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10月20日に蒼井優さんが「あさイチ」に出演された際、 本著の名前をあげられたことで興味を持ち、読んでみました。 しかしながら、大学受験では「生物Ⅰ」を選択し、それなりに勉強はしたものの、 それは、物理・化学が壊滅状態だったためという私には、かなり難解な一冊でした。 本著をスイスイと読み進めるためには、 一定レベルの生物・化学の知識・教養を持ち合わせていることが必要でしょう。 しかも、本著は㎛以下の世界を、情緒的な美文を用いて描き出そうとしているので、 知識不足の読者にとっては、余計に理解から遠避けられてしまうような気がします。それでも、20世紀最大の発見と言われるワトソンとクリックによる「DNAの二重ラセン構造の発見」に関する疑惑を描いた第6章は、科学者間の競争の激烈さが伝わって来る、とても興味深いものでした。また、第7章には『そんなバカな!遺伝子と神について』が登場し、懐かしかったです。
2023.12.30
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第1章は、森宮優子の高校生活最後の1年が描かれる。 優子は、生まれた時は水戸姓、その後、田中、泉ヶ原を経て、 現在は森宮性を名乗っている。 最初の父親は水戸秀平、母親は優子が3歳の時トラックに轢かれ亡くなっていた。 優子が小学2年生になった時、35歳の秀平はそのことを初めて優子に話す。 そして、優子が3年生になる前の春休み、27歳の田中梨花と結婚して3人での生活が始まった。 優子が4年生の終業式の日、秀平は自身のブラジル転勤と、梨花との離婚について優子に話す。そして、自分と一緒にブラジルに行くか、梨花と一緒に日本に残るかを優子に選ばせる。3月30日、優子は日本に残ることを選択、梨花と二人で田中優子としての生活が始まった。6年生になった優子は、「ピアノ、習いたいな」の言葉を梨花に漏らす。すると、優子の小学校卒業の日、32歳になった梨花は、49歳の泉ヶ原茂雄と結婚。その日の食費にも困る生活から、グランドピアノやお手伝いさんがいる生活へと一変する。しかし、梨花は9月中旬には家を出てしまい、以後、優子にも「一緒に行こうよ」と誘い続ける。そして、優子の中学卒業後の春休みに、梨花は中学の同級生で東大卒の森宮壮介と入籍、優子を引き取ると、優子と泉ヶ原茂雄に告げたのだった。ところが、3人での生活が始まって2か月で梨花は出て行ってしまい、森宮に離婚届が届く。以後、優子は森宮と一緒に暮らしながら、3年間の高校生活を過ごすことに。そして、高校生活最後の一年も、球技大会、合唱祭、大学受験を経て卒業式を迎えたのだった。第2章は、22歳になった森宮優子が、高校の同級生・早瀬君との結婚式を迎えるまでが描かれる。優子と再会した梨花は、隠し続けていた「秀平から優子への手紙の山」を段ボールに詰めて送る。 そして結婚式、3人の父親と共に、泉ヶ原茂雄と再婚した梨花の姿があった。 ***本著を読み終えてから、すぐに映画化されたものを見ました。当然のことながら、時間的制約等から様々なアレンジが加えられており、原作とは別物になっているのですが、強く感じたのは梨花を何とか擁護しようとする姿勢。秀平は転勤ではなく、自分一人で勝手に会社を辞めてブラジルで事業を始めるという設定でした。 「老人ホームにはお年寄りのお世話をするプロがいっぱいいるんだから。 それに、親子だといらいらすることも、 他人となら上手にやっていけたりするんだよね」(p.152)これは、優子が梨花と二人で暮らしていた家の大家さんの言葉。そうだなぁ、と思います。 だいたい学校で起こるもめ事はどう動いたところで、解決が早まることはない。 クラスの雰囲気が動くのを待っしかないのだ。(p.167)これは、優子が学校でみんなに避けられている時期に、優子が語っている部分。このご時世ですから強烈な反論もあると思いますが、正鵠を得ていると感じる方もいるのでは。 散々悪口を言って盛り上がる二人に、お父さんたちが気の毒になった。 そして、それ以上に、これだけ陰口を叩いても共に暮らせるのだと、 血のつながりの深さを思い知らされた気がした。(p.223)これは、女友達二人が自分の父親をこき下ろすところを見て、優子が語っている部分。これも、そうだなぁと思います。 「森宮さん、いつもどこか一歩引いているところがあるけど、 何かを真剣に考えたり、誰かと真剣に付き合ったりしたら、 ごたごたするのはつきものよ。 いつでもなんでも平気だなんて、つまらないでしょう」(p.234)これは、巻末「解説」で上白石萌音さんが推している担任の向井先生が優子に言った言葉。元教員の瀬尾さんが、向井先生の姿を借りて語りかけているように感じました。
2023.12.24
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1997年春に発生した「酒鬼薔薇事件」を契機に、本著の著者・奥野さんは、 1969年4月23日に発生した「高校生による同級生殺害事件」の取材を開始。 その原稿は、月刊『文藝春秋』1997年12月号に掲載されました。 事件や加害者の医療少年院送致までについては、当時の新聞報道や友人の証言、 裁判記録、精神鑑定書等から、その様子を知ることが出来たものの、 その後については、被害者家族ですら調べる術はありませんでした。加害者にまつわる「なぜ」をいくら追っても虚しさが漂うだけと感じた著者は、被害者遺族がその後の人生をどれだけ苦しみながら生きてきたかを詳らかにする方が大事なのではないかと思い立ち、本格的に取材を始めます。そのため、本著の大半は被害者家族のその後を描くことに費やされ、それらは、被害者の母親や妹を中心に、関係者が著者に語った言葉をもとにしたものです。「心にナイフをしのばせて」いたのも、加害者ではなく妹さんです。被害者家族の内情を、ここまで世間に晒す意義があるのかと思いつつ読み進めましたが、それでも、終盤に差し掛かると、弁護士となった加害者が登場、その想像を絶する振る舞いに、開いた口が塞がらない場面が積み重なっていきます。 「この本は被害者側の取材が大半を占めていて、 加害者側の取材が充分になされていないのはおかしい。 作品として不完全ではないか」(p.302)これは、「文庫版あとがき 異常心理は理解できるのか」に記されている著者がある高名な方から間接的に言われたという言葉です。それでも、本著の出版が、平成16年の「犯罪被害者等基本法」の制定や次の妹さんの言葉へと繋がっていったのなら、価値はあったのだと私は思いました。 ただわたしの記憶も曖昧だ。 自ら確かめるために、わたしはその方と一緒に親戚や兄の友人たちを訪ね歩いた。 関係者から話をうかがうにつれ、 わたしがきらっていた母のイメージが変化しはじめた。 そして、母の生き方が実に人間らしく見えるようになった。(p.286)御子柴礼司には、この事件の加害者とは違う振る舞いを期待したいです。
2023.12.20
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湊かなえさんの、作家生活15周年記念となる書き下ろし長編。 デビュー作『告白』を彷彿させるとのことですが…… *** 帯には「イヤミスの女王、さらなる覚醒」の文字。 この帯と購入した書店のポップで、私は初めて「イヤミス」という言葉を知りました。 表紙カバーには青色と赤色で蝶が描かれ、白抜き文字でタイトル、著者名と出版社名が。 裏表紙にも、表紙よりは小さめに、赤色と緑色で蝶が描かれています。カバーを外すと、光沢のある表紙に、いくつもの花がモノトーンで描かれており、それを捲った青地の見返し(遊び)には、銀色で書かれた湊さんのサインとスタンプが。12月12日(火)に立ち寄った書店で見つけたこのサイン本には、そのあて紙と共に、購入した際にもらったレシートや、その書店カフェの飲食割引券も挟んだままになっています。見返しを捲ると、色鮮やかな絵画を背景に、タイトル・著者名・出版社名が記されていて、その裏面からは、6体の「人間標本」グラフィックが続きます。そして、8頁に及ぶカラー頁の最後には、黒地に小さく白抜き文字で「口絵 高松和樹」と記されています。「人間標本 榊志朗」は、蝶の分野では権威と呼ばれる明慶大学理学部生物学科教授・榊史朗が、投稿サイトにあげた手記の部分。彼の父・一朗は、大切な式典の場で「人間の標本を作りたい」と発言、画壇から追放されますが、藝大時代の同級生・一ノ瀬佐和子は一朗に肖像画を依頼、完成後に彼が住む山の家を訪問します。その際に同行した娘・留美は、小学1年生の史朗が夏休みの宿題用に作った蝶の標本を譲り受け、25年後に史朗と再会した時には、色彩の魔術師と世界中で称賛される画家になっていました。そして今年の初夏、中2の息子・至宛てに、留美から合宿参加の招待状が届きます。それは、娘・杏奈をモデルに絵を仕上げさせ、自分の後継者に相応しい一人を選ぶというもので、集まったのは、深澤蒼、石岡翔、赤羽輝、白瀬透、黒岩大、そして榊至の6人の少年たちでした。手記には、史朗が「人間標本」を作るに至った動機や、各作品に関する記録も示されています。「SNSより抜粋」は、「未成年男性6人死体遺棄事件」に関するSNS上の一連のコメント部分。事件発覚の経緯や、世間の声が記されています。『夏休み自由研究 「人間標本」 2年B組13番 榊至』は、榊至が記した「人間標本」作製に関するレポートで、そこに至った心境も詳細に書かれています。「独房にて」は、裁判で死刑判決が出た榊史朗の回顧録。蝶の観測から帰宅した後、家の様子に違和感を感じた史朗は、息子の夏休み自由研究や、明後日に新たな被害者が出るかもしれないことに気付き、息子を殺害後、息子の罪を背負い、自らの罪も罰してもらえるよう、手記を書き始めたのでした。「面会室にて」は、面会室での史朗と杏奈との対話で、そのキーワードは「擬態」と「目」。杏奈は、母親に自分を後継者と認めさせたくて「人間標本」作製を企図し、至も側にいたと告白。しかし、志朗は矛盾を感じ取り、首謀者が留美で、杏奈は計画継続を託されたのだと気付きます。そして、自身の指示通りに、完成した標本を史朗に見せることが出来なかった杏奈に対して、留美が「役立たず、やっぱり失敗作だった」と言った後に、息を引き取ったと知らされます。さらに、杏奈が標本を作成したことで、新たに「目」を手に入れ、逆に、留美がその「目」を失ってもがき苦しみ、史朗に再び救いを求めていたことや、遺体を切断、装飾を施した至が、父親の手で「人間標本」にされるように誘導しながらも、父親が「擬態」に気付いてくれることにも期待していたと思い至り、激しく後悔するのでした。「解析結果」は、作品6に使用された花畑の絵の、科捜研による解析結果。絵の下には「お父さん、僕を標本にしてください」の文字が書かれていました。次の頁には、主要参考文献、ウェブサイトが、さらに次の頁には、「本著は書き下ろしです。本作品はフィクションであり……」の一文が、そして最終ページには、著者紹介や発行日(2023年12月13日)等が記されています。続く見返しは、遊び、効き紙共に赤色です。
2023.12.16
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2000年に刊行された『ローマ人への20の質問』を全面的に改稿したもの。 当時、塩野さんは『ローマ人の物語』の第9巻「賢帝の世紀」 (文庫版では24巻,25巻,26巻が該当)を準備中でした。 そして、そこで何を取り上げたかについては自信があるものの、 どう書いたかについては、少々なおざりにしたという思いが残っていたため、 今回書き改めることにしたとのことです。 *** アテネ人の考えた<市民>とは、 アテネの領内で両親ともがアテネ人の間に生まれた人間だけを意味していた。(中略) 一方、ローマ人の方は、市民ないし市民権を、アテネ人とはまったく反対に考えていた。 アテネ人の考える市民が<血>であれば、 ローマ人の考える市民とは、<志をともにする者>としてよいかもしれない。(p.110) 人間世界で悪なのは、格差が存在することではない。 格差が固定してしまうことなのだ。 ローマはそうではなかった。 元老院議員の少なくない部分が、 属州民か解放奴隷を祖先にもつと言われたくらいだから。(p.115)何れも、ローマがローマたる所以が伝わってくる記述。普遍帝国として、長きに渡り存続し続けたのも頷けます。 戦闘開始を前にしての降伏勧告は、古代では、戦場でのマナーとされていた。 勧告を受け容れて降伏すれば命も助かり奴隷化も免れるが、 拒否すれば女子供でも戦闘員と見なされ、敗北しようものなら、 財産もろとも勝者の所有に帰したのです。 これは<勝者の権利>と呼ばれ、この権利に疑いをいだく人は、当時は存在しなかった。 殺されようが奴隷に売りとばされようが、 敗者には抗議する権利すらなかったのだ。(p.188)戦闘というものの厳しさを、突きつけられる記述。時代や地域による違いも、当然多々あったのでしょうが。 なぜなら、この法に関するかぎりは、女たちのほうに理があったからだ。 不倫とか姦通は、当事者間で、つまりは私的に解決されるべき問題であって、 公が介入するたぐいの問題ではない。 ローマ人は、私有財産の保護が議論の余地もない大前提であったことが示すように、 <私>と<公>をはっきりと区別する民族だった。(p.220)とても考えさせられた記述。最近、<私>と<公>の区別が、あまりにも曖昧になりすぎているような…… この奴隷制が全廃されるのは、 いかなる宗教を信じようとも人権は尊重されねばならないとした、 啓蒙主義の普及によってだ。 その証拠に、どの国の奴隷制度廃止宣言も、18世紀末に集中している。 古代は、この啓蒙主義よりは2000年も昔。 人間が人間の自由を奪うことへの抵抗感が希薄であったとしても、 それが時代であったとするしかない。(p.186)本著の中で、最も心に残った部分。人類の長い歴史の中では、ほんの一瞬としか言いようがない現在という時を、極めて限定的な地域、文化の中で生きている一個人が、自身の価値観や尺度を当てはめ、異なる時代、異なる環境で生きた人を非難することには、引っかかりを覚えてしまいます。
