バル対策本部  元帥の間

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五章 白と黒のボク 第三話



この鎧の意味、この二本のパルチザンの意味


答えはすでに出掛かっている・・・これを

実戦でどう活かすかだ!


五章 白と黒のボク 第三話 




「エンジェル・・・ここで何も問題無く、事を終えてくれれば、私の作品はまたも認められる・・・ククク」



不気味な笑みを浮かべる凍摩。


この男の欲求対象は悪食。


悪食の中のルシファー、しかしこの男は自分の物にしようとしている。


もし、そうなった場合は・・・私自ら・・・


零蘭の体を無数の札が舞う、凍摩がもし、出すぎた真似をしようものなら。


札は一斉に凍摩に襲い掛かるだろう。


凍摩はそれに気付き、零蘭にこう告げる。


「不信感を抱くのは構わんよ、人が常に他人に抱かなければならない感情だ・・・まぁ見ているが良い・・・」


まずは・・・あいつを回収せねばな・・・





「・・・ここからはできるだけ瞬きはせず、動いてからではなく、動く前に移動する位置を予測するでござる!!」


牙龍の余裕はとうに消えていた。


俺はあれが何なのか分からないが、ただ、あいつはチェイサーだ・・・


体は真っ黒で、丸い目は赤い・・・・四つん這いで、まるで・・・獣。


「あれ・・・チェイサーだよな・・・」

「突然変異体というわけでもないでござるが・・・いわばチェイサーの集合体でござる」


牙龍は左手に持つ居合刀を前に突き出し、右手でゆっくりと鞘から刀を抜いた。


「奴が動いてからでは遅いでござる・・・動く前に行動を予測し、知らなければならないでござる」


動く前にって・・・そんな事どうやっt・・・


悪食が気付いた時には、細長く黒いチェイサーの尾が悪食へと一直線に伸びていた。


「うわっ!」


悪食は避けようとしたが、この距離ではどうしようもなかった。


尾の先は鋭く、間違いなく体を貫かれる。


「もっとよく見て・・・先を読むでござる・・・」


チェイサーの尾が悪食の体を貫く寸前、突然悪食の前から尾が消えた。


正確には斬り飛ばされたのだ。


悪食の横には静かにゆっくりと刀を鞘に納める牙龍が居た。



「あやつは・・・ビーストはこれまでとは違う、集合体故、原型は留める必要は無い・・・それ故攻撃は読めん・・・多少の手傷を負わせても再生する・・・」

「じゃぁ・・・どうやって・・・」

「一番確実なのは【動く前に殺る】でござる・・・粉々に再生できぬ用バラバラに、だがそれは到底不可能な事・・・よく見ているでござるよ」



牙龍が大きく前に踏み込んだ。


一瞬でビーストとの間合いを詰める牙龍、音も立てず、その速さはまるで光速だった。


牙龍は鞘から刀を抜き、斬る体勢になったところで、ビーストの体がゾワゾワと動き始めた。


次の瞬間、ビーストの全身が鋭い棘だらけになっていた。


棘は長く、至近距離なら体を貫通してしまうほどだ。


「くっ!・・・」


牙龍は間一髪の所でビーストから距離を置いた。


何にでも形を変えられる・・・攻撃パターンなんて分からない。


だから隙なんて無い・・・でも・・・


「そんなこと・・・言ってられないんだよな?」

「こうなれば此方が止まらなければ良いでござる、隙を窺えるまで」

「分かったよ・・・アレを試してみたいしな」

「アレとは・・・?」

「俺が何とかできるかも知れない・・・と言ったら?」

「助力、任されよ」



二人はビーストに向かって走り出した。


牙龍が先陣を切り、何も無い場所で刀を鞘から思い切り引き抜いた。


抜いた衝撃で地面のデータが剥がれ、ビーストに降り注いだ。


ビーストは素早く後ろに下がったが、バラバラに降り注いだデータの中から悪食が飛び出した。


二本のパルチザンを構え、そのままビーストに向かって突進する。


「くたばれぇぇぇ!!」


悪食のパルチザンがビーストに触れる直前に、悪食の体を何かが貫いた。


ビーストの鋭く尖った尾が、悪食の体を貫いていた。


だが、悪食は怯まず、立ち止まって笑みを浮かべていた。




ずっと考えていた。


自分の能力は・・・自分で見つけるしかない。


ずっと感じていた。


この鎧の意味、この二本のパルチザンの意味。


悪魔や天使にはなんらかの能力が有るのは前々から薄々分かっていた。


でも何故この発想が直感として俺の頭に浮かんだのか・・・


答えはすでに出掛かっている・・・これを


実戦でどう活かすかだ!これが俺の能力!!






