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魂の叫び~響け、届け。~
刹那の恋人-前編-
いくちゃん
に捧げたアスキラ幼年学校時代ストーリーです。
アスランの言動がどうやっても老けてしまう為、年齢設定を限界まで引き上げて13才にしてみました。
アスランの誕生日は越えてない・・・ハズ(笑)
捧げモノなので、お持ち帰りは厳禁とさせて頂きます。
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
人が永遠を願うのは いつか訪れる別れを知っているからだろうか
柔らかい温もりも 甘い吐息も
生涯忘れる事は無いだろう
我が刹那の恋人よ
今 “この時”が想い出になったとしても
刹那の恋人
-前編-
水に満ち緑萌える美しい大地、地球。
その青き惑星を守るように金色に輝くのは、―――――――月。
自由を尊ぶ方向性と利便性から、月面に暮らす人口はここ近年少しずつ増加していた。
その『月』の中でも3本の指に入る大都市、コペルニクスのはずれにその学校は在った。
――――――コペルニクス幼年学校。
生まれにくくなった第二世代コーディネーターから第一世代、地球から移住して来たナチュラルまで、
ありとあらゆる種の子供達が集い生活を送る学び舎である。
4歳になると初等部への入学資格が与えられる。
それを経て中等部、高等部へと進むのだが、少子化が深刻な昨今では1学年1クラスかせいぜいが2クラス止まり。
クラス替えの経験をする事無く卒業して行く人間も珍しくは無かった。
ナチュラルの生徒達が18歳で卒業を迎えるのに対し、
コーディネーターの子供達は14の年を迎えると卒業して成人と同じ扱いを受ける。
元の体の作りが違うナチュラルと共に学び、共に生活するのはそのくらいが限度なのもまた事実だ。
14歳を過ぎたコーディネーターの生徒達はそれぞれの得意分野を活かす為、
細かく枝分かれする専門技術学校へと巣立って行く事になる。
「・・・という訳で、諸君らの未来はその手の中に数限り無く存在しているのだ」
教壇では“ちょっと見ジョージ・グレンに似ている”(よく見るとそんなに似てはいない)
担任教師が専門技術学校を選択する際の注意事項を熱く語っていたが、
ハッキリとした進路を提出するのはまだ半年以上も先という事もあり、
クラスメイトの大半は耳を傾けようともしていなかった。
・・・・もちろん、俺も。
窓から入る初秋の西日のキツさを気にする風でも無く、
ココア色の髪の幼馴染は頬杖をついてぼんやりと窓の外に視線を向けていた。
その後ろ姿を随分と長い時間飽く事無く見詰めている自分は・・・やっぱり馬鹿なのだと思う。
入学した4歳の時から8年間テストが全教科満点だろうが、
学年で1番優秀であると評価された者にしか与えられないフェイスバッジを授与されようが、
窓の外を眺めている彼の笑顔を見た時の方が、その何倍も・・・嬉しいと思えるのだから。
永遠に終わる事は無いのではと思われた担任教師の長い話もようやく終わり皆が帰り支度を始めても、
彼のその視線はまだ窓の外に投げられていた。
「・・・キラ?」
様子を伺うように相手の名を呼んでみたが、その背中は微動だにしない。
「キラ?どこか・・・具合でも悪いのか?」
自分よりも少し薄い肩にそっと手を掛けると、視線に割り込むような形で後ろからキラの顔を覗き込んだ。
「えっ!?」
キラは弾かれたように顔を上げると、大きな紫水晶の瞳をようやくこちらにカチリと合わせた。
「HR、とっくに終わってるぞ?」
「っ・・・あぁ、うん・・・そうだね。ごめん、ぼーっとしてて・・・」
「別に謝る事じゃないけど・・・大丈夫か?なんか・・・お前最近ヘンだぞ?」
元々ボーッとした所があるキラだが、ここ最近特にこう・・・アブなっかしいというか、見てられないというか、
“心此処に在らず”な時間が多いような気がする。
「そ・・・そんな事ないよ?!ホラ、元気元気。ちょっと睡眠不足なだけだよ」
「睡眠不足~?」
「あ・・・・」
言われてまじまじと見てみれば・・・確かに目が少し赤くなっている。
「キ~ラ~もしかして・・・ま~たゲーム?おばさんに隠れて夜中こっそりやってるんじゃないだろうね?」
「っ違うよ・・・!」
「・・・ホントに?」
このテの前科の多いキラなだけに、問い詰める口調が自然と鋭くなってしまうのは仕方の無い事だと言えよう。
「ちーがーうっ!ただちょっと・・・」
「ちょっと?」
「・・・・ボクだって、悩み事くらいあるんだよ」
キラは唇を尖らせてそう呟くと、ふいっと背中を向けてようやく帰り支度を始めた。
窓から入りこんでいた西日は高等部に並行して建っている中等部の校舎に遮られ、
キラの一挙一動をさっきよりもずっと柔らかく照らす。
「悩み事・・・、キラがねぇ・・・」
コンピュータのキーボードを叩く時はまるで魔法でも掛かっているかのように速く動くその指が、
たどたどしく筆記用具をまとめていく様を見ていると自然とアスランの口元が緩む。
“触れたい”
胸に湧き上がる軽い衝動を理性で抑え込む事にも・・・もうすっかり慣れてしまっていた。
キラの傍にいたいのならば、この想いは絶対に気取られてはいけないのだ。
「そうだキラ、帰りにうちに寄っていかないか?母上がキラに会いたがってるんだ。
お前の好きなチョコチップの入ったクッキーを焼いて待ってるはずだよ」
「えっホント?!行く行く!」
(―――――キラは食べ物かゲームで釣るに限る。)
さっきまでの不機嫌顔はどこへやら、満面の笑みを浮かべるキラにつられてアスランも柔らかく笑んだ。
「・・・アスランくん・・・」
ふいに呼ばれて視線を巡らせると、見覚えのあるクラスメイトの少女が2人並んでこちらを見ていた。
どちらも中途から編入して来た、プラント育ちの第二世代コーディネーターの御令嬢だ。
ハッキリ言って女子と話す事自体が苦手なアスランにとって、鬼門とも言える相手が2人・・・。
「何・・・?」
明らかにトーンの落ちた声で返され、言葉に詰まってしまった少女達を見やり、
アスランは口元に自嘲気味な笑みを刷いた。
その笑みを良い方向に受け取ったのだろう、少女達の表情は目に見えて和らいだ。
「アスランくんは・・・卒業後は何を専攻するかもう決めてるの?」
「もしかしてお父様の跡を継ぐ為にプラントに帰国したり・・・とか?」
「いや・・・」
アスランは横目でキラの支度がほぼ完了している事を確認すると、自分の荷物を肩へと掛けた。
「先の事はまだ決めて無いみたいだよ?ね、アスラン?」
キラが出した助け船をに内心大きく舌打ちをしながらも、渋々と視線を五月蝿いご令嬢方へと向ける。
これ以上知らぬ振りをする訳にもいかない。
「・・・今の所はまだ先の事は決めていないんだ。・・・行くぞ、キラ。」
「えっ・・ちょ・・っちょっと待ってよアスラン・・・」
アスランは強引にキラの腕をひっ掴むと、
席を囲むようにして立っていた少女達の脇をすり抜けるようにして教室を後にした。
―――――居心地の悪い視線を背後に感じながら。
「・・・いいの?あんな言い方しちゃって・・・。校内でも有名な美女2人だったじゃないか。
彼女達きっとアスランの事・・・キミと付き合ったりしたいとか思ってるんじゃ無いかな?」
「別に・・・興味無い」
外見がどーの、こーのと言った所で、それは所詮遺伝子操作されて生み出されたモノだ。
勿論、この自分も。
「ふ―――――ん」
納得してなさそうな温度を孕むキラの声音に、アスランは自分より少し低い位置にある紫玉の瞳を伺い見た。
真っ直ぐに射抜いて来る、アメシストの澄んだ煌き。
まるでこっちの気持ちの奥底までも見抜かれそうなその色に、アスランは思わず視線を外した。
「アスランてモテるのに彼女とか作らないよね・・・好きなコの話も聞いたこと無いし」
「・・・・」
「気になるコとかでもさ、いないの?」