2023.12.16
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慧月の体と入れ替わった玲琳は、歌吹から事情を聞き出すことに成功すると、 歌吹と共に、金淑妃と藍徳妃が祈祷師・安妮をもてなす宴に忍び込む。 すると、3年前の事件の真相や、鑚仰礼における今後の陰謀が明らかに。 一方、慧月は、尭明や辰宇、景彰に入れ替わりを気付かれ経緯を説明することに。 途中、潜入に気付かれそうになった玲琳と歌吹を救ったのは、賢妃・玄傲雪。 これまで隠し続けてきた本心を語る賢妃に、玲琳は公明正大な復讐を提案する。 そのためには、鑚仰礼・終の儀で、5家の雛女が協力することが必要だったが、 玲琳の顔をした慧月は金清佳の、慧月の顔をした玲琳は藍芳春の説得に成功する。そして迎えた鑚仰礼・終の儀、安妮は玲琳を炎尋の儀に掛けるが、炎に包まれたのは安妮の方。慧月の顔をした玲琳が手当のため中座した後、雛女たち5人で作った宝鏡が皇帝・弦耀に贈られる。皇帝が鏡を向けた先には雪花模様が浮かび上がり、その後、安妮と慧月の姿が映し出された。それにより、安妮の本性や金淑妃と藍徳妃との悪行が、皆の知るところとなったのだった。 ***今回は、慧月の活躍が、これまでにない程に目立ちましたね。そして、入れ替わりについて知る人の数が、随分多くなってしまいました。5人の雛女たちの関係性も大きく変化したことで、今後新たな展開が生まれそうです。気になるのは、慧月の道術に気付いた皇帝の動きと、皇后・絹秀の玲琳に対する本心ですね。
2023.12.13
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現役弁護士の五十嵐律人さんによる第62回メフィスト賞受賞作。 映画も11月10日に全国公開されました。 最近は、『贖罪の奏鳴曲』など裁判を扱った作品を読む機会が多かったのですが、 本作を読んで、五十嵐さんの他の作品も読んでみたくなりました。 ***久我清義と織本美鈴は、同じ児童養護施設で生活を共にする高校生だった。施設長・喜多が自分の部屋で美鈴を裸にさせ、写真を撮っていることを知った清義は、部屋で待ち伏せるが、揉み合いとなり喜多の胸元にナイフを突き刺すことになってしまう。しかし、美鈴が隠し撮りした映像で喜多を脅したことで、清義は少年院送致を免れる。二人は大学に進学するための費用を入手するため、痴漢詐欺を始める。ある日、美鈴はターゲットにした相手が警官だと知ると、その場を逃れようとするが、警官は美鈴の手を離さず、ホームの2階から二人は共に階段を落下、美鈴は右腕を骨折する。清義は、倒れた警官のジャケットの胸ポケットにペン型カメラを入れ、その場を立ち去った。そのカメラには盗撮映像が保存されていたため、警官は実刑判決を受けることに。しかし、控訴はせず、警察を懲戒免職され、妻とは離婚、服役中に精神を病んで自ら命を絶った。一方、清義と美鈴は、共に法都大ロースクールで学ぶことに。そこで、何者かが清義が児童養護施設にいた時の集合写真と喜多を刺した新聞記事を配ると、清義は、学年メンバー間で行われていた模擬法廷・無辜ゲームに名誉棄損として開廷を申し込む。写真と記事を配った犯人は明らかになるが、それらを誰が提供したかは不明のままとなった。そして、今度は美鈴の家のドアスコープに、脅迫文が添えられたアイスピックが突き刺される。清義は、学年で唯一既に司法試験に合格し、無辜ゲームで審判者を務める結城馨に相談。彼の助言により、美鈴の部屋が盗聴されていたことや、その犯人は明らかとなるが、その依頼主は不明のまま、清義と美鈴は司法試験に合格、法都大ロースクールを卒業する。弁護士となった清義に、馨から「久しぶりに無辜ゲームを開催しよう」とのメールが届き、5分遅刻で模擬法廷の場に足を運ぶも、そこには血を流し倒れている馨の姿が。そして、美鈴からは「私が殺したんだと思う?」の言葉。美鈴の弁護人を引き受けた清義は、墓荒らしの裁判と並行して、真相を明らかにすべく奔走する。そして、馨があの警官・佐久間悟の息子で、事件の一部始終を見ていたこと、これまでの一連の出来事が、馨が描いたシナリオ通りに進んできていたことを知る。しかし、最後の最後でそのシナリオに狂いが生じるも、そのことすら馨は想定していた。それは、美鈴が清義を過去の罪から救おうとする行為だった。
2023.12.10
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阿刀田さんの『旧約聖書を知っていますか』や 『新約聖書を知っていますか』『コーランを知っていますか』で、 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の世界には触れたことがありましたが、 ゾロアスター教やバラモン教、ヒンドゥー教は、私にとってほぼ未知の世界。 そこで、世界の宗教の全体像を知るべく、本著を手にしましたが、 島田さんの著作は『人は死ぬから幸福になれる』や『宗教消滅』等、 これまでに何冊か読んだことがあり、馴染みがあったためか、 苦労することなく、スラスラと読み進めることが出来ました。 *** 教団組織が存在せず、教義を実行するかどうかは個人に任されているという点では、 イスラム教は極めて規制の緩い宗教であるということになる。(p.210)私にとって、この部分は本著の中でも特にインパクトが強かった部分。イスラム教には教団組織が存在しないが故に律は存在せず、すべては自発的な戒め。イスラム教徒が豚肉を食べたとしても、それで罰せられることはない……これまで私がイスラム教に抱いていたイメージを、大幅に修正させられることになりました。 現世に幸福が得られる社会になれば、来世への関心は薄れる。 宗教それぞれが、よりよい来世に生まれ変われることを約束し、 そのための宗教的な実践の意義を説いたとしても、 Bの死生観をもつ人間の関心を集めることは難しい。(p.450)「おわりに-宗教の未来」における島田さんの一文で、死生観Bとは、長寿社会が実現した「高齢まで生きることを前提にした死生観」のこと。社会環境が不十分で、自然災害や戦争、伝染病、飢饉等々に苦しんでばかりいた人々の「いつまで生きられるか分からない」という死生観から、現在は大きく転換しているのです。
2023.12.09
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副題は「生成AIが変えた世界の生き残り方」。 著者は、京都大学経営管理大学院客員教授の山本康正さん。 私は、これまでに、他のチャットボットを利用したことはありますが、 ChatGPTについては、昨年11月末に無料公開されてから、 既に1年を経過したにもかかわらず、これまで利用したことがありません。 それは、イタリアのデータ保護当局が、今年3月末にその使用を一時的に禁止したり、 日本企業の72%が、ChatGPTの業務利用禁止の方針を示したりしており(今年9月段階)、 私の勤務する職場でも同様だからです。そこで、今回本書を手にすることにしたわけですが、文章だけ読んでも、ピンとこないというのが正直なところ。生成AIのレベルが格段に向上したことや、その背景にディープラーニングがあること、関連企業間で競争が激化し、ビジネスのあり方が今後変化しそうなことは分かりましたが……パソコンやインターネット、スマホなどが初めて登場した時と同じように、やはり、実際に触れて、色々試してみないことには分からないことも多いですね。
2023.12.03
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ノミノミの実”の能力者で、あらゆる知識を際限なく記憶できるDr.ベガパンクは、 オハラが残した文献を全て自身の脳に受け継ぎ、研究を進めてきていた。 歴史に深入りしすぎ、オハラ同様世界政府に消されることを恐れたベガパンクは、 ルフィにエッグヘッドから連れ出してくれと頼み、世界政府の入港を拒否する。 ルフィは、強引に乗り込んできたロッチたちと対峙、 麦藁の一味やベガパンクの分身たち、戦桃丸が指揮するセラフィムたちも共に戦う。 戦桃丸が倒されたことで、セラフィムの威権がCP0側に移ってしまったものの、 ステューシーがCP0を裏切ってルッチとカクを眠らせ、セラフィムの威権奪回にも成功する。ところが、ベガパンクが失踪し、セラフィムの威権もまた何者かに奪い去られてしまったため、ルフィとゾロは、ルッチ、カクとの共闘を余儀なくされてしまう。 ***その頃、黄猿は、可能な限りの軍艦をエッグヘッドに向かわせていました。また、”赤い港”に姿を現したバーソロミュー・くまは、「赤い土の大陸」を登りマリージョアへ、ガープ中将は、黒ひげに捕まったコビー大佐を救出すべく、海賊島・ハチノスに向かっています。そして、新世界「スフィンクス」では、ウィーブルが海軍大将・緑牛に捕らえられ、ビビはワポルと共に、モルに匿われていました。そして、新世界ウォーランド”エルバフ”では、シャンクスとキッドの戦いが始まろうとしています。ベガパンクは、CP5、CP7、CP8らと共に、どうやら研究所内に捕らえられている模様。気になるのは、黄猿と話をしていた五老星・ジェイガルシア・サターン聖の存在ですね。
2023.12.03
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副題は「暴走する脳」。 内田也哉子さんとの対談集である『なんで家族を続けるの?』や 三浦瑠璃さんとの対談集である『不倫と正義』と同様、 中野信子さんが脳科学の視点から言葉を発していきます。 しかし、本著ではヤマザキマリさんの存在感が圧倒的。 原田マハさんとの対談集『妄想美術館』同様、 イタリアを中心に現在のヨーロッパ事情だけでなく、 古代ローマの歴史にも精通していることが伝わって来る一冊でした。 *** 不安が溜まったり経済的に不安定になればなるほど、生贄を欲する。 生贄という概念自体は本能ではないけれど、 人間の文明は生贄とともにありきですよね。(p.128)これは二人の話が、危機の時に共同体を保つため、「目立つ人」「得をしていそうに見える人」「外見の異なる人」などが、標的として生贄に選ばれがちだという流れになった際に、ヤマザキさんが発した言葉。これを受けて、中野さんはこう述べます。 自分こそ正義、自分こそ知性、と思っている人ほど、ブレーキがオフになりやすく、 正義の快さにあっという間に人格を乗っ取られてしまう。 本当の知性は、自分の正義や知性が独り善がりのものになっていないかどうかを、 まず疑うところにこそ、あると思うのですが。(p.129)コロナ禍の真只中、「正義中毒」が全国に蔓延している時期に行われた対談だけに、二人の間に流れる危機感が、ひしひしと伝わってきます。しかし、コロナ禍がある程度落ち着きを取り戻した現在でも、「正義中毒」の方は、全く衰え知らずのように感じられるのは、私だけでしょうか。そして、本著の中で私が最も感銘を受けたのが、ヤマザキさんによる「第5章 想像してみてほしい」における186頁から191頁までの「自他ともに許せない時代」の部分。ここで取り上げられている内容は、既にとても深刻な問題を引き起こしつつあると感じます。 しかし、この”メンタル無菌室”で育てられた子どもたちは、 大人になってから必ずどこかで遭遇する社会の荒波や不条理を 乗り越えていくことができるのでしょうか。(中略) 講演会などでこういう話をすると、 子どものいる親御さんたちは「そのとおり」としきりに頷かれるのですが、 かといって世間での教育の全体的な風潮に逆らえる勇気まではなかなか出ない。 ”世間体”によるジャッジと孤立化が怖くて、 全体傾向の同調圧力に背くことができない、というのが現実のようです。 こんな教育への姿勢が変わらない限り、 失敗や辛酸をなめても海外に行ってみようなどと思い立つ子どもも、 そして親も現れないのは当然だと言えるでしょう。(p.189)
2023.12.02
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李奈の『十六夜月』の5週連続1位を阻止した丹賀笠都は、 極端かつ急進的差別主義で、多数の熱狂的支持者を得ているベストセラー作家。 一方、その父・源太郎は、古き良き本物の文豪と呼ばれるベテラン作家で、 李奈の友人である作家・曽埜田璋も通う丹賀文学塾を主宰していました。 その丹賀文学塾閉塾の宴に、李奈は、現役弁護士で作家の佐間野秀司、 元検事の作家・樋桁元博、元刑事の作家・鴨原重憲と共に招かれます。 18歳の女優・樫宮美玲、同じ事務所の小山帆夏、マネージャー・舛岡も同席しますが、 そこで、岡本綺堂著『怪談一夜草子』に擬えた事件が勃発、李奈は解決に向け奔走することに。 ***今回は、3つの異なる世界が層をなす構成となっています。まず最初は、皆さんが暮らす現実の世界。次に、松岡さんが描く『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 』の世界。そしてさらに、その作品の中で白濱瑠璃が描く『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 』の世界。例えば、 小説で得た知識が李奈の身体を突き動かした。 李奈はすばやく上体をひねり、蛭井はわずかにのけぞったものの、 致命傷はあたえられていない。(中略) だが李奈は冷静に間合いを見切り、猛然と旋風脚、 すなわち中国拳法の回し蹴りを浴びせた。 踵が蛭井の顔面に命中すると、巨体は木の葉のごとく高々と宙を舞った……(p.275)これまでの李奈からは、とても考えられないような戦闘シーンですが、この直後、この部分は白濱瑠璃による創作シーンであることが明かされます。 押し合いへし合いのなかで李奈は涙ぐんだ。 小説の主人公ならたちどころに解決するだろうが、 現実には荒くれ男の群れに肝を潰すばかりだ。 もうやだ。助けて優莉結衣。(p.187)これは、李奈が事件の解決に向けて、刑事たちと共に時津風出版に乗り込んだシーン。読み進めていた際は、ちょっとした違和感を感じはしたたものの、いつもの李奈の世界の出来事としてとらえ、読み飛ばしていました。しかし、後から考えると、これも白濱瑠璃による創作部分と考えた方が良さそうです。 櫻木沙友理から助言を得ていた。 映像化に関し原作者のとるべき行動は、 契約書に署名捺印するかしないか、その二択しかないと。 いったん契約を交わしてしまったら、邦画にありがちな安っぽく陳腐な演出になろうとも、 薄幸の主人公を演じる女優が宣伝のためテレビに出演してはしゃごうとも、 映画に似つかわしくないハードロックのテーマ曲をあてがわれようとも、 いっさい文句は言えない。 すべてを許せる神のような心境にならないかぎり、 映像化の要請に応じてはならない。(p.77)これは、『十六夜月』が映画化・テレビドラマ化されるとの情報を得た舛岡が、樫宮美玲のキャスティングをプッシュしようと接近してきた際に、李奈が言った言葉。一見すると、李奈の世界に生きる櫻木沙友理の考えが述べられているように思えますが、ひょっとすると、これもまた白濱瑠璃が書き表したものなのかもしれません。ただ、いずれにせよ、これまで多数の作品が映像化されてきた松岡さんの思いが、強く滲み出ているような気はします。 『十六夜月』が売れて以降、読者が趣味でない人からもサインを求められるようになった。 差しだされた『十六夜月』にブックオフの値札が貼ってあることもめずらしくない。 ほかにもにっこり笑いながら、図書館で順番まちなのでまだ読んでません、 そんなふうにいってくる人もいる。 いずれも著者がどう思うか、想像がつかない相手の心理に、むしろびっくりさせられる。 断固として買わない気ですかと心のなかで突っ込みたくなる。(p.165)これは、ようやくヒット作を生み出した李奈の現在の思いが書き記された部分。この『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』シリーズでは、同じような内容のことが、これまでにも何度か書かれていたように思います。やはり書き手である、松岡さんの思いが強く滲み出ていると感じました。 「世間が村上春樹をどうとらえてるか知ってます? なんか知的で崇高な本だと思いこんでる。 『ノルウェイの森』とか『1Q84』とかも、 大ベストセラーではあっても国民全体からすれば、読んだ人はごく一部で、 みんなが知っているのは題名だけ。 じつは露骨な性描写だらけなのに」(p.24)これは、李奈の最も親交が深い同世代の作家・那覇優佳子の言葉。李奈が生きる世界のなかでの言葉ですが、松岡さんもこのように受け止めている? 「松岡某ってのはいないんだよ。 東映の八手三郎と同じく共同ペンネームみたいなもんでね。 でなきゃ毎月だせるはずがない」 瑠璃が鼻を鳴らした。 「『八月十五日に吹く風』と『万能鑑定士Q』がおんなじ作者のはずがないよね。 Qシリーズは莉子さんの旦那さんの著書でしょ」(p.279)これは、李奈とやりとりするKADOKAWAの編集者・菊池と瑠璃の言葉。もう、このあたりになると、何が何だか訳が分からなくなってきました。「でなきゃ毎月だせるはずがない」は、全くその通りだと思うし……取り敢えず、これまで未読だった『八月十五日に吹く風』は、読んでみようと思います。
2023.12.02
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四皇の一人に加えられたルフィは、モモの助たちに見送られワノ国を出航。 同日、キッドとローも、それぞれにワノ国を出航した。 その頃、新四皇に加えられたバギーの傍らには、ミホークとクロコダイルの姿が。 彼らが設立したクロスギルドは、海軍にとって極めて危険な組織となっていた。 一方、海軍によって包囲されていたアマゾン・リリーでは、 黒ひげの乱入により、ハンコックが絶体絶命の危機に陥っていた。 レイリーが出現したことで、最悪の事態は回避されたものの、 コビー大佐は黒ひげに拉致され、子供の頃のハンコックにそっくりなパシフィスタは姿を消す。他方、カマバッカ王国のドラゴンに、サボから「コブラ王暗殺の犯人はおれじゃない」と連絡が。しかし、ルルシア王国からのその通信は、何者かによって中断させられてしまう。そして、勝者島では、「ロード歴史の本文」を横取りしようと黒ひげがローに襲い掛かる。また、ルッチたちは、Dr.ベガパンクが正・悪・想・知・暴・欲の6人に分散したと語り合う。Dr.ベガパンクの研究所がある未来島エッグヘッドに辿り着いたルフィたちは、ベガパンクにより父を改造人間にされてしまったジュエリー・ボニーと共に研究所内を巡り、様々なDr.ベガパンクやパシフィスタに遭遇しながら、時にぶつかり合う。そして、Dr.ベガパンク「正」から、「ここは過去だ」と聞かされる。 ***新しい冒険の旅が始まりました。ルフィの”夢の果て”、今巻の中ではこれが一番気になりましたね。
2023.11.26
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先日『復讐の協奏曲』を読んで、その主人公・御子柴礼司に衝撃を受け、 彼のことをより詳しく知るため、シリーズ開始巻である本著を手にすることに。 期待通り、そこには園部信一郎が佐原みどりを殺害した際に抱いていた感情や、 事件後の逮捕、鑑別、審判、医療少年院送致に至る経緯が記されていました。 少年院では、島津さゆりが弾くピアノにより眠っていた感情が覚醒したものの、 将来は弁護士になりたいと語っていた、最も親しかった隣室の嘘崎雷也が自死、 教官・稲見を半身不随にしてまでその脱走を幇助した夏本次郎も事故死してしまいます。 その時、稲見が突きつけた言葉が、御子柴のその後の生き方を決定付けたのでした。 後悔なんかするな。悔いたところで過去は修復できない。 謝罪もするな。いくら謝っても失われた命が戻る訳じゃない。 その代わり、犯した罪の埋め合わせをしろ。 いいか、理由はどうあれ、人一人殺めたらそいつはもう外道だ。 法律が赦しても世間が忘れても、それは変わらない。 その外道が人に戻るには償い続けるしかないんだ。 死んだ人間の分まで懸命に生きろ。 決して楽な道を選ぶな。 傷だらけになって汚泥の中を這いずり回り、悩んで、迷って、苦しめ。 自分の中にいる獣から目を背けずに絶えず闘え(中略) 自分以外の弱い者のために闘え。 奈落から手を伸ばしている者を救い上げろ。 それを繰り返して、やっとお前は罪を償ったことになるんだ(p.276)そして今回、御子柴が国選弁護人として担当したのは、東條美津子の上告審。彼女の夫で製材所を経営する彰一は、落下してきた積荷の木材が頭部に当たって入院後に死亡。ところが、事故の10日前に彰一が多額の保険に入っていたことから、美津子が人工呼吸器を意図的に遮断した疑いで逮捕され、一審・二審ともに敗訴していました。そこに、先天性脳性麻痺を抱える息子・幹也や、この事件を追うフリーライターの加賀谷竜次、さらには、加賀谷の変死を捜査する埼玉県警捜査一課の渡瀬と古手川和也も絡んできて、二転三転する状況に、読者は事件の全貌について全く見当がつかぬまま振り回され続けます。そして、最後の最後に安武里美による御子柴への一撃。コラムニスト・加山二三郎さんによる巻末の「解説」も素晴らしく、渡瀬や古手川らが『連続殺人鬼カエル男』にも登場していたことや、御子柴誕生の背景に「高校生首切り殺人事件」があることも、それで知りました。『心にナイフをしのばせて』はまだ読めていなかったので、そのうち読もうと思います。
2023.11.25
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雛女の序列を決めるための中間審査である鑚仰礼。 金淑妃・麗雅や藍徳妃・芳林は、自家の序列を上げるべく陰謀を企て、 雛女である金清佳や藍芳春にも、黄玲琳を引きずり落すよう圧をかける。 初の儀が始まると、玲琳は水白粉が異物と入れ替わっていることに気付く。 さらに、控えの場の巨大な天幕の柱が倒れ、慧月と共にその下敷きに。 玲琳は慧月を庇い足を負傷するが、最後まで務めを果たし、淑妃と徳妃を牽制するのだった。中の儀では、慧月が詩を書き連ねた宣紙が炎上、祈祷師に窮地に追い込まれるも、玲琳が氷の張る泉の中に身を浸してその宣紙を拾い上げ、事を納めることに成功。しかし、慧月は怒りを爆発させ玲琳を執拗に罵倒、その場から立ち去ってしまう。金家や藍家の策略によって玲琳はさらに平静を失い、慧月との距離は開いたまま。冬雪や莉莉は、主人たちの喧嘩を納めようと東奔西走、尭明と景行・景彰兄弟にも協力を仰ぐ。一方、玄歌吹は、賢妃・玄傲雪の制止を振り切って、姉・舞照を陥れた炎尋の儀の真実や、姉が命を失った直接原因である薬草・霊麻の不足を引き起こした人物を探り続ける。そして、玲琳のいる四阿を訪れた際、玲琳が当時から霊麻を豊富に所有していたことを知ると、すりこぎで玲琳のこめかみのあたりを強打、古井戸の中に放り込んだのだった。炎術で玲琳と繋がり、その窮状を知った慧月は、冬雪らと共にその居場所に辿り着くと、瀕死の玲琳の体と自身の体とを入れ替え、玲琳らにその体を引き上げてもらったのだった。 *** 「筋違いのことで怒られたから不快だったんじゃない。 友達に怒られて悲しかったんです。 空回りして悔しかったんじゃない。 思いが伝わらなくて、悲しかったんですよ。」(p.264)これは、莉莉が玲琳に語った言葉。そして次は、尭明が慧月に語った言葉。 「自分が無力なせいで、相手を危険に晒してしまう。 そのことに惨めさを感じるのは、本当なら自分が相手を助けたいと願うからだ。 そしてそれが叶わぬ状況に、罪悪感を抱くから」(p.303)いよいよ、慧月の体と入れ替わった玲琳の反撃が始まります。次巻では様々な謎が明らかになり、陰謀を企てた人々に天罰が下ることでしょう。
2023.11.19
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予備知識なしで、初めてこのシリーズを、いきなり最新刊で読み始めたため、 プロローグの段階で、相当な衝撃を受ることになってしまいました。 それは、冒頭の幼女殺害事件が、あの少年Aの事件を彷彿とさせるものであり、 その犯人が、本シリーズの主人公である弁護士・御子柴礼司だったからです。 ***<この国のジャスティス>というブログ主の呼びかけにより、御子柴に対する懲戒請求書が大量に届き始めたことを受け、御子柴は、懲戒請求者全員に名誉棄損と業務妨害で損害賠償を請求することに。以後、和解についての電話が事務所へ掛かり始めるが、中には事務員・日下部洋子を脅す者も。そして、洋子は外資系コンサルタント・知原徹矢殺害の容疑者として逮捕されてしまう。洋子を弁護することになった御子柴は、知原と洋子が食事をしたフレンチレストランや知原が勤務していたオフィスを訪ねて回るうち、何者かにハンマーで襲われてしまう。さらに、洋子の家族関係を探る中で、彼女が自らが殺めた幼女と友人であったことを知る。 ***残り30頁を切ったところで、ようやく洋子を被告人とする裁判の第2回の公判が始まり、ここから怒涛の如く、次々に真実が明らかになっていく様は圧巻で、流石は七里さん!津田倫子や佐原成美について知るためにも、シリーズ既刊を読んだ方がよさそうですね。それでは最後に、本著で最も印象に残った箇所を紹介します。 体制を批判し、政治家の失言と芸能人の下半身事情を拾い集め、 児童の事故対応について学校関係者を責め立てる。 どれもこれも新聞の売り上げ、 視聴率のアップには欠かすことのできない正義です。(p.299)
