁流のダークルーズ河、少しでも足を踏み外せば命がない。

レクは慎重に足元を確認しながらなんとかその光る物を拾い上げた。

それは小さな小瓶であった。中には腐食しかけた布袋に巻かれて手紙が記されていた。

手紙の中を見てレクは驚きの表情を浮かべた。

レクは真っ直ぐアボガド亭を目指して走った。

せわしなく働くカズホにレクは話しかけた。

「急用なんだいいかな?」

カズホはレクの呼び掛けに応じ店の裏手に出た。

「これを見て、今日ダークルーズで拾ったんだ。」

レクはカズホを促し、手紙の入ったビンを手渡した。

カズホは恐ろる恐ろる手紙を開いた。

        遺言 

    親愛なる我が妻サニーへ

 会いたい、お前と別れてもう19年の歳月が流れた。

お前の抜きではやはりわしはうまく人の命を救う事ができなかった。

戦争で傷ついた若者が死んで行くのを見るたびにわしは自分の不甲斐なさを痛感した。

何度も帰ろうと試みたがダークルーズやミレウを越える事はわしには不可能だった。

途中何度も行き倒れになって街に引き戻された。

息子も娘も元気だろうか。

孫のカズホの顔がもう一度見たい。

カズホは泣き虫だったが、わしが抱えると泣き止んだものだった。

カズホは今はもう大きく、立派な女になっただろうか。

どうやらわしの命はもう長くなさそうだ。

この手紙が運よくお前たちの手に渡ったならばこれほど嬉しい事はない。

わしはもう一度、そちらに最後に帰る事にする。

ミレウ越えを決意した。

無事にそちらに戻れぬ場合にはわしが働き残した蓄えがすこしばかりこのヒ

ューイの街に預けてある。

 サニーよ、堂々とこれをお前の大切ながかけがえのない孫のカズホに譲ってくれ。

この河はいづれ越えられるようになるだろう。

その時を待って引き取る事を願う。

        クラウド

「クラウドお爺ちゃん。。。。」

カズホはうつむいた。

「早くこれをサニーおばあちゃんに渡さないと」

レクはカズホを促した。

カズホの家に急いでたどり着くと両親がベットの脇でうなだれていた。

丁度、30分前にサニーがこの世を去ったのだ。

死に際に、サニーはクラウドがやっと迎えに来てくれたと笑顔を見せて安ら

かに目を閉じたらしい。

「お願い私をこの瓶のたどり着いた場所に連れてって」

レクとカズホは一言も喋らぬまま河にたどり着いた。

「おじいちゃんとおばあちゃん結局すれ違いのままだった」

カズホは大きな涙を浮かべてしゃがみこんだ。

ダークルーズ河が激しい音を立てて流れている。

「いや、そんな事はないさ、会えたんだよ二人は」

「どうしてわかるの?」

「最後におばあちゃんはおじいちゃんに会えたって笑顔を浮かべたんだろ?

きっと会えたんだよ。」 

「ありがとうレク、この瓶を届けてくれて、きっとこれはお爺ちゃんの魂そ

のものだったのね。

レクがおばあちゃんのところにちゃんとおじいちゃんの魂を運んでくれたんだ。」

「私、レクと離れたくない」

カズホは涙を浮かべてレクの胸に飛び込んだ。

レクは何も言わずカズホを抱きしめた。

「このダークルーズ河の決壊を止めるまではどこにも行かないよ。」

カズホは言った。

「ずっと私の側に居て」

レクは強く抱きしめた。

二人は一つになった。



             -つづくー


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