へっぽこのととほでくだらなな生活録

へっぽこのととほでくだらなな生活録

第二話



~第二話~

 汽車が見慣れた風景を越えた。
 故郷との別れと興奮とで空腹になったこいれは
「でいじに食うんだぞ」
 と、母が持たせてくれた弁当を早速開き、世界の車窓からをきどりつつ、あっと言う間もなく平らげてしまった。
 こげにうんまい弁当は初めてだと満足気にお茶をすするこいれ。
「うめがろう」
 と、うなづく田中さんもまた弁当を開げていた。
「田中さんのもうめそだなぁ」
 あわよくばおこぼれ頂戴と眺めるこいれに
「やんねぞ」
 と隠す。
「いらねや、げち」
 膨れるこいれ。
「まあ、ぞんなに怒んなさんな。貴族さん家言っだらうめえ飯たんと食えっがらよ」
「まあ、それもそだな」
 こいれは機嫌を直すと、移り行く山々を眺めながら「貴族さんっ家つうのはどんなだか」と再び思いを馳せ始めた。
「何、聞いたところによるど何でも異国の血ぃが混じっているどがいねえどが」
「な、何いってるだ。あが鬼の血ぃが?そいつは怖えでねえが!」
 こいれは血相を変えた。
 田舎育ちのこいれは異国をくわしく知らない。異人さんは恐ろしくてでっかくて赤いくつが好きで履いていると連れていかれる! 不安にかられ、見た足元の藁で編んだ雪靴が愛しく思える。
「おら、あがいくづは履かねえでな」
 と、震えながら泣き出した背中をばんばん叩いて
「おめは、あがいぐつを知らねで、でいじょぶだべさ」
 笑う田中さんを恨みがましく睨みつけるこいれであった。
 赤い靴・・と考えた、そのとたん、一瞬視界が闇となり汽車は長い長いトンネルに入った。
 暗く切なく果てしない不幸と苦しみの入口が、もう、そこまできているのだろうか。

 ~つづく~



あくまでも次回予告
奉公先にたどり着いたこいれは先輩女中達の洗礼を!?
こう御期待! ごいれ~!まげんなよ



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