2023.11.12
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副題は「ファスト映画・ネタバレ - コンテンツ消費の現在形」。 著者は、ライター、コラムニストの稲田豊史さん。 タイトルを見て気軽に読み始めたのですが、読み進めるにつれ衝撃の連続。 想像を遥かに超えた、優れた経済社会学の一冊でした。 *** 「料理をミキサーに放り込んで、ブーンと回してドリンクにして飲む。 たしかに普通に食べるのと同じ栄養がとれます。 だけど、それって食べ物と言えるのでしょうか?」(p.64)これは、倍速視聴に抵抗感がある、台湾から青山学院大学大学院に留学中の陳さんの言葉。陳さんは、映像作品を倍速視聴する行為を「料理をミキサーにかけること」に例えました。しかし、早送りする人たちは、「観たい」のではなく「知りたい」のです。彼らにとって、それらは作品ではなく「コンテンツ」、鑑賞ではなく「消費」なのです。 「全員が全員ではないけれど、やっぱり観客が幼稚になってきてるんだと思う。 楽なほうへ、楽なほうへ。全世界的な傾向だよね。 全部説明してもらって、はっきりさせたい。自分の頭が悪いことを認めたくない。 だから、理解できないと作品のせいにする」(p.95)これは、アニメーション映画『この世界の片隅に』等をプロデュースしたジェンコで代表取締役を務める真木さんの言葉。脚本家の佐藤さんは、「口では相手のことを『嫌い』と言ってるけど本当は好き、みたいな描写が、今は通じないんですよ」と言っています。 SNSの誕生によって、どんな民度、どんなリテラシーレベルの人間も、 事実上ノーコストで、ごく気楽に「被害報告」を発信できるようになった。 それが、多くの人に「わかんなかった(だから、つまらない)」と言われない、 説明セリフの多い作品を生み出した可能性は高い。(p.99)著者の知り合いの映画宣伝マンは、「わかんなかった(だから、つまらない)」は、論理的な説明やエビデンスがいらない「バカでも言える感想」と一刀両断したのですが……。TVアニメ版『鬼滅の刃』については、脚本家やその卵たちも「絵で見てわかることがそのままセリフになっている」と口を揃えるそうです。 本来、趣味であれ個性であれ、その道のプロに追いつく必要などはないはずだ。 そんなことを言い出したら、どんな趣味もどんな学問も、 始める前から徒労感に押しつぶされてしまう。(p.151)Z世代にとって、24時間繋がり続けるLINEグループで、仲間との和を保つことは至上命題。パッケージコンテンツ所有欲は低く、サブスクで済ませようとする気質があると言います。そんなZ世代は、SNS上で輝きを放つ全国レベルの猛者たちまで「すぐ隣の存在」と受け止め、彼らと自分を比べるなかで、実際に押しつぶされていくと言います。 「ミレニアル世代が”未体験”に価値を求めるとすると、”追体験”に価値を求めるのがZ世代。 彼らは先のわからないことや想定外の出来事が起きて気持ちがアップダウンすることを ”ストレス”と捉える傾向が強い」(P.166)これは、2021年6月に「Business Insider Japan」に配信された「Z世代に流行する『ネタバレ消費』とは?”失敗したくない”若者のホンネ」という記事の一部。博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所の森永さんは、こうなった理由を、次のように説明します。 「大人が子供の気持ちを先回りして察しようと動く。 子供たちは、とにかく大事に大事に育てられているので、痛みに弱い。 失敗したり、怒られたり、恥をかいたりすることに対して、 驚くほどに耐性が低い」(p.167)少子化や教育のあり方の転換が影響しているのでしょうか。さらに、キャリア教育の推進は、次のような状況に若者たちを追い込んだと言います。 ただ、それは仕方のないことだ。 大学で「5年後、10年後の自分のロードマップを描け」などと指導されれば、 それを達成すべく、 在学中から綿密なライフプランやキャリアプランを組み上げる必要がある。 悠長に回り道などしている暇はない。 「とりあえず就職してから、自分の適性や本当にやりたいことを模索していこう」 が許されない時代であり、世相なのだ。(p.169) 結果、彼らは学問にまでタイパを求めるようになったと言います。さらに、2020年度の私立大学新入生への「月平均仕送り額から家賃を除いた生活費」は、1990年の7万3800円から1万8200円に激減し、日々バイトに精を出すしかない。こうして、彼らは今、次のような状況の中に身を置いているのです。 仲間内でのコミュニケーションのため、LINEグループの和を保つため、 30年前に比べればおそらく何十倍、何百倍もの本数が流通するコンテンツを、 次々とチェックしなければならない。 その量は早送りしなければ消化できないし、慎重にリスクヘッジしなければ、 ただでさえ貴重なお金をドブに捨ててしまう。 彼らはとにかく余裕がない。 時間的にも、金銭的にも、そして何より精神的に。(p.178)
2023.11.05
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同名の映画が公開され、話題になった頃に購入したのですが、 読了までに随分時間がかかってしまいました。 人のものの見方や価値観が移り変わるものであるということや、 「不易と流行」ということについて考えさせられる一冊でした。 「汝自身を知れ」とか、「己を省みよ」とか、こういう文句には、 考えてみると小学校以来、もう何度お目にかかってきたことか知れません。 もういい加減古臭い感じがして、どこかでこんな文句にお目にかかっても、 ああ、またあれか、というぐらいな気持ちしか起こらなくなっています。 そして、その文句の言葉どおりの意味なら、コペル君も、とうに知っていました。(中略) しかし、言葉だけの意味を知ることと、 その言葉によってあらわされている真理をつかむこととは、別なことでした。(p.272)巻末の著者・吉野源三郎氏による「作品について」には、この作品が、盧溝橋事件が発生した昭和12年7月に発行されたことや、山本有三編纂『日本少国民文庫』全16巻の最終配本、倫理を扱う一冊として、病気で執筆不能となった山本氏に代わり、著者が執筆した経緯が記されています。また、丸山真男氏にによる「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」も、この作品が書かれた背景や、その持つ意味合いを理解するうえで、とても貴重なものでした。 地動説への転換は、もうすんでしまって当たり前になった事実ではなくて、 私達ひとりひとりが、不断にこれから努力して行かねばならない きわめて困難な課題なのです。 そうでなかったら、どうして自分や、自分が同一化している集団や「くに」を中心に 世の中がまわっているような認識から、 文明国民でさえ今日も容易に脱却できないでいるのでしょうか。 つまり、世界の「客観的」認識というのは、 どこまで行っても私達の「主観」の側のあり方の問題であり、 主体の利害、主体の責任とわかちがたく結びあわされている、ということ- その意味でまさしく私達が「どう生きるか」が問われているのだ、 ということを、著者はコペルニクスの「学説」に託して説こうとしたわけです。(p.317)
2023.11.05
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『優莉凜香 高校事変 劃篇』、『優莉結衣 高校事変 劃篇』に続く 『高校事変』のスピンオフ第3弾。 『高校事変』で言うと『15』の前に当たる時期を描いたお話で、 優莉匡太の七女・伊桜里の名をタイトルに掲げる一冊。 ***5歳で児童福祉施設に一時保護された後、里親に引き取られて養子縁組を結んだ伊桜里。しかし、家庭では母親から虐待を受け、学校でもいじめられ暴行を受ける日々が続いていた。中学3年生になった伊桜里は、自ら命を絶つことを決意するが、それを救ったのは結衣。以後、伊桜里は結衣の効率的な指導により様々な生き抜く術を身につけていく。その頃、EL累次体からの度重なる過剰要求に業を煮やした武井戸建設は、独立を決意。EL累次体の一員に渡す上納金にC4爆弾を仕込み、受け子として潜入してきた伊桜里に運ばせる。途中で伊桜里の行方を見失った結衣は、智沙子になりすまして武井戸建設に乗り込んだ後、篤志が操縦するヘリで伊桜里がいる山中へと向かい救出に成功、EL累次体の志鎌と対峙する。 ***今巻には、日本国内のベトナム人裏社会を牛耳ってきたディエン・チ・ナムや警視庁捜査一課の坂東、スマ・リサーチ社の玲奈&桐嶋らが登場。さらに、伊桜里は中学校卒業後に凜香や瑠那が通う日暮里高校への進学を希望しており、今後、『高校事変』本編でも絡んでくることは間違いなさそうですね。
2023.11.05
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盲目の少女とその母の愛に満ち溢れたお話、と思いきや…… この先、どうやって生きていけばいいのだろう。 クロウタドリは歌うのをやめ、 とわの庭の友人たちも、完全に口を噤んでしまった。 それに母さんは、もう二度とここへは帰らないだろう。 あの揺れが、わたしにそのことを教えてくれた。 わたしは、決定的な事実を突きつけられた。(p.128)裸足のまま、扉を開けて、外へと出たとわは、自分の足で、ゆっくりと前へ歩き始める。児童養護施設に保護されてスズちゃんと出会い、自身の出自や母親、二人の兄、オットさんのことも明らかに。そして、田中十和子として、グループホームから1年間特別支援学校に通った後、自立支援ホームでの暮らしを経て自分の家へと戻ることに。そこでは盲導犬・ジョイとの生活が始まり、ピアニストのシミズマリや付き添いボランティアのリヒト、思い出の写真館の店主らとの出会いが待っていました。とっても小川糸さんらしい作品、でした。
2023.10.29
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「漢方薬局てんぐさ堂の事件簿」シリーズがスタート。 「薬剤師・毒島花織の名推理」シリーズ(4)に登場するやいなや、 圧倒的存在感を示した花織の元同僚・宇月啓介(36)がメインキャラを務めます。 爽太に当たるポジションを務めるのは、てんぐさ堂専務・天草奈津美(27)。 ***第1話「漢方薬入門」では、出版社に勤務し、編集の仕事に携わる加納有紀(32)が、男性作家から『大麻解禁が日本を救う・超高齢社会への処方箋』の企画を受け取った後、てんぐさ堂に立ち寄って、宇月から漢方薬に関する基本的な知識を指南してもらいます。しかし、彼女が手にした企画資料の中には、大麻が入った茶封筒がはさまれていました。 第2話「夏梅の実る頃」では、70歳を過ぎた箕輪京子がドングリが苦手な理由を宇月に吐露。それは、かつて祖父の病気に効くと手渡されたお菓子の空き箱の中に、大量のドングリと共に小さな黒い虫が入っていたからでしたが、彼女はそれが悪戯だったと言い切れないと言います。宇月は、それがドングリではなくマタタビであったことと共に、京子の記憶違いにも気付きます。第3話「ノーテイスト・ノーライフ」では、匂いと味を感じなくなった大久保友梨亜(23)が、てんぐさ堂で処方された漢方薬を飲み始めるも、リコリス菓子も食べるようになっていきます。そのことを本人から聞かされながら、宇月に指摘されるまで危険性に気付けなかった奈津美は、宇月と共に友梨亜の家へとタクシーで向かったのでした。第4話「長男の務め」は、宇月のカウンセリングを受けた川島浩一郎(57)が、実家で一人暮らしをする父親の介護や遺言状を巡って弟妹と対立するお話。父親から自身の認知機能が進んだ時には、長男の務めを果たすよう言われた川島に、宇月は、今の時代の長男の務めについて助言したのでした。 ***シリーズのスタートということもあって、今巻は、宇月が大学生の頃に同級生の恋人に毒を飲まされて体の一部に麻痺が残った経緯や、奈津美の祖父がてんぐさ堂を開局してから、現在に至るまでの紆余曲折も記されています。武史がてんぐさ堂に復帰、奈津美が薬剤師の国家試験にまた挑戦する日は訪れるのでしょうか?
