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紫色の月光
第三十九話「あいあむ、ストロンガー」
オーストラリアで別行動を開始してから早三日。
黒いロングコートを羽織った青髪長髪のやたらと目つきの鋭い男、マーティオ・S・ベルセリオンは、相方の切咲・狂夜と懐かれた少女、雪月花・ネオンと供に京都のとある山の中にいた。
目的は山の中にある人知らずの村、忍者の里である。
嘗てマーティオとネオンはその忍者の里で出会い、そしてそのままお世話になった過去がある。しかし、今回は決して以前のお礼を言いに来た訳ではない。
今回の目的はズバリ、エルウィーラー星に行くための手段、宇宙船を確保することである。普通に考えたら馬鹿馬鹿しい話だが、それでも大真面目に取り組んでいるのが彼等なのである。
それに、村の一番の知人とも言える慎也は、裏組織『イシュ』の情報を提供してくれた人物でもある。話せば何か手がかりが掴めるのではないか、と思い山道を進んでいた訳だが、
「……ねぇ、マーティオ」
「何だ、キョーヤ?」
隣の木陰に隠れた状態で、狂夜がずれかけた眼鏡を直しながらマーティオに質問する。
「あのおさげの女の子、君に何か恨みでもあるのかい?」
「前に、パリでちょっとコケにしてやったからな。その時の恨みかもしれん」
木陰に隠れる彼等の目線の先には、黒装束に身を包んだ黒髪の少女、神谷・霧夜がいた。裏世界では有名な暗殺者、ダーク・キリヤと呼ばれている彼女だが、少し前にパリでマーティオと戦った際、水鉄砲で敗北すると言う屈辱を味わってしまったのである。
故に、彼女はリベンジの機会を伺っていたのだ。
そして自分の生れ故郷であり、同時に追い出した憎らしいこの里にマーティオが入る前に、彼を倒そうと襲い掛かってきたのである。
「マーティオ・S・ベルセリオン……!」
得意の技である手裏剣影分身を放ちつつ、以前マーティオを仕留め損ねた小刀を取り出す霧夜。その目には敵意とも憎悪とも取れる灼熱の炎が溢れており、以前相対したときの10倍は迫力があった。
「必ず貴様を殺してみせる……! あんな屈辱を晴らすチャンス、今しかない!」
歯を噛み締め、マーティオたち目掛けて疾走。
音も無く、風のように駆け抜け、木陰に隠れる狂夜に目もくれずにマーティオへと小刀を振り下ろす霧夜。
だが、そこにいるマーティオはただ不敵に笑うだけで、何も抵抗しようとしない。
しかし代わりに行動を起していたのはネオンだった。
彼女は近くの木陰からその小さな身体を出現させたかと思うと、迷うことなく迅速の速さで弓を放つ。
空を切裂きながら猛スピードで接近するその存在に気付いた霧夜は、思わず跳躍。人間離れした、ウサギとしか言いようがないジャンプで一気にネオンの矢を回避する。
「ちっ、流石に忍者だけあって素早いな」
その動きを見たマーティオは思わず舌打ち。
一旦体勢を整えるべく離脱した霧夜を見届けた後、その場にふてぶてしく座り込む。
「奴のすばしっこさは俺たち三人よりも上か。しかも手数の多さも、恐らくは奴が上だろ」
「幸いなのは、狙いがマーティオだけに絞られてるってことだね。死んだフリでもしてみる?」
狂夜が言うと、マーティオは首を横に振った。
「冗談は止めてくれ。相手は仮にもプロだ。上手くいく可能性が限りなく低いぜ」
「……なら、どうする?」
ネオンの呟きに、思わず唸るマーティオと狂夜。
考えても見れば、以前撃退した相手なのだ。出来ることならここでさっさと片付けて目的地へと急ぎたいのだったが、
(すばしっこくて、尚且つ切れ味がいい刀があるとなればキョーヤのレベル4はあまり相性がいいとは言えないな。かと言ってネオンの奴の攻撃はさっきのもかわされたし……)
と、なれば当然ながら自分がやらなければならない訳だが、今の霧夜は何か近づきたくなかった。
