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そんなある日、美佐子は芳江に「今日は仕事の帰りに中学の時の友達と数人と会ってくる」と嘘を言って昇と連絡を取って会う事にした。芳江も正也も町日暗い顔をして仕事から帰って来る美佐子が少し不憫に思い、たまには気分を変えるのもいいだろうと許してくれた。昇の父親の事を聞いてからすでに3カ月は経っており、その間に昇からの連絡は仕事先にもなかった。やっとの思いで昇と連絡が取れ、久しぶりにいつも会っていた喫茶店で待ち合わせの約束が出来た。美佐子ははやる気持ちを押さえながら約束の喫茶店に入り、店内を見渡した。昇は店の隅の方で小さくなって座っている姿はいつものハツラツと感じは消えてしまっていた。そんな様子の昇を見て美佐子は昇がとても可哀そうに思えた。昇と美佐子は久しぶりに会い、この3カ月の間会えなかったのをとの戻すかのようにお互い無言のまま見つめ合っていたが、しばらくして昇が口を開いた。「美佐子、おやじの事では嘘をついていて悪かった。美佐子からの連絡がなくなったのでオヤジの事がばれて反対されたのだなと分かっていたよ」美佐子は昇の話を聞きながら申し訳なさそうに下を向いた。昇の話は続いた。「僕からはどうしても連絡入れる事が出来なくて・・でも僕は美佐子と別れたくない」「うん、私も昇さんと別れる事なんで考えてないのよ。ただ、両親の監視が厳しくなったので自由に出て来られないの」「僕たちどうなるのかな」情けない昇の言葉を聞いていたら美佐子は反対に強くなり「大丈夫よ。私が両親を必ず説得するから」と美佐子はそう言って昇を慰めた。だが、そうは言っても美佐子に両親を説得する力が゛ないのを昇も薄々感じてはいたのだった。昇と会う為にはどんな嘘でも平気で両親に嘘をつく美佐子はそんな自分自身に驚いていた。色々な嘘をつきながら昇との逢瀬を重ねていた美佐子だったが、親に気がつかれるのも時間の問題で、それからしばらくしてまた正也から呼ばれ居間に座らせられた。「美佐子、まだ昇君と会っているのか」美佐子は黙ったまま下を向いたきり一言も話さなかった。。あきれた正也は再び美佐子にこう言った。「美佐子、また昇君と会うというのなら仕事も辞めて清子叔母さんの所へ行かせるよ」清子叔母は正也の妹で鹿児島にすんでいた。正也は半分脅かしのような言い方をして美佐子を睨みつけた。美佐子は仕事も辞めさせられて叔母の所へ行くようになれば永久に昇と会えなくなってしまうと思い慌てて正也に言った。「お父さん、仕事は辞めさせないで。もう絶対昇さんとは会わないので・・仕事まで辞めてしまったら私は何をしたらいいの」美佐子の必死の説得に正也も折れ「美佐子、御願いだから私達の言う事を聞いておくれ」と最後には美佐子に頼む形となってその場はおさまったかのように見えた。それからしばらくは美佐子も大人しくしてからまた密かに昇と会う。こんな関係を一年も続けていただろうか。2人の間でも結婚の話は出て来なくなってきたある日の事であった。いつものように両親に嘘をついて明日は昇と会おうと思い昇の会社へ電話を入れた。だが、電話の先に昇はもういなかつた。会社でも何故昇が急に辞めたのか分からないと言うばかりで要領得ない。美佐子は思いきって一度行った事のある昇の家を訪ねて行った。だがそこにも昇とおばあさん2人していなく家は引っ越しをした後だった。もう何処も探す事も出来ずに美佐子は肩を落とすばかりであった。その日を境に美佐子は何をするにも意欲が出ず元気がない日を送っていた。昇が何故仕事を辞め家を引っ越しまでしたのか後になって美佐子は知る事となった。昇が美佐子の前から姿を消した後、どうしようもなく寂しくなり虚しくなっていた時に孝雄と知り合い、またそれまでの事務の仕事もどうでもよくなり今の生活から一心で孝雄のプロポースを受けたのであった。もちろん孝雄にはこの事は内緒にしており美佐子も一生口に出すか事はしないと硬く心に誓っていた。それから一年程孝雄と付き合い正也と芳江に紹介する運びとなった。
2023.10.29
