一緒に歩こうよ。~特別養子縁組しました。~

一緒に歩こうよ。~特別養子縁組しました。~

新しい家族として。

始まりの夜の雨


その日は記録的な大雨でタクシーの中でにじむ車窓を
ただ見つめていた。
病院に着いたのはもう夜の10時を過ぎていた。玄関前でタクシーを降りた。
土砂降りの雨が続いていた。
担当の看護婦さんに電話を入れて置いたけど玄関には鍵がかかっていて
もしかしてこの場所じゃなかったのかな?
そう思って荷物をかかえてドアを探して雨の中歩いていたら
電話が鳴った。
「今どこにいらっしゃいますか?」
「あ。。玄関にカギがかかっていて」
「今玄関にいます。すぐきてください」
あわてて雨の中を引き返した。

真っ暗な玄関に優しそうな看護婦さんが待っていてくれた。
スリッパに履き替えて案内された廊下にも雨の音が響いていた。
どこかで子供が泣いてる・・・
そう思ったときに看護婦さんが
「プリンさんどうぞ」

白いドアを開けてくれた。
カーテンの向こうで赤ちゃんが泣いてる。それもかなりの大きな声で
とても元気な子みたい。
にっこり笑った看護婦さんが手招きして
「お子さんですよ」
そこにはまだしわしわで真っ赤な顔をした赤ちゃんが
必死に泣いていた。
ただ涙が出ていた。デジカメを忘れたことを
悔やみながら何枚か携帯で写真を撮る。
「抱っこしますか?」そう言われたので
「いいんですか?」
しろいタオルのような木綿のような生地に包まれた子供を抱っこした。

軽い・・・
ラオウくんだね。
元気な男の子だね。私がママでいいのかな?
ウチの子でいいのかな?
大きな元気のいい声。
ちょっと左とん平に似てるなぁ。
そんなことを不謹慎ながら思っていた。
私が抱っこした姿を看護婦さんが病院のデジカメで撮ってくれた。
その時気がついたのだけど
ラオウの足首には
「ぱんだ家ぷりん」と名前の書いたビニールのベルトがはめてあった。
そして同じようにベビーベッドの脇には
「ぱんだ家プリンさんのお子さん 3476g」との
表示ラベルも・・そして同じように
プリンにも今日の日付の入った腕にはめるベルトが・・
そこにはラオウの性別と体重が明記してあった。

この病院では私はもうこの子のママなんだ。
ああ・・・そうなんだ。ここで私はラオウを迎えたけど
ここでママにもなったんだ。

5分ほどの面会でラオウは新生児室に運ばれて行き
プリンはまだ病室があいてないってことで
使われていない和室でその日はすごすことになった。
案内されたときにはもうお布団がきちんと引いてあった。
病院の対応にとても感謝した。
その和室の部屋は他の病室などとは離れた場所にあり
とても静かで・・大雨の音が響いていた。
ぱんだにメールを入れた。
「ラオウ君でした」
メールが届いたくらいに電話がかかってきた。
「男の子なんだ」
「うん。すごく元気な子だったよ。3キロ半もあるの。
大きな声で泣いてた。ちょっと左とん平に似てるの」
「そっか。よかった。ぱんだ家ラオウ君か。」
「がんばってねパパ」

しばらくたわいもない会話をして明日また電話するといって
切った。
あわただしい一日だったなぁ。
朝は美容院に行ってそれから病院にいって午後からは
梅干しを作ろうと思って準備していたのになぁ。
全部放り出してきちゃった。
ベランダの野菜に水をやってもらわないといけないなぁ
明日にでもメールしておこう。
ああ・・冷蔵庫の野菜・・無駄になっちゃうかなぁ
ペットホテルでわんこは大丈夫かな?
さびしがっていないかなぁ?
デジカメ持ってくればよかった・・失敗したなぁ
などといろんなことを考えていたら
「あの・・プリンさんですか?」
和室の入口の闇の中に子どもを抱いた夫婦が立っていた。

見たこともない知らないご夫婦だった。
私よりずーっと若い奥さまと私よりちょっと年上かな?って
思える旦那さんだった。
「私達も3日ほど前にこの子を迎えたんですよ」
と笑顔。
「そうなんですか。おめでとうございます」
ああ・・同じ道を進むご夫婦なんだ。
なんだかほっとした。ただただ広い和室で一人っきりってこともあったから
さびしかったのだけど
明るい奥さまと旦那さんに抱っこされた小さな寝顔が
なんだか落ち着かせてくれた。
「あすにももうひと組見えるみたいです」

同じ時期にお子さんを迎える仲間がいるんだ。
それだけでもびっくりした。またうれしくなった。
深夜ということもあり5分ほど話をしたらご夫婦は自分たちの
病室に帰られた。
その夜はなんだか興奮したままほとんど眠れなかった。
やっとうとうとできたのは2時を回っていたころじゃないかなぁ。

それまでずーっと雨の音を聞きながら
「私がママ」とつぶやいていた。


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