In limited space and time

5.来訪者


連絡は、その日の夜にあった。私は、健司と店にいた。
「亜依ぃ…」
沙弥佳が事の詳細を話す。
「駅を降りて、そこから気晴らしに歩いて帰ったの。そしたら途中で…」
私は不意にピンと来た。この前、なにか気になった場所。
「電話BOXの…とこ?」
「え…何で分かるの?」
「なんとなく…あ・続けて」
「でね、そこを通ろうとしたら、電話BOXの前に真っ白な服を着た髪の長ーい人が立ってたの。
一目でなんかおかしいと思ったの。
でもね、さぁの前を歩いてるオジサンは、そこに誰もいないように普通に通り過ぎていくの。
すごい睨んでるんだよ。それでも気付かないの。
もぅ、さぁ怖くて怖くて…下向いてダッシュだよ。逃げちゃった。
しばらくして振り返ってみたけど、もういなかったんだー」
「さぁ、今どこにいる?!」
急に不安を感じた。
その沙弥佳が見たという人の特徴がビデオの女と酷似していたからだ。
「今?コンビニにいるよー。コーヒーきれちゃったぁ」
ダメだ。何故か、そう思った。
「何やってんの!!家にいないとダメじゃん!」
「うえぇ…亜依怖いよぅ。ははは」
「笑ってる場合じゃないしょ!!」
その場は、なんとなく話し、電話を切った。

…が、すぐにまた電話があった。10分も経っていない。
「亜依、亜依の言った通りだ。笑ってる場合じゃないかも」
「なしたの?大丈夫?!」
沙弥佳は話し始めた。
コンビニからの帰り、私に話したことで昼の出来事を思い出したらしかった。
なんとなく嫌な気がして、急いで帰ったようだ。
逃げるようにアパートの階段を昇っていると
カンッ…カンッ…
何かが追い掛けてくるような感じがした。
カンッ…カンッ、カンッ
それは感じではなく、確信に変わってきた。
何かが、確実に後ろに来ている。
カンッ、カンッ、カンッ。
もうこれ以上はまずい。そう思って急いで部屋へと入った。
…ということだった。さっき沙弥佳が言っていた着物の女と関係あるのだろうか。
ルルルルル…
「ん?さぁ、電話?」
「ごめん、ちょっと待ってね」
沙弥佳が電話にでる。しかし、それは無言電話のようだった。
「はは…このタイミングで無言電話って、ちょっときついかなー」
沙弥佳は、渇いた笑いを浮かべた。その時。
ルルルルル…
まただ。また電話が掛かってきた。
「さぁ?」
「またー。ウザいこれ…」
ルルルルル…
「ちょっと、さぁ?さすがにおかしくない?」
焦った。いくらなんでも変だった。
ルルルルル…
「さぁ、どこから掛かってるか分かんないの?」
「…」
「さぁ?」
「公衆…電話だ…」
まさか。沙弥佳が昼に見た場所も電話BOXだったが…

ピンポーン…
「あ、誰か来た」
「ダメ!さぁ、玄関行っちゃダメ!!」
咄嗟に言った。絶対に出たらダメだと思った。
「お隣さんかも。電話の鳴りすぎで気になったんじゃないかな??」
「ダメだって!」
沙弥佳はドアの覗き穴から、外の様子を見てみた。
そこに立っていたのは、お隣さんなどではなかった。
沙弥佳の家の前に立っていた人は白い着物を着ていた。
髪がお腹の辺りまで垂れ下がっていて、顔は見えない。
「あ…あ…」
「さぁ?大丈夫?さぁ!?」
「昼間の女の人が…」
ピンポーン…
チャイムは鳴る。
「さぁ、絶対開けちゃダメだょ!!」
ピンポーン…ピンポーン…
止まった。
…が。
ドンドンドン!
ドン!ドンドンドンドン!!
家の前に立つ人が、ドアを力一杯叩いているようだ。
…いや、それは人じゃないのかも知れない。
「亜依ぃ…怖いよ…助けて」
「分かった。すぐに行く!それまで開けちゃダメだよ!!」
「うん…」
沙弥佳は返事をするだけで精一杯だった。


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