仮にも前回は勝利した相手とはいえ、彼女はこの山の中を熟知している。地の利、それを生かした戦法、そして勝つための切り札だって新たに用意しているはずだ。
そして何より、マーティオは霧夜をこのまま消し去ってしまいたい、とも思っていた。
(ぶっちゃけ、これからも出てこられたらちょっと嫌だしな。この際、ここで消え去ってもらった方がいいかも)
と、なれば話は決まった。
全力全壊、サイズの出力を最大限にまで高めたレベル4のディアナライト・クラッシャーで一気に消し飛ばしてやろうじゃないか。山も消し飛ぶ気がするが、ここで大事なのは自分の意見だ。他がどうなろうが、今の自分がよければ何の問題も無い。
「あ」
だが、実行しようとした瞬間、マーティオは気付いた。
この時間、まだお月様が出てないじゃないか、と。
「しまった。サイズのレベル4使用はお月様が顔を出している夜にしか効果が無い。今まで使用してた時は自然に夜だったから、自然体で忘れてたぜ」
がっくりと肩を落とすマーティオ。
どうにも時間制限がある最終兵器はこういうときに不便である。所構わず使用できるエリックたちが、このときだけは羨ましく思えた。
「あー、サイズよサイズよサイズ様。どうか俺様にあの五月蝿い蝿を撃退する、なんでもいいからすんげぇパワーでも付けてくれないかな。出来ればお月様が出て無くても万事OKな方向で」
「いやいや、マーティオ。サイズにお願いしても何も意味ないから」
横で狂夜が言うと、そうだな、と呟いてからマーティオがため息を着く。
だが、次の瞬間。
「!?」
突然、サイズの曲刃と柄が眩い光を発し始め、マーティオを包むこんでいってしまう。
「!」
その感覚に違和感を覚えつつも、そのまま光に飲み込まれていくマーティオ。
抵抗しようにも、眩しすぎて目を開けていられず、尚且つどうすればいいのか分からなかったからである。
だが、そんな彼に語りかけてくる、一つの声があった。
『OKだぜ、相棒。その願い、このサイズ様が叶えてやろうじゃねぇか!』
「何!?」
その口から疑問の言葉が発せられたと同時。
『ソレ』は覚醒した。
いや、してしまった、というべきだろうか。
兎に角この瞬間、マーティオ・S・ベルセリオンは『力』を手に入れてしまったのである。
「くっ、なんだったのよ今の……」
吐き捨てるようにして言いながら、霧夜は目を開ける。
一旦離脱した後、すぐに仕掛けようと思って突撃してみたら今度は凄まじい光が放たれて、思わず目がくらんでしまったのだ。この不思議な状況を前にして、少しとはいえ頭が混乱しないわけが無かった。
「そうだ! マーティオは!? ……奴は!?」
三人がいた場所を見てみる。
すると、視界に収まる場所にいるのは白髪の少女ネオンと、牛乳瓶の底みたいな眼鏡をかけている青年、狂夜。そして、青髪の男、標的であるマーティオの三人が変わらずに其処にいた。
「…………ん?」
だが、明らかに様子が違うのが一人いた。
その一人の異常な状態を見て、狂夜は唖然と口を開けており、ネオンに至っては目をぱちくりとさせては擦っている。
そして霧夜も、思わず唖然として目の前にいる青髪の影を見つめるしか出来なかった。
何故かと言えば、先程まで其処にいたはずの青髪の男が、何故か長い髪をツインテールにしており、しかも先程まで着用していたはずの黒の悪っぽいロングコートも何時の間にか黒の可愛らしいデザインの半袖&ミニスカ(スパッツ&ニーソ着用)に変化。
更には、心なしか背が縮んでおり、尚且つ胸の辺りに『二つの膨らみ』のような物が出来ている気がする。
しかも、刃のように鋭すぎる目つきも、どういうわけかかなり柔らかくなっている。
ぶっちゃけると、マーティオがどう見ても別人になっていたのである。
全員が唖然としつつマーティオ(?)を見ていると、その存在は閉じていた目を開け、その海のような深い青の瞳を光らせる。
直後、くるん、と効果音を付けながら、口を開いた。
「やっほー! 殺戮魔鎌少女、『まーりん』だよー! お月様に代わってぶった切りなのだー!」
その場で全員が、ずでーん、と派手な音とともにずっこけた。
このまーりんなる存在は、どういうわけか元のマーティオの声がまるで残っておらず、外見を含めて全て幼い少女のそれと成り果てていたのである。
唯一変化なしなのは、ずっと手に握られているサイズだけである。気のせいか、サイズの曲刃が『どんなもんだい』とでも言わんばかりに輝いているように見える。
「さあ、ダーク・キリヤ! 月に代わって惨殺なの!」
さも当然、とでも言わんばかりにサイズを構え、霧夜に突っ込むまーりん。しかも身体が縮んだためか、スピードが上がっていた。
「え、ええっ!?」
思わずたじろぐ霧夜。
だが、まーりんは止まらずにサイズを一閃。霧夜はこれを間一髪で避けるも、サイズから放たれた衝撃波の影響で、近くの木々が一瞬にして『消し飛んでしまった』。
「…………」
呆然としながらこの光景を見る狂夜。
(ああ、マーティオ。君は色んな意味で戻れないところまで来てしまっていたんだね。エリックと先輩がいないことが唯一の救いだよ)
取りあえず、霧夜に対して、手を合わせておこう。
その行動を取ったと同時、狂夜は思わず呟いていた。
「南無阿弥陀仏……」
忍者の里、そこに住む神谷家の二人は、事情を聞いてふむ、と頷いた。
流石に宇宙人絡みの話なだけあって信じてくれるかは微妙なところだったが、イシュ関連の協力者なだけあって、案外楽に話は進んだ。
「成る程、宇宙船ですか……」
家の主である神谷・慎也が言うと、三人を代表して狂夜が頷いた。
「はい、なんでもいいんです。何かご存じないでしょうか?」
「うーむ……流石に宇宙船と来たら、私もお手上げですな。棗、お前はどうだ?」
すると、慎也の横に座る彼の娘、棗も首を横に振ってから答える。
「私も全然です。多分、村の皆も同じだと……」
「そうだよなぁ……もしそんな情報あったら、真っ先に動いてお父さんが宇宙に行ってたよ」
何処か遠い目で窓の外を見つめる慎也。
しかし、彼等神谷親子にはどうしても気になることが二つあった。
「……ベルセリオン殿。暫く見ない間にかなり変わりましたな。何かあったので?」
「違うよしんやおじちゃん! べるせりおん、じゃなくてまーりん! あいあむ、殺戮魔鎌少女まーりんなの!」
第一に、この元の姿の一欠けらも感じられないマーティオの姿である。
コレには流石の忍者の皆様も驚くしかなく、神谷家の周りにはこのマーティオの噂を聞きつけた者たちが、野次馬根性で集まってきていた。
ついでに言うと、結構可愛かったりする。
先程も慎也にサインを書いたばかりで、人気者に磨きがかかりそうな勢いだった。
因みに、ネオンと棗は何か面白くなさそうな顔でまーりんを睨んでいた。年頃の女の子は何かと複雑なのである。
そして第二に、この村から追い出された慎也のもう一人の娘、そして棗の姉である霧夜がボロボロの状態で部屋の隅っこに放置されていることだった。
なんでも、このまーりんに派手に『やられてしまった』らしい。どうやら攻撃的な性格は変化なしだったようだ。
「霧夜、こういう話は寧ろお前がよく知っているんじゃないか? お前は私たちより外にいるだろ?」
慎也に問われるが、霧夜はごろり、と寝返ってから『嫌』と即答。
「なんで私がよりにもよってこいつ等に協力しなきゃならんのよ。寧ろ、攻撃されてるしー?」
当然の主張だった。
そもそもにして彼女としては一度追い出された村に帰ってくること事態が屈辱であり、それを『強制連行』、『私の怒り』の名の下に無理矢理まーりんに連れてこられたのである。
霧夜はそんな屈辱を受けた後、すぐに協力するようなお人よしではないのだ。
だが、しかし。
「協力するの」
