【不眠症カフェ】　Insomnia Cafe

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2009.02.16

パリのマダムとの想い出　PART II　【復刻日記】

(25)

カテゴリ： 🔴 W【女性】記憶の中の女性　恋愛・セックス

私はそのマダムに、思い切って、「あなたが欲しい」と直裁に言ってみた
しかしマダムは「I’m not for sale　私は売り物じゃないのよ」と言って、プイと横を向いた
その瞬間、「どうしても彼女をものにしたい！」、という、男の意地がわき起こった

日本ではシャイで臆病で恋人も満足に出来なかったくせに、こんなに冷たく高慢な、ロシアとの日露戦争における難攻不落だった旅順２０３高地のようなマダムには、攻撃本能がうずいた
それに他の女性のように「for sale」で無いのだから攻撃のしがいがある

「私のこの純な想いをぶつければ、必ず彼女は私を受け入れる」という不条理で一方的な確信があった
それに私は、海外では不思議に女性とは、痛い想い出や失敗経験は思い出さないし、比較的いいことばかりだったので自信があったのだ

それからも私の口からは、
「私はいつまでもここに座って待っているから」とか、
「今夜、私はあなたのフラットに泊まりたい！」などと言う、
普段の紳士的な？いや、臆病な私からは考えられない、大胆不敵で芝居がかった言葉がなめらかに出て来た
これは今までのアラブに於ける修行僧のような禁欲生活への反動と、「旅の恥はかき捨て」という健全な (笑) 思想のせいなのである (笑)

しかし、せっかくそういう言葉をかけても、彼女は私を無視し続ける
私は彼女が私を相手にしないのは、店のママがホステスの邪魔をしたとなるとしめしがつかないからだろうと、都合のいいように考えた
普段は女性に全然マメでない私だから、こんな屈辱的な状況なら、すぐにでも席を立ったはずなのに、その時はなぜか、いつまでもカウンターでねばるつもりだった

一方、私の後輩の方はバーガール達と、不自由な英語同士で、楽しげに歓談していたが、そのうちに、その一人にシャンペンをおごった
バケツに入った氷の中にナプキンにくるまれたシャンパンが出て来て、私も少し頂戴した
このシャンペンは、結局、両性の合意を示すものらしいが、もちろん「男性は女性を、女性は男性を、永遠に愛します」というほどの深い意味のものではなく、一期一会の合意に過ぎなくで、まもなく、彼はどこかに消えて、それからしばらくして、どこからか、あらわれた
末代までのちぎりを交わすことはなかったようだ
そうして満足そうにビールを飲んでいる
そこは以心伝心、魚心あれば水心
私は何も言わず、彼の健闘を祝した

ところが、そういう私の好意にもかかわらず彼は、「alexさん　私、もうそろそろ失礼します」と、冷たいことを言い出すではないか
仕方がない
それに私の２０３高地攻防戦は長期戦になること必至である
いつまでもここで、私のお供をさせるわけにもゆかない
無事に一期一会のちぎりはすませたらしいし、彼の将来を思えば自由な空に飛び立たせてやらなければいけない

「そうか　私は今晩はホテルに帰らないつもりだ　私のスーツケースよろしくね」と言ったら、こころよく、「わかりました　私はこれから自分でいろいろ廻ってみます」と、買ったばかりのパリの地図をかざした
残った私も、そのうちに空腹になったので、店の外に出て、食事をしてまたバーにもどった

店にはジュークボックスがあって、客やバーガールがコインを入れて、当時のヒット曲を聴いている
ときどき、バーガールが私に「ジュークボックス用のコインちょうだい」と言うので、コインを買って渡してやる
彼女たちも、ママに集中している私のことは、商売的にはすっかりあきらめている

私もジュークボックスで曲をかけてみた
プラターズの「Only You　オンリー・ユー」と言う曲である
そうすると、それまでずっと仏頂面だったマダムが私をふりむいて、一瞬、ほほえみを浮かべた
これが私の彼女へ捧げる曲だと思ったようだ
これはラッキーなんとなく、このブロンドの旅順要塞攻撃の戦勝が見えてきた気がした
彼女も、もう私に「帰れ」とは言わなくなったし・・・

