あい・らぶ・いんそん

葛藤8



イヌクは目の当たりに、スジョンとジェミンの愛の深さを知った。

狂ったように泣き叫ぶスジョンを抱き寄せ、スジョンを守ろうとす

るジェミンの愛が、スジョンを正気に戻したのか・・・。

スジョンへの愛・・ジェミンへの愛・・・この間には何者も入り込

めないことを、イヌクは寂しくも受け止めていた。ジェミンの一点

の迷いもない愛に、3年間の長い時間が折り込まれていることをイ

ヌクは感じた。

イヌクは空しさと淋しさと安堵と・・・自分の心が何処に向かって

いるのかがわからなくなっていた。

ただ、スジョンが正気に戻れたことが、唯一の救いだった。

ジェミンはその場に座ったまま、眠るスジョンを抱きかかえていた。

乱れた髪を優しくなで、唇の傷をそっと指でなぞり、ジェミンはス

ジョンを愛おしそうに抱きしめていた。スジョンはジェミンの上着に

しがみつくように、しっかり握りしめたまま眠っていた。もう離れま

いとするかのように・・・。

「俺が悪かった・・・おまえを一人にしたから・・恐かっただろうな

・・許してくれ」

ジェミンは、眠るスジョンに優しくささやいた。

そしてイヌクに言った。

「もう・・俺達を放っておいてくれないか」

イヌクは何も答えられなかった。

「こいつは今でも夢を見て、おまえに謝っている・・そんなスジョンに、

これ以上どうしろというんだ・・・おまえは何をしたと言うんだ・・。」

ジェミンは沸々とわき上がる怒りを抑えながら言った。

イヌクは黙って天を仰いだ。

すると、ジェミンは携帯を取り出し、ジュリに電話をした。

「悪いがショーンと迎えに来てくれないか・・スジョンが見つかった」

連絡がとれなくなったスジョンを、ジュリもショーンも一晩中探してく

れていたのだった。

それを聞いたイヌクが言った。

「今動かすのは可哀想だ。スジョンは一睡もしていない・・・。このま

ま少し落ち着くまで、寝かせてやってくれ」

ジェミンが静かに・・・しかし強い口調で言った。

「この部屋でか?スジョンが恐ろしい目にあったこの部屋で、休ませる

のか」

あらゆるものが散乱し、スジョンがどれほど恐ろしい目に遭ったのかが

ジェミンでさえわかるのだ。

やがてジェミンの携帯が鳴って、ジュリたちが迎えに来た事を知らせた。

ジェミンは自分の上着でスジョンを包み込もうとしたが、スジョンが上

着を握って放さなかった。

破れたブラウスのままでは車に乗せるまででも、不憫でならない。

その様子を見てイヌクが、落ちているスジョンの上着をかけようとする

とジェミンが言った。

「俺のスジョンにさわるな」

上着を受け取り、自分の手でスジョンを包み、抱き上げた。

「もう・・・俺達を忘れてくれ」

出口に向かって歩きながら、ジェミンは静かに言った。

イヌクはただ黙って二人を見送った。



迎えに来たジュリは驚いてスジョンの様子を見た。

ショーンはジェミンに大丈夫かと聞いた。

二人はスジョンを気遣い、アパートの部屋まで送ると帰っていった。



スジョンをベッドに寝かせると、まだジェミンの上着をしっかり握って

いた。仕方なくジェミンはスジョンの指をそっとはずしていくと、今度

はジェミンの指を握りしめた。

おまえに恐い思いをさせた・・・許してくれ。

ジェミンは流れる涙を止める事ができなかった・・スジョンが起きない

ように、声を殺して泣いた。



「やめて・・・助けて・・」

夜中にスジョンがうなされていた。

「スジョン・・・俺だ。もう心配するな・・・」

眠らずにスジョンを見守っていたジェミンが、優しく髪をなでながら言った。

スジョンはうっすら目を開け、目の前にいるジェミンを見つめた。

涙がとめどなく溢れ、ジェミンの顔がにじんで見えた。

「あなたなの?帰ってきてくれたの?」

スジョンはジェミンの顔を指でなぞった。

「あぁ・・王子はお姫様を助けに帰ってきた・・・もう、何も心配するな」

少しでもスジョンの心に負担をかけないように、わざと明るく言った。

「あなた・・・ジェミンさん・・」

スジョンは声を上げて泣いた。ジェミンの温かな胸の中で、思い切り泣い
た。

果てしなく苦しかったこの数日が、ジェミンの優しさに癒されていくのだった。

ジェミンはスジョンをしっかり抱きしめた。

「スジョン・・俺のスジョン・・・可愛い人・・もう心配するな」

そう言ってジェミンは優しくキスをした。

何もかも忘れさせるかのように・・。

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