へっぽこのととほでくだらなな生活録

へっぽこのととほでくだらなな生活録

第一話


末っ子で兄姉に「こけしちゃん」と可愛がられた半面、隣近所には十三番目を忌み嫌う者もあり、その為か早くから奉公に出してはどうかとの話しがあった。
実家もけして裕福とはいえなかった。
兄姉の結婚などが重なり始めた為なかなか奉公先の話がまとまらず、ようやくこの冬に女中奉公に出ることに決まったのである。
奉公先は東京の旧貴族だということで
「そりゃあ相当なお家柄でお金持ちだど」
との仲買人田中さんの話しに、こいれは都会なんて見た事も行った事も無い。まして貴族など想像もつかない。
 出発の朝、こいれは
「あんれかなあ、河向ごうの小暮地主ざん家ぐれぇでけえの家がなあ」
と、呟くと
「まんだまんだそんなもんじゃね」
と、返してくる田中さんの何度も聞いた同じ返事に満足そうに笑っては、「だべなあだべなあ」とこくんこくんとうなづいている。
 まだ見ぬ都会に思いを馳せるむじゃきなこいれを見ながらそっと涙を拭く母の姿があった。
 そげな立派なお屋敷にこの末っ子の甘えん坊が一人できちんとご奉公できるだろうかと母の胸は心配で張り裂けんばかり。
 そんな母を知ってかしらずか、こいれは無理ににっこり笑うと
「ご奉公に行っで参りまず」と頭をさげた。
「わがまま言うんじゃねぇぞ、嫌なごどあっても帰って来ちゃなんねぇかんな」
 母が声をかけるとこいれは涙が溢れて止まらない。
「があちゃん!おら行きたぐねぇ!があちゃ~ん!」
「ごいれ~!風邪ひくんじゃねぇぞ」
「があちゃ~ん!!」
 某おしんに負けぬ、涙、涙の別れの時来たり。
 そして、ついに汽車はこいれを乗せて東へ東へと走り出したのであった。
 そしてそれがこの先、どんな運命が待っている駅に続く線路の旅なのか、この別れを偲んだ誰も、こいれ自身でさえも知らないのであった……


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