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魂の叫び~響け、届け。~
いつも天使なキミでいて ~A side~
いつも天使なキミでいて ~Athrun Jade side~
ここ、月の自由都市コペルニクスのはずれにある住居に
幼馴染で恋人のキラと共に引っ越して来て、そろそろ2ヵ月になる。
大きな窓から降り注ぐ朝の光の中で目を開くと、朝日に透けて柔らかく輝くココア色の髪――――――。
心地良い体温を確かめるように、覚醒しつつある意識を巡らせば、
愛しい存在が腕の中で甘い寝息を立てている。
落ち着いた気持ちでキラに向き合えるようになってから、
世界は鮮やかにその色を変えた。
いや…、気付いたのだ。
こんなにも空が青いと。
こんなにも木々の緑は輝いていると。
そんな他愛も無い事に、泣きたくなるような気持ちになる自分自身に。
しばらくそうして寝顔を見詰めていると、ふいに長い睫が揺れた。
「…ん……」
ゆっくりと持ち上がって行く瞼に、そっ…と触れるだけの口付けを落とす。
くすぐったそうに身を捩る姿は、毎朝見たって決して飽きたりする事は無い。
「アスラ…ン…?ぉ…はよ……」
まだ半分夢の中にいるキラの舌ったらずな口調に、自然とこちらの口元は綻ぶ。
「おはよ、キラ。もうそろそろ起きないと…今日は出掛けるんだろ?」
もう少し寝かせてあげたい気もするが、買物がてら街まで出てレストランで昼食を取ろうという提案に、
キラは昨夜嬉しそうに頷いていたのだ。
俺としてはこのままキラと一緒に寝坊するのも最高の1日なのだが、
キラの事だ…自分のせいで計画が台無しになったとガッカリするに違いない。
「うん…行く…」
キラはのろのろと身体を起こし、瞼を擦ると大きくひとつ伸びをした。
薄いブルーのパジャマは逆光に透け、しなやかなその身体のラインが浮かび上がる。
その光景に思わず目を細めると、キラはいつものように触れるだけのキスで俺の唇に触れた。
「おはよう」
離れようとする細い肩を掴まえ、更に深い口付けを仕掛けようとしたその時、
微かな重みと共に、俺とキラの間にスルリと滑り込む…銀色の毛皮…いや……
“銀灰色の毛玉”。
「あ、お前もおはよっ、イザ子」
ひょいっとその毛玉を持ち上げ『チュッ!』と音を立ててキスを贈るキラに、
俺はきっと複雑な表情を向けていたに違いない………。
リビングに敷いたラグの上で軽めの朝食を取りながら、2人で買物リストを作る。
そんな愛すべき日常―――――。
「えっと…あとはキャベツでしょ、ひき肉でしょ、それか~ら…牛乳と…」
「トマトと玉ねぎは?」
「あ、うんそうだね!それから…あ、イザ子のエサもそろそろ無くなりそうだからそれも」
なーんて言いながら、キラは“イザ子のエサ”と嬉しそうにリストに書き加えていく。
「キラ…オスだったら、何て名前つけるつもりだったんだ?」
「オスだったら?…イザ夫!」
「キ~ラぁ~…もうちょっとこう…何か無いのか?今更言ってもあれだが…いくらなんでも…」
キラのネーミングセンスはいつでもユニークだが、物には限度がある。
ただでさえこの毛玉には常々邪魔ばかりされてるって言うのに、名前までこれじゃあ…。
「なんで?可愛いじゃない、イザ子もイザ夫も」
名前を呼ばれた事に反応したのだろう、
“そいつ”は一声鳴くと、窓辺の寝床からキラの膝の上に移動して丸くなった。
その銀色の背を、キラは愛しげにゆっくりと撫ぜる。
――――そもそも…イザークがプレゼントした猫を、キラがここまで可愛がるのが気に入らない。
しかも、この猫ときたら…
銀灰色の毛に、アイスブルーの瞳。
…まるっきりどこぞの誰かを彷彿とさせるんだ。
なのになのにキラがっ…俺のキラが……
1日中暇さえあれば抱っこしたりスリスリしたり抱っこしたりスリスリしたり抱っこしたりスリスリしたり…。
果ては俺とはめったに一緒に入ってくれないオフロまで!
そうまさに、“超猫っ可愛がり”。
そりぁ…猫だよ?
