第八話 「静まりし二つの羽根」





「レク、明日、お花見、サンドイッチの中身何がいい?」

カズホは楽しげだ。

今日は何度も、明日の花祭りの事をレクに訪ねていたのだ。

しかしレクは目線を下に落としている。

「なんでもいいよ。」

カズホは不思議そうにレクの顔を見る。

「わたしね今まで嘘ばかりつく父親や母親や友達がどうしても好きになれなかったの。

お爺ちゃんの事は凄く好きだったのは覚えてるけど小さかったからあまり記憶がないの。

だからほんと寂しかったんだ。」

「ダイコンとカイワレとタマネギにかつおぶしのやつ好きかな?」

カズホは楽しげにレクに問いかけた。

「うんそれ美味しそうだ!」

レクは先程から思い悩んでいた。

そして、何かを思いついたか、手にもて遊んでいたダイスを投げた。

大きく転がったダイスは3と5で止まった。

「それじゃ、そろそろいくよ、万が一にも明日の花見に行けなくなっても心

配するなよ、来れない場合は忘れてくれていいんだ。」

「何言ってるの!それってどいう事?直前のキャンセルは無しだからね!」

「仕事が入りそうなんだ。」

「堤防の仕事なら明日は休みじゃないの?」

「うん、まあ、それじゃそろそろ帰るよ」

レクはアボガド亭から外に出た。

カズホの心配そうな視線をレクに送った。

レクは構わず振り返らなかった。

三日月が雲に隠れながらダークルーズ川に映えている。

その川に映える三日月を目で追っていると、レクは小さな白いしぶきを見つけた。

みれば白い猫が必死にもがいている。

レクは迷わず川に飛び込んだ。

ダークルーズの激流がレクを飲み込む。

なんとかレクは猫を助け上げた。

そして、急流に流されながらも流木に猫をのせあげた時、足の感覚がなくなった。

ダークルーズの急流は容赦なくレクを襲う。

沈みゆく体。

必死に、なんとか脱しようともがく。

ついに目の前は何も見えない暗黒になった。

もう駄目だ。。。苦しい。。。。。

「レク!お節介は程々にしとけと言ってるじゃねぇ~か!お前らしくねぇ~」

「親方?リューム親方?」

するとまわりから童の声がきこえて来る。

「祭りだ、祭りだ 今夜は祭りだ。竜神、竜神、暴れるな、暴れ、竜神その子をよこせ!ハニワタシテタマルカナルモノカ」

「早くこっちだ!俺を信じろこの稲妻に身を任せろ。」

レクは取り巻く稲妻に身を任せた。

そしてレクは稲妻に運ばれた。

体に走る激痛をこらえながら。

稲妻の先は鉄のカーテンの僅かな僅かな隙間をすり抜けた。

レクは我に返った。

そこは川原であった。

川のみおもが月明かりで輝いている。

水蒸気が白く煙立っている。


「助かった」

レクは体を起こそうとした。

だが、その瞬間、激痛が走った。

体が動かなかった。

レクはその場に倒れているしかなかった。

今まで川に大きく描かれたキリカキのような亀裂が何事もなかったように静かに静かに徐々に消えていった。


             -つづくー


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