あい・らぶ・いんそん

葛藤3



「どういう意味ですか」

スジョンはイヌクを見つめて聞いた。

「俺はジェミンの会社を思い通りにできる・・」

スジョンの脳裏に、社長のパクやリジュンや仲間のボブの顔
が浮かんだ。

何も持たずにジェミンとスジョンが、パクを頼りにニューヨ

ークに渡ってきた時、パクは何も聞かずリジュンとともに優

しく迎え入れてくれた。

アパートを探し、少しずつ買い足していった家具や食器・・・

ひときれのパンを分けあって食べた夜もあった。一枚の毛布に

二人でくるまって眠ったこともあった。財閥の御曹司として

何ひとつ不自由なく暮らしてきたジェミンが、すべてを受け入

れて、ただお互いを守ることに必死だった3年の幸せな月日だった。

ジェミンと幸せに暮らせた3年間が、彼らのおかげであったことを

片時も忘れたことはない。

この3年間の幸せは、もしかしたら自分にとって一生分の幸せだった

のかも知れない・・・と、スジョンは思うのだった。

優しく笑うジェミンの顔を思い浮かべると、スジョンの胸は張り裂け

そうに痛んだ。

彼らを苦しめることはできない。

イヌクの言葉が決して脅しではないことを、スジョンは感じていたのだ。

「どうすれば・・・いいの?」

「おまえ次第だ。」

スジョンの手が握っていたドアのノブから力なく離れた。

とそのとき、部屋のチャイムが鳴った。

イヌクはいかにも迷惑そうな顔をして出ようとはしなかったが、立て

続けに何度も鳴るので仕方なくドアを開けた。

「昨日は待っていたのに・・・」

と言いながらいつもイヌクのそばにいる女、ソフィアが入って来ると

スジョンを見つけて言った。

「どういうこと・・」

イヌクはドアを開けたことを後悔した。

ソフィアは嫉妬に満ちた表情で、いきなりスジョンの頬をたたいた。

「何をする」

イヌクがすぐさまソフィアの腕を引き寄せて、突き倒した。

そのときスジョンはイヌクの部屋を飛び出した。

「スジョン」

イヌクの呼ぶ声が背中に響いた。

スジョンを追いかけようとするイヌクに、ソフィアがしがみついていた。

スジョンはホテルの前からタクシーに乗り込み、イヌクが追って来るので

はないかと、後ろばかりが気になりながらも家に帰った。

部屋に入り震える手で鍵をかけると、その場に座り込んでしまった。

長く苦しい夜だった。

しかし、それは終わりではなく、始まりに過ぎない夜だった事を

スジョンにはわかっていた。

部屋の中には、ジェミンとの幸せな思いでが溢れていたが、それが

すべて幻の様にさえ思えてくるのだった。

そのとき、携帯が鳴った。

ジェミンからの電話だった。スジョンは、迷ったが出なければ心配する

だろうと、大きく息を吸い込み声を整えた。

「もしもし・・」

「あぁ、俺だ、今着いたよ。おまえ飯は食べたか?」

懐かしくて温かなジェミンの声が、気丈に悟られまいとするスジョンの

心を一気にうち砕いた。

「どうした・・何があった?」

電話の向こうで泣いているスジョンの様子に、ジェミンの顔色が変わった。

「おい・・どうした」

思わずジェミンも声を張り上げた。スジョンは、どれほどジェミンが心

を痛めているかがよくわかっていた。このままではいけない・・・。

「だって・・・あなたに会えないから・・」

ジェミンはふ~っとため息をつき、そして嬉しそうに

「馬鹿だな・・・すぐに会えるよ。」

「ええ・・」

「いいか、あまり外に出かけるな。出るときはジュリと出かけろ。良いな」

「わかったわ・・・」

「また電話するよ」

「待って・・・私ね・・・本当にあなたを、愛しているわ」

ジェミンは嬉しそうに笑って照れながら言った。

「俺も、愛しているよ。じゃあな」

スジョンは、切れた電話を長い時間ただじっと見つめていた。

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