キラはそらした視線を捕らえんと、ほっそりとした体躯をくの字に曲げてアスランの顔を覗き込む。
傾げた首筋に揺れる柔らかいココア色の髪に、翡翠の瞳は眩しそうに細められる。
「・・・お前は?」
「え?」
「そーゆーお前こそどうなんだよ。俺だってキラの口からそんな話聞いた事ないぞ?」
「・・僕、は・・・・」
逡巡するキラの口から出る“次の言葉”を聞きたいと思っているのか、
聞きたくないと思っているのか自分でも判らないままに沈黙が訪れた。
「キラ!アスランくん!」
気重な空気を打ち破ったのは、淡い桜色の髪を長く伸ばし、後ろでゆったりと纏めている隣のクラスの少女だった。
普段は控えめで大人しい印象の彼女だが、
自宅同士が近所という事も相まってキラとだけは打ち解けた会話が出来るようになっていた。
「あの…来週締め切りの電子工学の宿題なんだけど・・・
今週末一緒にやらない?少しややこしくて判らない所があって・・・」
少女は頬をうっすら染めながらも必死に顔を上げ、弾けそうな笑顔をキラに向けていた。
「あ、僕も組み方が判らない所があって困ってたんだよね」
「本当?!よかった・・・それじゃあ・・」
「ごめん、俺達今週末は他に約束があるんだ。悪いけど他を当たってくれる?」
「えっ・・・」
美形揃いなコーディネーターの中でもトップクラスのアスランに嫣然と言い切られ対抗出来るはずも無く・・・
少女は残念そうに俯くと小さく微笑んだ。
「―――――アスランの嘘つき。約束なんかしてない癖に」
再び強引にアスランに腕を取って歩かされたキラは、大仰にぼやきながら恨めしそうに隣を歩く幼馴染を見やる。
「誰のせいだよまったく・・・。お前が無責任な事を言うからだろう?!
何でもホイホイホイホイ引き受けて!電子工学だよ?キラが1番苦手な科目じゃないか。
簡単に引き受けてくれるなよな、後で苦労するのはお、れ、な、ん、だ、か、らな!」
(油断も隙もあったもんじゃない)
アスランは心の内で激しく毒吐いた。
まだ少し離れた場所からこっちを見ている淡い桜色の少女。
随分前から彼女の視線の行方には気付いていた。
登下校の道で、廊下で、食堂で、ただひたすらに、キラを追いかけていた真っ直ぐな視線。
いつもキラの傍にいて、キラだけを見ていた俺だから・・・それが判る。
俺がモテるだのなんの言ってたけど、キラだってかなりモテるのだ。
可愛らしい外見も勿論だが、飾らない性格と柔らかい物腰、明るい笑顔で老若男女問わず人気がある。
先月の文化祭の舞台劇でキラがヒロイン役を演じてからというものの、
素行の良くない野郎共までもがキラに注目しだしたのもこっちは心配で胃が痛む毎日だってのに・・・。
――――――当の本人はまるで無自覚なのだ。
「そりゃ・・・僕は電子工学は苦手だよ。でもだからこそ一緒にやれたらって思ったんじゃないか」
「出来無い者同士が集まったって出来るとは思えないけど?」
「だから、アスランがいるんじゃない」
「お前なぁ・・・彼女は別に本気で宿題がしたかった訳じゃないと思うぞ」
「・・・他に何があるのさ」
ケロリとした表情で言い切られ、アスランは頭を抱えて座り込みたい心境だった。
(こいつ、ホントに判ってナイのか・・・)
「いいね~、実に可愛いよね。さすが“守ってあげたいランキング1位”だな、キラ・ヤマト君」
間近で響いた飄々とした声に2人が眉を顰めるのとほぼ同時に、キラの薄い肩にのしっと日に焼けた腕が乗せられた。
「っ、リュウ先輩!?」
「会長・・・」
リュウ・ゲーマルク。
1学年上の先輩でフェイス、そしてこの高等部の生徒会長でもある。
赤味がかった金髪に空色の瞳、整った顔立ちの上に人望もあり、
ナチュラルでありながら並み居るコーディネーターを押し退けて学年総合1位を独占し続けているその事実は、
現在進行形で伝説を築いていた。
「ちなみにキミは“恋人にしたいランキング1位”だったぜ、副会長殿」
キラの肩に腕を回したまま、リュウは楽しげにウインクを寄越した。