ついに夜も深くふけて、ていうか、丑三つ時の二時近くになった
女性達はもうみんな帰宅してしまっていて、店にいるのは私とマダムと、もうひとり、店の女性の中ではチーフ格らしい女性との、三人だけとなっていた

マダムは店を閉めて、灯りをほとんど消して、暗闇の中、バーのカンターの上のスタンドの明かりの下で、今日の売り上げを彼女と数えだした
難しい顔をして、電卓を片手に計算を繰り返している
外人はこういう計算は苦手だと聞いている
私は数学（代数・幾何）は苦手だが、足し算は得意だ
「計算を手伝おうか？」と親切で言ったが、「必要なし」とピシャリと言われてしまった
それもそうだ

そのうちにマダムとチーママ？が、私に「シー！」と、静かにしろと言う
「ポリスが巡回して来たから」と言う
しばらく、私も物陰に身を潜めた
どうも深夜二時頃以降は、営業をしてはいけないらしい
すっかりマダムの男のような気持ちになっている私は、「もしポリスが踏み込んできたら、私は客じゃない・・・と言えばいいよ！」とマダムに提案したが、あっさり無視された
私が客じゃないって、それ、私だけが思っているだけだ確かに
思いこみはいけない

計算を終えたマダムは、私とチーママを連れてタクシーを拾い、モンマルトルの高台のアパルトマンに帰った
エレベーターはあの古いフランス映画に出てくるスケルトン・タイプのもの
つまり動物園の動物の檻（おり）のような鉄製の黒いエレベーターで、ドアは手動
動き出すと「ウォ～～ン」と言うモーターのうなりが聞こえ、檻は上昇して行く
目的の階に着くと「ゴトン！」と止まる
折りたたみ式のドアを、ガシャン！と手動で開く

チーママはここまでも着いてくる
おじゃま虫である

部屋で、三人でしばらく酒を飲んだ
その時やっと気がついたが、マダムは英語を流ちょうに話す
気がつかなかった私がバカだったが、私との今までの意思疎通がスムーズなはずだ
おかげで、英語での会話を通じて私という人間を徐々に理解したらしい

そのうちに、マダムは私を、さして危険ではない男と最終判断したらしく、チーママに「帰ってもいい」と言い、「彼女にチップを上げて」と私にささやいた
タクシー代、それに時間外勤務、それから邪魔をするなよ、と言う意味を込めてチップをわたした
ケチだと思われてはいけない
・・・というわけで、警護役を兼ねていた憎いチーママは、帰宅していった

～～～～～～～～～

立ち上がったマダムが引き詰めた髪を解いたら、髪は腰まであった
２人になってはじめて気がついたが、彼女はアフリカ探検隊サファリのような服装だった

典型的なフランス女性は丸い体型をしているが、彼女はラテンよりゲルマン系の血が濃いらしくて、脚の長い、ヒップの位置が高い、引き締まった肉体美だったので、サファリが似合った
最後にもう一度ウィスキーをあおってから、彼女はキングサイズのベッドのシーツをめくり、２人はベッドに入った

ブロンドの旅順２０３高地要塞に連続砲撃を加えていたら、私の下にいたブロンドのロシア兵、じゃない、彼女が、とつぜん、まるで獣のような大きな叫び声をあげ、その直後あわてて、自分の手の平で自分の口をふさいだ
その瞬間、私は、彼女の声はあのエレベーターの空間を伝って、このアパルトマンの全館にひびいるのかな？と詰まらないことを考えた

ブロンドの２０３高地が陥落してしばらくして、彼女がシーツをめくると、一部が大きく濡れている

「ラメール（海）」と彼女がつぶやいた
・・・と、その時私は思った
後にもう少しフランス語を知ってわかったのだが、この言葉は「メルドゥ」というフランス語で、英語で言えば「shit !　シット！」、つまり「クソッ！」とか、「最低！」という言葉だった
彼女がシーツを替えて二人は眠りについた

私はずぶといところもあって、それにアルコールのせいもあって、こういう状況でもなにも不安と思わずぐっすり深く寝入った
開高健の言う「セックスの後の、小さな死」かも知れない

翌朝、彼女はベッドの下から黒い電話機を引き出して、チーママに「少し遅れて行く」と電話して、また私の隣で寝入った

私は目が覚めたので、シーツをそっとあげて、彼女の肉体を眺めてみた
部屋に溢れるバルコニーのドアからの陽光がシーツを透して差し込んで、彼女の身体がバラ色に輝いていて、長いブロンドが背中を覆っていた
窓のカーテンが微風にひるがえって、鳥のさえずりもパティオから聞こえる

これで、やっと芸術の都、花の都を征服したような気分になって、またウトウトとした
人種・文化・文明の違いを乗り越えるには、やはり女性を乗り越えなければいけないのである

昼すぎに、ホテルに帰って、後輩の部屋をノックした
「あれからどうしたのか？」と聞いてみたら、パリ見物はそこそこに、ある映画を見たという
その映画とは「セックス・エアラインズ」という題名のポルノ映画で、その機内では、スチュワーデス達が上半身だけの制服という半裸状態で機内の通路を歩きながら、各乗客に順次、超濃度なサービスをしてまわるのだという
う～～～ん
そういうエアラインには、一等料金を出してもいいから乗りたい

「いいな～！　その映画を見に行こうか？　サービスって、具体的にはどんなものなんだ？」と私がたずねる
「alexさん、私はもう見に行きませんよ　それより、あの鬼瓦（おにがわら）、どうでした？」
この後輩は、私のガールフレンドをだれでもかならず「鬼瓦」と呼ぶ、先輩思いで、礼儀正しい青年である
「君も女性と消えたじゃないか？　どうだった？」
そう聞いてみたら、
「混血らしいですよ　パパ・エジプト、ママ・スペイン、と言っていました」

私は翌日も、あのバーへ行き、前夜と同じようにマダムのアパルトマンに泊まった
体力を温存するために、昼間は賢明にも観光を敢えて避け、ホテルで「安静」状態を保った

その夜、ベッドの中で私はマダムに、「あの女性はエジプト＋スペインの混血らしいね」、と聞いたら、「彼女はアルジェリアよ」と軽蔑したように言い放った
パリでは昔植民地から流入してきたアラブ人ということで、アルジェリア人などマグレブの人々は被差別の立場にあるようだった
勉強になった

翌朝ホテルにもどったら、後輩が、「alexさん、私はスーツケースの一時預かり係りじゃありませんよ　いい加減にして下さい！　それに、alexさんはまだパリで一度も、ホテルに泊まっていないじゃありませんか？」とズケズケ言って来る
と言っても、この後輩とは同じ大学の先輩後輩でもあり、いつも冗談ばかり言い合っている仲なので、彼が私に対して怒っているわけでは無い
軽い冗談だ

しかし、せっかくなので？　昼間は彼とパリをちょっと見物した
それにオフィスにも一応、顔を出した
が、こちらは出張者でパリ店と直接関係のある商売を担当しているわけでもないので支店長に中東の状況などをちょっと説明しただけで、駐在員と日本レストランで夕食を共にした

駐在員は後輩から私の行動を聞いていて、「alexさんのような出張者は、初めてですよ」とあきれている
初めてパリに来て、まだホテルに泊まったことが無いという出張員は、なるほどいないかも知れない
反省点である

ただ彼の情報によると、最近ある出張者が歓楽街でナイトクラブへ入ったら、睡眠薬入りの飲み物を飲まされ、気がついたらリュクサンブール公園に裸で寝ていたという金品などめぼしいものも全部盗られていた事があるという
「alexさんも、そういう目に会わないように気をつけて下さいよ」と、注意してくれる

もちろん、そういう情報も参考にはするつもりであるが、私に対してまだ愛情を示さないものの、肉体的な愛情？は充分示してくれるマダムが、そういう恐ろしい女性だとは思わなかったから、余裕で笑っておいた

＝＝　続編考慮中　＝＝