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現在の学級崩壊は、
「静かな学級崩壊」と呼ばれることがある。
一体なぜ、そんな現象が起きているのか。
近著『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)では、
学校現場の先生たち約200人にインタビューをすることによって、
今の子どもたち特有の変化と生きづらさを明らかにした。
そこから、学級崩壊のあり方について見ていきたい。
◆「教室の〝圧〟がやばいから」 ある公立小学校では、
35人いる子どものうち6~7人が授業中も普通に立ち上がり、
歩いていた。
何も言わずに教室を出て行ったり、
床に座ってユーチューブを見たり、
廊下に寝そべったりしていたのだ。
不登校で5人が休んでいたため、
実質的に4~5人に1人がそんなことをしているのである。
彼らは先生に反抗して、
そのような態度をとっているわけではなかった。
家の部屋で過ごすように、
当たり前のように教室を出て行ったり、
急に床に座り込んだりするのである。
先生は次のように話していた。
「これが最近の学校の風景です。
彼らは授業の邪魔をしたくて
やっているわけではありません。
彼らなりに何か思うことがあるらしいのですが、
それをうまく表現できないので、
急にバタっと床に倒れるなど
変わった態度をとるのです。
教室から出て行く子も同じです。
理由を尋ねても『教室の〝圧〟がやばいから』
『人が多くて疲れるから』
と答える。
大半の子は校内をうろついてまたもどってきますが、
中には帰宅してしまう子もいるので事故が心配です」
昔と異なるのは、
子どもたちがこうした行動をとっても、
先生があたかも
その子が存在しないような態度をとることだ。
生徒が床に大の字になって横たわっていても、
教室を出たり入ったりしていても、
先生は視界に入らないかのように無視して
何も言わないのだ。 これは他のクラスメイトも同じである。
隣の席の子が
床に座っていても目を向けようとしないし、
教室を去っても何も言わない。
この人はこの人、自分は自分というように、
一線を引いてかかわろうとしないのである。 なぜなのか。
周りが何も言わない一因が、
発達障害との関係にあるそうだ。
先生は次のように述べる。
「クラスには発達障害の子がいます。
彼らが教室にいることに耐えられなくなると、
変わった行動をとることがあるのです」
文部科学省の2022年の調査では、
小中学校の通常学級に通う子どものうち、
発達障害の可能性があるのは8.8%とされている。
35人学級なら3人いる計算だ。
特性や障害の程度はそれぞれだが、集中力が続かない、
音や臭いに過敏になる、自己表現が不得意など、
集団行動が難しいケースが少なくない。
現在の学校では、
発達障害のある子どもの特性を認めよう
という流れになっている。
発達障害は先生が指導して改善できるものではないので、
この方針は間違いではないだろう。
だが、これが今の学級崩壊を招く一因となっているらしい。
先の先生は言う。
「発達障害の特性を持つ子どもが教室から出て行っても、
『あの子の行動を認めるしかない』
と考えて放っておきます。
ただ、そうすると発達障害ではない子にも影響が及ぶ。
教室から出て行く子が続出するのです。
注意をすると
『なんであいつは良くて俺はダメなんですか。
それって差別ですよね』
という声が上がるので何も言えません。
この子は発達障害で、この子は違う
という明確な区分があれば、
それなりの対応ができます。
しかし、知的や身体の障害と違って、
発達障害は診断を受けていない子もいるし、
グラデーションの幅がとても大きいので
一筋縄ではいかないのです」
◆無視して授業
発達障害は、介護認定やがんのステージのように
レベルが明確に決まっているわけではない。
人なら誰もが持っている特性の“出方の違い”なのだ。
専門家でもない先生が、
35~40人に上る子どもたち一人ひとりの特性を細かく分析して、
それぞれに合った対応を決め、
他の子どもたちにも納得させて
授業を進めていくことは不可能に等しいだろう。
そうなると、先生は子どもたちの行動を注意できず、
無視するしかなくなる。
だから、教室を出て行ったり、
床に座り込んだりする子を放っておき、
席についている子だけを相手に授業をする――。
こうした現状を先生方はどう考えているのか。
本書で取材した小学校の副校長は次のように話していた。
「偉い研究者や有名人は、メディアを通して
『子どもの特性を認めよう』
『授業中に立ち歩きたくなるのは当たり前のことなんだ』
『子どもを押さえ込む先生は間違っている』
と言います。
もちろん、発達障害のある子どもに対してはそうでしょう。
でも、今はこうした声が大きくなりすぎているように思います。
これをすべての子どもに当てはめたら、
そもそも授業にならなくなりますよね。
それなのに、授業の進み具合が遅ければ、
先生が無能だと批判される。
じゃあ、どうすればいいんでしょうか?
一部のスペシャルな先生がスペシャルなことをして
うまくいったからといって、
全員がそうできるわけではありません。
受け持つ子どもも毎年違う。
結局、こうすればいい
という方法論をまったく示さないまま、
特性だけを認めようと言っているので、
現場としては
お手上げになっているのではないでしょうか。
特性を認めようというなら
“こういう状況ではどうすればいいのか”
を明確に示してもらわないと
何もできない先生が少なくない。
この現実を知ってもらいたい」
この副校長の言葉が、
どれだけ先生方の気持ちを代弁しているかは定かではない。
ただ、本書の取材で痛感したのは、
あちらこちらで
新しい形での学級崩壊が起きているにもかかわらず、
大勢の先生方が解決策を持たないため、
事態の悪化を招いてしまっているという事実である。
そして今、こういう子どもたちに加えて新たに増えているのが
「ほめてほめて症候群」
の子どもたちだという。
彼らもまた学校で問題を起こす存在となっているらしい。
詳しくは
【後編:ルポ学級崩壊「子どもたちが秘密警察化する」
ホメられ中毒の現実】で見ていきたい。
取材・文:石井光太
’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。
国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、
執筆活動を行っている。
著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』
『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』
『ルポ 誰が国語力を殺すのか』
などがある。
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