必殺必中仕猫屋稼業

第5話

背中を貫くような視線を感じ、武志は思わず振り返った。
だが換算とした港に人影はない。
風が出てきたせいか、港の脇にある掘建て小屋の壊れた窓の扉が、
カタン・・・。カタン・・・。
と音を立てている。
錯覚だったのか・・・。
視線を元へ戻そうとした時、武志は思わず息を呑んだ。
掘建て小屋の影から、じっとこちらを見ている異様に大きなふたつの目を見つけたのだ。
若い男だ。
ぼさぼさの金髪で、年齢は・・・。20歳ぐらいか・・・?
よれよれの綿のジャケットに、粗末なズボンをはき、だらしなくベルトが腰から垂れている。
島の人間に違いない。
武志と視線が合うと、若い男は隠れるように物陰に引っ込んだ。
「どうしたの、武志?」
先を行っていたレインが振り返った。
「いや・・・。なんでもない・・・。」
武志は二人を追い村の中にはいっていった。
レンガ造りの民家が点在していた。
どれも小さな飾り気のない家ばかりで、この村には貧富の差すらないように見えた。
「さびしい村でしょう?漁が盛んだった頃は五千を超える人が暮らしてたんだけど、
今は三百人くらいかな?あたしが出て行ってから10年もたつし・・・。」
「それにしても・・・。
人通りがこんなにないなんて・・・。」
ヘレンも不審気にあたりを見回した。
確かに時刻は夕方近い。
勤め帰りや夕食の買い物客が行き来してもいい頃だったが。
通りはひっそりして人気がまったくない。
だが武志は気づいていた。
自分たちはたえず見られている。
あの揺れるカーテンの隙間から。
わずかに開いた扉の陰から。
不意の侵入者である自分たちを、島の人間たちは好奇と恐れの目で、じっと見ているのだ。
港にいた若者もそんな一人だったのだろうか。
だが、ヘレンはもちろん、この島で暮らしていた時期のあるレインもそんな視線に気がついていないようだった。
「ねぇ。レインの両親って早くに亡くなって、これから行くマーティン叔父さんていう人に育てられたんでしょ?」
「ええ、一人ぼっちになったあたしを引き取って、本土のハイスクールにまで行かせてくれたの。」
「その可愛い姪っ子が10年ぶりに帰ってくるんだから、大喜びだよね?」
「叔父さん元気にやってるかしら?早く顔がみたいわ。」
懐かしそうなレインの表情を見て、武志は心がなごむ思いがした。


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