寝ている彼女の頬を『狙って』、サイズを振り下ろすまーりん。
その空気を切裂く感覚を察知した霧夜はすぐさま回避。転がりそうになりながらも、何とか間一髪でサイズの一撃をかわした。
「協力しないなら、ダーク・キリヤ。略してクリはこの曲刃の錆となっちゃうの」
「え!? 何々、最近の少女は戦意の無い相手でも容赦が無いの!?」
違うの、と言ってからまーりんは再びサイズを構える。
「大切なのは、あいあむ、ストロンガー。私が最強であることだけなの。その他はぶっちゃけどうでもいいよ。だから敵に容赦はないの」
凄まじいカミングアウトが飛び出してしまった。
だが、外見が可愛らしくなったとはいえ、身体から噴出してくる黒いオーラは本物だった。
「最近は空気を読まないで最強を名乗る馬鹿が多いから困るの。真のナンバー1はこの私だけなの。どぅーゆーあんだーすたんっ!?」
「い、イエース!」
思わず手を上げて、降参ポーズを取ってしまう霧夜。どうやらこの少女に恐怖心と言うものを植え付けられてしまったらしい。それはそれでちょっと可哀想な光景だった為か、棗は、
「可哀想な霧夜姉さん……」
とか言いながらハンカチで涙を拭っていた。
「私の可愛いマイシスター! 私を哀れむ目で見ないで! 姉さん恥ずかしさの余り死んじゃう!」
「そんな恥ずかしさに殺される前に、私が息の根を止めてあげるの! 恥ずかしさよりも先に敵を分断する少女、まーりんっ!」
「あー、ゴメン。話が物凄くややこしくなるから君は少し黙っててくれない?」
狂夜が宥めようとまーりんに話しかけるが、彼女はやはり首を横に振り、否定の意思を見せた。
「忘れたの? キョーヤお兄ちゃん。……私は殺戮魔鎌少女。Noとしか言わない少女なのよ!」
「YESと言え!」
「絶対にノゥ!」
すると、今度はネオンが悲しそうな目で呟いた。
「……私の、マーティオは、何処?」
何だか現実逃避を始めたようである。
この少女も中々苦労をしているのだ。
「パパ? マーティオがいないの。パパのところに、いない? それとも、先輩さんの、所に、行っちゃった?」
俯いてブツブツと何か喋りだすネオン。正直な話、とても不気味だった。
そしてこの光景を見た狂夜は思った。
ああ、このままじゃNiceboatのターンになる可能性が出てきてしまう、と。
「先輩、エリック……今日ほど君等がいなくて寂しい日はないよ」
「何を言うのキョーヤお兄ちゃん。こんな女、エリックお兄ちゃんにフェイトお姉ちゃんが来るまでもないの。私だけで、『あいあむ、ストロンガー』を立証してみせるわ!」
「せんでええ!」
思わず棗からの突っ込みハリセン攻撃がまーりんの頭に直撃。
その勢いで吹っ飛ばされたまーりんは、後頭部を痛がりつつも立ち上がり、棗を睨む。
「そうなの……どうやら貴女もその女と一緒に真っ二つをご希望みたいなの」
「え?」
思わず疑問の言葉を上げてしまう棗。
だが、気付いた時は時既に遅し。何時の間にか彼女は霧夜共々、まーりんの真っ二つ候補に入ってしまったようだ。
「その女も何だかんだで非協力的なの。ならば真っ二つにするしかないの」
サイズを構え、大きく振りかざすまーりん。
気のせいか、可愛らしいはずの目が何時ものマーティオの殺意溢れる目にしか見えない。
「わああああああああああああああああ!! ちょっとタンマ、ここ家の中――――」
本気で家ごと消し飛ばしかねないまーりんの殺意を感じ取った狂夜は、彼女を止めようと慌てて飛びいるも、時既に遅し。
「必殺、でぃあならいと・くらっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
次の瞬間、サイズから放たれる溢れんばかりの光が、神谷家を覆った。
光が止んだ後は、神谷家は見る影も無く粉砕。
幸いながら死者は出なかったが、狂夜と慎也は吹っ飛ばされて、近くの木々に服が引っかかってしまい、下に降りれない状況に陥ってしまっていた。
