Diary of Heavenly-Alica

二重螺旋の悪魔

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☆二重螺旋の悪魔(上)(下):梅原克文(SF)

 「二重螺旋」とは染色体のことです。
 ヒトの遺伝子の使われていないジャンクの部分、イントロンを暗号解読して、その塩基配列でアミノ酸を培養すると悪魔が産まれます。宗教的な悪魔じゃなく、純粋に生物的な悪魔...怪物です。

 ヒトの遺伝子にそんな秘密が隠されていることが密かに発見された近未来のお話。
 世界中でバイオ産業が推奨され、ちょっと目端の利いた野心的な研究者たちは、そんなこととは知らずにジャンクDNAの暗号解析をしてしまいます。そして生物学的興味からそれを培養。で、突然、培養槽からモンスターが...
 上巻は、そんなモンスターが産まれでてこないように、バイオ産業を密かに監視する組織「C機関」のサスペンスもの。
 下巻は、C機関の努力も空しく、世界中に溢れ返ってしまった悪魔GOO(Great Old Ones)の軍隊と、人類が生み出した超人UB(Upper Bionic)の軍隊とのハルマゲドン、戦争アクションものになっています。

 モンスターvs超人...一見、アメコミかデビルマンのような、超空想ご都合主義的なヒーローアクションを想像しそうですが、実際は気味悪いほどのリアリティに溢れています。ヒトの前頭葉にスイッチとなるマイクロマシンを植え付けることで生まれるUBの超能力(超伝導神経やカルスによる生体復元能力)についても、生物学の事例をあげて細かに説明されています。

 終盤では、人類、というよりも地球の生物の、そのでき過ぎた進化の謎そのものにまで言及される、スケールの大きなSFアクションです。
 ラヴクラフトの「クトゥルー神話」をほんの少しでも知っておくと、よりいっそう楽しめます。

 はっきり言って、ここ20年くらいの間、小松左京、筒井康隆、星新一、半村良、平井和正、光瀬龍(敬称略)といった大御所が日本のSF界の第一線を退かれ、「SF」というジャンルが、小説では「ホラー」という小ぢんまりとしたジャンルに吸収され(昔は小松左京氏の『くだんのはは』とか、筒井康隆氏の『母子像』や『熊の木本線』とか、半村良氏の『箪笥』みたいに、『SF』の中に『ホラー』があったのですが)、以降、このジャンルの大半がコミックやアニメ、映画という映像メディアに移行してしまったという状況下で、久々に本格的な「和製SF小説」を読んだ気がします。

 ホラー小説のように、日常の中に溶け込んだドメスティックな恐怖も確かに面白いのですが、SFというのは本来、もっと大きな場所(国とか、世界とか、宇宙とか)にさらに大風呂敷を広げたもので、ひとつにくくれるようなものじゃないと思うんだけどな...

 にしても、この「二重螺旋~」、映画化されると嬉しいな。スケール的に無理だろうけど...でもアニメ化なら可能かも!?
 もし実写でやるなら、やることなすことすべてが悲劇に終わり、常に薄笑いを浮かべ、とってもシビアでシニカル、ちょっぴりコミカル、意外と純真なこの主人公・深尾直樹役には、阿部寛がぴったりな気がします。

 ちなみに、この著者の「ソリトンの悪魔」という海洋SFアクションはアニメ化され、DVDで売っています。ストーリー的には原作よりちょっと簡略化されている(特にラスト)のが難ですが、「ホロフォニックソナー(音響を3Dで視覚化するソナー)」で見た風景が映像化されているのが見どころです。





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