2023.10.29
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今回も予告通り、前巻発行から半年での新刊発行。 今巻は、製薬会社工場での火災を契機とする医薬品供給不足を軸にお話が展開。 第51話「供給不足」では、羽倉がDI(医薬品情報)室のヘルプに入り、 そこで積極的に行動しながら、今後の自身の進路を見極めようとする。 第52話「信頼関係」では、IBS(過敏性腸症候群)で通院する名波が、 これまで処方されてきたメペンゾラートが欠品で、別の薬を処方されたことから体調が悪化。 さらに、交際する女性の両親からIBSを理由に結婚を反対されたことで救急搬送されてしまう。 担当医の本間は、元の薬を取り寄せられないかとDI室に相談するも、羽倉は不可能と返答。 そのやりとりを見た穂上は、プラセボ薬を提案すべく羽倉と共に本間のいる部屋へと出向く。 後日、退院する名波と本間の対話を目にした羽倉は、自身の視野の狭さに気付いたのだった。第53話「第二世代」では、供給不足でアレグラを2週間分しか処方してもらえなかった藤原が、それは薬局でも購入可能と聞かされ服用を続けるも、物忘れや仕事のミスが増えてしまう。検査を受けても、特に所見のつかなかった藤原だったが、葵は、それが抗ヒスタミン剤の影響による「インペアード・パフォーマンス」だと気付く。第54話「3年目の終わり」と第55話「反省」では、ITP(特発性血小板減少性紫斑症)の疑いで入院した10歳の黒沢美空が、周囲に気を使い、早く退院したくて「体調が良い」と噓をついていたことが判明。退院後も母親による行動制限や過干渉が懸念されるため、担当医は母親に行動の改善を促す。一方、葵は自身の行動を反省すると共に、「小児薬物療法認定薬剤師」応募を決意する。 ***来年4月に発売予定の第12巻では、在宅薬剤師となった小野塚が、以前勤務していたドラッグストアで見過ごしていた統合失調症の患者家族に遭遇することに。これが、第54話の予防接種講座打合せでの葵への八つ当たりに繋がったのでしょうか。その辺りが明らかになることを信じて、また半年待ちましょう。
2023.10.22
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数多くの文豪が代表作を発表してきた文芸一筋の老舗・鳳雛社(ほうすうしゃ)。 その編集者・岡田眞博から執筆依頼を受けた李奈は、純文学に挑戦することに。 しかし、提出した『十六夜月』の原稿は、物語の終盤を変更するよう求められる。 やり手の副編集長・宗武義男が、喪失を描く結末を望んでいると言うのだ。 鳳雛社はここ数年ミリオンセラーを連発していたが、 その大半が、主人公が死んで幕を閉じるお話。 あらゆる文学賞を総なめにした最新ミリオンセラー・飯星佑一の『涙よ海になれ』も同様で、 自作の結末変更について譲ることが出来ない李奈は、鳳雛社での出版を断念する。そんな李奈に、宗武は小説『インタラプト』の元原稿を渡し、続きを執筆するよう依頼。それは、鳳雛社文芸第一部を舞台とするノンフィクションで、岡田が暴走する様が記されていた。李奈は、宗武の依頼には乗り気でなかったものの、岡田と飯星の間に起こったことが気になり、関係者たちを訪ね、『インタラプト』に記されていた内容について取材を進めていく。やがて、飯星の新作原稿データを盗みだした岡田が警察に連行されたものの、PCは初期化され、李奈たちが見つけたSDカードやUSBメモリも破壊されてしまっていた。飯星がデータ復元会社にPCを持ち込む最中、警察からの電話を受けた宗武は車を走らせるが、ガードレールを突き破って河川敷へと転落してしまうのだった。 ***宗武の行方は不明のまま、そこに、ちびっこ速読会でのトラブルやアパートの賃貸問題等が絡んで、事件は混沌としていきます。しかし、最後には李奈が次々に事の真相を明らかにしていくことに。 「竹芝までは電車で2時間かかったんですよ。クルマでもそれより早くは着けません」 「じつはウイングスーツでムササビのように飛ぶ競技のアスリートではないですか? それなら竹芝まで時速300キロで8分……」(p.225)これは、自身のアリバイについて述べる飯星に対し、『インタラプト』の元原稿を書いた白濱瑠璃が問い返した場面。『高校事変Ⅱ』で、結衣が横浜ランドマークタワーからダイビングしたことを想起させる言葉に、松岡作品の愛読者なら、思わずにんまりしてしまうシーンでした。 「抵抗の意志は純文学以外のジャンルにひろがったんです。 人の死なないミステリが同時多発的に生まれました。 すべてが定石とは逆。どれも本業の探偵ではない、男性ではなく女性が主人公で、 犯罪捜査以外の知識を発揮し、誰ひとり命を落とさない世界での推理劇を描いた」(p.269)本著の副題は「人の死なないミステリ」。Qシリーズのキャッチフレーズは「面白くて知恵がつく 人の死なないミステリ」。p.268から李奈が語る、平成10年代前半以降のブームについての言葉には、色々なことが思い出され、「そうだったのか」と納得させられました。
2023.10.22
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どんなお話か全く知らないまま読み始めました。 スタートは、タイトルに即したお話から始まりましたが、 しばらくすると、全く予想していなかった展開に。 主人公は小学校教員となり、やがて学級崩壊に苦悩する状況に陥ります。 校内の誰にも相談できず、気付いてもらえず(本当は気付いていたでしょう)、 高校教員である夫にも、相談できず、気付いてもらえず、まさに最悪のパターン。 夫が気付かなかった理由は、後半で明らかとなり、色々と納得させられますが、 主人公に対しては「よく踏みとどまった」と共に「何でそうなるの?」という思い。子供が生まれないこと、いないことに対し、家族や世間からプレッシャーを受けながら、夫婦が子供を産もうと努力を重ね、遂に断念していく過程は、本当に痛々しいもの。さらには、夫までも精神科へ通うこととなり、主人公は自らの体験を生かしそれを支えます。そんな中、母親の態度が穏やかになっていったことだけが救いでした。
2023.10.15
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『空気を読む脳』や『人は、なぜ他人を許せないのか?』とは明らかに違う。 何が違うかと言うと、中野信子さんの人となりがダイレクトに伝わって来る。 『なんで家族を続けるの?』や『不倫と正義』等の対談集と比べても、 本著は、それ以上に中野信子さんの人となりが伝わって来る。 こんなに自分の本性をさらけ出してもいいものかと心配になるほど、 本著からは、中野信子さんの人となりが伝わって来る。 メディアへの露出も半端ないので、放っておいてもそれは滲み出してしまうけれど、 本著を読んでイメージが変わったという人も、少なくないのではないかと思う。 *** こうして、人間は実際にはかなり限定的な情報源をもとに、 その小さな情報圏内で、確信的文脈を形成してしまう。 なんとも残念な脳であるとも見える。(p.66)とても示唆に富んだ文章。「限定的な情報源」「小さな情報圏内」であるにも関わらず、全てを知っている、分かっているような気になって「確信的文脈を形成」してしまう。そうなりがちだということを常に念頭に置いて、発言・行動したい。 人の脳は、裏切り者や社会のルールから外れた人といった、分かりやすい攻撃対象を見つけ、 罰することに快感を覚えるようにできている。 他者に「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、 快楽物質であるドーパミンが放出される。 この快楽にハマってしまうと簡単には抜け出せなくなってしまい、 罰する対象を常に探し求め、決して人を許さないようになっていくのだ。 こうした状態を、私は正義に溺れてしまった中毒状態、 いわば「正義中毒」と呼んでいる。 この認知構造は、依存症とほとんど同じだからである。(p.106)まさに、情報化が進んだ現代社会の大きな課題。それはローカルな社会でも、ワールドワイドな社会でも同様。昨今、世の中を賑わせているトピックスに対するムーブメントの多くが、この「正義中毒」を背景にして形成されているような気がしてならない。
2023.10.15
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パリ8区にある小規模なオークション会社に勤務しながら ゴッホとゴーギャンを中心に19世紀のフランス絵画史研究を続ける高遠冴。 そこに50代の女性が現れ、ゴッホを撃ち抜いたという一丁の拳銃を持ち込むと、 その真贋を明らかにすべく、冴はゴッホに関わる場所を次々に訪れることに。 ***本作は、オーヴェールの畑で見つかったリボルバーとゴッホ他殺説を主軸に据え、ゴッホとゴーギャン、さらにゴッホの弟・テオとの交流の日々を丁寧に描きつつ、そこにタヒチの少女を絡めることで、極上のミステリーに仕上げています。最後に明かされる、このお話の鍵を握っていた人物には、誰もが驚かされることでしょう。ゴッホとテオの二人は、『たゆたえども沈まず』でも描かれていましたが、本作では、そこにゴーギャンが加わることで、より立体的な仕上がりになっています。
2023.10.15
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『TVアニメ放送開始! 2023年10月21日より日本テレビ系にてOA』 帯に踊る文字に、否が応でも期待が高まります。 しかしながら、放送開始時刻は何と25:05! さらに、初回3話一挙放送とのことですので、心してその時に備えましょう。 ***燕燕は、姚に趣味の悪い恋文をよこしてきた男に対し、迷惑行為をやめるよう直談判すべく猫猫を誘って、皇帝に一文字賜った一族同士が集う名持ちの会合へと向かいます。恋文の送り主は辰の一族の男で、その一族は40年ほど前に家宝がなくなったことにより、里樹元妃の実家・卯の一族と先代当主同士が大喧嘩をし、以来不仲となっていました。猫猫は、両家を仲直りさせ、卯の一族の力を回復させようと目論む羅半と共に密談部屋に入り、消えた家宝について説明する辰の一族の大奥様に、事の真相を吐露させることに成功します。すると、羅半の合図で卯の一族の当主が現れ、辰の大奥様に黄金の龍の置物を返却。遅れて宴会場に現れた恋文男は、羅半兄との決闘に敗れ、姚のことを諦めることになりました。一方、卯の一族の当主に馬閃を紹介したい麻美は、猫猫に里樹の後宮での様子を語らせた上で、当主に縁談を持ち掛けますが、当主は卯の一族の現在の苦境を仄めかせ、即答を避けたのでした。名持ちの会合を終えた猫猫を、次に待ち受けていたのは緑青館の強盗騒ぎ。女華の部屋にあった組木細工のからくり箱が盗まれましたが、翡翠牌は無事でした。猫猫は緑青館のあちこちを見て回り、盗人と共謀したのが梓琳姉だと見抜きます。そして、女華から預かった翡翠牌を壬氏に見せ、本来の持ち主を調べてもらうことに。猫猫が新たに配属された武官の修練場近くの医務室には、最近多くの怪我人が訪れるように。その背景には、皇后派と皇太后派の派閥争いがありました。猫猫は、恋文男・憂炎と決闘して怪我を負わせた馬閃に事情を聞くため修練場に行った後、新人官女・妤の求めで花街へと同行し、彼女に疱瘡の処置をした克用との再会に立ち会います。さらに、皇太后派の若者が集う狩猟場に、李医官、天祐と共に出向くと、そこで壬氏に遭遇。壬氏から翡翠牌が元皇族で伝説の医者である『華陀』の物だと考えられると知らされます。壬氏は、猫猫から天祐も華陀の末裔で、彼の故郷がこの周辺であると教えられると翡翠牌の半分を所持していた天祐の父を、賊として排除しようとしていた憂炎を一刀両断。その後、天祐の父が、翡翠牌が二つに割られた経緯や『華陀の書』の隠し場所について語ると、猫猫がその家宝の在処に見当をつけ、無事見つけ出すことに成功したのでした。一方、雀は今回の若い武官たちの一連の動きを誘導したのが卯純であると見抜き、修練場で本人にそのことを確認すると、自分の後継者になるよう持ち掛けたのでした。
2023.10.08
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2年前の2009年にリリースされた「スピラ」という名のSNS。 それを運営する株式会社スピラリンクスが、満を持して新卒総合職の採用を開始、 初任給50万円ということもあって、採用枠若干名に5000人超が応募。 最終選考のグループディスカッションは、1か月後の4月27日に行われることに。 九賀蒼汰(慶応大)、袴田亮(明治大)、矢代つばさ(お茶の水女子大)、 嶌衣織(早稲田大)、波多野祥吾(立教大)、そして森久保公彦(一橋大)の6人は、 当初、全員内定もあり得るので今後1カ月で最高のチームを作り上げるよう求められるが、 その後、議論の中で選出された1名だけに内定を出すことに変更になったと通知される。最終選考当日、6人は2時間30分のディスカッションの冒頭と以後30分ごとに計6回投票し、得票数合計が最多の者を内定者とすることで合意するが、途中で白い封筒の存在に気付く。封筒の中には、参加する6名が個々に用いることを指定した少し小さな封筒が入っていたが、その小さな封筒の中には、6名個々にとってそれぞれに不都合な情報が記されていた。他人に知られたくない過去の秘密が次々に暴露されていき、それは投票結果を大きく左右。そして2時間30分後、一人の内定者が選出されたのだった。2019年、スピラリンクスに勤務するその人物は、封筒の犯人を改めて捜し始める。その中で、思いもよらなかった事実が次第に明らかになっていくのだった。 ***巻末の瀧井朝世さんによる「解説」が秀逸。 他者の言動のひとつをピックアップして、 その表面だけを見てジャッジすることなんてできない、 ということを体感したのではないか。 翻って考えてみると、私たちは日々、たとえばSNSで偶然見かけた人に対し、 じっくりと検証することなく「どう評価するか」、 もっというならば、「その人を信頼するか」「その人を否定するか」を 決めてはいないだろうか。 しかし人間は、すべてが善良で正しい人と すべてが極悪で間違っている人に振り分けられるわけではないのだ。(p.356)映画化が決定したとのことですが、この作品は「叙述トリック」を用いた作品なので、そのあたりをどのようにするのかも見ものですね。
2023.10.07
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久し振りに亜樹凪が復学した日暮里高校2学期始業式に、爆破予告声明文が届く。 しかし、瑠那と凜香、蓮實により起爆は阻止され、故尾原文科大臣の画策は失敗。 これを受け、EL累次体の主要メンバーとなった藤蔭覚造新文科大臣は、 JAXAの国産ロケット打ち上げを利用し瑠那と凜香の抹殺を謀るが、これも失敗。 するとEL累次体は、産業スパイとみられる中国系正社員エンジニアの身柄を拘束。 中国連合参謀部参謀長ハン・シャウテンと共謀し、核爆弾搭載人工衛星の制御力奪取を目指す。 さらに、日暮里高校の防災訓練を利用して全生徒と教員、そして凜香と蓮實の拘束にも成功。 神社や自宅まで焼失させられてしまった瑠那の前に結衣が現れ、「究極の細菌兵器」を託す。 *** 瑠那は足をとめ振りかえった。 五十代前半、丸々と太った米熊亮平教諭が、メガネを曇らせながら駆けてきた。 用件なら見当がつく。瑠那は戸惑いがちに挨拶した。 「どうも。米熊先生……」 「こんな日に済まない。入部の件、考えてくれたかな」 「いえ……。きょうはいろいろ慌ただしかったので」 凜香が聞いた。 「米熊先生って、演劇部の顧問だろ?」(p.56)何気ない高校生活の一コマかと思われたこのシーンですが、実に重要な意味を持っていました。 教職員のひとりが女子生徒の死体に駆け寄った。 中年の男性教師は横たわる女子生徒の脈をとった。 血の気が引いた顔で教師がつぶやいた。 「ほんとうに死んでいる……」 ざわっとした驚きがひろがるなか、男性教師も発症した。 嘔吐のように濁った声を発し、肺に溜まった血を床に撒き散らした。(p.314)この瑠那の仕込みが、核戦争勃発阻止に繋がっていきます。もちろん、人工衛星のエンジニアと互角にやりとりする超人的能力あってのことですが。それにしても、結衣が活躍するシーンがだんだん増えてきましたね。これから、ますます楽しみです。
2023.10.07
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表題作の他、5つのお話から成る短篇集。 しかし、読み始めると「これ、本当に伊坂さん?」というのが第一印象。 短篇だから? それとも意図的にいつもと違う書きぶりをしている? その真相は、巻末のや「文庫化記念インタビュー」で明らかに。 ***「逆ソクラテス」。面白いタイトルだなと思っていたら、実はかなり意味深長。 「草壁、それは違う、 さっきも言ったように、 ソクラテスさんは、自分が完全じゃないと知っていたんだから。 久留米先生は、その反対だよ。逆」(p.33)これは、小学6年生の安斎が同じクラスの草壁に言った言葉。久留米先生は、安斎たちのクラスの担任です。そして、安斎は、これも同じクラスの加賀にこんなことも言っています。 「あるよ。だって加賀のお父さんが情けないかどうかは、 人それぞれが感じることで、誰かが決められることじゃないんだ。 『加賀の親父は無職だ』とは言えるけど、『情けないかどうか』は分からない。 だから、ちゃんと表明するんだ。僕は、そうは思わない、って。 君の思うことは、他の人に決めることはできないんだから」(p.26)さらに続けて 「久留米先生はその典型だよ」(中略) 「自分が正しいと信じている。 ものごとを決めつけて、それをみんなにも押し付けようとしているんだ。 わざとなのか、無意識なのか分からないけれど。 それで、クラスのみんなは、久留米先生の考えに影響を受けるし、 ほら、草壁のことだって、 久留米先生が、『ダサい』とラベルを貼ったことがきっかけで」そして、安斎の「久留米先生の先入観を崩してやろうよ」の言葉を契機にして、小学6年生たちが行動を開始し、後に一人のプロ野球選手を生むことへと繋がっていくのです。一人の教員が全教科を教える学級担任制、その学級担任の影響力の計り知れない大きさに、今更ながら気付かされると共に、担任の先生方には反面教師として欲しいお話でした。「逆ワシントン」の中で、謙介の母親が、姉のクラスで語った言葉(p.270~273)もスゴイです。ぜひ、ご一読を!
2023.09.27
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前巻を受けての、南領を舞台とするお話の締めくくり。 玲琳と入れ替わった慧月は、尭明に命じられた茶会を敢行。 芳春は、慧月を陥れようと、他家の雛女たちに巧みに言葉を連ねますが、 慧月はその言葉を逆手に取り、他家の雛女たちの認識を改めさせることに成功。 茶会後、慧月は尭明から今回の事件の真相を聞かされ、共に邑へと向かいます。 その頃、玲琳は、瀕死の重傷を負った雲嵐を必死に治療していました。 途中、彼女にしては珍しく挫けてしまい、危うい行為に及ぼうとしかけます。 しかし、辰宇や尭明に押しとどめらるうちに、雲嵐が意識を取り戻したのでした。江氏や林煕が邑に辿り着くと、そこでは予想外の光景が繰り広げられていました。慧月が舞い、邑の女たちが田植え歌を紡ぎ、尭明が豊穣祭の執行を宣言。そして、皆の前で江氏の悪行が次々に暴かれると、彼には天罰が下ります。さらに、尭明は林煕に、今回の件は既に藍家当主に伝達済みだと知らせたのでした。そして、舞台は雛宮へ。玲琳と芳春のその場が凍りつくような舌戦を、慧月がハラハラしながら見守ります。やがて、二人は本性をあらわにして言葉をぶつけ合い、慧月もそこに引きずり込まれ……双方とも一歩も譲ることなく、今回のバトルは終了。 ***絹秀が亡き妹・静秀に語りかけた「最高だな、おまえの娘は」に続く「-そして、最低だ」の声が、とても気になります。そして、特別編「微笑と予言」も、景彰の心の葛藤が丁寧に描かれたものでした。著者の感情を細やかに描き上げていく筆力には、感心させられます。
2023.09.08
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前巻が発行されたのが2021年09月末。 その時に比べれば、今巻の発行は随分早かった…… 羽海野先生も、お元気そうで何より。 ブンちゃんが導いてくれたチャビちゃんとの出会い、本当に良かった。 ***まずは、次回師子王戦挑戦者決定トーナメント、零と二階堂の対局。手堅くじっくりと積み上げ、重厚な一局を目指していた二階堂に対し、ジャックラッセル化した零が、心が沸き立つような明るい将棋を展開。しかし、69手目の「5三銀打」は「7九金打」に至る深謀遠慮に基づいてのものでした。一方、あかりは、柳通りにあった元布団屋の改築現場で働く職人たちに、おやつの出前を始めますが、その現場前で時間限定の団子販売も開始。すると、お隣りの喫茶店やはす向かいの肉屋、文具屋まで巻き込んで大盛況に。さらには、職人のために作ったはずのカレーライスまで、客の要望に応え販売し始めます。そして、次回挑戦者決定トーナメントは、二階堂を破った零と島田の対局に。またしても島田研究会同士の対戦となったものの、面々は島田家に集って検討に精を出します。すると、そこへ土橋との対局を明後日に控えたスミスがやって来て、共に検討に勤しむことに。島田は、大きな代償の末に得た現状を噛み締めながら、零との対局に闘志を燃やすのでした。一方、あかりは、銀座のお店でおばが入手した電気圧力鍋で次々に新メニューを開発。料理は大人気となるも、あまりの店の変貌ぶりにおばは心が折れ、普通のバーに戻すことに。 ***今巻の3分の1の紙幅を割いて描かれた対局は、これまでで最も白熱した激闘となりました。二階堂の想いや師匠・花岡との関係性も見事に描かれており、相変わらずのハイクオリティ。これだから、次の新刊が出るまでに、どれほど時間がかかるのか皆目分からなくても、読者はその日を楽しみにしながら、じっと待ち続けることが出来てしまうのです。今巻は、川本家三姉妹では、長女・あかりの独壇場で、次女・ひなの登場機会は、ほぼ皆無。14巻や15巻のような甘々のシーンも、また見て見たいですが、巻末の「いよいよ本当のラストスパート」という羽海野先生の言葉が、気になります。あとどれ位、お話は続くのでしょうか?
2023.09.03
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尭明に慧月との入れ替わりを気付かれてしまい、 今後、入れ替わりを見抜かれたら、彼の雛女であり続けることを約束した玲琳。 豊穣祭の開催地となった朱家の治める南領に、皇族や雛女たちと共に赴きますが、 そこで発生した悶着を機に、思いもよらずまた慧月と入れ替わってしまうことに。 そのことで慧月は危機を脱したものの、玲琳は賤民に攫われてしまいます。 しかし、兄・景行と共に邑(むら)で農作業に精を出し、さらに辰宇の支援も受けながら、 玲琳は自らを攫った前頭領の息子・雲嵐たちの心を徐々に開かせていくのでした。 ところが、玲琳たちが禍森で猪狩りをした後、邑人が痢病で次々に倒れ始めます。玲琳たちは寝食を忘れて看病に当たり、雲嵐は一人で郷長のもとに出向き邑の窮状を訴えます。ところが、この痢病は藍家の指示で郷長・江氏が引き起こしたものでした。林煕(りんき)たちに深手を負わされながらも、雲嵐は邑に危機が迫っていることを伝えます。その頃、慧月は自らを陥れようとする藍家の雛女・芳春の言葉に絶句していました。 ***今巻は、玲琳がメンタル面だけではなく、身体能力の高さまで見せつけてくれました。一方、慧月も少しずつ成長していきそうな兆しが。最後のページに至っても、南領を舞台とするお話は終結を迎えず、雛宮における五家の権力闘争が露わなものとなってきたところで、次巻へと続くことに。
2023.08.27
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『思い出が消えないうちに』に続くシリーズ第4弾。 ただし、舞台は『コーヒーが冷めないうちに』の翌年という設定で、 シリーズ第3弾『思い出が消えないうちに』はもちろん、 シリーズ第2弾『この嘘がばれないうちに』よりも昔のお話です。 *** 第一話『「大事なことを伝えていなかった夫の話』は、考古学者で冒険家の男が、事故で脳に障害を負って植物状態となっている妻に、伝え忘れたことを伝えるため、過去に戻るお話。第二話『愛犬にさよならが言えなかった女の話』は、自分が寝たせいで愛犬の最期を看取ることが出来なかったと激しく後悔する女が、過去へと戻り、自分が知らなかった愛犬の行動について夫から知らされるお話。第三話『プロポーズの返事ができなかった女の話』は、男からの求婚を受け入れることが出来ず、その後突然フラれてしまった女が、男の訃報に接し、その本心はどんなものだったのかを確かめるため、過去に戻るというお話。第四話『父を追い返してしまった娘の話』は、宮城県から訪ね来た父親に悪態をつき追い返した娘が、東日本大震災で父親を失ったものの、過去に戻って父親と語り合うことで、自らの幸せへと歩み始めるというお話。 ***お話の中には、『コーヒーが冷めないうちに』に登場した清川二美子や竹高奈々が登場。二人がどんなキャラクターなのかを知れば、今回のお話をより楽しめることでしょう。そして、シリーズ第5弾『やさしさを忘れぬうちに』も既に刊行されているので、また機会を見つけ、読んでみようと思っています。
2023.08.26
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理不尽な理由で辞めさせられた会社への侵入、器物損壊、窃盗未遂で逮捕され、 送検、起訴を待つばかりの身となった直井玲斗を釈放してくれたのは、 亡くなった母の義姉で、ヤナッツ・コーポレーション顧問の柳澤千舟。 その際、伯母が提示した条件は、「クスノキの番人」をすることでした。 玲斗は、満月と新月の夜の前後に、月郷神社の奥に鎮座するクスノキへと、 祈念のためやって来る人たちへの対応を始めます。 そしてある夜、クスノキにやって来た佐治寿明の後を、こっそりつけてきたのが娘の優美。 父の外出や不審な行動について明らかにしようと、玲斗に協力を求めてきます。その後、佐治寿明の兄・喜久夫が、5年前にクスノキを訪れていたことに気付いた玲斗は、優美と共に喜久夫が入所していた介護施設を訪ねますが、これといった情報は得られず、寿明がクスノキで祈念する様子を盗聴しようとしますが、すぐに見つかってしまいます。しかし、二人からここに至った経緯を聞かされた寿明は、事の真相を話し始めたのでした。一方、クスノキを訪れていた和菓子メーカー『たくみや本舗』会長・大場藤一郎が亡くなると、今度は、その息子・大場壮貴が、新たにクスノキを訪ねてくるようになりました。祈念が上手くいかない壮貴は、祈念が失敗した際のルールについて玲斗に尋ねると共に、自身が直面している『たくみや本舗』の後継者争いについて話し始めます。他方、玲斗は柳澤グループ謝恩会で、箱根の『ホテル柳澤』が閉鎖されると知り、後日、千舟と共にそこを訪れた際に、総支配人・桑原に閉鎖の理由を尋ねます。さらに後日、千舟の指示で『ヤナッツホテル渋谷』に宿泊することになった玲斗は、千舟と現在の代表取締役・柳澤将和との理念の違いに気付くのでした。その後、兄・喜久夫がクスノキに預念したピアノ曲は、弟・寿明を経て、その娘・優美が受念し、それを楽譜に再現した岡崎実奈子が、兄弟の母親が入居する介護施設で披露します。そして、玲斗から壮貴へのアドバイスで、『たくみや本舗』の後継者問題も一気に解決。さらに、玲斗の名演説により、『ホテル柳澤』の存続は改めて協議することになったのでした。 ***千舟の手帳に秘められた事実が、私にとってはかなりの衝撃でした。でも、本人にとっても周囲にとっても、切実な問題ですよね。このお話も、やがて映画化されることになるのでしょうが、私のイメージとしては、玲斗は菅田将暉さんです。
2023.08.20
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前巻を受け、まずは、玲琳付の筆頭女官・黄冬雪が、 玲琳と慧月の入れ替わりに気付いた時の状況を振り返り。 その後、お話は皇后・絹秀の雛宮時代を舞台をするものへと大転換し、 問題児・絹秀と『殿下の芙蓉』と称えられていた朱雅媚との関係が描かれます。 皇后には、優美にして慈愛深き朱雅媚を。 貴妃には闊達で華やかな金麗雅を、淑妃には藍芳林、徳妃には玄傲雪、 そして最下位の賢妃に、妃としての栄華を望まない黄絹秀を。 5人の未来の序列は、誰の目にも明らかで、 それがかえって雛宮に平和をもたらした。(p.072)しかし、伝染病に罹患した皇太子を、絹秀が我が身をかえりみず看病したことで形勢は逆転。その数か月後、皇太子が帝位を引き継いだ際、絹秀が皇后の座に就くことになりました。さらに、雅媚は皇子を儲けながらも死産、一方の絹秀は尭明を産んだことが発端となって、今回の入れ替わりが起こり、皇后・絹秀が床に臥せる事態へと繋がっていったのです。その後は、玲琳と慧月が協力して、絹秀の危機を救うべく、『蟲毒(こどく)』に立ち向かう姿が描かれていきます。さらに、入れ替わりの事実に気付いた尭明と辰宇の異母兄弟が、玲琳を巡って弓で競い合う姿も描かれます。
2023.08.16
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婚姻前の子女である雛女(ひめ)を集め、次期妃育成を行う雛宮(すうぐう)。 ここへ入内を許されるのは、東領を司る藍家、西領を司る金家、北領を司る玄家、 南領を司る朱家、直轄領を司る黄家の五家と縁のある女のみ。 五家から送り込まれた5人の姫君が、皇后と4夫人の座を巡って競い合います。 その中で、誰の目にも次期皇后にふさわしいとされていたのが、15歳の黄玲琳。 病弱でありながらも純真さを保つ玲琳は、現在の皇后・黄絹秀の姪であり、 皇太子・尭明(ぎょうめい)にとっても従兄妹に当たる関係。 周囲からは、『殿下の胡蝶』と呼ばれる存在でした。一方、朱慧月は、4夫人の中で最も権威のある朱貴妃が後見する雛女でありながら、上位者にはおもねり、下位者にはきつく当たるとの評判。周囲から最も軽蔑すべき人物とされ、「雛宮のどぶネズミ」とあだ名される有様で、尭明に焦がれる彼女は、玲琳のことをひどく妬んでいました。そして、乞巧節(たなばた)の夜、玲琳は慧月に乞巧楼から突き落とされてしまい、目覚めるとそこは牢の中、体は慧月のものと入れ替わっていました。慧月の道術により引き起こされたこの突然の事態に、健康体を得た玲琳は自分らしく対処。「獣尋の儀」を乗切り、荒地を楽園に変え、中元節の儀に備え、徹夜弓を引きます。その中で、鷲官長・辰宇に疑念を生じさせ、女官・莉莉の心を掴んでいき、玲琳付の筆頭女官・黄冬雪も、入れ替わりの事実に気付いたのでした。 ***今巻の中で、最も印象に残ったのが、次の台詞。 「死んでしまうまでは、生きているということでございます。 同じく、噛まれるまでは、噛まれていないということ。 噛まれる前から痛がっていては、体力が持ちませんでしょう?」(p.038)まさに、「尋常でない数の死の危機を回避しつづけてきた、鋼の精神を持つ女」です。
2023.07.30
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先日、『52ヘルツのクジラたち』を読みましたが、 今回も、タイトルに「クジラ」が付された作品を読むことに。 ただし、今回の作品は、「クジラ」そのものとは全く関係がなく、 次に記されている通り、あくまでも「クジラ頭の王様」のお話なのです。 都内の動物園に、男三人で来ていた。 僕と池野内議員は背広姿、小沢ヒジリは爽やかなジーンズ姿で、 ハシビロコウのいる場所の前で長いこと立っている。 プレートに説明書きがあり、この鳥の和名と英名が並び、学名も記されていた。 ラテン語で「クジラ頭の王様」という意味らしい。(p.427)この男三人が、このお話のメインキャラクター。8年前、金沢のホテルで火事に遭遇した三人が、夢の中で共に戦い、そこで勝利すると、現実世界のトラブルを回避できることに次第に気付いていきます。そして、お話の舞台は一気に15年後へと移り、これまでにない試練に立ち向かうことに。 *** ニュースや話題になるのは、物事の実際の重要性や危険性よりも、 多くの人たちの感情が優先される。 不快なものは不快、理屈を飛び越える。 その気持ちは僕も分からないでもない。 あの動物は狩って食べてもいいが、この動物を獲るなんて残酷! といったことはよくあるし、有名人の不倫でも、大目に見られる人もいれば、 世の秩序を乱す大悪党さながらに糾弾される人もいる。 重要な外交問題そっちのけで、変わった飛び方をするムササビがテレビで話題になる。 情報操作や誘導にかかわらず多くの人は、感情に正直なだけなのだ。(p.14)伊坂さんの作品を読んでいて心地良いのは、お話の流れとは直接深く関わらないようなところで、強く共感できることが、サラッと書いてあるところ。感性が似ているのだろうな、と感じます。 人間を動かすのは、理屈や論理よりも、感情だ。(p.430)これなんかは、ズバリ一言。まさに、直球ですね。 「自動車メーカーも小説家も、喫茶店経営者も、自分たちの首を絞めるものに対しては、 それがいかに世の中を良くするものだとしても、反対しますよ。 少なくとも賛成はしません。 自分は不利益を被ってもいいからみんなのために、なんて言える人は貴重です」(p.103)これもスゴイですね。「真理」です。 何度か、「大丈夫?」と訊ね、彼女は、「全然平気」と答えるが、 だからといって本当に平気かどうかは誰にも分からないのだ。(p.180)これは、『シーソーモンスター』でも、同じようなことが書いてありましたね。本当に、そうだと思います。 手に余るほどの忙しさではなかったが、 それなりに仕事が積まれていたのはありがたかった。 暇になると人は心配事に溺れてしまう。 忙しい間は、天が落ちてくる心配をしなくてもいい。(p.345)これもイイですね。強く頷きながら、読んでいました。 ***作家・川原礫さんによる巻末「解説」では、「ゲーム小説」について述べられており、そこには岡嶋二人さんの『クラインの壺』の名も登場しています。また、本著第4章で登場する「パスカ」についても触れられていました。「パスカ」は、同じく近未来を舞台とした『スピンモンスター』でも登場していますね。
2023.07.30
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優莉匡太元死刑囚の6女にして、友里佐知子によるステロイド実験の産物、 そして、日暮里高校1年生の杠葉瑠那に、重要計画を2度も潰されたEL累次体。 尾原文科大臣、国立大教授の築添、政権与党シンクタンク勤務の菜嶋は、 瑠那が参加する夏季巫女学校に、杢子神宮の巫女・松崎真里沙を送り込みます。 彼らは、真里沙に「維天急進派と関係の深いEL累次体の名簿一覧」を持たせ、 瑠那と相思相愛の関係になることを命じると共に、 彼女のバックアップとして、指定暴力団組長を父とし、女子刑務所服役中の世暮藪美と、 さらにそのバックアップとして、築添の娘を送り込み、瑠那を排除しようとします。 *** 握りこんだ豆のすべてを、サイドスローの姿勢で大きく振りかぶり、 満身の力をこめ鬼に投げつけた。 胎児のころからのステロイド注射により、瑠那の筋肉は本質的に異常なほど発達している。 至近距離から投げつけた豆でも秒速四百メートルに達する。 その威力は散弾銃に匹敵した。 けたたましい音とともに、鬼の全身に無数の豆が深々と食いこんだ。(p.89)実際、散弾銃の初速は秒速400m程だそうです。これは、時速換算すると1440km。 その一瞬を逃さず、瑠那は右手に握ったナイフの尖端を、 左手で保持した弾の薬莢の底、雷管に突き刺した。 一ミリのずれも許されない、まさにミクロな対象物を、 しかも満身の力をこめ瞬時に突いた。 銃もないのに発砲音が轟き、瑠那のてのひらに燃えるような熱がひろがった。 薬莢から打ちだされた弾丸が、藪美の眉間を貫いた。(p.244)結衣の横浜ランドマークタワーや、火星20号のエピソードも驚きましたが、今回の瑠那のこの二つのエピソードは、それを凌駕する勢い。もはや、人間業ではありません。
2023.07.30
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2017年にデビューした町田そのこさんは、 2021年に、本作で本屋大賞を受賞しました。 ちなみに、その時2位となったのは、青山さんの『お探し物は図書室まで』。 町田さんは、翌2022年にも『星を掬う』で本屋大賞10位となっています。 ***三島貴瑚は、高校卒業後、全国的に名の知られる製菓会社への就職が内定していましたが、母親の命により、就職せず、ALSを発症した義父の介護に明け暮れることに。 その後、義父が緊急入院した際、母親が放った心無い言葉に追い詰められてしまいますが、高校時代の友人・美晴と、彼女が働く会社の先輩・アンさんが、救い出してくれました。その後、貴瑚は就職した会社の専務・新名主税(ちから)との交際を始めますが、彼には正式な婚約者がおり、貴瑚には愛人であり続けることを求めてきます。そのことが契機となって、アンさんが自ら命を絶ってしまったため、貴瑚は、柳刃包丁を手にした末、主税と揉み合いとなり、腹部を刺されてしまったのでした。貴瑚は、主税の父親からの示談金を元にして、かつて東京で芸妓をしていた祖母が、60歳の頃に移り住んだ家を、母親から譲り受け、ひとり引っ越してきます。そこは、昔は大いににぎわっていたものの、現在は過疎化が進む大分の漁師町でした。貴瑚は、家の修繕をお願いした業者で、貴瑚に想いを寄せることになる村中や、何かと口やかましいおばあさんたち、元中学校校長で老人会会長の品城(しなぎ)、その娘で『めし処よし屋』で働く、村中の同級生・琴美らと出会います。そしてある夜、その琴美の息子が、母親から虐待を受け、貴瑚の家に逃げ込んできたのでした。貴瑚は、少年を世話してくれる可能性のある彼の祖母に会うため、美晴らと共に小倉へ向かいますが、祖母はすでに交通事故で亡くなっていました。そして、大分に戻ると、貴瑚は少年を誘拐したことになっていましたが、村中とその祖母の力添えで騒動は一段落、そして、貴瑚はある決意を固めます。その後、貴瑚と少年は、彼の叔母のいる別府へと向かったのでした。 ***愛(いとし)の祖母・昌子が、貴瑚と孫に対して示した考えは、とても納得のいくものでした。しかしながら、愛の成長を感じさせるエピソードとして、急激に認知症が進んでしまった品城を、村中家のバーベキューに乱入させたことについては、何かしら引っかかるものが残ってしまいました。
2023.07.23