いや、ある意味では幸いなのかもしれない。攻撃を放ったまーりんは間一髪で外に脱出した霧夜と棗の姉妹、そしてネオンに向けて追撃を行おうとしているからだ。
下手に動いて攻撃を受けるより、このまま引っかかっている方が幾分か気が楽ではある。
「ああ、マーティオ。君は本当に何処に行ってしまったんだい?」
眼鏡をかけ直した後、狂夜は静かに呟いた。
ソレを近くで見た慎也は、思わずハンカチで目元を押さえながら彼に言葉をかける。
「切咲殿、お気持ち分かります……貴方も大変ですなぁ」
役に立ちそうにない男二人を置いといて、霧夜と棗の姉妹は今正に大ピンチを迎えようとしていた。
目の前には瞳をぎらぎらと輝かせながら近づいてくる殺戮魔鎌少女が一人。しかも性格はある意味元のひねくれ男よりも厄介だ。
「さあ、真っ二つの時間だよ?」
さも当然とでも言わんばかりの純粋な一言。
だが、一見とても可愛らしく思える少女の笑みにしては、とてつもない恐怖を覚える光景だった。
「霧夜姉さん、あいつに早く謝って! 可愛い妹の未来のためにも、姉さんの未来のためにも!」
「駄目よマイシスター! 奴の目は本気よ! 今ごめんなさいと言った所で、あいつは行為を止めようとはしないわ! と言うか、言いたくない!」
全く謝る気が無い霧夜(当然と言えば当然なのだが)。
だが、ソレを見たまーりんは更なる笑みを浮かべることで彼女たちに答える。
「それじゃあ、殺してあげるね?」
だが、口から出てきた言葉は凄まじくクレイジーで、尚且つ少女からは想像もできないような言葉だった。
言い終えた直後、まーりんは鎌を振り上げ、その曲刃から放たれる光を神谷姉妹に向けて放つ。
「るならいと・くらっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
放たれる光の波動。
いや、砲撃、と言ってもいいだろう。ソレほどまでに巨大で、尚且つ凄まじい光の波動だったのだ。
だが、その光の波動は神谷姉妹に当たる前に突然『壁』のような物に命中し、その場で爆発。攻撃を封じられてしまったのである。
「誰?」
まーりんが笑みを絶やさずに言うと(ただ、目は笑っていなかった)、爆風の煙の中から、その幼い影が姿を現す。
まるで神谷姉妹を守るかのようにして前に出た姿の正体は、ネオンだった。
彼女は俯いたままぶつぶつと何かを呟いており、何か近づきがたいオーラを噴出しまくっている。
正直、これ以上の事態の悪化は止めて欲しかった。
「マーティオは、何処? 何処に、やったの?」
生気のない瞳でまーりんを見るネオン。
「ねえ、何処? 何処? 何処? 何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処」
か細い声で呟くネオンに、何とも言えない恐怖感を味わう霧夜と棗。そして群がっていた村の人たち。
出来れば、逃げ出してしまいたい気持ちだった。
「あなたも邪魔するの? なら、私が真っ二つにしてしまうの」
まーりんが再びサイズを構え、ネオンと神谷姉妹に向けて衝撃波を放つ。
だがその衝撃の波は、全てネオンが作り出す鏡の障壁の前に防がれ、ただの涼風がネオンの頬を伝わるだけだった。
「……どうやら、ちょっとマジになる必要があるの。この際だから、星ごと真っ二つにしてしまうの」
既に表情からは穏やかな笑みが消え去り、冷酷な目と殺意だけがぶつけられる。
その恐ろしいまでに研ぎ澄まされた殺意を感じ取ったネオンは、少しだけ。ほんの少しだけ笑みを浮かべると、まーりんに弓を構え、光の矢を向ける。
「そうか、あなたが、マーティオを、どこかに、やっちゃったんだ」
途切れ途切れに言うネオン。気のせいか、どんどん言葉が重くなっているような気がする。
だが次の瞬間。
彼女は言い放った。
何の容赦もなく、歪んだ笑みと目を剥き出しにしたままで。
「死んじゃえ」
直後。
二つの光が、京都の山一帯を包み込んでしまった。
「もう嫌……もう関りたくないわ。私が馬鹿だったのよ……」
それが光が完全に止んだ後の霧夜の第一声だった。
完全に立つ気力もなくなっており、涙すら流してしまいそうなほど弱弱しい姿を見て、誰か彼女を攻めれるだろうか。
それどころか、同情さえ出来そうな気がしてしまう。
「可哀想な霧夜姉さん……」
思わずハンカチで涙を拭っていた棗としても、この状況を見てはそういわざるを得なかった。
村だった地点には既に『クレーター』が出来上がっており、そのど真ん中にはまーりんが手から離そうとしなかった最終兵器サイズだけが突き刺さっていた。
ネオンの方は、まるで何かを成し遂げたかのような清々しい顔をしており、天に向かって、
「パパ、私、やったよ」
と、親指を立てて手を突き出していた。
どうやらこの勝負、ネオンの勝利に終わったようである。
だが、今にして思えば彼女の最終兵器は過去、猛戦においても暴走したマーティオのサイズの一撃を防いだし、今回の一件でもまーりんの一撃を防ぐ、と言った完全防御が見られた。
恐らく、相性の問題だったのだろう。
「ところで、あの馬鹿消えちゃったの?」
そこらへんを見回してみると、あの青と黒の悪魔のような少女――まーりんの姿は何処にもなかった。
今まで手に握っていたサイズだけが残されていると言うことは、考えられる可能性は一つ。
「ま、まさか本当に消し飛んだんじゃ……」
棗がそんなことを考えていると、霧夜はようやく落ち着いたのか、立ち上がってから言う。
「もういいわ棗。私、二度とアイツに関わらない。分かったのよ、あのベル公に関わるとロクな事にならないって」
「そーかい。こっちとしても願い下げだぜ」
「ええ、この際何処かの宗教にでも入って、生き方を一から変えてみるのもいいかも――――って、あれ?」
そこで霧夜は気付いた。
今、自分に話しかけてきた男の声。
一体誰の物だっただろうか。
心なしか、目の前にいる愛しのマイシスターこと棗ががたがた、と震え始めているではないか。しかも表情を『恐怖』の色に染めた状態で、だ。
少し、本当の少しだけ引きつった表情で背後を見てみる。
すると、其処には全身血まみれの状態で突っ立っているマーティオ・S・ベルセリオンがいた。この出血具合から考えて、すぐに治療しなければ相当危険だと思われるが、此処まで見事に突っ立っているところを見ると多分大丈夫なのだろう。
「だが、俺様の目の前から消える前に、貴様には聞かなければならんことがある」
がし、っと霧夜の頭を血まみれの右手で掴むマーティオ。
その瞬間、何とも言えない恐怖感が霧夜を支配し、身体中に危険信号を伝える電気ショックが流れていった。
「慎也殿に棗が駄目なら、貴様に問わせてもらおう……宇宙船の情報を知っているならば、大人しく言え」
後ろからネオンが『とても』嬉しそうな表情で、
「言えー」
と呟いている。
「えーあー……」
全身が血に染まりつつも、持ち前の刃のような鋭すぎる目つきから発せられるギラギラとした眼光をまん前から叩きつけられる霧夜。正直、既に人を大きく突き放した威圧感を前にして全身汗まみれだった。
更に言うと、マーティオに捕まれている頭から流れてくる彼の血が、妙な寒気と言うか、怖気を彼女に与えていた。
「そ、そういえば!」
そこで、何かを思い出したかのようにして喋りだす霧夜。
「前に知人から聞いたんだけど、宇宙人に捕まった女怪盗が、そこから謎の宝石を奪って、それを高値でアメリカの金持ちに売ったらしいわ!」
「ほう、そいつはまた興味深い話だ。どう思うキョーヤ?」
振り向いて狂夜の引っかかっている木へと目線を送ってみる。
すると、狂夜は身体全身を使って大きなOKサインを出した。
