Alice Boy's Pictures

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H先生のお父様と一番年長の猫ちゃんが亡くなったと知らせがあった。
お父様と猫ちゃんではその存在の大きさには大きな違いがあるけれど、どちらもH先生の大切な一部だった。

H先生の落胆の様子が目に浮かぶ。
もちろんのこと、明日の絵の授業もお休みだ。
次男には、今日のうちから何度も、何度も言い聞かせよう。
今、次男に死のイメージがあるのかどうかはわからないけれど、言い聞かせようと思う。

ずっと以前、次男が小学生になる前だろうか、ディズニーのアニメーションを見せていた時に、次男が突然に泣き出したことがあった。
犬のグウフィーが浜辺で亀と居心地の良い犬小屋を取り合っていた。
何度目かの争いの後、亀がお腹を上に向けて動かなくなってしまった。
グウフィーはチョイチョイと亀を突付いてみた。
亀は動かない。
グウフィーは大粒の涙を流して泣き出した。
亀が死んだと思ったのだ。
次男も「うわ~~ん」と大きな声を出して泣き出した。
次男も涙をこぼしている。
テレビの中の亀の上にグウフィーの大粒の涙がいくつもいくつも落ちた。
亀は目を覚ました。気絶していただけだったのだ。
グウフィーはそれに気がついて泣くのを止めた。
次男も泣くのを止めた。しばらく呆然とテレビを見ていて、元のアニメーションを楽しむ子どもの表情に戻った。

小学1年生のころ、スイミングスクールの帰り道、公園で次男を遊ばせていた。
遊ばせていたというよりも、公園の中をウロウロ歩いては他の子ども達の声や気配を背中で感じ取っているけれど、決して視線を合わせない次男と共に公園の中をただ歩いていた。
それがそのころの次男にできる精一杯のことだった。
次男なりに同世代の子ども達のそばに居たかったのだ。
一羽の鳩の死骸が立ち木のそばにあった。
次男は鳩に近づいてしゃがみこみ、なでた。
鳩は当然動かない。黙って次男に翼をなでさせてくれている。
次男は、鳩をなでながら「起きて、起きて」と言った。
次男はその時初めて動物に触れたのだと思う。
どこにも傷のない鳩は私の目にも眠っているように見えた。
逃げようとしないで、じっとして、翼に触れさせてくれる鳩に次男は嬉しそうだった。
次男は鳩に話しかけていたのだ。
次男の話せる言葉は今でも少ないが、当時はもっと少なかった。
次男は鳩が目を覚ますと思っていたのだろう。
ブルーグレーの鳩は美しかった。
ビロードの手触りと光沢があった。
私は、次男が納得するまでなでさせてやりたかった。

他の子ども達が鳩の死骸をなでている次男とそれを許している私に気がついた。
私は、次男の手をとり、鳩を抱えて公園の隅に行った。
植え込みの影で、木の枝で穴を掘って鳩を埋めてやろうと思った。
私が穴を掘っている間も次男は鳩をなでて「起きて、起きて」と繰り返していた。
私が鳩を穴の中に入れると次男は「え?」という表情を浮かべた。
「鳩は、死んでるよ。埋めてあげようね。」と次男に話しかけたが、無言だった。
次男は、鳩に土をかける私の手元をじっと見ていた。
私は次男が初めて友達になりたいと思った鳩を土の中に埋めた。
湿った土がこんもりと盛り上がった。
次男は湿った土をじっと見ていた。

2005年01月14日(金曜日)記


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