同じ生徒会役員として顔を合わせる機会も多かったが、リュウの奔放さと強引さはアスランの苦手とする類の物だった。
「何です・・・?それは」
いまだキラに触れたままになっているリュウの腕に鋭い視線を投げつつ、アスランは冷ややかに問うた。
「あれ?先週新聞部が取ったアンケート順位、聞いて無い?」
「聞いてません」
「“守ってあげたい”だなんてちっとも嬉しく無いよ・・・」
「まーまー、可愛く生まれた物の宿命だな」
しゅんとしてうな垂れてしまったキラの髪を、リュウは楽しげにくしゃくしゃっと乱暴に掻き混ぜる。
アスランはその光景に目を眇めると、チリッと胸が焦げ付く感覚を拳を握り込むことで抑えた。
「んじゃ、またな」
「ん・・・!」
ニッと笑ってキラの額を小突くと、リュウはくるりと背を向けて歩き出した。
数歩進んだ所で足を止めた後ろ姿がこちらに向き直ると、アスランに向かって小さく手招きを繰り返す。
(何なんだ、一体・・・)
首を傾げながらのろのろと近寄ると、力強い腕でいきなり頭ごと抱えこまれてしまう。
「なっ・・!」
「お前・・・そんな独占欲バリバリな目ぇしてっと、みんなにもバレるぜ?」
咄嗟に身体を捩って逃れ様とする耳元に囁かれたその言葉に、翡翠の双玉は零れんばかりに大きく見開かれた。
ピタリと動きを止めてしまった深海色の髪を解放すると、現生徒会長はまるで何事も無かったように悠々と遠ざかっていった。
気遣わしげなキラの声が投げられるまでの短くも長い間、
アスランは瞬きひとつせずに苦い気持ちを必死で飲み込んでいた・・・。
+ + + +
13歳ともなると、誰もが思春期の真っ只中。
誰が誰と付き合っているだの、誰が誰に告白したらしいだの、
休み時間ともなればそこかしこで輪になって恋愛話に花が咲く年頃である。
この点のみで言えばナチュラルもコーディネーターも何ら違いは無い。
恋しい相手の心に棲みたいと願うのは、万国共通、人種の壁も垣根も飛び越えて皆同じなのだから。
体力作りを兼ねての水泳授業後の更衣室は清潔で明るく、適度に効いた空調が濡れた肌を優しく包み込んでいた。
「男女混合の水泳授業なんてほんっっと拷問だよな~、反応しちまったらどーすりゃいんだ?」
よく言えば“ムードメーカー”、悪く言えば“お調子者”なカイが隣で身支度をしているアスランに演技口調で訴えた。
(簡単に言ってくれる・・・)
自分にとっては水泳の『授業中』よりもむしろ『着替え中』の今現在の方がよほど・・・その・・・
“理性”を必要とする時間だと言うのに。
ともすれば触れそうな距離に好きな相手がいて、髪から零れ落ちる水滴をぬぐっている・・・らしい。
意識的に視線を外しても目の端映りこむに日に焼けた素肌は、拷問以外の何物でも無かった。
「――――そんなの、頭の中で違う事でも考えてればいい」
入学当初からの付き合いで生徒会の仲間でもあるカイは、
他人とはつい距離を置いてしまいがちな自分が普通に話せる数少ない存在だ。
「違う事って?」
「校則を第1条から暗唱したり、目に付いた物体の面積や体積を計算してみるのも有効だな」
友人の思いがけない答えに、カイは面食らったように2~3度瞬きをすると同情的な色を湛えた瞳を向けて来た。
「涼しいカオしてっけど、お前も・・・結構苦労してんだな」
「あ・・ははは」
真面目な優等生で通っている級友の答えに気をよくしたカイは、
意を決してアスランの耳元に唇を寄せると小さな声で囁いた。
「なぁ、・・・キスした事ってあるか?」
「小さい頃はよくしたよ。母上や父上とね」
ニッコリと笑顔で返され、カイは地団駄を踏みたい気持ちを抑えて更に声を潜めた。
「・・・そーゆんじゃ無くて、好きな相手とって意味だよ!」
その声には、ひやかしの色は微塵も感じられない。
ユーモアにはユーモアで、本音には本音で返すべきだろうか・・・とアスランが逡巡している所に、
身支度を整え終わったキラがひょっこりと割って入った。
「何?何の話?」
「・・・っ!」