「ソレ多分、前に僕等と接触したアルイーターの宇宙船の動力源だよ! あの時、女泥棒も乗ってて、尚且ついなくなったと思ったら動力源も盗まれていたから多分間違いないと思う!」
「よし、早速エリックと先輩に連絡を入れろ! 早々に希望が見えてきたぜ――――」
其処まで言い終えると同時、ばたり、と倒れこむマーティオ。
どうしたのかと思って見れ見れば、身体中からどくどくと真っ赤な血が勢いよく流れ出ているではないか。
「きゅ、救急車!? 誰か救急車、もしくは医療組を早く! このままじゃコイツ死ぬわよ!」
慌てて棗が叫ぶが、霧夜はもう死んでくれ、と思っていた。
いずれにせよ、霧夜は二度とマーティオたちに近づくまい、と決意したのである。
取りあえず、頭を掴まれた際にべっとりとついてしまった血を拭い去ってしまおう。
そう思った霧夜は、ため息をついてから村を出て行った。
最終兵器を開発した地、古代都市リレイア。
この土地には、大昔に最終兵器開発に関わった者たちの日記が収められている。
その日記には、このように記されていた。
最終兵器の一つ、名称サイズは10の最終兵器の中でも特に攻撃に特化された最終兵器である。一撃必殺、純粋な力勝負になるとランスやアックス、ナックルと言った最終兵器に劣るかもしれないが、ソレを補うための高出力化のレベル4だ。
しかし、これには欠点がある。
その欠点とは、最大の利点である高出力化の時間帯が限られている、と言うことだ。
何時、どこでも使用可能にしなければ『最終兵器』の名は相応しくないだろう。
そこで、我々はサイズの改造を試みた。
その改造とは、サイズに蓄積されたエネルギー。つまり、『溜め込んだ月の光のエネルギー』を所持者が望む時に解放する、と言う発案から行われたことである。
結果としては成功を収めたのだが、サイズの高出力には所持者の精神面にも相当な負担をかけるらしく、所持者自身の自我が失われ、様々な形での『暴走』が起きることが判明した。
純粋な闘争本能に従う形の暴走。あるいは脳に負担をかけることで起きる性格激変。酷い形では肉体の性別変化と精神面での暴走が同時に起きる場合も見られた。特に最後の例は凄まじく、一度暴走を克服した者でも簡単に陥ってしまう最悪のパターンと言えた。
最も、その暴走も所持者がサイズを手放してしまえば元に戻ってしまうのだが、暴走した所持者は滅多な事ではサイズを手放そうとはしない。
そこで、我々はこの対抗策のために、最終兵器アローに対最終兵器サイズの能力をプラスしたのである。
元々相手の攻撃を跳ね返す能力を持つアローに、更に『サイズのエネルギーの吸収』機能を追加させたのだ。これでサイズの攻撃はアローの前では全て防がれてしまうし、力も吸収して返す事ができる。
これさえあれば、何時サイズの暴走が起きても大丈夫だろう。
願わくば、サイズとアローが遠い時代を超えても常に供にあることを望む。
さもなくば、世界はサイズの『理不尽』の名の下、真っ二つにされてしまうであろう。
……何故根本的な改造を行わなかったのか。
それは我々のある意味での最大の失敗と言えるかもしれない。
続く
次回予告
エリック「Drピートの協力でアルイーターの宇宙船のサルベージは何とかなりそうだし、動力源の在り処も見つかった。早速予告上を出して、さあ盗もうと思ったら、そこには警官たちのオンパレード!?」
フェイト「最早グレイト、としか言いようがない豪華な面子構成を前に、我々二人は唖然としていたのだが、そんな中あの男が姿を現した!」
エリック「たった一人のオッドヘアーの少女の持つ宝石を巡り、今、俺と『あいつ』と警官たちの戦いが始まる!」
アルイーター「次回、『別れの時』」
カイト「なあ、エリック。大事な家族と離れた時、お前は何を思った?」
第四十話へ
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