天使の羽根

天使の羽根

PM?新鮮組?土×沖 ★


今はもう外はとうに暗い。部屋には堤燈の灯りがぼんやりとついているだけだ。
その灯りに照らされ、布団で白い肢体を露わにしている沖田総司は横で立って着衣をしている土方歳三を苦笑しつつ見上げた。
「クス、どうしたんですか?貴方からそんな誘いをするなんて。」
「いつもお前が俺の部屋に来すぎなんだ。」
「そんな事ないですよぉ~。」
ムッと膨れつつ総司が言った。そう。今いる部屋は総司の部屋だ。そしていつも
総司は昼間、土方に用があろうがなかろうがお構いなしで土方の部屋に尋ねて
行っては仕事の邪魔をしているのだった。最も、総司にとっては邪魔をしている
なんて毛頭考えてもないのだが・・・。土方もまた総司が何もしに来ない日は
返って何かあったんじゃないかと、心配で屯舎中を捜す位だ。
 土方が着物の紐を結び終えると、足元でうつ伏せ寝になっていた総司に屈み
ながら髪に触れ、そしてその唇に軽く自分のを重ね、
「じゃあ良いな、明日昼。来いよ。」
と言って部屋を静かに出て行った。総司は一人ムーっとしつつも床に就いた。

「今日私非番なのに、呼び出したりして一体何の用だって言うんでしょう...」
まだ皆昼休憩の静かな時間だったが、整った端正な顔立ちを少し崩しながら総司は、一人愚痴ながら廊下を静かに歩いていた。一つの部屋の前で立ち止まり声を
掛ける。
「土方さぁん。入りますよぉ。」
カラッと静かに襖を開けるとそこには部屋の主はおらず、文机と座布団しか置いてなかった。総司は一応中に入ってもう一度
「土方さーん?居ないんですか?」
しーん、と部屋の中は静まり返っていた。総司は深く息を吐きつつ部屋を後に
した。

「まぁったく!人を呼び付けておきながら居ないなんて、何処に行ったんか!!」
膨れっ面をしながらも静かに廊下を歩きながら、問題の土方歳三を探していた。
しかし総司は膨れながらも何故か不安があった。
(何だろう......。何か嫌な予感がする...)
庭先まで出ると、前から藤堂平助が歩いてきた。
「あれ?総司。何やってんだ」
「藤堂さん?何ってどうかしましたか?」
「どうしたって...。さっきあっちで副長がお前の事探してたぞ?」
平助が言うと、総司は言い終えるより早く言葉を発していた。
「何ですって!!?何処に居ましたか?!」平助は驚きつつも指をその方角に
さした。総司は見るが早くそちらに走り出していた。平助は呆然とその姿を
見送った。
「総司のやつどうしたんだ?あんなに怒ってるなんて...?」

総司は走ってこそいないものの、随分と急ぎ足で敷地内を探した。ふと足を止めハッとした。
(私ったら!よく考えれば解る事じゃないか!っーー!!土方さんっ!)
総司は土方は決して約束を破らないという事を今思い出したのだ。そう、土方は
昨晩自室に来る用に言った。土方は約束の時間が果たせなそうなら、日を改めたり時間を変えるなりするはずだ。それが今日は朝から一度も姿を見ていない。しかし隊に何らかの動きがあれば、一番隊隊長の沖田に何も連絡が来ないはずがない。
とゆう事は土方自身に何があったと考えるのが自然だった。
(土方さん...貴方は私に何も話してくれないんですね.....。いつもそうだ。私は貴方の事を心配して、いつも気にして、片時も貴方の事を忘れる時なんて、初めて身体を重ねてから一度もないのに....。でも貴方は...貴方は....。)
「ーーっく、ふっ...」
総司は探しながら思考していたつもりが、いつの間にか門の横で立ち止まって
いた。そして何故か自分が泣いている事に気付きその場で座り込んだ。袖を顔に
当て涙を拭いながら、制御の効かなくなった涙を流し続けた。
「総司?...どうしたんだ?」
総司の後ろから聞き慣れた声がした。顔を上げ後ろを振り返った。
「ひじ...かた...さん?」
「総司?何で泣いてるんだ?!誰かに何か言われたのか?!」
総司は呆然と声を発し、土方にそう言われて涙を流したままだった事にハッとして袖で急いで涙を拭き、いつもの笑顔を土方に向けた。
「な、なんでもないですよ~。それより私を呼び出しておいて居ないなんて、何処行ってたんですか!」
「ああ...ちょっと、な。.....。」
視線を逸らしつつ言う土方を見て、ズキッとどこかがなった音を、総司は自分の
中で聞こえぬフリをしていた。
「どうしたんですか?土方さん?」
土方は無言で暫く総司を見つめていた。すると突然腕を引っ張られそのまま抱き
締められた。総司は抵抗しようとしたが、土方が抱き締めている両腕が僅かに震えているのに気付き抵抗を諦め、自らも土方の背に細い両手を回した。暫くそうした後、総司は右手を土方の刀に伸ばしゆっくりとそれを抜いた。そしてゆっくり離れ土方に問う。
「...やっぱり、私の嫌な予感当たってましたね。土方さん.....人を、斬ってきたんですね...。」
「......あぁ」
土方は静かに答えた。そして総司を見つめ言った。
「で、お前は何故泣いていたんだ?」
「......答える必要は..」
「ある。」
総司の問いに答えた土方は総司に問い返し、総司は顔を背け答えまいとしたが、
土方はそれを許さなかった。総司はその言葉に反応し、睨むように瞳に涙を溜め
声を荒げた。
「貴方にっ!貴方に私の何が解るんですか!?貴方はいつだって私に何も話して
くれないのに、貴方は私の事を聞いて...!私はいつだって土方さんをっ!!
っちばんに......。」
総司は全てを言葉に出来ずに袖で顔を覆った。土方が声を掛けようとすると、門の外からザワザワと声が聞こえた。泣いている総司を見て髪をかきあげて、肩を抱き言った。
「取りあえず部屋に行くぞ。他の奴らが来ると色々面倒だ。」

二人は土方の部屋に居た。土方は座って総司を見ていた。総司は障子の前に俯いて立ったまま、土方の顔を見ようとしなかった。はぁーっと深い溜息を付いて土方は総司に近寄った。
「...お前は、オレに何を言って何をして欲しいんだ?」
「.....もう良いんです...ゴメンナサイ。」
「おいっ!?総司!」
総司は障子を開け出て行こうとした。土方はその腕を掴み中に引き戻しながら障子を閉めた。


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