名前


名前

ある春の日のできごとです
小さな女の子ミニちゃんとママの楽しいお話しです
*******************************************

ポカポカの風と、フワフワの雲
ミニちゃんはママとお茶の時間
ママが焼いたクッキーと、ミニちゃんが育てたハーブのお茶
フルーツのジャムを沢山入れて…
春の陽に負けないくらいポカポカな時間

ミニちゃんはママが大好き
ママのお話しも大好き
毎日、お茶の時間になると
お気に入りの絵本を持ってきます
その本は、ミニちゃんが覚えてしまうくらい読んでいるので
ボロボロになっていました

ボロボロになった本を見るたびにママはいつも

「クスリッ」

と、笑ってしまいます
本の中に出てくる女の子の名前が“みにちゃん”なんです
本の中の“みにちゃん”は、いろいろな街で
楽しいことや哀しいことを体験していく内容でした

今日のミニちゃん…
なんだか、いつもと違います…

いつもなら、持ってきた本を開いて
ママの膝の上にちょこんと座ってくるのですが
今日のミニちゃんは本を開こうともしません

ママは不思議に思いましたが、いつものようにお茶を入れ
クッキーを並べ、フルーツのジャムをテーブルに並べて
椅子に座りました

ミニちゃんは、クッキーを1つ手にとって
小首をかしげながら不思議な顔をしてポツリと言いました

『ママ…こんなにたくさんのクッキー
        みんな“クッキー”って名前なの?????』

ちょっとびっくりしましたが、ママは答えました

「そうよ、みんな“クッキー”って名前だよ」

『ふ~~~~~ん…』

『…でも、ミニの友達は、マコちゃんもいるし
       ケンちゃんもいるよ。みんな違う名前なのに…』

あらあら。。。ミニちゃんは“名前”って
なんだろうって思ったようです

ママは、あわてていましたが
ミニちゃんにはわからないように笑顔でお茶を飲んでいました
ママの頭の中は、ちょっぴりパニックになっています

“何を聞かれるんだろう…
クッキー1つ1つに名前をつけなきゃいけなくなるのだろうか…”

そんなことを思いながら
ハラハラ ドキドキ ミニちゃんの次の言葉を待っていました

ミニちゃんは絵本をそっとママにわたしました
そして

『ママァ・・・この ご本の“みにちゃん”ってミニちゃんのこと?ミニはここにいるけど…ここにはいないの?』

ミニちゃんが産まれた時にパパが買ってきた絵本
【みにちゃんの小さなたび】
自分の子供と同じ名前が気に入って買ってきた絵本
今までは、

『同じ名前だぁ~』

と、喜んでいた、お気に入りの絵本

ママはミニちゃんを膝に乗せるとニコニコと話しを始めました

ミニちゃんが、パパとママの所に来たその日のことを…

「ママのお腹の中に小さな赤ちゃんの入った花が咲きました
 花の中の赤ちゃんは、とっても元気に育っていきました」

「毎日、“大きくなぁれ”って、おまじないしたりして
 産まれてくるのを、とっても楽しみにしていました」

『赤ちゃんの名前は?????』

「まだ、名前はなかったのよ」

『・・・・・。』

ママはミニちゃんの頭を優しく撫でながら話しを続けました

大きくても、小さくも男の子でも女の子でも…
元気で産まれてきてくれるように…って、願っていました
あったかくなった頃お腹の中の赤ちゃんは
窮屈になったのかママのお腹からでてきました
パパとママは喜びました
でも…
いつまでも“赤ちゃん”と呼ぶわけにもいきません
気持ちよさそうに眠る赤ちゃんの顔を見ながら
パパが言いました

「小さいね…」

ポツリと言った一言にママは

「パパを小さくしたみたい」

赤ちゃんの名前は、こんな話しの中から“ミニ”とつけられました
それからミニちゃんはどんどん大きくなりました

黙って聞いていたミニちゃんが

『え~パパとママが付けてくれたの?ミニの名前?』

「そうよ。小さくて可愛いねって、パパとママが付けた名前だよ」

「ミニちゃんが1つの誕生日の日にやってきたのがこの絵本…」

『ミニの誕生日にやってきたんだぁこのご本…』

「パパが、ミニちゃんと同じ名前だからって言ってね…
 ミニちゃんが、絵本ののような心の優しい子になるといいなぁって」

『ミニね絵本の“みにちゃん”大好きだよ』

『絵本の中の“みにちゃん”ってミニと違うんだね』

「そうだよ、ここにいるのはパパとママのミニちゃんで
    絵本の中の“みにちゃん”は、絵本の中で産まれて
               絵本の中で付いた名前なんだよ」

…と、ここまで話しててママはちょっと難しかったかなぁと
思ってしまいまいました
ミニちゃんはまだ幼稚園に行き始めたばかりなんです
何かを考えてるようなミニちゃんの姿を見て
ママは、お茶をひとすすりしました
ミニちゃんはニコニコして…

『ミニねぇこの絵本の中の“みにちゃん”大好きなの』

『だってね、かっこいいんだよ』

「かっこいい???」

『うん!1人でなんでもできちゃうし、いっぱい食べるし
    お友達も、い~~~~~~~っぱいいるし』

『ねぇママ…』

「なぁに?」

『ミニも絵本の“みにちゃん”みたいになれるかなぁ…』

「そうだね。なれるといいね」

ママは、ミニちゃんが愛おしくなりました
そして、不安にもなりました
“かわいい”から“字数”が良かったから
いろいろな理由で、付けた名前も付けられた子供からしたら
どんな風に思って、どんな風に感じるのか…
安易に付けてはいけないような…
間違ってなかったのだろうか…
などと、考えてしまいました。
でも、ママはミニちゃんが、ミニちゃんで良かったと思いました

ママが、ミニちゃんの事をいろいろ思っていると

『ママ 絵本読んで』

と、いつものミニちゃんに戻っていました

「はい、はい」

笑顔で絵本を手に取りミニちゃんを膝に乗せて
ママは絵本を読みました

いつの間にか眠ってしまったミニちゃんの顔は
小さな天使のように見えました
時折見せる笑顔は絵本の中で遊んでいるように思えました
ママは、そっと抱き上げベッドに寝かせました

今は小さなミニちゃんの解らないこと
大きくなったら答えられなくなるのかしら…
ちょっぴり不安なママでした
そして
ちょっぴり大きくなったみにちゃんを見て
とっても嬉しくなりました

目覚めた時にママの話しを覚えているのか…
目覚めた時に、また「これはなぁに?」「なんで?」と
ママをハラハラさせるのか…

春の陽射しのようにポカポカで
春の優しい風のように心地よい…
そんな ある日の出来事だした。


***名前***

誰もが持っている“名前”

いつの間にか そう呼ばれ
いつの間にか 自分のことだとわかる
いつの間にか それが“名前”だとわかる

でもね

パパとママからのプレゼント
ずっと ずっと大切に
自分だけの宝物

パパとママの思いと願いのこもった“名前”

大切にしてるかな…わたし…
宝物になってるかな…わたし…

…ずっと ずっと同じ…

…私の名前…


© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: