K/Night

K/Night

―pumpkin―


見え隠れするオレンジ色の物体。
少女を悲鳴を押し殺して廊下を走る。
追って来るそれが持つ何かがキラキラと光っている。
それが何か、少女は本能的に知っていた。
―――誰か!誰か!―――
心の中で少女は叫ぶ。
それは執拗に追って来る。
頬を掠める風と一緒に涙が流れる。
少女は今、何処を走っているか分らなかった。
何もかもが暗くて何度も転んだ。
それでも立ち上がって逃げた。
―――誰か!誰か!―――
追って来るそれと、少女の距離は縮まっていく。
カタカタと、それは嘲る様に動いて笑う。
少女は突き当たりの廊下を曲がる。
しかし其処は―――
「―――っ!!」
行き止まり。
奥に理科室と実験室、準備室がある、唯それだけ。
カタカタ―――
それは笑う。
始めから、これが狙いだと言うように。
少女はそれでも奥へ向かった。
―――中に入って鍵を閉めれば良い。朝になるまで其処でじっとしていれば―――
しかし、鍵は閉まっていた。
「やだっ・・・・開いて!開いてよぉ・・・・っ!」
震える手で取っ手に手をかけて何度も揺らす。
静かな闇の中を、ガタガタと騒々しい音が駆け巡る。
―――カタカタ
ビクッ・・・・少女の肩が震えた。
―――カタカタ
それは笑っていた。
―――カタカタ
涙で溜まった瞳を背後へ向ける。
「いやああああぁぁああぁあぁああぁぁぁああっっっ!!!」
光が一線を描く。
ゴフッ・・・・と咳き込んで少女の口から血が吐き出される。
力の抜けた体は廊下へと落ちた。
―――カタカタ
それは笑っている。
ヒュー・・・・ヒュー・・・・
少女の口からは細い呼吸音。
バックリと割れた首からは、夥しい量の鮮血と、口から入る酸素が漏れている。
ヒュー・・・・ヒュー・・・・
痛みで体は痙攣していた。
痛みで涙が大量に溢れた。
ヒュー・・・・ヒュー・・・・
少女は霞む目で、視線をそれへと向ける。
血で濡れた光る物を翳すそれ。
「・・・・か・・・・ぼ・・・・」
ドスッ・・・・低い音が響く。
少女の口から再度血が溢れた。
しかしもう痙攣はしていない。
―――カタカタ
少女が最後に見たもの。
―――カタカタ
それは、オレンジ色のカボチャだった。

「・・・・・・・・」
朝一番。
水生は眉を寄せ、何を言うべきか、言ってやるべきか、如何反応して良いか、どんな表情をするべきか、迷いに迷って複雑な表情を浮かべる。
目の前にあるモノ・・・・それはバカにデカいオレンジ色のかぼちゃ。
しかも被れるように中身が刳り抜いてある。
「如何?ハロウィンのイベントで使えると思うんだ!」
そしてそれを持つのが竜矢。満面の笑顔である。
「ん・・・・良いんじゃないかな」
だから昨日貰ったお裾分けはかぼちゃの煮物だったのか・・・・
適当に返事をしながら、ネクタイを締めつつボンヤリと考える。
2人が今対峙しているのは水生の部屋。
竜矢は隣の家―――上杉家の自分の部屋の窓から窓へ渡って水生の部屋に入っていた。
因みに水生は制服(男子生徒用)に着替え終った時だった。
「だろ?!これ、仮装する時に誰かに被せよう~。あ、水生の仮装は死神ね。俺は狼男で、水城が魔女、竜也がミイラ男。で、蒼麻がヴァンパイア~。因みにもう衣装はもう殆ど作り終えてるから!」
親指を立ててはしゃぐ竜矢。
それに水生は微かに微笑む。
「それじゃあ何が何でも事件は解決してもらわないとな。折角竜矢や皆が頑張ってくれたんだから」
「そして皆で楽しもう!」
かぼちゃが掲げられる。
事件―――確かかぼちゃが如何とか言ってなかったか?
「竜矢!それが出来たのが嬉しいのは分るが朝飯を食ってから見せに行け!」
隣の窓から竜也が顔を出す。
首を竦めた竜矢は舌を出して窓際へ渋々戻る。
「水生、学校が終ったら衣装を試しに着てくれよ?寸法を合わせるからさ」
自分の部屋に下りた竜矢の尻を叩いて下に行く様急かし、それから再度水生の部屋に視線を戻す。
「分ったよ。じゃあ、また玄関で」
小さく笑いを漏らしながら、水生は返事をして部屋を出る。
これが今日1日の始まり。

「おはよう、皆」
天生家、上杉家の前で待つ何時ものメンバーの4人が揃うと、何時ものようにタイミング良く蒼麻が現れる。
5人は何時も登校は一緒だ。
「おはよう~」
一番に挨拶を返すのが竜矢で、
「おはよう、蒼麻」
「はよ~」
「おはよう」
それを筆頭に水生、水城、竜也が思い思いに挨拶を返す。
「じゃあ、行こうか」
こうして5人はまだ生徒のいない学校へと向かう。
「そういえば、衣装が出来あがりそうだってね」
誰から聞いたのか、蒼麻は水生でさえ今日知った話題を開始する。
「そうそう、後は皆の寸法合わせるだけだよ!楽しみだね」
既に気持ちはハロウィンの竜矢がそんな突飛な言葉には慣れた様子で答える。
「今日の放課後、どっちかの家に集まって寸法合わせしようぜ?早いに越した事はないからな」
まだ眠い目を擦りつつ水城が蒼麻の隣から提案する。
「衣装は全部俺の部屋にあるから、俺の部屋に集まれば良いよ」
場所は竜也が提供。
「じゃあ、何か食料を調達してくるよ」
家事全般が苦手な水生は他のメンバーの為の食料を調達する役をかって出る。
「一応ハロウィンのイベントの許可は先生方から取ったからな」
流石というだけあって、蒼麻は既にやれるかどうかも分らないイベントの許可を取っていた。
「蒼麻偉い!!」
目を輝かせ腕を勢い良く前に伸ばして親指を立てる竜矢。
それに対して蒼麻は胸を張る。
「楽しそうだね」
不意に背後からあまり聞き覚えの無い声が5人に呼びかける。
思い思いに振りかえると、其処に1人の男が立っていた。
少し長めの黒髪に、眼鏡をかけた痩身の男。灰色のスーツのズボンは穿いているが、上着は着ていない。Yシャツにネクタイ、上からVネックのセーター。茶色い革鞄を提げている。
「おはようございます、先生。珍しいですね。こんな所で会うなんて」
微笑みながら蒼麻は挨拶をする。他の4人も会釈した。
「たまには別な道から学校へ行くのも良いと思ってね。で、何の話しをしていたんだい?」
先生、と呼ばれた男も微笑む。
「ハロウィンのイベントの話しです。出来ないかもしれないにしても準備はしておかなくてはいけませんから」
対抗するように蒼麻の笑みが濃くなる。
そう、男は頷いた。
「私も楽しみにしているんだ。是非頑張って」
男は、先に行ってるよ、と声をかけると道の先へと消えていった。
「・・・・誰?」
開口一番竜矢が尋ねる。
「『駿河 稜<するが りょう>』先月新しく赴任してきた生物担当の先生。全校朝礼、また聞いていなかったな?」
水生が呆れながらも説明する。
指摘された竜矢は苦笑しながら舌を出す。
「にしても、何か怪しいな」
「なんでだ?」
竜也の呟きに水城が首を傾ぐ。
「あれ、伊達眼鏡だ。何故そんなのをかける必要がある?」
「・・・・・・・・」
誰も分らない。
「まぁ良いじゃないか!俺達の今の問題は唯1つ、だろ?」
竜也の肩に手を乗せつつ蒼麻が明るい声を出す。
そうだな、誰ともなく呟いた。
目の前は学校。
校門を通り過ぎ下駄箱の前まで来る。
人気の無い廊下。
5人の声が響く。
「・・・・・・・・?」
ふっ、と竜矢の顔が上がる。
「如何した?」
蒼麻が声をかけるが反応は無い。
唯1点を見つめる竜矢。
「竜・・・・?」
水生が傍に寄るのと同時に竜矢の手が水生の手を掴む。
「おい!竜矢?!」
竜也が呼ぶのも構わず竜矢は手を掴んだまま1点目掛けて走って行く。
「血の匂いだ!」
角を曲がる時に、まだ立ち尽くす3人に向かって竜矢は叫んだ。そのまままた走る。
「何?!血?!」
弾かれたように残された3人も追いかける。
「何の匂いもしないぞ?!」
匂いを嗅ぎながら水城は叫ぶ。忌々しげに竜也が舌打ちした。
「あれは、嗅覚と動物的危険本能が高いんだ!だから何時も厄介事に首を突っ込む!!危険だと感じるなら大人しくしてくれれば良いのに!」
「仕方ないだろう、それは。好奇心に勝てる者はそういないし、ましてや竜矢は警官希望。あれは、向いてるよ、本当に」
苦笑しつつ蒼麻は竜也を慰める。
「こっち!!」
そんな3人の会話など知らず、竜矢は水生を連れて先導する。
そして―――
「―――っっ!!」
2人の息を呑む気配が空気を伝う。
「竜矢?!水生?!」
3人が追いついたその先―――
奥に理科室があるその廊下に、血の海に横たわる、制服を脱がされた皮膚の無い人間の死体が恨めしそうに5人を見ていた。

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