あい・らぶ・いんそん

愛再び~別離1



スジョンが病室に戻ると、ジェミンが待っていた。

「どうした?」

「ええ・・入院中の注意を説明されたわ」

「そうか・・・」

「イヌクさんは?」

「会わなかったか?・・・今帰った。」

「そう・・」

「もう、俺達の前には現れないと言っていた。」

スジョンは涙が溢れそうになるのを、唇を噛んでこらえた。イヌクの事

を思えば胸が張り裂けそうに痛々しく、これでジェミンとの平穏な生活

を取り戻せるのだろうか・・・と思うと、心の奥にしまった傷が、うず

きだしてしまうのだった。

「どうした?」

深い傷を負いながら、スジョンを案ずるジェミンの優しい声に、スジョン

の涙はとうとう止めることができなかった。

「ここにおいで・・」

ジェミンはベッドのそばに呼んだ。

「痛くない?」

「ああ・・大丈夫だ。・・・おまえは大丈夫か・・」

スジョンはそっとジェミンの手を握った。

ジェミンは自由になる腕で、スジョンを抱きよせた。

「心配かけたな、もう大丈夫だ。」

ジェミンの胸にスジョンは頬を押し当て、静かに目を閉じた。

そして、やっと自分の巣箱に帰った小鳥のように、ジェミンの胸に顔を

埋めて泣いていた。

そして泣き疲れ、いつの間にかそのまま眠ってしまったのだった。

ジェミンはただ、スジョンが愛おしくてならなかった。

イヌクと再会してからと言うもの、スジョンの気が休まる日はなかった

だろう・・・そして、自分が生死の境を彷徨ったときに、スジョンを一

人残すことが心配でならなかった。

(生きておまえのもとに帰れたことが、俺は嬉しいよ)

すやすや寝息を立てて無邪気に眠るスジョンに、そっと話しかけていた。

やがて、ジェミンも疲れて眠りに落ちた。

大きな嵐が過ぎ去ったかのように、二人は穏やかに眠りに堕ちていった。



やがて3週間たとうかとすると

「もうそろそろ退院できますよ。」

傷の消毒を終えて、医師が言った。

「良かったわね・・。」

スジョンが言うと、ジェミンはベッドの背もたれに寄りかかり

「早く家に帰りたいな。」

と言った。

「やっぱり家が一番良いでしょ」

と、スジョンが言うと

「そうだ。うちに帰れば、おまえを好きなときに抱ける・・」

ジェミンはいたずらっぽく笑って答えた。

次第に薄れゆくイヌクの影が、スジョンは不思議なことに悲しくも思えた。

「イヌクさん・・・ほんとうにもう私たちの前には現れないのかしら?」

ジェミンは小さなため息を、ひとつついて言った。

「俺達に会っても、会わなくてもあいつは苦しいはずだ・・。」

「そうね・・」

「スジョン・・・俺達は、幸せにならなきゃいけない。あいつの分まで・・」

ジェミンは心からそう思っていた。

スジョンは、ジェミンの深い愛に守られて、この幸せに何処までも流

されたいと願った。

平々凡々で良い・・・穏やかに時が過ぎて、二人が仲良く今まで通りに

暮らせるのなら、一生イヌクとのことを話さずにおこうと、スジョンは

決心した。

しかし、そう決心したそばからイヌクの悲しげな瞳が、スジョンの脳裏を

かすめていくのだった。

心の奥に小さな棘を刺したまま、スジョンは生きていかなければならない

と覚悟を決めた。

イヌクの愛を受け入れることも拒むこともできない、揺れ動くスジョン

の心があった。

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