NO2 美佐子独身の時 美佐子も25歳で孝雄と知り合うまでに恋愛がなかったとは言えない。かなり深刻な大恋愛をしていたのだが、結婚まではいかず泣き泣き別れてしまっていた。その彼は美佐子が20歳の時に知り合った。成人式を迎えた美佐子は事務の仕事をしながら生け花の稽古に通っていた。その教室にはその頃には珍しく男性の生徒が入っていた。周りは女の子ばかりなのにその中に混ざっている男の子はかなり目立ち皆の注目を浴びていた。名前を「山田昇」と言い、23歳で背も高く中々スマートな青年だった。髪は多く若白髪が数本混ざっているのが特徴でいつもサラっと横に流しているヘアスタイルをしていた。美佐子が入った時にはすでに昇はおり、美佐子は何故ここに男の子がいるのか不思議に思っていた。美佐子が教室へ行きだして半年も経った頃には友達も出来、よく6人ほどのグループで遊びに行くようになっていた。そのグループの中に昇も入っていた。そんなある日、教室の帰りに喫茶店へ入りコーヒーを飲みながら話をしていた時に誰からともなく言い出した事が次の日曜日にサイクリングへ行こうというものだった。皆反対する人もなく話はすぐ決まり、場所と時間を決めた。 次の日曜日に待ち合わせ場所の駅に着いた時にはもう全員集まっており、その中に昇もいた。昇は美佐子を見つけると笑いかけてきた。その日は秋も深まり少し肌寒さがあった。昇はチェックのシャツに濃紺のジャンバーを羽織り爽やかな感じで自転車の横に立っていた。やがて6人のグループはそれぞれの自転車に乗り出発をした。自然に美佐子の横に昇るが並び走って行く事となった。それまでも昇と話はしていたが、グループの中の1人という関係しかなかったのだが、こんな形で昇と二人で話すのは美佐子にとってはとても勇気のいる事だった。その日をきっかけに二人はグループから離れて付き合うようになっていった。昇と付き合うようになってから美佐子は自分の家の事などを色々話をしていたが、何故か昇は自分の家の事を話すのをためらっていた。美佐子が聞くとそれとなくそれとなく話をそらす感じがするのだった。その時の美佐子はもう昇しかか目に入らない時だったので、昇が家の事を話さないのをそんなに深く考えもしていなかった。 2人の関係は生け花教室の誰もが知る事となり皆2人を応援してくれていた。その頃の昇の仕事はある食品メーカーで営業をしていた。昇は自転車で通っていたので帰りはいつも昇の自転車の後ろに美佐子が乗り、話しをしながら帰って行くのが2人にとって楽しみな事だった。そんな付き合いを2年もした頃から2人に間には結婚の事が話題に出るようになってきていた。やがて美佐子が23歳の誕生日がこようとしていた時である。美佐子は母親(芳江)にそれとなく昇の話をして父親(正也)に話しをしてくれるように頼んでいた。芳江は夫正也に美佐子から聞いた話をした。正也は一度会ってみようという事になり、美佐子は早速昇に話しをして家へ来る段取りを付けた。当日昇はかなり緊張した顔で正也と芳江に挨拶をしてくれた。その時は芳江も正也も昇の性格を好ましく思い、結婚もいいだろうと了解してくれた。美佐子は嬉しくなり今度は昇の家へ連れて行ってくれと頼み、昇も承諾して家へ行く事となった。ある日美佐子は手土産を持ちいそいそと昇の家へ行った。玄関に出てきたのは70歳くらいのおばあさんだけだった。その後美佐子は昇から家の事情を聞く事となった。昇が小学生の時に両親が離婚をして昇は父親と祖母と暮らす事となったが、父親は仕事と称して家を留守がちにして実質的には祖母から育ててもらったようだ。父親はどうしたのかと聞いたらその時もやはり仕事で遠方に行っており、家にはいないとの事だった。美佐子は話を聞いてそれだけだったらたいした事でもないように思え、「これからは2人でおばあさんを見ていこうね」といじらしい事を言って昇を喜ばせた。それからしばらく経ったある日、美佐子が生け花の教室から帰ってきたら両親から「話がある」と言われた。居間に座り両親の顔を見たらなんとも複雑な困惑している顔が美佐子を不安にさせた。「話って何」と美佐子は不安を消すように明るい声を出して聞いた。しばらく両親は沈黙をしていたが、思いきったように正也が重い口を開いた。