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2.魔のクッキー
≪ララ≫↓
ふんふふんふ~ん♪
可愛らしいがまったく聞いたことが無い明るい鼻歌が、妙に静まり返った教室内にいやに響く。ちらちらとブラックリスト達を遠目に眺めていた周りの生徒達は、そんな緊迫した空気の中、ごくりと喉をならした。
彼、彼女達の視線の中心、ブラックリスト六人組も、明らかに様子がおかしい。茜は据わった目で意味も無く視線を彷徨せていて、総司はそんな茜をバカにしながらも、口元の笑みは、いつもの憎たらしさが足らない。浩也ものほほんとお茶をすすっているが、手元がかすかに震え、鈴菜は相変わらずパソコンに顔を向けていたが、ただある一点を見つめているだけで、いつもはものすごい速さで動いているはずの手もキーボードに置かれたまま動いておらず、まったく進んでいるようには見えない。優雅は無理にへら~と笑顔を作り、少し霞んだ声で椿に『ご機嫌だね~』と話し掛けていた。
そんな中椿は、『みんなにクッキー食べてもらえるからね!』と極上の天使の笑顔で優雅に返事を返しながら、ごそごぞと自分の手提げかばんを探っていた。もちろん、椿特製☆ 手作りクッキーを取り出す為だ。
ふいにかばんに突っ込んでいた椿の手がピタリと止まる。そして嬉しそうに顔をほころばせながら手を引いた。その手には、ピンクのリボンでかわいくラッピングされたお菓子入れが、しっかりと握られている。そして、さぁ、みんなで食べよう! っと今にも口を開きかけたその時、ガタンッと切羽詰った顔で茜が突然立ち上がった。
「あ、ああああたし、金魚ちゃんのお墓作りにいかなくちゃあ! おおおっ! かわいそうに! 我がクラスのかわいい五匹の金魚ちゃん! 密かに私的愛称もつけていたというのにっ! ほらっ、このいぼちんが付いているのは『もっこり』、いつも糞を引きずって泳いでいるこの子は『ちらふん』ってねー……さぁさぁ、いこうね~もっこり&ちらふんちゃんとその他もろもろの三匹ちゃんっ、うりゃぁああ!! よしっ! OK! んじゃっ!!」
茜は、席を立つとダッシュで水槽まで走り、濁った水面にぷかぷか浮いている赤い金魚を大声で名指ししてから、えいやっとばかり水槽を掲げ持つ。恐ろしいほどの力だ、普段湯飲みや教科書から始まり、机やイスまで放り投げているので、いつのまにか力が付いてしまったみたいだ。それか、怒り爆発中の時や緊急事態の時だけ発生する力かも知れないが。ようするに、世間言う“バカ力”というものだろう。そして、んじゃっ! と叫びながら、がにまたで、しかしものすごい速さで教室から出て行った。
「茜ちゃん……まだクッキー食べてないのに………」
悲しそうに打ちひしがれながらクッキーを机の上に置く椿。
「それよりも突っ込むべき所はあの金魚達の名前でしょう。いくら即席だからって、あれはヒドイ……成仏できなくなるよ」
そこにすぐさま、鈴菜がみんなが思ったであろう突っ込みを入れる。こちらは不機嫌そうに眉をひそめ、パソコンを閉じる。よっぽど気に食わなかったらしい。総司はアホだ、とか言いながらもニヤニヤ笑っいた。ジローは、いかがわしい名前を聞いた途端ぶっと吹き出してしまったお茶を慌てて拭いていた。優雅は茜の思わぬ写真を撮れて、少し満足げだ。がにまたの、水槽を抱えた姿何てあまり売れそうにないが、持っていたら自分が笑えるのでよし。ふふふっと、大事そうに抱えていたカメラをまた首に戻す。
そんな間に、鈴菜はてきぱきと素早く身の回りの片付けをし、パソコン片手にすたっと立ち上がった。
「椿、ゴメンだけどこれから生徒会の仕事があるの、もう時間ないんだ。でもクッキーは食べたいから、一枚だけくれる? 向こうで時間が空いたら食べるから、ほんとうにゴメンね?」
「そうなの? わかった~ちょっと待ってね……」
椿は、慌ててお菓子入れを包んでいたピンクの布にクッキーを一枚入れ、それを丁重に包み、
「はいっ」
隣に移動してきた鈴菜に手渡しした。
「ありがと、それじゃぁ、行って来るわ」
「がんばってね~」
クッキーを右手で受け取る鈴菜。そしてのほほんと手を振る椿と、複雑な顔をしている男三人に、後ろ向きでひらひらと手を振りながらスタスタと歩き、ドアを開けて出て行った。正確に言うと逃げ出した。
鈴菜を見送った後、椿は掌を上に突き出す。
「さっさ、総ちゃん、優ちゃん、ジローちゃん、食べて食べて~!」
「い……いただきます………」
一番にクーキーをつかんだのは総司だ。椿に甘い総司。もちろん断る何て至極可哀想なこと出来やしない。しかしその横で優雅は『お腹一杯だから部活中のおやつにするよ』とか、ほざけた事を言っている。ジローは困った顔をしたまま固まっていた。どうも言い出せないらしい。
総司はごくっと唾を飲んだ。掴んだ指先の中には、こんがり狐色に染まった見目おいしそうなクッキー。甘くて香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
(二十回に一回の確率の中、大当たりして美味しいのかもしれないし……)
そう、美味しいのかもしれないのだ。茜が食べた弁当はハズレだった。その分少しは確率が上がっている事だろう。本当にほんの少しだが。だが、それにかけるしか今は希望が見えない。ほんの少しの希望だが。
「た……食べるぞ………」
「うん、感想教えてねぇ~」
「ああ……」
パクッ。
サクッサクッ。
「………」
一口かじり、また二口かじる。半分を口の中に入れ終わり、ゆっくりと噛み出す。サクサクッとした軽い歯ごたえと一緒に、口内に広がる香ばしいプレーンクッキーの味。ほのかに香る、バターの匂いがなんともおいしい。
………大当たり!?
やった! 二十回のうちたった一回の確率に見事当たったのか!?
やったっ! と嬉しさに顔がほころび、半分残ったクッキーも全て口にぽいっと入れる。
「ぅ……あぁ……!?」
と、その時、異変が現れた。
異様な味が突如として現れ、バター味をもみ消して口内にものすごい速さで広がっていく。その瞬間にぐっと押し寄せてくる胸やけと異物を吐き出そうとする意志に逆らい、口を手で蔽い無理やり押し込み涙目になった。
「ぐ……」
不味い。
ものすごく不味い。口の中の異様物は、さらにぶつぶつと泡立ち、弾けた。なんでクッキーが泡立つんだっ!? 何て考えていえる暇も無く、自分の口からうっすら立ち上る紫色の煙が視界に入り、あまりのことに気が遠くなる。
ぐらりと視界が揺らいだ。ダメだ、気絶何てかっこ悪いことだけは避けなくては……! 何より姫に悪い。姫の為、姫の為、姫の為―!
ぐああああああぁぁぁぁあああ!!
ごっくん。
「……………………ああ……」
意識が離れかけて朦朧とする頭でこめかみをさする。額に浮かんだ汗を拭った。
食った、食ったぞ。とうとうやった。今ならエベレスト山脈を達成する事さえ、軽々出来そうだ。
チラリと浩也を盗み見る。こちらは猛烈な勢いでお茶を飲んでいた。温かいお茶の湯気と得体の知れない紫の煙がもあもあと渦巻き、立ちのぼってゆく。総司が食べた直ぐ後に浩也も食べたらしい。という事は、二人してうーうー苦しんでいた事になる。不味くても隠し通そうと思っていたが、だいぶ無理がありそうだ。
チラリと見ると案の定椿は、がっくりと肩を落としていた。
「…やっぱり、マズかった……?」
「う……! お、おいしかったぞ! なぁっ! ジロー!」
うるうる目で見つめてくる椿に総司は勝てない。それに本当の事を言ってしまったら後が何とも恐ろしすぎる。慌ててジローにも同意を求めた。
「そ…そうですねっ、とっても感動的な天使の味のお菓子でしたよ」
浩也は天使を見る所まで行っていたらしい。
ザクッ。
ザクッ。
乾いた音が、連続的に鳴り響く。
校舎の裏側、イチョウの木のが並んでいて普段はまったく人気が無い場所に茜は一人座り込んでいた。隣には水が無くなった水槽が置いてある。
右手にどこから持ってきたのやらオレンジ色の錆びたスコップを握り、ひたすらザクザクと木の根元を掘っていく。
五分程熱心に土を掘り返した後ついにスコップを置き、ふーと息をはいて伸びをした。
「こんだけ大きく掘ったんだから、猫に食べられたりしないよね……」
足元には直径約十六センチ、深さ二十センチ単位のかなり深く暗い穴が口を開けていた。その中に手を突っ込んで深さが十分にあることを確認してから、先ほど水槽から取り出し、ティッシュで包んでおいた五匹の事切れたかわいそうな赤い金魚をそっと掴み、穴の中に寝かす。
「おっと…お花お花……」
さっとポケットに突っ込んでいた、黄色で花びらの先だけ白い可愛いお花を取り出す。ここに来る前、園芸部のプランターから、三個だけもぎ取って来ていた物だ。確かプレートが刺さってあって、“春菊の花”と書いてあった。春菊なら食べられそうなので今度少し摘ませてもらおう。その真上の看板に“園芸部菜園無断持ち帰り禁止!”と赤文字ででかでかと書いてあったが、見なかったふり。
そっと金魚の上にお花を重ねて置く。そのまま、脇に避けていた土を手で入れて穴をふさいだ。
最後に少し盛り上がったその場所を、ぽんぽんっと固め、お墓のできあがり。さっそくぱんぱんっと二回手を叩き、おでこに持っていって目を閉じた。
(ああ…もっこり・ちらふん・あと…えー……やっぱ名前が無いのはかわいそうだよねー、んじゃ、この尾ひれがぴらぴらで可愛いのが“フリフリ”、何故か上下に浮かんでは沈む動作をしていたのが“アップダウン”、出目金以上に目が飛び出していてちょっと目つきが悪いのが、“ビンビン”で……)
即席、その場限りのはずだった汚名としか思えない名前はいつのまにか当然のようになっていた。ていうか、自分が思いっきり侮辱している事にまったく気づいていない。何とかその不幸な運命から逃れえていた残りの三匹にも、わざわざ名前を付けてやる茜。善意と思ってやっているのが何とも悲しい。
もくもくと茜のもくとうは続く。
(たとえ死んだ理由が椿の作ったお弁当だとしても、きっかけを作ったのは私。おお!何とかわいそうにっ! 朝露の如し儚き運命を持ちし、五匹の赤い聖霊達よ……その悲しき運命の地球に生きる全ての生物は、嘆き、悲しみ、やがて生まれてくるそのまるで朝日のように光り輝き、月のように美しくも内面的な傷を持った清き新しい魂の命に自愛の眼差しを持ち、まるで真冬の新聞配達の時に、ガラス越しに眺め見る焼き立てのパンのごとく、温かく見守って包んでくれる事間違いなし……)
自分でも、もう何言っているのか自覚無し。でもほんと、真冬の温かいパンは見ているだけで最高。ついつい手がいっちゃう、悲しきすべだ。
いったん、パンに奪われかけた思考を慌てて戻す茜。出てもいないよだれを、気分的に拭う仕草をしてからまた手を合わす。
(なので慈悲深いあたしは、お墓を作ってあげることにしました。ここまでした私を恨んだりしないでね……)
ちょっと気になる所。呪われでもしたら最悪だ。
(おとなしく……いや違う、安らかに成仏して下さい……茜は貴方達の分も、しぶとく生きていきます……だから呪うなら椿を………)
茜が人間としてものすごく汚い部分をさらけ出した瞬間、
「茜ちゃん」
突然ぽんっと肩に手が置かれ、聞き覚えのある、正に今思っていた人物の声が耳に届く。
「ぎぃややああああああああああああ! つつつ椿!?」
「え!? 何!? そんなビックリしなくても! 茜ちゃんヒドイー!」
茜が、どくどく爆発している心臓を何とか抑え、後ろを振り向くと、首を傾け不思議がっている椿と不機嫌そうに腕を組んで木にもたれかかっている総司がいた。
「ななな何でもない! 気にしないで!」
「ふーん……? まぁいいか…お墓もう作れたんだねー」
「そそそそうなんだーいや~以外と時間かかったよ、あははははー! それでどうしてここに? ってか、よくこの場所わかったねーははははは」
どう見ても挙動不審。怪しすぎる。だが、椿はあえてにっこりと笑って追求してこなかった。総司も眉をひそめるが、その件に関しては別に口を開くつもりはないらしい。
「場所探しは簡単だったよ~総ちゃんが道行く人に聞いてくれたから~」
詳しくは脅しで。
総司がもたれていた体を離し、一歩前に出て椿の隣に出る。顔は茜を見る時によく出すにやにや笑い。何かを思いっきり楽しんでいる時の顔だ。茜は嫌な予感に背中に冷や汗をかく。
「お前にちゃんとクッキーを運んできてやったんだよ、先に食っちまって悪いからな」
訂正、正しくは、俺が食ったのにお前だけ食わずに逃げる何て事許すかよ、ぜってー食わせてやる。
「うう……!」
真っ青な顔で一歩下がる茜。あまりの恐怖に腰がくだける寸前。
「ほら、食えよ」
椿の手から包みにくるまれたクッキーを取り出し、茜に歩みよる。茜は一歩下がりぶんぶんと首を振った。
「むむむむむむむ無理ぃ! 今日は一回もう食べて気絶済みなんだよっ! 二回目何てどんな災難な事になると思って……ふがあぁぁあ!!」
総司はがしっと頭を抑えると、無理やりクッキーを茜の口にねじり込む。
これはイジメですか?
