K/Night

K/Night

目隠し鬼


 手の鳴るほうへ。

「用意するもの。手足のついたぬいぐるみ、ぬいぐるみの目を覆える細い布、刃物、鈴」
 結城はネットの大型掲示板に書いてある文章を読み上げて、それから手元にあるそれらを確認した。ぬいぐるみは昨日百円ショップで犬に見えない犬を買ってきたし、細い布は家庭科で残った布切れだし、刃物はカッターで鈴はキーホルダーに付いていたモノを外してきた。大丈夫、何も不足はない。
「まずぬいぐるみの目を取り、細い布で目のあった部分を覆う。鈴は紐を通し、ぬいぐるみの外れない場所に付ける。用意したぬいぐるみを水の入った浴槽に入れ、『お前が鬼』と言いながら刃物を刺す。刺したら部屋に戻り、『鬼さんこちら。手の鳴るほうへ』と手を叩きながら呼ぶ。もしぬいぐるみに霊が入ったら、鈴が鳴る」
 手順を実行しながら、結城は電気を付けていない誰も居ない家に一人、テレビを付けながらパソコンの画面を見る。
 父親は出張中だし、母親は今日から町内会とかの親睦会で旅行中、兄は五月蝿い両親が居ない間に友達の家に泊まりにいっている。明日は日曜で学校はないし、誰にも何も文句も言われず、こんな楽しそうなことが出来るのは、今日がチャンスだった。
「――行方不明中の女子高校生が午後八時頃、死体となって発見されました。遺体には目が抉られていることから、先日の事件との関連を捜査して――」
 全く、今のご時世嫌な事件ばっかりだ。目を抉るなんて一体どんな頭のイカレタ奴の仕業だろう。
 まぁ、こんなことしている私も、奴ほどではないにしろ、イカレテいるとは思うけれど。
 テレビはまだ、事件のことを放送している。被害者は同じ女子高生。全く持ってご愁傷様。同じような事件の被害者も、やっぱり目が抉られてて、警察は同一犯の仕業だと考えてるらしい。私には関係ないけれど。
 結城は興味を無くして雑音と化したテレビの電源を切ると、風呂場に向かった。浴槽にはまだ温かいお湯が張ってある。無造作にぬいぐるみを浴槽に入れると、カッターの刃をぬいぐるみの腹に容赦なく差し込んだ。
「お前が鬼」
 暫くその場で様子を見ていたが、鈴が鳴る気配はない。水の中に入っているのだから、むしろ鳴らないと言った方が正解だろう。
 結城は一先ず風呂場を出ると、自室に戻りパソコンの画面を覗いた。掲示板には、コレを実行している結城に対しての応援レスが書き込まれている。それに対して返信をし、現状況を書き込む。
 一人目隠し鬼。
 この大型掲示板にあるオカルト掲示板で今話題になっているもの。簡単な降霊術とかで、手順を実行するとぬいぐるみに霊が入るとか。実際掲示板には、この一人隠れ鬼を実行した人が撮った写真が貼られていて、それらしきものが写っていたりする。
 嘘っぽいとは思うのだが、こういうモノが好きな結城としては、実行せずにはいられなかった。
『今から手を叩いてみまーす』
 どうせ何もないだろうと思いつつ、結城は掲示板に書き込むと、画面はそのままにして座っていた椅子から立ち上がる。暗い部屋でこういうことをしているのは、なんとも言えない不気味さがあるが、それがまた楽しかった。
「鬼さんこちら。手の鳴るほうへ」
 一定のリズムで手を叩きながら、誰かに言うように声を出す。しかし、鈴の音はおろか、何か起こる気配もなし、雰囲気が変わったということもない。
やっぱこんなものかな。どうせ掲示板の写真だって加工してそうだし。こんなので霊呼べちゃ今頃世の中霊だらけだっての。
それでもやはり諦めきれず、三十分近く呼びかけながら手を叩いてはいたが、結局何も起こらなかった。落胆しながらパソコンを覗くと、
『実況プリーズ!』
と書き込まれている。結城は椅子に座ると、面倒臭そうにキーボードを叩いた。
『何も起こりませんでした。残念。今から終わらせてきますね』
 一応、途中で撮った写真を貼り、結城は手順が書かれたページを開けた。
「終わらせ方。浴槽に入れたぬいぐるみを取り出し、目隠し用の布を取りながら『お前の負け』と言う。使ったぬいぐるみは燃やし、刃物は捨てること」
 ぬいぐるみを燃やすといったって、一体何処で燃やせば良いんだろうか。うちはマンションだから庭なんてないし、マンションの敷地内で燃やせばきっと怒られるだろう。かといって台所でやりたくないし。
 何も起こらないし、後に残るのは手間だけだし、やらなければ良かった。
後悔しながら風呂場に入り、結城は浴槽を覗いた。浴槽内のお湯が揺れている。ぬいぐるみは、ない。
「え?」
 確かにカッターを刺したときに浴槽内に居たのに。
 これはキタかも。
 不意に訪れた状況に、結城は一気に興奮した。ポケットに入れておいた携帯を取り出して浴槽を撮る。
 ついでにお風呂場全体も撮っておこうかな。
 携帯の画面越しに風呂場を見ながら、結城は一歩一歩後退した。風呂場を出て、漸く全体図が撮れそうになった瞬間、右足が何か濡れたものを踏んだ。
「ひっ!」
 驚いて足元を見て、踏んだものが何か確認して更に結城は驚いた。浴槽にいるはずの、ぬいぐるみだった。
「ポルターガイスト? 凄い、これも写メしておこ」
 待ち望んでいた状況に、結城は満足しながら写真を撮る。これで写真に何か写っていたら、さらに美味しい状況だ。しかし、ふと結城は違和感を感じた。携帯の画面に写るのは濡れたぬいぐるみ。何か、足りない。
「カッターと鈴、何でないの?」
 確かにつけた鈴も、刺したカッターも、今目の前にある濡れたぬいぐるみにはなかった。
 ぞわりとした感覚が背中を走る。
これはヤバイ。
早くこの遊びを終わらせないと。
結城は携帯を投げるように置くと、ぬいぐるみの目隠しに手をかけた。
チリン。
「……え?」
 チリン。
「……はぁぁぁ……」
「……」
 背中から、自分のものではない息遣いが聞こえた。
 チリン。
 鈴が、結城目の前に落ちた瞬間、目が何かに刺されたかのように熱くなり、結城の意識はぶつりと無くなった。

「――行方不明中の女子高校生が午前三時頃、死体となって発見されました。遺体には目が抉られていることから、先日の事件との関連を捜査して――」
 二人の女子高生が部屋のテレビを見ている。
「この事件の被害者ってさ、うちの学校の生徒でしょ? なんかさ、両親も兄弟もいなかったらしくて、その子が何時行方不明になったかも分からないんだって」
「でもさ、パソコンしてたとかで、掲示板に多分その子の書き込みだっていうのがあったらしいよ。なんか一人目隠し鬼とかいう内容の掲示板だって」
「えー? 何その一人目隠し鬼って」
「なんかさ、今ネットで話題らしいよ。本当に霊が出るって噂」
「へえーなんか面白そう」
「だよね。今度やってみる?」

 何処かでまた、チリンと鈴がなった。

                           終


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: