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壇 白学のところに一人の少年が訪れる。
「おじさん、今日も怖い話をしてー」
白学は微笑を遠い目をする。
「それじゃあこの話はどうだろうか……」
――引きこもりになって2年。僕はこの2年間、部屋から出る事はなかった。
パソコンを前にずっと姿の見えない相手にゲームで協力プレイをしたり、一般人の実況放送を聞いたりする日々。
いつも決まって朝の8時、昼の12時、夕方18時に母の作った料理が部屋の前に置かれる。スリッパを履いた足が階段上ってくると、自然に時間が分かる。料理を引き寄せるときと返す時だけ、僕は部屋のドアノブに触れるのである。
パソコンの中で、仲の良い人物と連絡をやりとりするのが一日の楽しみだった。相手はテツというハンドルネームでメールを送ってくる。彼もまた、僕と同じ引きこもりだった。
大した話はしない。ゲームの話をしたり、オススメのアニメやマンガ、ドラマや映画の話をするだけだ。
ある日、テツが僕と電話をしたいと言った。僕は了承して会話をする。どちらも引きこもりではないかのように明るく打ち解けた。
数日後、いつものようにスリッパを履いた足が階段を上る音がする。夕方18時。何も言わずに御盆に乗せた料理が置かれる。母が階段を下りていった後、僕はいつものようにその料理を引き寄せる。
その間にメールが来ていた。テツとはテレビ電話を通じて会話するようになっていた。僕は飯を食しながら、彼の顔をみて会話をした。
楽しく会話をしていると、テツは急に話すのを止め一点に視線を止めたようだった。
「どうしたの?」
テツは眉間に皺を寄せた。
「なあ、後ろのドアが勝手に開いたぞ?」
僕は後ろを振り向く。……本当だ。完全に閉め忘れてしまったか。
「ごめん、ちょっと待ってて」
そういって扉を閉めようとした時、廊下に警察官が2人立っていた。
「君、ここの子供か? 一体何をしているんだ?」
僕は何を言っているのか分からず、警察が目の前にいることですら信じられない光景だった。
「とりあえず家から出ようか」
そう言って腕を引っ張られる。僕は抵抗したけれど、彼らの力は強く体が勝手に警察官の歩幅に合わせる。僕は部屋のパソコンを横目に連れて行かれる。最後にパソコンに写っていたテツが、呆然とこちらに目を向けているのが脳裏に焼きついた。
家を出ると野次馬が集まっていた。
「何ですか?」
一人の刑事のような人物が近付く。
「何ですか、じゃあないだろう! お前の母親と父親の死体が放置されていたんだ! 近所の人の通報によって発見されたが、既に腐敗して肉片も契られていた。もう何ヶ月も放置されていたのだろう。お前が殺したんだろう!」
僕は黙って首を横に振るしかなかった。そんなはずない……。
だって……だって……じゃあ、僕が食べていたものは何だったの?
「刑事、彼の部屋の食器から遺体の肉片だと思われるものが……」
僕の胃の中から酸っぱいもの込み上げてくる。
どうゆことだ! どうゆうことだ! どうゆうことだ……
――彼に一体何があったのだろうか。テツは無人になった部屋の映像から自分の部屋に視線を移した。ん? ドアが開いている。ああ、閉め忘れかな。そうやってドアを閉めようとした時、異臭が鼻を強く突き刺す。テツが久しぶりに下の階へと向かうと……。
――「そうゆうわけでね、家族にはちゃんと顔を見せてあげなさいよ」
白学が笑顔でそう言うと、少年は笑顔で頷く。
「さあ、お帰り。陽が落ちると怖い怖い化け物が目を覚ますからね」
「は~い」
少年が手を振って帰るのを見届けると、白学は自分の事務所の椅子に腰を落ち着かせる。本日の白学の仕事は終わりを迎えるのである。
我は猛虎 【ジャンル:友情】 2021.10.17