本丸より (33)

空港

行きたいところよりも
帰りたい「時間」がある。


どうしてあの時、

私の体は動こうとしなかったのだろう。

もうそれが最後かもしれないということに

気付かないままに。

もうあれが最後だったって気付いた時は、

なにもかもが変化していた。


飛行機のアナウンスはいつもと同じようにカッコよく告げる。


"Welcome to New York."



わたしは遠くからこの町に帰って来るのが好き。

ニューヨークにはニューヨークの空気の味があって、

JFKのラウンジのドアを抜けて、タクシー乗り場に向かうまで、

わたしはその空気を胸一杯に吸い込む。

わたしは少しずつ、息を吹き返す。


だけれど



わたしにはニューヨークよりももっと、帰りたい時間がある。

それが不可能なら不可能なほど、想いは深く壊れやすくなる。

そして、わたしは言葉をなくしてしまう。



愛しき時に。

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