必殺必中仕猫屋稼業

第8話

仕方なく3人はマーティンの家へ戻ってきた。
が、やはりマーティンが帰ってきた様子はない。
武志は途方に暮れている少女たちの脇をすり抜けると、玄関の横に置かれた古い漁の道具クズの中から細い針金を取り上げた。
そしておもむろに手の中で形を整え、ドアの錠前に差し込んだ。
「・・・何するの?武志!?」
軽いロックの解除音がして、あっさりと錠前が開く。
レインとヘレンはそろって目を丸くしたが、それより家の中に入るのが先決だ。
レインは恐々とノブをつかみ、そっとドアを手前に引いた。
3人を迎えたのは、誰もいないひんやりとしたリビングだった。
レインの叔父が、ここにいないのは明らかだった。
それでも気になるのか、レインは1階から2階へと家の中を見て回る。
ヘレンもそれにいっしょについて回る。
その間武志は簡素なリビングをぐるっと見渡した。
部屋の少ない調度品から、住人の慎ましやかな暮らしが感じられた。
古い家具や食器が綺麗に磨かれ棚に並んでいる。
暖炉の上に小さな写真立てが二つ飾ってあった。
手にとって見ると、一つは島を出て行く前のレインらしい少女と頑固そうな初老の男が一緒に写った写真。そしてもう一つはもっと古びた、その頑固そうな男と同一人物らしい、若い軍服姿の写真だ。
2階から戻ってきたレインに武志は尋ねた。
「これがマーティン叔父さんか?」
「ええ、こっちが10年前。そっちが叔父さんの若い頃」
「軍隊にいたのか?」
「ええ、そうよ。」
武志は自分の経験から、この写真の男が優れた軍人だったろうと想像した。
そっと写真たてを暖炉の上に戻すと、ちょうどそこへヘレンが2階から下りて来た。
「あたし、2階の一番奥の部屋で寝るわ。ベットが気持ちよさそうなんだもの。」
「でもあの部屋は、マーティン叔父さんの部屋だから、帰ってきたら・・・。」
レインはうなだれた。その顔には不安と心細さがない交ぜになったような色が浮かんでいる。
「そうね。やっぱり勝手に使っちゃまずいわよね。でもどこへ行っちゃったのかしら、レインの叔父さん?」
「島の人たちも変だわ。前はもっと明るかったのに。妙によそよそしくて・・・。」
「それに、あのロバートって人も。明日島を出て行けだなんて。」
「ロバートは孤児で、小さい時から叔父さんが可愛がってたの。ちょっと気が弱くて泣き虫なところもあるけど、とてもやさしい子だったわ。」
レインとヘレンの会話を聞きながら、武志は自分の荷物を持つと、静かに玄関へ向かって歩き出した。
それを見てレインが慌てて飛んできた。
「どこへ行くの武志」
「これから寝るところを探す」
「何を言ってるのよ。今夜はここに泊まって。お願い。」
ヘレンも武志がいなくなると思うと、急に心細くなった様子で、
「そうよ。宿屋もないんだし、泊まれるところなんて今からじゃ見つからないわ。泊っちゃいなさいよ。」
武志は戸惑った。一つ屋根の下で若い娘2人と寝るわけにはいかない。
だが・・・。武志はレインやヘレンより深刻に、この島が今、只ならぬ状態になっているのを感じていた。
島民たちのあの態度は、単によそ者警戒しているのではない。
何かもっと別の事を恐れているように思える・・・。
そして、マーティンの失踪と、突然、眼前に現れたロバートという若者の不可解な言動。
それにあの拳銃も気になる・・・。
二人に懇願された武志は、不吉な予兆を無視することができず、今夜はここに泊まることにした。


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