青い鳥劇団

青い鳥劇団

元祖『High and High』


私はかなりの不器用だった。
ただ待つことが得意だった。
―そのうち、待ちながら空を見上げることが好きになった。
青い空は全ての感情を飲み込んでくれた…







「なんだ…また空を見てたのか?」
「…うん」


声を掛けてきたレイは、私の隣に座る。
しばらく一緒に空を見上げていたけれど、レイはつまらなさそうに寝そべった。


「空なんか見て、何が楽しいんだ?」
「んー…面白いよ。雲とか形が変わるから」
「よく分からないな」


軽く笑った私も同じように寝そべる。


ゆっくりと時は流れた。
ときどき緩やかな風も吹く。
それがまた、心地良い。


しばらくの沈黙。
私は独り言のように呟いた。


「…遠いね」
「?」


レイの頭から疑問符が出る。


「空は遠いね」


ゆっくりレイは頷いた。


「あぁ、遠いな」
「レイはアレより遠くに行く」
「…あぁ」


私はレイの顔を見て続ける。


「帰ってこれるかな?」


私の最大の不安。
レイは近々宇宙へ行ってしまう。
滅多に出さない私の不安。
それでもレイは言った。


「帰ってくるさ」


それでも私は不安。


「迷子にならない?」
「お前じゃないんだから…そんなことはないよ」
「そっか」


私とレイは思わず吹き出して笑ってしまった。
自然と私とレイの視線が交わる。


「…待つよ」
「………」


レイは静かに聞く。


「毎日空を見て待つ。空はずっと見てるから…宇宙から帰ってきたら、スグ分かるから」
「そいつは頼もしい」
「…それにね」


手を空へと伸ばした。
指の隙間から太陽の光が零れて、かおに影が出来る。


「空は絶望を希望に変えてくれた」
「なんだ、そりゃ…」


又もレイの頭から疑問符が出る。


「『レイは帰ってこないかも』って思うときがある。
 でも空は気付かないうちに『レイは帰ってくる』って思えるようにしてくれた」
「………」
「ね、空は凄いでしょ」
「あぁ、凄いな」


軽く微笑んでレイは、私の頭を撫でると、立ち上がり何処かへと行ってしまった。
私はただ空を見上げる。



急速に動き出した雲。風が酷く吹き付けた。

―時も早く動き出した…





どれくらい経った?
私は紅く染まった空を見つめる。
そのとき、私を呼ぶ声がした。
…ミコトさんだ。


「いつまでもそんなところにいると、風邪ひくわよ」


そう言って私を立ち上がらせて、強制的に室内へと戻される。
レイは笑いかけてくれた。



ミコトさんはレイの恋人。
私はレイの5歳も年下の従妹でしかない。


それでも私は、レイが好き…―








月の見える丘で









空はあの日、私に意地悪をした。
レイはあの日、私に嘘を吐いた。
レイは帰ってこなかった。
空は私の悲しみ飲み込んでくれなかった。
私の目に映るのは、
ただ皮肉なほどに晴れ渡った空でしかなかった―…







~アトガキ~
藤野さまのサイトに載せて頂いた『High and High』の元と成ったお話。
宇宙飛行士ってところは一緒だけど、恋人がいて、ヒロインは黙ってレイの幸せを祈るって感じ。
でもやっぱり最後はバットエンド(泣)




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