そう思ったとたん茜の体はばたりと地面に落ちた。椿が心配そうな顔をして茜を覗く。
「何故か茜ちゃんの時の反応が一番ヒドイよね……」
力なく横たわった茜の耳からは、沸騰中のヤカンみたいに、しゅんしゅんと煙を吐いていた。気のせいか、鼻の穴からもうっすら立ち上っている。やっぱり紫色。
総司もほうっと驚きながら茜を覗き込む。
「姫、どうする? そうそう起きなさそうだぞ、このままほっとくか?」
「それはかわいそうだよー…せめて……」
椿はきょろきょろと周囲を見渡すと、あっと何かを見つけて、ててててっと駈けていく。しゃがんで戻ってきた椿の手には、どこにあったのか白いマーガレットが揺れていた。
「よかった! かわいいお花があって…」
椿はそっとあお向けに倒れている茜の上にマーガレットを置く。
「これでオッケーだねぇ!」
嬉しそうに、ニッコ~と笑い、総司を見た。総司はあまりの可愛さにへらっと顔を崩し、よしよしと椿の頭をなでる。
「いいぞ。金魚の墓と並んで小さい墓場だな、さすが姫だ!」
総司は嬉しそうに両の掌を水平に突き出し、出来上がった墓場を見渡す。そして何か閃いた顔をすると、クッキーを包んでいたハンカチを茜の顔の上にかぶせ、手を胸の上で握らせた。その上に白いマーガレットを恭しく置き、総司はいかにも悲しそうに額に左手を置き、左右に振ってみる。
茜は相変わらず耳から紫の煙を出し、ぴくりとも動かない。
北花高校 校舎内設置巨大時計塔時刻 PM:五時十五分。
日がだいぶ落ちてきて、空がオレンジ色に染まっている。部活で残っていた生徒達も帰りの準備をはじめ出し、もうすぐ学校の一日が終わろうとしている中、写真部兼アイドル同好会では、二人の男がまだうるさく騒いでいた。
「先輩、先輩、優雅先輩ッ! 見てくださいよ! このゆかちゃん。最高ですよっ! 萌えっすよ、萌え!!」
優雅の一つ下、後輩の良太が興奮しながら優雅に雑誌を見せる。
「何……! どれどれ? うわッ……萌えぇぇぇー!! すっごい、いいじゃんっ! おおっ、こっちのまりもっちも最高だね」
「でっしょー! 『激!モエ』の続刊『超!モエ』。今日発売だったんですよ! やっぱこのシリーズは萌え度高くて最高っすねー!!」
萌え主義男が集まる部活、写真部兼アイドル同好会。ただ今の人数、部活と認められる人数ギリギリの三人だ。会長の優雅に、後輩の良太。ともう一人は隠れ幽霊部員となっている。
部活動が始まってから今まで、ただひたすら萌え燃えまくっていた二人、でも流石に疲れてきたので二人してお茶を飲み、ふーと伸びをする。心持は今日もいっぱい萌えたぜー! である。
ふとその時優雅は、ポケットに入っているクッキーを思い出した。食べることもできず、どうしようかと困ったままその日の授業が終わってしまい、そのまま部活に来たらついつい萌え話に興奮してしまって、今まですっかり忘れていたものだ。
優雅はそっとクッキーを取り出した。二枚入っている。ごみ箱に捨てるのもなんだか悪い気がするし、だからって食べるような自殺行為はしたくない…などと、真剣に考えながら手の中のクッキーを持ち遊ぶ。
そんな優雅の手元のクッキーを目ざとく見つけた良太が、『あー!』とクッキーを指差しながら叫んだ。
「先輩……なんすかその萌え萌えクッキー! ずるいっすよ。俺にも下さいよ!」
「だ…ダメだ!!」
優雅は慌ててさっとクッキーを自分の背に隠した。もちろん、ダメとは、クッキーを取られる事に関してでは無く、大事な萌え語らい仲間をむざむざ殺させない為だ。
だが、そんな優雅の心はもちろん良太には伝わらない、良太は、ブーブーと唇を突き出して、『けちー!』やら、『後輩がかわいくないんだ』など、不平不満を次々と吐き出していく。
