バル対策本部  元帥の間

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四章 可愛い暴君 第五話




「仕方ないんや・・・癒李のオカンも泣いとった」

「ここしかあの子の居場所は無い」

「うちは、このゲームを止めるわけにはいかんのや」


四章 可愛い暴君 第五話


そう、分からない

また分からなくなった

決心が付いたはずなのに

今回の一軒で、拒んでいる自分が居る

嫌だ・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

これ以上恐怖に引きずり込まれていくのは嫌だ・・・

緋花は、恐怖を乗り越えてきたのか?

全て癒李の為に・・・


「緋花は、癒李の為にここに居るんだよな?」

「居場所を作ってあげれたって・・・どういう意味だ?」


悪食の問いかけに緋花は悲しそうな顔をした 

親しい仲にせよ、緋花は何故そこまで癒李を大事にするのか

それは友情とは別な物だった


「あの子には、リアルに居場所は無いからな」

「この仮想現実があの子の最後の居場所やねん・・・」


悪食にはまだ意味が分からなかった

このゲームの中が最後の居場所・・・

リアルにはもう心の行き場が無くなっているのか・・・

まさか・・・


「イジメ・・・だな?」


小さい子の問題なんてこれくらいしか無いと思った

最も一般的だし、年々悪化している問題でも有る

所詮、イジメは人間の本能

この問題を無くす事は永遠にできない


「ドンピシャやな・・・大当たりや」

「あの子はもう、2年間ずっとイジメられとる」

「うちらは元々、幼馴染でずっと一緒に居ったんや」

「でも、2年前うちは、引っ越して癒李とは離れ離れになった」

「それからやな・・・」


緋花の話は全て事実だった

自分が癒李から離れた直後、リアルで陰湿なイジメをされていた

緋花は、長期の休みになるとよく癒李の家に遊びに行っていたそうだが

学校も違うので、癒李がイジメにあっていることは分からなかったらしい

ただ、人の心境の変化というのは少なからず感じ取れるものだ

癒李があまり笑わなくなった

傷だらけのランドセル

ビリビリになった教科書

緋花は徐々に確信していったらしい

陰湿で片付けられる程度じゃ無い

癒李はイジメられている

でも・・・


「リアルにはもう、笑って暮らせる居場所は無いと思ったんだな?」

「でも・・・」

「癒李はそのままで良いのか?」


将来の事もある

人間関係は社会で最も重要で大切だ

他人との接し方以前に、他人から拒まれて

自分からも他人を拒んで・・・これでは

癒李は、一人ぼっちになってしまう・・・


「仕方ないんや・・・癒李のオカンも泣いとった」

「ここしかあの子の居場所は無い」

「うちは、このゲームを止めるわけにはいかんのや」

「ここでしか、いつもそばに居てやれん・・・」


緋花は責任を感じているのか?

自分が居なくなったから・・・癒李は傷ついてると・・・

しっかりしたガキだな・・・

だが、緋花は悪くない


「本心を言え・・・ここに存在していることが」

「幸福か?・・・それとも苦痛か?」


「どっちでもあらへん・・・」


緋花は即答した

そして小さく蹲り、頭を抱え込んだ

抱え込んだ手は、震えていた


「この力を手に入れたとき、物凄く怖かったんや」

「初めてやった・・・死ぬ・・・そんな事思ったん」

「いくら倒しても・・・倒しても倒しても」

「戦わな・・・逃げられへん」

「なんでこの世界で痛みを感じるんや?」

「いつも恐怖と背中合わせ・・・」

「うちにとって、これはゲームなんかやない・・・」


緋花は俯いたまま、歯を食いしばり

恐怖に目は見開いていた

死にたくない・・・か

怖くないわけが無い・・・

誰にも、こんな事話すことなんてできなかっただろう

外見と違い、子供っぽくないが・・・やっぱり子供だ

すると突然、緋花の掌にあの武器が現れた

チェイサーとの戦闘時に振り回していた

モーニングスターのような武器


「うちのこの武器・・・これで沢山奴らを消してきたんや」

「ブラックスター・・・うちがそう名付けた」

「癒李を守れる、これがあれば・・・」

「一番大切な人を、守れるんや!!」


それは・・・自分を犠牲にしてでもか?

癒李がずっとここで笑っていられるように

そして、二人で一緒にここで楽しいひと時を過ごすために・・・

このゲームは会話は全てチャットではなく言葉でコミュニケーションが取れる

キャラエディットの時キャラクターの声も選択できるから

その声でマイクを通し、世界中の人と会話ができる

声で分かったけど

緋花は今間違いなく泣いている

悪食には、守りたいと想う気持ちが痛い程伝わっていた


「まだ、守れて良いよな」

「昔、俺の友達もイジメ受けててな」

「最終的に、自殺して・・・あいつが死んでから、イジメられてたのが分かった」

「今思うと・・・気付かないフリをしてたのかも知れねぇけど・・・」

「信じたくなかったってのもある・・・」


人は、気に入らない人間を集団で追い込み

潰す

逃げ場を与えず、じわじわと相手が堕ちるのを待つのだ

追い込まれた人間は、心の中で助けを求める

大抵の人間が、誰かに相談するということを躊躇う

負けたくないからだ

自分を馬鹿にし続けた人間達に負けたくない

そして、ただ耐える

時が過ぎるのを待つ

始まったのだからかならず終わりが来る

イジメが終わるまで・・・耐えるのだ

だが、その希望も虚しく、親より先に安楽へ行く

救ってあげられる人数なんてたかが知れてる

イジメを受けている人間は、イジメをされていても答えない

明るくて、元気で、何不自由無い自分を演じる

知られたくないがために・・・

自分がイジメられてると認めたくないがために・・・

でも傷ついた一つの心は脆く折れやすい

心に傷を付ければ、生気が減っていく

この悲しみと苦しみの無い場所に行こうとする


「俺・・・あいつが飛び降りるとこ見たんだ・・・」

「笑ってた・・・あいつのあんな笑顔は見たことが無かった」

「狂って笑ってたんじゃなかった・・・明らかな幸福・・・」

「両手広げて・・・あいつは天へ飛んでった・・・」


俺が現実逃避を始めたのも

あいつが死んだ後だった

日常では何気なく振りまけても、俺は自分に押し寄せてくる罪悪感に

耐え切れなくなっていた・・・


そして俺は


ここに来たんだ


四章 可愛い暴君 第五話 完


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