可愛いって思う気持ちも、俺だって判らない訳じゃ無い。
だがあの“毛玉”は決まって、俺とキラがその…いいムードになるとやって来ては邪魔をするんだ。
もしかしたらこいつは猫の形をしたロボットで、
イザークがプラントから遠隔操作してるんじゃないかと疑った事がある位だ。
そう、はっきり言って――――――気に入らない。
“猫の面倒なんぞ見切れん”
そう言って、押し付けるようにして猫を持って来たイザークだったが、
あれはキラに余計な気遣いをさせないためのアイツ流の心配りだったらしい。
そう考えればアイツもあれでなかなか人間的には好感も持てるのだが…
いかんせん……今までの歴史が悪い。
イザークときたら、ヒマさえあれば“勝負だ!”“順位だ!”噛み付いて来るし、
相手にしないよう無視でもしようものなら、こっちの胸倉を掴んででも話を聞かせようとする。
訳の判らない勝負を挑まれたのも、一度や二度では無かった。
負ければ壁を殴るわ蹴るわ大騒ぎ…、
勝てば勝ったで俺が手を抜いたのなんの言い出してこれまた大騒ぎ…
“頼むからどうにかしてくれ!”と、イザークの同室だったディアッカから泣き付かれた事もあった程だ。
「はぁ~…」
かつてのアカデミー時代に遠く思いを馳せれば、
長く尾を引く溜息が漏れるのも、仕方の無い事だろう。
「優しい人だよね、イザークさんて」
「……はぁ~?!」
世にも恐ろしい言葉を聞いた気がして、俺は思わずキラの顔を覗き込んだ。
…そんな嬉しそうにニコニコと……。
「僕、イザークさん大スキ!」
「スキっ…て…ええっ?!」
“俺とイザーク、どっちが好き?”
子供みたいな考えがとっさに浮かんだが、そんなみっともない事聞けるはずも無く……。
一体どんな顔をしたらいいのか判らず、俺はあぐらをかいたままクルリと身体を反転させた。
「…ぷ…っ…くくくく」
「っ…キラ!」
背を向けたまま首だけをめぐらせると、キラは笑いを堪えようとくの字に曲げた身体を小刻みに震わせ、
目尻にうっすら浮かんだ涙を細い指で拭っていた。
「…ごめ…んごめんっ…あんまりにもアスランが可愛い顔するもんだからさ」
そんな…宇宙一可愛いキラに“可愛い”だなんて言われ…俺は何をどう言えばいいんだ…。
「…はぁ~」
気が付けば、いつもいつもキラのペースに乗せられ、
俺の反応を見ては遊ばれている感があるのは…認めざるをえない。
これが“惚れた弱み”ってヤツなのだ。
ガックリと落とした肩に暖かい温もりを感じて顔を上げれば、紫玉の瞳と視線が絡まる。
キラは後ろからちょこんと俺の肩に顎を乗せ、両腕を伸ばして腰に腕を回すとギュッと強く抱き締めて来た。
「…アスランは、他の誰とも比べられないよ?」
耳元でそっと囁かれ、一気に体温が上がる。
俺を見つめ返す紫玉は艶やかに潤み、甘く香るような錯覚を起こさせた。
「キラ……」
眩暈にも似た酩酊感に請われるがまま、
誘うように薄く開かれた唇にそっと己が唇で触れようとしたその瞬間…
ピンポーンピンポンピポピポピポーーーーン!
ドンドンドンドンドンドドドドドン!
嵐のようなインターホンに続き、壊されそうな勢いでドアがノックされる。
―――――こんな非常識な訪問音をさせるのは……アイツしかいない。
「…イザークさん…かな」
「あんな鳴らし方する人間、他に誰がいるって言うんだ?」
あんなのが何人もいてたまるかっ!
内心激しく毒付きながら、気を取り直して触れようとしたキラの唇は、
キラ本人の両手で口元を覆われる、という激しいガードが成されてしまう。
「もぅ…、それどころじゃないでしょっ!」
耳も頬も朱に染めてるくせに、キツイ視線でしっかりとクギを刺して来る辺り…
キラは見た目よりずっとしっかりしてると思う。
ハタ迷惑な訪問者を出迎える為にそそくさと玄関に向かう飼い主の後姿を、
銀灰色の毛玉が必死に追い掛ける。
買物、昼食…楽しみにしていたプランが音を立てて崩れていく……。
ふて腐れた気持ちで銀灰色の“そいつ”を見ると、その毛玉は俺の視線に気付いたように足を止めて振り返る。
ジッ…と数秒こっちを凝視されれば…猫相手とは言え、何ともいたたまれない気持ちになるものだ。
「…何だ?」
視線の圧迫に負けてそう声を掛けた途端、そいつは突然興味を失くしたように足早に去って行った。
「…くそっ…やっぱりアイツらは嫌いだ…!」
勢い良く仰向けに転がってひとりごちたアスランの声は、
玄関から近付いて来る3人と一匹の賑やかな談笑に、見事に掻き消された。
END
☆----------☆----------☆----------☆----------☆----------☆----------☆----------☆
2005/10/05 up!
アスランが…ヘタレ過ぎててごめんなさい(爆)
『キラには敵わないアスラン』『いつも放置なアスラン』がツボなので…。
いや…ちゃんとそこに愛は…あるんですよ!(笑)
このお話は、私の萌え~!を刺激して話を引き出してくれたsai-chaさんに♪
キラの「ぉはよ」なイメージイラストをありがとうございますっっ(*^^*)
返品は読後24時間以内のみ受付です(爆)
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