そんな良太に優雅は、はーと息をはいた。体の力が抜ける。上げられる物ならあげたいよ。食べれるものなら食べてくれ。
「隙ありっ!」
「あッ!!」
一瞬の空きを付いて、良太がさっとクッキーを奪った。やったぜ~! っと、今にもクッキーを口に入れようとしている。いけない! サッと青くなった優雅は、とっさに大声を出して叫んだ。
「それ、椿ちゃんのクッキー!」
「ふがッ!?」
勇太はそれを聞いた途端、口の中に半分突っ込んだクッキーを慌てて引き抜いた。無事幸い、まだ噛んでいなかったらしい。良太は震える手で口に入れかけたクッキーを目の前に持って来てジロジロと眺め見る。
「………というと、あの家庭科部の椿先輩……!? あの夕方になると空へと立ち上っていく煙を作り出す張本人の!? うわぁあ……これが噂に聞く、北花高校三大悪夢の一つの魔女の呪いの食べ物! 初めて見たっすよ。いやぁ…本当に見た目は綺麗だなー……はぁー……ほー……」
良太はクッキーを生まれて始めて一千万はするガラス製品でも手にもったように、慎重に捧げ持つ。目をキラキラさせて、好奇心旺盛にあらゆる角度から眺め見る。約二分は眺め回した後、は~と感嘆の溜息を吐きながら、そっと机の上に置いた。
「先輩これどうするんすか? まさか食べたり………」
「まさか……っ!!」
まさか、まさか! 女の子の手作り、食べてやりたいのはやまやまだが、椿しゃんの食べ物はあまりにもヤバすぎる。『ちょっと焦げちゃったの~』とかそんなレベルじゃない。姫の為なら喜んで命の綱渡りを渡りそうな総司とは違う。どうせ食べなくてもばれる事は無いのだ。むざむざ死にたくは無い。
「そんな怖いこと……そうだ、せめて燃やして天に届けてあげよう!」
「あっ、それいいんじゃないっすか~」
優雅は、良太の賛成の意を聞いてからがたがたと部屋の戸棚をあさる。
「ええと……マッチ、マッチ……確かこの辺に閉まっといたはず……あっ、あった!」
ジャジャジャーン☆マァーチー。
ドラえもんのように行った後、後輩の冷たい目に苦い顔をしてこほんっと咳払いをする。そして、気を取り直した後優雅はクッキー二つを重ねて何故か昔から存在する埃をかぶった灰皿の上に丁寧に置いた。これなら誤って火事何て事にはならないだろう。ついでに良く燃えるように……と、良太が丸めたティッシュを下にひいた。優雅は、震える手でライターを持つ。
「よし、いくよ……ごめんね、椿ちゃん……!」
一言謝ってから、カチッとライターの火を付けた。オレンジ色の炎が親指の先でゆらゆらと踊っている。そのままライターを傾け、クッキーへと持って行った。
優雅の体は自然にクッキーへと近づき、良太もつられて二人して覗き込むような体制になる。炎の先がクッキーへとたどり着き、ジジッと焼ける音がして、ゆっくりと焦げた色に変色していく。ティッシュに炎が移り、ぼっと一気に勢いが強くなった。
優雅と良太は瞬きをするのも忘れ、その様子を見ていた
が、
突然襲った凄まじい光と熱、さらには衝撃波が襲い、二人の目を焼き、体を吹き飛ばした。それが収まったと思った次の瞬間、またしても二枚目のクッキーに火が移り、大音量の爆発音が、学校中にビリビリと響きわたった。
「茶道の精神において大切なことは、相手の立場に立って考え、行こうと、すなわち、思いやり、仕え合いの心です。そして、その心を伝えて互いに信じあうための行為が挨拶であり、挨拶の言葉により良き人間関係が生まれ、保たれるのです、お分かりになりましたか?皆さん」
「はい、先生」
