あい・らぶ・いんそん

葛藤7



やがて長い夜が明け始めた。

スジョンは一晩中震えながら、膝を抱えて座り込んでいるままだった。

少しナイフで切ったと思われる腕から血がにじみ、頬は赤くはれあが

り、唇にも切れた血の痕がある。引き裂かれたブラウスが赤く模様をつけた

ように、血の痕を残している。

イヌクが優しい声で言った。

「スジョン・・・大丈夫か」

そう言っただけで、スジョンはびくっと驚き、逃げようとしていた。

(このまま・・・スジョンは狂ってしまうのか・・?)

イヌクは身を引き裂かれるよりも、辛かった。

いっそ狂ってすべてを忘れ、自分のもとに帰って来てくれたら・・・そう 

心の隅で思いつつも、あまりにも痛々しいスジョンの姿を目の当たりにし

て、イヌクも泣いた。

(俺のせいだ・・)

そのときスジョンの携帯が鳴った。

ジェミンからだった。

イヌクは意を決し電話をとると、いきなりジェミンが大声でどなった。

「何で電話をとらなかった・・あれほど出かけるなと言っただろ。今どこ 

にいる・・」

スジョンと暮らし始めて3年の間に、スジョンに対して、これほどいら

だった声を出したことがなかった。

イヌクは静かに目を閉じて言った。

「俺だ・・・」

ジェミンの声色が不安と怒りに満ちていった。

「おまえ・・・何をしている。何故スジョンの電話を・・・」

「今、何処だ」

「残念だったな・・もう帰ってきたよ。スジョンはどうした。」

語気を荒げてジェミンが聞いた。

イヌクは何も説明せずに、ソフィアのマンションに来るよう言った。

ジェミンから血の気が引き、不安で今にもわめきだしそうになるのを必死

でこらえるのがやっとだった。

昨夜から連絡がとれず、一晩中探し回っていた。

タクシーに飛び乗り、すぐさま教えられたマンションに向かった。



「俺だ」

ジェミンの声に、イヌクがドアを開けた。

「スジョンは何処だ。」

イヌクを睨み付けながら聞いた。

(無事でいてくれ・・)

祈るような気持ちだった。

イヌクは隣の部屋を目で教えた。

ジェミンは急いでその部屋に入ると、スジョンの変わり果てた、あまりの

姿に絶句した。

部屋の片隅で膝を抱えてうずくまるスジョンは、ブラウスが引きちぎられ、

胸もとがはだけ、唇や腕からも血のにじんだ痕がある。頬も赤く張れ、や

つれ果てていた。

なにが起きた・・・?たった三日間でこんなに変わり果てた姿を見ようと

は、ジェミンは夢にも思っていなかった。

一気に溢れる涙をぬぐいもせずに、スジョンのもとへ近づこうとした。

「スジョン・・・」

ジェミンが肩に手を触れた途端、スジョンは又狂ったように泣き叫び、

おびえ逃げまどっていた。

「ずっとこうだ」

イヌクが言った。

ジェミンは変わり果てたスジョンを、暫く呆然と見つめた。

「おまえ・・・俺のスジョンに・・何をした?」

ジェミンは泣きながらイヌクに聞いた。

イヌクはうなだれ、

「すまない。俺のせいだ」

と一言いった。

今すぐにでも殴りかかりたい気持ちを押さえて、ジェミンはスジョンを 

見つめた。

どれほど恐ろしい目に遭ったというんだ・・。

「スジョン・・・俺だ・・スジョン」

優しく声をかけてまた近づいた。

逃げまどうスジョンを、たまらずにジェミンは思い切って抱き寄せた。

「俺だ・・」

ジェミンの腕の中で、暴れ狂うスジョンを必死で抱きしめ、スジョンが

抵抗しジェミンをどれだけたたいても、ジェミンはスジョンにたたかれ

るがまま、それでも抱きしめた。

そして、暴れるスジョンの頬を両手で押さえ、無理矢理キスをした。

長く優しくキスをした。暫くもがいていたスジョンがやがてふっと

正気を取り戻したようにジェミンを見つめた。

「あなた・・・?」

「ああ・・・俺だよ」

ジェミンはスジョンが安心するように、優しく笑って答えた。

ジェミンを見つめる目が涙で溢れ、スジョンの指先がジェミンの顔を

ゆっくりなぞった。そして、安堵したかのようにフッと小さく息を吐き、

しがみつくようにジェミンの胸のなかで気を失った。  

「スジョン・・スジョン・・・もう心配するな・・・」

ジェミンは強く、強く抱きしめた。

葛藤8へ


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: