気付き・・・


本当はそうじゃなかった。

カレはまだ日本にいる彼女と付き合っていた。
カレの部屋にいるとき、たまにかかってくる国際電話。
カレは、もともとは九州の人なんだけど、
ここにいる日本人と話すときは、ほぼ標準語。
親と話すときと、日本の友達と話すときだけ、九州弁。
親と、友達に対する話し方ってやっぱり違うから、
少し聞けばすぐわかる。その相手が女なのか男なのかも。

カレは一度も電話のとき「出て行って」とは言わなかった。
私が一緒にいることにイヤそうな顔一つせずに、
淡々と電話の相手と話してた。
私はよく会話が聞こえるのが辛くて、部屋を勝手に出ていってた。

いくら彼女が日本にいるって言われたって、
一緒にいるところなんて見たことないから、
全然実感がわかない。
だから私は、自分の気持ちを貫こうとした。
今、私と一緒にいてくれるカレを、その事実だけを、
信じたかった。

ただ問題は、ライバルは日本の彼女だけじゃなかったこと。
カレと同じ時期に来た台湾人の女の子。
その子には台湾に彼氏がいた。
カレが私と知り合う前に、その子に告ってふられたって事は、
後から知った事実。だけど、もうカコのこと。
あの子だって彼氏と別れるつもりもないって聞いたし、
問題ないって思ってた。

でも、日に日に、彼らの距離は近づいていってた。

そんな全部のことを把握して、
自分の気持ちを整理して、それでもやっぱりわかった事は、
カレが好きだってこと。
だから私は見てみないふりをした。

それが少しずつ自分自身を苦しめていくのを知らないまま・・・。

友達が私の様子がおかしいのに気付いたのは、
それからしばらくしてからだったかな。
いわゆる、情緒不安定。
普段人前では泣かない私が、ちょっとした事ですぐ泣いてた。

カレの方から離れてあげないと、私からは好きすぎて離れられない。

そう思った友達は、カレを呼び出して、
「離れてあげて欲しい」って伝えたらしい。
私はそんな事して欲しくなかった。
だけどそれは、友達なりの、私に対する思いやりだった。
その思いやりは正直うれしかった。

カレは日本人コミュニティーに入るのを毛嫌いしてたから、
そーゆーややこしい人間関係が嫌いだった。
人に干渉しすぎるコミュニティ。
あの時のカレと同じ年齢になった今、その気持ちが、
手に取るようにわかる気がする。

カレは私の友達の意見に従う気はなかったらしい。
これは2人の問題だし、要は、私とカレはどうしたいか。
ただ、こんな狭いコミュニティーだと、
干渉は避けられない。

そして私達は、人に秘密で会うようになった。

だけど、そんなに強くなかった私は、
不安定なカレとの関係に疲れきって、
2人の距離はだんだん遠くなっていった。



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