茶道部の部室。畳の匂いが辺りを包んでいる中、先生と生徒合わせて四人、正座で座っていた。生徒は、女二人に一人浩也という男が混ざっている形だ。淡々と話す先生の知識を聞かされて続けて、既に二時間以上。浩也は、目をキラキラさせて、何とも嬉しそうだが、外二人はもう足も限界近く、さっきから先生の目を盗んではもじもじと体を動かしている。
「よろしい、では続けます、古代よりお茶は“養生の仙薬”と称されてきました。また、お茶には成人病予防、抗菌、抗ウイルス作用が有効な……何か解りますか?」
「カテキンです」
先生の質問に、すかさず答える浩也。
「そうですね、カテキンは湯では抽出されにくい為、茶葉そのものを飲む抹茶が一番効果的なのです! 素晴らしいッ!」
鼻息荒く力む先生。それに合わせ、浩也も「まったくですっ!」と、拳を作り燃えている。他二名はもう死にかけ、感覚が無くなった足に必死で話はまったく耳に入ってない。もうヤバイ、そう感じた一人が少し震える声で、苦い顔を必死に隠し話かける。
「せ……先生、そろそろ始めないとお時間が……」
「あら? もうこのような時間ですか……ついつい楽しくて長話してしまいました……それでは抹茶を立てましょう」
ここにくるまで二時間ちょっと。浩也以外の生徒は安堵のため息を付いた。嬉しすぎてちょっぴり涙もんだ。
その間にも先生はテキパキと抹茶、茶漉し、茶筅、などと用意をする。湯を用意し、茶筅は水に付けて置き抹茶を茶漉しで漉す。全ての用意が終わると生徒達に向く。
「そうですね……では今日は浩也さんにしてもらいましょう」
「はい」
浩也は手馴れた手つきでどんどん進めていく。まずは茶碗に少しの熱湯を入れ、温める。その後は湯を捨てて拭い、抹茶を入れてならし、次に熱湯を入れようとしたその時。
「うわッ!!」
大爆音と一緒にものすごい振動が襲ってきた。つるりと手のものを、ひっくり返してしまい、熱湯が一気に浩也の右手にかかる。
「ああああああああああああ………ちぃ………ッ!!!」
あまりの熱さに左手で右手を庇いながら天を仰ぎ、次にぷるぷる震えながら丸くなる。それを見た生徒は、慌てて浩也へ駆け寄り、先生はすくっと立つと、冷やすものを持ってこようと出口のふすままで必死で歩く。だが、振動は収まること無く、ぐらぐらと安定感を無くし、襲い掛かり、なかなか出口へとたどり着かない。
先生がやっとたどり着き、ふすまに手をかけたその時、またしても爆発音がおこった。先生の体が、地面をすべり、傾き前に押し倒される。
「きゃあ!!」
ズポッ。
先生の顔が、大きめの襖の紙を破り、ズポッとはまる。慌てて抜こうとするが、一向に抜けない。
「ふぅっ!? ぬぬぬ抜けません。誰か!!」
助けを求めるが、浩也は熱と戦っているし、外二人も、足が痺れて動かないし、振動で動くことも間々ならない。
先生の顔は、襖越しに外へと突き出しているので、中の様子がさっぱり解らない。仕方なく手で紙が破れるのもお構いなしでぐいぐい押すが、やっぱり抜けない。少し迷った後、足も使う。外に誰もいない事を感謝しながら先生はものすごい形相で、一気に力を入れた。
「ふんぬぅぅぅぅうううううう………」
ギシギシ襖が軋む。
「ふんあぁぁっああああああああぁ!!?」
今だ顔が抜けないまま、襖ごとはずれ、勢い余った先生の体が後ろに飛ぶ。そこにいた、何とか先生を助けようと痺れる足で、ずりずり動いていた女子生徒に運悪く直進して行った。
「ああああ! どいて!!」
「きやッ!!」
先生の叫び声に驚き、生徒は見上げた。見上げた先に、バックに襖を付けて突進してくる先生のおしりが入り、真っ青になった生徒が慌てて避けようと右へジャンプ。
先生はザザザザーと畳を猛烈な勢いで滑り、ジャンプした生徒の先にはまた運悪く、もう一人の生徒。
「わぁっ!?」
「ぎゃっ!?」
