Milky　road

第四話：英雄

殿様は部屋の壁をコンコンと二度叩くと、

壁の後ろから金庫のようなものが出てきた。

「それか？」

雪奈が聞くと、殿様は少し悲しそうにコクリと頷いた。

第四話　　嘘と優しさ

殿様が金庫を開けると、

中には大切そうに風呂敷にくるまった刀が入っていた。

その刀は、柄にも鍔にも細かい細工が施してある訳ではないが、

刃は錆ひとつなく銀色に輝いており、

凛とした雰囲気に包まれていた。

「それが噂に聞く英雄の刀か・・・」

雪奈が口を開くと、いきなり殿様は膝をつき

雪奈の腕を掴んだ。

「頼む！！その刀は持っていかないでくれ！！

他のものならなんでも持って行ってくれてかまわない！だから・・・ッ」

雪奈は殿様を見下ろし、冷たい目をして言い放つ。

「私は『偽り』を頂戴すると言った筈だ。」

「・・・・ッ」

殿様は俯きながら、ゆっくりと雪奈の腕を放し、

「その刀はどういう代物か、知っているか？」

いきなり雪奈に問いかけた。

「・・・？過去の英雄の刀・・・と聞いている。」

それを聞いた殿様は一瞬悲しそうにフッと笑った。

「それ、本当は偽物なんじゃよ」

「！？」

「本当はその刀は、父の形見なんじゃ。」

「・・・何故？」

「英雄の刀だって嘘をついていたことか？

　その質問に答えるとすると・・・この国を救うためじゃよ。」

「？」

まったく意味がわからないという顔をしている雪奈を見て

殿様はまた苦笑し、話し出す。

「この国には、大昔に他国に攻められたことがあったんじゃ。

　そしてそのとき国を救った若者が、今も英雄として語り継がれている。

　それからは代々その英雄の子孫が、国をまとめてきた。

　しかし、それは先代の殿様までの話。」

「つまりお前は・・・」

「そう、わたしはただの一国民の息子じゃった。

　先代の殿はなんとも悪徳者での、

　国民は毎日税のせいで空腹に苦しみながら生きてきた。」

「・・・・・。」

「そしてある時、そんな毎日は間違っていると立ち上がったのが、父だった。

　父は殿を説得しようと仲間を集めていたが、

　それが見つかり、その後には・・・ッ、父は先代の殿に殺された・・・。」

殿は悔しそうに言った。

「そのとき父は言ったんじゃ。お前がこの国を変えてくれって。

　この刀をわたしに渡して・・・。

　そしてわたしは、その父の形見の刀を、実は過去の英雄の刀で、

　わたしこそが本当の過去の英雄の子孫だったのだと。

　その頃の殿様が持っていた刀は偽物なんだと嘘をついた。

　しかし皆はそれを信じて、先代の殿を攻め入り、辞めさせて、

　わたしを新しい殿にしてくれた。」

雪奈は一人で考え込んで、

「だから・・・偽り、か。」

小声で言った。

「あぁ、しかしわたしはもう終わりだ。

　この刀こそが、わたしは過去の英雄の子孫だという証拠だった。

　この刀がわたしを殿にしていてくれていたのに・・・。

　この刀が無ければ、皆にばれてしまう。

　わたしは本当はただの一国民だったのだと・・・。」

殿様はとうとう泣き出した。

手で顔を覆い、おんおんと泣いた。

しかし、雪奈はそんなこと気にもせず、

殿様の手からひょいっと刀を取り上げた。

そして窓の淵まで歩くと、

殿様の方へと向き直った。

そして言った。

「本当にそう思っているのか？」

「・・・え？」

殿様は泣きはらしてぐしょぐしょになった顔を雪奈へ向けた。

「この刀がなければ皆はお前のことを見捨てると、

　本当のそう思っているのか？」

「だって・・・わたしは・・・」

雪奈は、急に一瞬何かに気づいたかのようにハッとして、

「それは、自分の目で確かめろ。」

そう言って、刀を抱えたまま窓から飛び降りた。

「・・・なッ！！？」

それを見て殿様が驚いていると、

バンッ！！！！

いきなり部屋の戸が開いて、

息を切らした殿様のお付の者が入ってきた。

「と・・・殿ッ！！大丈夫でございますか！！？」

それを聞いて殿様は悲しそうに、

「あぁ、わたしは大丈夫だ。しかし・・・刀が・・・」

するといきなりお付の者が殿様の肩を掴んだ。

殿は驚いて身を強張らせた。

「ッ！！！？」

「何を言っておるのです！？殿のお体が一番大切ではありませんか！！！」

「！」

殿は驚いた顔そしたが、

「あぁ・・・、そぅじゃったな・・・。」

そう言ってまた泣き出した。

雪奈は、もう城から大分離れたところから、

その城を見上げていた。

そしてまた前を向いて歩き出す。

次の国へと向かって。

背中には、月に照らされた城の屋根の瓦が

月の光を反射して、城全体を輝かして見えた。

「ほーぅ、噂に聞くほどのことはありましたわ。」

暗闇の中で、雪奈の後姿を怪しく見つめる人影が一人。

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