悪食の体を貫通していたビーストの尾が、いつの間にか解放されている。


悪食の姿は無い。


ただ、そこには、全身白い鎧の悪食と、全身黒い鎧の悪食が立っていた。



「「ドッペルゲンガー・・・か」」



二人の悪食が同時に言った。


白い鎧の悪食には白いパルチザンが、黒い鎧の悪食には黒いパルチザンが1本ずつ手に握られていた。


そして悪食の異変に気付き、牙龍が素早く駆け寄ってきた。


「「これじゃ・・・まだまだ死ねないか・・・」」

「それがお主の力でござるか、なんとも・・・悪魔や天使の能力は常識を超越したモノばかりでござるが・・・」

「「どう思う?」」

「頼もしいでござるな」


二人の悪食は密かに笑みを浮かべた。


鎧だけではなく、髪の色や目の色まで単色になっており


瞳の部分まで全て黒一色と白一色の悪食。


その目は真っ直ぐにビーストに向けられている。


二人の悪食は手から一旦パルチザンを消し、牙龍の肩に手を添えてこう言った。


「「ちょっとだけ、座っててくれないか?」」

「無茶はしないでござるよ?」

「「・・・少しなら良いだろ」」


そして、二人の悪食は互いに向き合い、互いに相手に指を指した。


「「お前は黒食。お前は白食。 区別はできるな?鎧の色や髪の色でも何でも良い、センスは気にするな」」


そう言い終えると、黒食は白食の足首を片手で掴み、体ごと持ち上げたままその場で振り回し始めた。


黒食は真っ直ぐにビーストを見て、「行けるな!?飛ばすぞ!!」と叫んだ。


「良いからさっさと離せ・・・」


白食は振り回されながらも冷静な口調で言った。


「後から行くから、手は伸ばせよ!行っけぇええええ!!」


黒食は白食をビーストの方へ勢い良く投げ飛ばした。


一直線にビーストの方へ飛ばされた白食は目を瞑り、動く事無く、ただ飛ばされるがままに身を任せている。


ビーストは身構え、臨戦態勢に入っている。狙うは白食のみだろう。



だが、白食はビーストの真上を勢い良く通り過ぎていった。



通り過ぎる瞬間、ビーストの尻尾を右手で掴みながら。



「油断したな?それとも要らぬ知恵でも働いたか?でもこうなってる限り、あんまし賢くはないか。」


白食は飛ばされてまだ体が浮いている状態だったが、力強く地面に足を付けた。


ビーストの尻尾を掴んだ右手を勢い良く自分に引き寄せ、左手に白銀のパルチザンを出現させる白食。


「予想の付かない展開になると、生き物は思わず動揺し、立ち止まってしまう・・・お前は生き物でも無いくせに」


尻尾を斬り、そのままビーストの胴体を真横に切り裂いた。


ボトリと地面に落ちるビーストの上半身は地面をガリガリと引っ掻き、その場所から必死に逃れようとしていた。


その無様な姿を見下ろしながら、白食は黒食の方へとビーストの上半身を蹴り飛ばした。


黒食は動じる事無く右手に漆黒のパルチザンを出現させ、飛んでくるビーストの上半身をパルチザンで串刺しにした。


「最高だな・・・ルシファー」


黒食がそう呟くと、ビーストは跡形も無くパルチザンから消し飛んだ。


「二人の意思が独立しているでござるか・・・ますます訳が分からないでござる・・・」


手を頭に乗せながら牙龍は少し微笑み、二人に近寄った。


「「独立はしてる・・・でも、どっちも俺だ。こっちの白いの(黒いの)が演技をしているようにも見えないし。」」

「えらく冷静でござるな?」

「「今更何に驚く・・・」」

「そうでござるなぁ・・・こりゃ双子とかいうレベルじゃないでござる♪」

「「珍しいか?こんなにハモる双子っぽい生き物は・・・」」



牙龍は満面の笑みで笑っている・・・ついさっきまでの牙龍とは別人だな・・・


俺はこの二人に分かれた状態から元に戻った。


そして俺は、上機嫌の牙龍の心中をぶち壊す事を言った。


「牙龍・・・GMなんだろ?」

「・・・天使の事は、誰から聞いたでござるか?」

「さぁ・・・教えるわけにもいかないし、そっちが知らないわけないだろ?」

「いや、実を言うと拙者は社の者では無く、ただの一般PC故・・・」


牙龍がただの一般PC・・・つまり部外者で、立場は俺とあまり変わらないのか?


こんな事を公にして良いのか?・・・牙龍が得た情報が洩れないとは限らない。


・・・・GMは・・・牙龍を切り捨てる・・・


俺は牙龍に忠告をしようとした。狂鬼の言っていた事がホントなら、奴らは平気で人を切り捨てる!





「お喋りが弾んでいる所を悪いが、この木偶の坊を引き取りに来た。」




牙龍の後ろに見た事の無いPCがいつの間にか立っていた。


水色の髪に丸目の眼鏡をかけた男・・・白銀の鎧を身に纏うPC・・・こいつ・・・


牙龍は振り向くと同時に鞘から刀を引き抜いた。


刀は男の右手に当たったが、そのまま斬れずに弾かれてしまった。


男の右手から大きな白い盾が現れる。


「雇い主に反抗は感心しないな・・・まぁ良い、貴様は用済みだ。ホワイトルームに戻れ」

「何故お主があの白い部屋の事を・・・それにこの力は・・・」

「勝手な想像を頭に廻らせるのは構わんさ、良かれ悪かれ、私には関係あるまい。」


男は牙龍の右腕を左手で掴み、悪食に向かってこう言った。


「とんだ茶番を見せてしまった、それと君にはもっと相応しい相手を用意している。私の作品をね。」

「どういう事だよ・・・お前、牙龍を離せ!!」

「吼えるな。元気が有って悪いことは無いが、私は五月蝿いガキが大嫌いだ。」


そう言い終えると、男は牙龍と共にフッと消えてしまった。




何かが羽ばたく音が聞こえる・・・




悪食は上を見上げた。そして目を見開き、驚愕する。











白い部屋では零蘭がモニターを見ながら、先ほどようやく持ち場に戻った旋風と話している。


消えた牙龍と凍摩の行方・・・目星はついている。



「ごめんね~あいつの事君に押し付けてさ・・・」

「謝る前に・・・まずは・・・」

「分かってるって~あのクズが独り占めしようとしてんでしょ?」

「その前に・・・牙龍が消される・・・」

「え?バイト君そんなヤバイの?でも・・・俺じゃあの中には入れないけど?」

「私が何とかする・・・そして凍摩をこの世界から削除する・・・」


零蘭の身体が白銀の鎧に覆われる。


そして零蘭の周囲を覆うように漂う何千何万の札。






「分かった、悪食は先輩に何とか助けてもらえるように頼んどくからさ。俺も行くよ」





END




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