体当たりされて、ふたりの生徒が転ぶ。押された方の生徒の手が、茶漉しや茶先など、いろんなものをなぎ倒し、ついには熱湯までなぎ倒す。
そこにまたまた運悪くいた浩也。今度は左手に大量の熱湯を浴びた。
「ああああああああああああああああああああああ!!!!」
茶道部は一瞬にして地獄絵図と化した。
さわさわと風が吹き、ピンクやオレンジ、黄色など色とりどりの花びらが舞う。一緒に漂ってきた、花の甘い匂いが辺りを包み、茜の鼻にも届く。
茜はふと手の作業を止め、視線を漂わせた。
いたるところが天から降り注ぐ光で明るく輝き、光が斜光され、キラキラ光る。ゆらゆら揺れる花の先には綺麗な澄んだ川。波の一つ一つに光が宿り、あたかも神聖な空気をかもち出しているようである。
「ま、三途の川の辺なら、当たり前か」
「茜ちゃん、手止まっているわよ~! ほら頑張って! 次がこっちの枝をこう、ここに入れて、次こっちを編み込むー」
「あ、そうだった……えーと、これがこれで……こうか……?」
んん? と首を傾げる。手の中には何とか形になってきているお花の王冠があった。所々がぴょんぴょん飛び出て、何とも不恰好だが、これでもさっきから何時間も手取り足取り教えてもらって大分マシになってきた方なのだ。
「茜ちゃんは不器用ねーおばちゃんの見てみなさいッ」
自分の綺麗に編み込まれた王冠をひらひらさせながら、向かいに座る40代前後の女の人が言う。人のいい、えくぼつきの笑顔で嬉しそうにニコニコと笑っている。
「おかしいな~おばちゃんと血繋がっているはずなのにね~」
茜は口を尖がらせながら、ブーブー言う。そんな茜を見て、目の前のおばさんはさっと茜の手から不恰好な王冠を取って直し始めた。
「茜ちゃん、もう今日で378回目よ~ここに来たの……そろそろ覚えてもいい頃なのにね」
そう、このおばちゃんとは、茜がだいぶ昔、初めてここに着た時(椿の手料理を初めて食べた時)から会っているのだ。もともと茜はおじいちゃんおばあちゃんの顔なんて知らなかったし、向こうも記憶は無いみたいで、最初は二人して『誰っ!?』とビックリしたものだ。だが、よく聞く話では、三途の川では先祖が出てくるはず。ならきっと私達は親族に違いないっ!おばあちゃんと呼ぶには若いので、おばちゃんでいこうっと、二人で結論づけてとうとう今にいたるのだ。そして、花畑しかないここで、やることは限られてくる。
「はいっ、ここもう一回やってみなさい……ところで茜ちゃん、あなた好きな人っていないの?」
「ええっ!?」
王冠を渡されて、受け取ったところにいきなりとんでもない質問をされて、ばさりと王冠を地面に落とす。白と黄色と赤の花びらが何枚か散った。
「すすす好きな人!? い……いないっいないっ!」
ぶんぶんと顔を横に振る。そんな茜におばさんはにやっと笑って楽しそうに言う。
「あら~? ほら、いつも楽しそうに話している男の子がいるじゃな~い! えーと……総司君だったっけ」
「げっ! なんで総司の名前知ってるのっ!? てか、私があいつを好きってー!? ありえない! 絶対ムリムリ! 楽しそうに何か話してないし、あれは喧嘩してるのー! てか、イジメられてんのー! 今日ここに来たのも半分は総司のせいなんだから!」
「喧嘩するほど仲がいいって言うしね~。それに、ほら、よく言うじゃない! 好きな子にかまってもらいたいが為についついちょっかいをだしちゃうってやつ!」
「おばちゃんはわかってなーい! あいつのイビリはそんな可愛らしいものじゃないのっ!」
拳を振り上げ力説する茜。興奮の為か、違う心持か、顔が真っ赤に火照っている。
「ふ~ん……おばちゃんの予想は大体当たるんだけどなーまぁ、これからかなぁ」
