In limited space and time

1.返却BOXのビデオテープ


全ては、その1本のビデオテープから始まった。
覚えている。結構、雨の多い日だった。

「あ?何だこれ」
「ん??どうしたんだ?」
「あ、店長。見て下さいよ・これ。何でしょ?」
「えー。ずっとあったから、健司のかと思ってた」
私は、それがあることに気付いていた。
「何で俺がこんなとこに置くんだよ。お前こそ違うのか?」
「亜依のじゃないよ。店長は?」
「いや、私も知らないな」
それは、返却BOXから取りだしたビデオの中に混ざっていた。
店の袋には入っていたが、テープは普通の市販のものだった。
「誰か間違って入れたんじゃないすか?」
「そうかもな。一応、他の皆にも聞いてみるけど」

しばらくして、残りの2人の店員もやって来た。
「ちぃーっす」「おはようございまーす」
「龍平くん、沙弥佳くん、おはよう。出て来たばかりで何だが…」
「何すか?」
「ねぇ、このビデオ、2人は見覚えある?」
袋の中から取りだして、私は2人にビデオを見せた。
「いや…何だこれ?さぁの?」
「ううん、私のじゃない」
結局、店長を含め、私達・従業員の中に、このビデオについて知る者はいなかった。
その時、沙弥佳が言った。
「ねぇ…このビデオ、再生してみない?」
「…」
誰も、進んで見たいとは思わなかった。

本当にビデオについて知りたいのなら、沙弥佳の言う通りにするしかなかった。
だけど、その行為に、どこか気味の悪さを覚えていた。
「もー、どうしようもないじゃん。店長、デッキ使いますよ」
「あ、ああ。じゃあ、奥の部屋で見ようか」
どうも乗り気はしなかったが、私も皆と一緒に部屋へ入った。

健司と龍平が、テレビからイスから、色々用意した。
楽しそうに、沙弥佳はリモコンの再生ボタンを押した。
ザーッ…
しばらく、画面は砂嵐の状態だった。耳を劈くノイズが響く。
「さぁ…もういいんじゃね?」
龍平は、3分程続いた白黒の画面に飽きたようだった。
「えー…ほら、あと2分ちょい残ってるじゃん。もうちょっと見ようよ」
「アホくさー。先に仕事戻るわ」
「健ちゃーん。皆見ないのー?」
ちょっとふてくされてきた沙弥佳をよそに、健司が部屋を出ようとした。その時。
鈍い音を立てて、画面に映像が映った。
見たことのない場所だった。時代も全く違う気がする。集落のような村が映っている。
店長は、江戸時代かな?と、そちらの方に興味があるようだった。
おかしい。私は瞬間、そう思った。
何でこの時代に(江戸時代と決まった訳でもないが)ビデオがあるのか。
もし特撮だとしても、こんなセットを何のために作るのか。

ビデオは後、2分程残っている。
何故か、これ以上見てはいけないと思い、停止ボタンを押そうとしたその時。
画面の一番奥の家から、人が出てきた。人と断定できるかどうかは分からないが。
おそらく女性と思われるそれは、ただ立ってこちらを見つめているだけだった。
その間、およそ11秒ほど。
その後は、最初と同じように、砂嵐だけが流れていた。
誰も、口を開こうとはしなかった。


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