しっとりと濡れた髪は首筋や額を艶やかに彩り、アスランの視線を瞬時に奪う。
話題の内容も相まって動揺している級友にまるで気付かないカイは、いたずらっ子のように目を輝かせた。
「キスした事あるかってハナシ!ま、“守ってあげたい第1位”なキラクンには当分縁の無い話だろうけどねぇ~」
カイのその言葉にキラの表情がにわかに曇った。
紫玉の瞳をゆっくりと伏せながら俯くと、
ココア色の髪から伝い落ちた雫が淡いグリーンのリノリウムの床にいくつも散らばる。
「・・・んだよ、怒ったのか?・・ちっと言い過ぎたよ、悪ィ・・・」
気まずさからそっぽを向いて紡がれたカイの言葉は、アスランの耳にも真実の色を伴って優しく響いた。
――――とんでもなくお調子モノではあるが、根はいい奴、なのだ。
「・・・るよ・・」
「・・・キラ?」
かすれてしまって上手く響かずに消えてしまったキラの声をもう一度聴こうと、
アスランとカイはキラの方へと身体ごと向き直った。
伏せられていた顔がようやく持ち上がると、透明度の高い紫玉はピタリとアスランの翡翠に合わせられる。
「――――――あるよ、僕。キスした事」
「悪い!今から生徒会の集まりがあるんだ・・・・キラ、どうする?終わるの何時になるか判んないし・・・先に帰ってるか?」
終業のチャイムが鳴り終わると同時に告げられた内容に、キラは眉根を寄せて思案する。
アスランの慌て振りからすると、うっかり失念していたらしい。
「珍しいね、アスランが定例会を忘れるなんて」
『一体お前がいつ・どこで・誰と・どんなキスをした事があるのか、そればかりが気になってすっかり忘れてたんだ』
と、言う事も出来ないアスランは力無い苦笑いを返す事で曖昧に応えた。
「んー・・・いいよ、待ってる。その間に宿題でも片付けてるから、僕の事は気にしないでいいよ」
「・・・そうか?ならいいけど。あんまり遅くなるようだったら先に帰っていいからな」
「了解!ホラ、もう時間無いんでしょ?会議頑張ってね、副会長サマ!」
ピシッ!と短く敬礼ポーズをしたキラに背中を押され、アスランの頬は柔らかく緩んだ。
「判った、じゃあ後で」
「うん!」
「あー、つっかれた~、やっと帰れるぜ」
「ああ、今日は結構時間掛かったな」
コキコキと首を鳴らしながらぼやくカイに、アスランも“まったくだ”と同意する。
今学期をもって現生徒会メンバーは解散する時期に来ていた。
来期の役員候補への推薦をどうするか、またその引継ぎ内容など、
最後の大仕事の為の話し合いは終了予定時刻を遥かに上回ってしまっていた。
「あれ?お前、荷物持って来なかったのか?」
生徒会室は教室が数多く余っている中等部の棟の中に入っている。
わざわざ高等部の自分のクラスまで戻るのも二度手間になって馬鹿馬鹿しい。
荷物を持ち込むのが常のアスランの身軽さに違和感を感じ、カイは怪訝そうに眉を顰めた。
「え?ああ、キラが教室で待ってるんだ」
「なーる・・・そか、んじゃまた明日な!お先っ!」
言うが否や足取りも軽く駆け出していく姿を見送っていると、ふいに背中に視線を感じた。
相手を確かめるべく振り向くと、嫣然としたリュウの空色の双眸にぶつかる。
生徒会のメンバーが次々とドアを出て行こうとする中、リュウは帰り支度もせずに未だ席に座ったままだ。
「・・・会長はまだ帰らないんですか?」
「んー?もう少しここにいるとするよ。もしかしたら面白いモノが見られるかもしれないしね」
両肘を机の上に立て、組んだ指の上に顎を乗せて意味深な笑みを向けて来るその姿に、
アスランは居心地の悪さを感じずにはいられなかった。
(相変わらず掴めない人だ・・・)
「じゃあ、お先に失礼します」
「はいよ、お疲れサン!」
ドアの外へ出てから振り返ってリュウに一礼すると、
駆け出したい気持ちと闘いながら足早にキラの待つ教室へと向かって行った。
後編につづく。
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