「ちちち違うー! これからって何よ! これからって! あたしと総司の間には絶対何も無いんだからねっ!」
「はいはい……うるさいな~あ、ほら茜ちゃん体が透けていってるよ、やっと戻れるね~今日は長かったし、楽しかったよ、総司君にもよろしくねー!」
それを聞いて、また猛烈に抗議をしている茜にひらひらとてを振る。その間にも茜の体はどんどん透けて、見えなくなっていく。声はもう聞こえない。次の瞬間ぱっと光が弾けて、茜の姿は消えた。
「違うって―!!」
金魚のお墓の隣、総司に死人の格好をさせられていた茜は、次の瞬間カッと目を見開き、大声で叫び、がばっと起き上がった。胸元に置かれていた白いマーガレットと顔からピンクの包みがハラリと落ちる。
だが、それすらにも気づかない。ハァハァと荒い息を吐き出し、その次に、不自然差にん? と眉をひそめる。
体が小刻みに震えていた。いや、校舎が、大地がズズズズズズと大きく振動しているのだ。
「地震っ!?」
起き上がろうとするが、足元がおぼついて起き上がれない。茜はよつんばでそそくさと動き始めた。顔には恐怖の色が張り付いている。
とにかく怖いので誰かいる所へ。
カタカタカタカタ………
机の上に置かれたコーヒー入りのコップが小刻みに揺れている。
生徒会会議中の突然の爆発音、それに並びとてつもなく大きな二回にわたる揺れ。大分収まりはじめてはいるが、まだ細かい揺れが続いている。
室内には、鈴菜をはじめ、生徒会長、副会長など、六人ほどが慌しく行き来していた。突然の地震に対し、早めの処置を行おうと必死だ。
会長が放送室へと走って出て行っているとき、鈴菜は腕をくんで眉をひそめていた。そんな鈴菜に気づき、副会長が声をかけてくる。
「さっきの揺れだと、震度4くらいですかねー? ずいぶん余震が長い……」
「地震じゃないと思います」
「え? 違うんですか?」
「地面が揺れ動く感じより、なんかものすごい爆弾でも爆発させたような揺れ方だったし、地震だったらあんな爆発音はしない筈です」
じゃぁなんですかね? と副会長は困った顔をした。
黒。黒。黒。
写真部兼アイドル同好会の部屋は、真っ黒と化していた。窓もドアも床も天井も、一面黒色の世界の中、一つの塊がもぞりと動く。
「うう……」
優雅だ。
突然の衝撃波と爆音と共に、クッキーが爆発して、気づいていたら一面真っ黒、自分も墨と化し、床に倒れていた。
優雅は、呆然と顔だけ動かし、室内を見渡した。自分以外は動くものは無い。ふと視界の先に、変な物体があった。まるで焼け焦げたソーセージだ。なんだあれ? と眉をひそめてよくよく見て、やっと手足があることに気づいた。
良太だ。
真っ黒に染まった顔は驚きと恐怖の表情のまま、固まっていた。ピクリとも動かない。どうやら先に逝ってしまったのか……。
「ああ………」
ダメだもう自分も限界だ。
視界が霞んで来る。
逝く前に……逝く前にせめてあれを…………!
優雅は最後の力を振り絞って右手を出した。そして、その指先で床にぐらぐら文字をなぞっていく。なぞった所だけ、黒さが薄むからきっと読めるだろう。
ハ ン ニ ン ハ ツ バー……
そこで優雅は、ぱたりと力尽きた。
もう動かす力も残っていない。後『キ』で完成なのに。
そこにヒラリと一枚の黒い写真が目の前にひらひら落ちてきた。部室の天井に吊っていた一枚だ。これだけ何とか無事だったらしい、真中の部分には、可愛い、にこにこ笑顔の椿。
―椿ちゃん…君のその笑顔の後ろに綺麗な羽が見えるよー………黒い羽が……
やがて黒焦げ優雅ソーセージの上に落ちた椿の写真は、あいも変わらず嬉しそうに微笑んでいた。
≪ララ≫↑
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