「美佐子、あの昇君とは結婚は出来ないよ」「えっ、何故」美佐子は意味が分からず不安だけが大きくなってきた。正也はゆっくりと口を開いた。「身元調査をしてみたよ。昇君の父親は横領罪で有罪になり今服役しているそうだ」一気に話した正也は苦悩に苦しんでいるようだった。美佐子は正也の言葉を理解する事が出来ずにぼんやりしていた。続けて正也は続けた。「昇君は立派な青年だと思う。だが、民事事件でも犯罪者には変わりない。そんな父親がいるのに一緒になる事は無理だ。二度と昇君と会ってはいけない」話しは続いた。「教室も辞めなさい。仕事も辞めさせたいが家にずっといるのも気が重くなるだろうから仕事はしてもよい。ただし勤務が終わったら真っ直ぐ家へ帰ってくるように」と正也は少しすごみを持った言い方をして美佐子を見た。美佐子は横領罪がどんなものかは知っていたが、殺人を犯した訳でもないのにどうして正也があんなに反対するのかが分からなかった。 美佐子は1人部屋へ入り今正也が言った言葉を思い返していた。これからどうしたらいいのだろうか・・また23年しか生きていない美佐子にとって事の重大さを理解するのには無理があった。それからは両親の監視が厳しくなり美佐子は昇と会う事が出来なくなっていった。仕事が終われば家へ真っ直ぐかえり家事の手伝いなどをして過ごしていたが、美佐子の頭はいつも昇の事を思い、なんとかしてもう一度昇と会って話したいとの思いがどんどん膨らんで行った。続く
2023.10.23
温かい人生NO1 美佐子ついこの前までは風も生暖かくとても不愉快な感じがしていたのだが、今日の風は爽やかで肌をすり抜けて行く感じはサラっとしていた。やがて季節は秋に入ろうとしていたある日、美佐子は1人庭でガーディニングに励んでいた。暑い夏の間可愛い花をたえまなく咲き続け、楽しませてくれたペチュニアを思いきり引き抜き、土を新しくする為に土を耕していった。これから秋植えの花に植え替えようとしていたのであった。「精が出ますね」突然声をかけられ美佐子は思わず声が聞こえる方に顔を向けた。そこには隣の柴田夫婦がニコニコしながら美佐子の姿を見ていた。「あら、お揃いでお出かけですか」美佐子も返事を返し手袋を外しながら無意識に腰をトントンと叩いていた。ここのところやけけに腰が痛いのが気にはなっていた。「ええ、ちょっと買い物へ行くんですよ」柴田夫婦は仲良く声を揃えて返事を返した。主人の柴田は洋平は薄いブルーのブレザーを品よく着ており、襟元にはこれもまた薄いブルーに小さい水玉がついたスカーフを巻いていた。襟元からちらっと見える程度にしているのが名かな憎いお洒落な感じを出していた。夫人の慶子は洋平と合わせたようにブルー地に細いボーダーのワンピースにオフホワイトのジャケットを羽織っていた。柴田が確か去年退職したと聞いていたので、今は時間があり昼間はよく2人揃って外出していた。慶子は洋平より5歳下と前に聞いた事があったのを美佐子は思いだしながら柴田夫婦を見送っていた。 「じゃあ行ってきます」と弾んだ慶子の声と折り返しに「お気をつけて」と声を掛けながら美佐子は密かに「もう秋になるというのに夏のような恰好をして」と声に出さずに悪態をついた。それというのも美佐子はこの柴田夫婦が日頃から何かと目障りな存在だったのである。 美佐子は高校を卒業した後、事務の仕事をしていた美佐子は取引先の孝雄に見初められてあまり深くかんがえる事なく一緒になった。美佐子25歳、孝雄28歳であった。愛しているのかどうかさえあやふやな状態で一緒になった美佐子であった。孝雄はとりたてて不細工な訳でもなく平凡な顔つきをしていた。中肉中背で特徴と言えば少し吊り上がりの目をしており、きつい人のように見えたが、笑うと柔らかい口元が人のよさを感じるようであった。付き合いだしてからの孝雄は少し短期な所があるが特に悪い訳でもなく、仕事から帰ってきたら風呂へ入り、ビールを飲みながらテレビを見るのが楽しみという典型的な昭和の男であった。 続く
2023.10.19
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