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著者は、1994年に朝日新聞社に入社し、 2010年に39歳で政治部次長(デスク)、2012年には特別報道部デスクとなり、 2013年に「手抜き除染」報道で新聞協会賞を受賞した鮫島浩氏。 しかし、2014年には福島原発事故を巡る「吉田調書」報道で解任されている。 本著は、鮫島氏が京大法学部の学生として就活に励んでいた時期から、 朝日新聞入社後、つくば支局、水戸支局を経て浦和支局に異動して政治部記者となり、 与野党の大物議員や官僚と接していった頃の様子や、 政治部、経済部、社会部等、朝日新聞社内で繰り広げられていた勢力争いが描かれている。本著を読み進めながら、「新聞記者」の仕事については、知っていそうで実はあまり知らなかったのだと、気付かされることになった。また、社内の派閥争いや権力闘争は、どこの企業でも多かれ少なかれ見られるものだろうが、極端な「手のひら返し」には、朝日新聞社特有の空気を感じてしまった。 *** ある外交官は「外交に『決着』はないんです。どんな合意をしても必ず課題は残る。 外交は『決裂』か『継続』のどちらかなのです。『決裂』したら国交断絶か戦争になる。 これは外交の失敗です。『継続』さえしていれば、国交断絶や戦争は避けられる。 『継続』こそ外交の成功なんです」と言った。(p.72)本著で、最も心に残った部分。まさに、です。
2023.07.19
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青山さんの小説家デビュー作『木曜日にはココアを』の続編。 東京と京都を舞台とした1月から12月までの12の連作短篇集。 『木曜日にはココアを』に登場したキャラクターたちはもちろん、 『猫のお告げは樹の下で』で登場したキャラクターたちも登場します。 ***偶然マーブル・カフェのイベントに訪れた、携帯ショップで働くマフラーの女性妻・理沙との記憶が合致しないときがあることに悩む夫・ひろゆきメディアでも取り上げられる人気ランジェリーショップ「p-bird」を営む尋子1週間前に雄介との婚約を破棄し、ライブ活動を続けることにした佐知京都の和菓子屋・橋野屋の娘で、様々な場所で「紙芝居」を披露している光都長男が夫の跡を継いだ後、店の事業から一切手を引き、孫の面倒を見てきた橋野タヅ右が黄色で左が青いオッドアイの白い野良猫10年前に脱サラして古書店経営を始めた吉原生まれて初めてできた彼女・千景にわずか1カ月であっさり振られた大学生・孝晴マスターと長年のビジネスパートナーで、シドニーでインテリアの仕事をしているマーク画家である父・テルヤの出張が増え、家にシッターのはなえが来るようになった小学生・拓海京都の老舗茶問屋・福居堂の一人息子で、東京支店を任された吉平 ***『木曜日にはココアを』と同様、これらの人々が、12の短篇の中で様々に関わり合いながら、物語が紡がれていきます。既刊に登場したキャラクターたちのその後や、新たな一面を知ることが出来る嬉しい構成で、海堂さんの「桜宮サーガ」のように、青山さんも自らの創作世界を築きつつあります。
2023.07.17
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優莉家の四女・凜香と六女・杠葉瑠那がメインとなる新シリーズ第2弾。 今回は、凜香と瑠那が通う日暮里高校の体育祭が舞台。 冒頭は、蓮實庄司が雲英亜樹凪の危機を救うシーンからスタート。 蓮實は亜樹凪を護ることに全力を傾け、心を奪われていくことになります。 一方、瑠那の机上に置かれていた赤い封筒には、切手大のメモリーカードが。 PCのスロットに挿入し起動させると、ブックメーカーのサイトに繋がり、 そこでは、日暮里高校の体育祭が賭博の対象になっていました。 一番人気は凜香で、瑠那は最下位、そして瑠那のスマホに非通知番号から着信が。瑠那は、危機に見舞われながらも、ブックメーカーについて情報収集を進めていき、蓮實から、”Killer Deeper"という存在について知らされます。体育祭当日、文部科学大臣・尾原輝男が訪問視察に訪れる中、その”Killer Deeper"が張っていたのは、”All students died”という項目でした。女子100m予選で圧勝した凜香以上に、観客の目を引いたのは400m予選に出場した亜樹凪。しかし、途中負傷した凜香の代走として出場した瑠那は、亜樹凪を圧倒します。そして、クラス対抗リレーで瑠那がスターターの合図を待っている時に事件は発生。銃声が鳴り響き、日暮里高校は週末まで休校となりました。亜樹凪は、父の遺品である戦術中性子爆弾DBT19を用いて、仲築間を壊滅させるべく、蓮實の元婚約者の桜宮詩乃を人質とし、彼にその時限装置を起動させようとします。蓮實はDBT19を奪い、モーターボートに載せると、全速力で海上を飛ばしますが、そこに水上バイクに乗った瑠那が、姿を現したのでした。 ***最後は、もちろん瑠那の思惑通りに展開し、亜樹凪の企ては失敗に終わります。ただ、瑠那が亜樹凪に放ったのも、恐らく「血糊弾」だったのでしょう。凜香と結衣が、2人で言葉を交わすシーンがとっても良いですね。きっとまた、結衣が大活躍するシーンが見られるはずです。
2023.07.15
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副題は「政府のやりたい放題から身を守る方法」。 マイナンバー、コロナ、脱炭素等の問題について、 報道ではあまり知らされることのない裏事情を明らかにしていきます。 著者は、国際ジャーナリストの堤未果さん。 *** ショック・ドクトリンとは、テロや戦争、クーデターに自然災害、 パンデミックや金融危機、食糧不足に気候変動など、ショッキングな事件が起きたとき、 国民がパニックで思考停止している隙に、通常なら炎上するような新自由主義政策 (規制緩和、民営化、社会保障切り捨ての三本柱)を猛烈なスピードでねじ込んで、 国や国民の大事な資産を合法的に略奪し、政府とお友達企業群が大儲けする手法です。 (p.37)著者は、9・11同時多発テロ後に起こったアメリカの変化に強い違和感を抱き始め、やがて、それがフリードマン教授とお友達一派によって、1973年にチリで引き起こされたあのショック・ドクトリンと同じものであると気付きます。そして、アメリカ国民への取材を開始、『ルポ 貧困大国アメリカ』へとまとめていくのです。 自民党に1億円献金したNTTが1000億円分のマイナンバー事業を受注し、 ワクチンメーカーの日本法人執行役員が 子どもたちの予防接種を担当する教育委員に就任し、 再エネ事業を展開する企業関係者が買取価格を決める委員会に入り、 総理に脱ガソリン車政策を進言する参与のもう一つの顔が、EV車メーカーの社外取締役。 まるで韓流ドラマバリの相関図、 しかも同じ役者が配役を変えてあちこち登場する始末です。(p.261)本著では、マイナ保険証の危うさや世界のマイナンバー事情、個人情報がすべて紐づけられ、デジタル化が進んだ先に待つ世界について、たっぷり紙幅を割いて、丁寧に説明がなされていくため、目から鱗の連続です。また、コロナ対応や脱炭素に向けての動きについても同様で、その背景に潜む企業権益の大きさには驚かされるばかりです。そして、次の記述も大いに頷けるものでした。各誌・各局が競って一つの問題だけを大きく取り上げている時は、要注意ですね。 ショック・ドクトリンの戦略の一つは、都合の悪いことは極力隠蔽、が基本。 メディアで取り上げさせないだけでなく、 人々の意識の中にも入れないようにしないといけません。 そのため、肝心なときには、芸能人のニュースを横並びで一斉に流させるなど、 あの手この手を使って関心をそらし、 国民の「忘却力」を活性化させてくるのです。(p.263)
2023.07.15
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「心の病」がどうして生じるのか、どこまで研究が進んでいるのかを、 脳科学から精神疾患の解明や治療法の開発を目指す研究者たちが解説。 第1部では、「心の病」が脳のどこで不具合を起こし発症するのかについて、 「シナプス」「ゲノム」「脳回路と認知の仕組み」の3つの観点から説明。 第2部では、「うつ病」「ASD」「ADHD」などで見られる脳の変化について、 最新研究から明らかになりつつある事柄を、 そして、第3部では、対処療法でしのぐしかなかった精神疾患治療が、 薬物療法以外にも、新たな技術研究が進んでいる様子を紹介していきます。 *** 脳の変化はうつ病の患者さんでも起きていて、 海馬と前頭前野の一部(内側前頭前野)の体積が縮小しているという報告があります。 脳体積の縮小は、細胞死以外に、樹状突起の退縮やシナプスの現象によっても起きます。 うつ病の患者さんで縮小がみられる内側前頭前野は、 扁桃体を制御しているといわれています。(中略) 危険な状況では扁桃体が活性化して適切な行動をとる必要がありますが、 理由もないのに日常的に扁桃体が活性化していると、 理由がないのに不安感が続いたり、 目の前の出来事から逃げ出したりする無気力な行動(うつ様行動)が現れます。(中略) 内側前頭前野の神経細胞の樹状突起が退縮してしまうと、 扁桃体を制御する働きが弱まってしまい、うつ様行動が現れるのでしょう。(p.85)これ以外にも、「こんなことまで分かって来ているんだ」という記述が目白押し。精神疾患についても、日進月歩で研究が進んでいることに、本当に驚かされました。ただし、本著はブルーバックスの一冊なので、なかなか手強い一冊であることも事実。高校で学んだ「生物」や「化学」の知識を総動員しても、そう易々と読み進めることは出来ませんでした。
2023.07.13
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『満月珈琲店の星詠み』シリーズの第2弾。 今回も、猫たちが星占いで、迷える人々を導ていきます。 *** 市原聡美は、渋谷にある広告代理店に勤務するイベントプランナー。 もうすぐ交際7年目になる筑波大講師の諒から、クリスマスイブに会いたいと言われますが、 都内に住み現在の職場で仕事を続けたいため、その日に求婚されることを恐れていました。 そんな時、兄の娘で小学1年生の愛由を東京の街に案内し、1泊2日を共に過ごすことに。派遣先の広告代理店で、市原聡美の下で働く鈴宮小雪は、8歳で交通事故で父を亡くし、16歳で新しい父が来て、18歳で弟がいて、専門学校進学時に一人暮らしを始めた22歳。満月珈琲店で実の父から事故死の真相や、母や新しい父について聞かされた小雪は、クリスマスケーキを手に、父と母と弟がいる実家へと向かったのでした。市原純子は、大学生の時に昭和気質の古い価値観を持つ父と絶縁、そのため、実家で飼っていた愛犬・リンの死に立ち会うことが出来ませんでした。そんな父が病に倒れ入院、純子は娘の愛由と共に父の見舞いに鎌倉へ行くことに。そこには、父と絶縁していた弟・次郎とその婚約者・中山明里も姿を見たのでした。 ***愛由が夢中になっている人気番組『流星エンジェル』。この脚本家として芹川瑞希、プロデューサーとして中山明里の名前が登場し、そこから、市原純子の弟が、どうやらスタイリスト・次郎らしいと気付かせてからの、二人そろって登場という、いかにも望月さんらしいサービス精神に溢れた展開でした。
2023.07.12
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副題は「テクノロジー×薬剤師による薬局業界の生き残り戦略」。 帯には「大手通販ネットショップの業界参入により 薬局はかつてない淘汰の危機に直面する!」の文字が踊ります。 著者は、2019年に日本初のロボット薬局を大阪梅田で開発した渡部正之さん。 *** その一方で、国による医薬分業推進の波に乗って薬局の数は増え続けてきました。 厚生労働省によると、2019年時点で日本全国にある薬局の数は約6万に上ります。 1989年時点の薬局数は約3万7000なので、 30年間でおよそ1.6倍に増えたことになります。(p.19)『図解即戦力 医薬品業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』のChapter7「調剤薬局とドラッグストアの行く末」にも、この数字は登場しており、その成長は打ち止めで、過当競争の環境になるとの記述もありました。そこへもってきて、次のようなことが起こっています。 調剤報酬改定による調剤報酬点数の低下や、 新型コロナウイルスの影響による患者の受診控えなどにより 薬局業界は苦しい状況におかれています。 そして、将来処方せん枚数が頭打ちになると業界はさらに追い込まれていくはずです。 このような状況のなかで、薬局は新たな問題にも直面しています。 それは海の向こうからやってくるAmazonです。(p.23)著者は、Amazon台頭により本屋が市場から姿を消しつつあることに触れながら、Amazon の次のターゲットは薬局業界であり、その参入は電子処方せん導入のタイミングであろうとしています。その脅威に立ち向かうために「テクノロジー×薬剤師業務の分化」が必要と唱えます。 薬局ビジョンの根幹をなす考え方のうちの1つとして、 薬局・薬剤師の専門性やコミュニケーション能力の向上を図り、 調剤などの対物中心の業務から対人業務へのシフトを目指すという 「対物業務から対人業務へ」が挙げられます。 なお、残りの2つの考え方は「立地から機能へ」「バラバラから1つへ」です。(p.72)「薬局ビジョン」とは、2015年に厚生労働省がまとめた「患者のための薬局ビジョン」のこと。「対物業務から対人業務へ」は、現在、薬剤師にとって最大の課題となっています。「処方せんに書かれた医薬品を薬棚から取り出して取り揃える」だけの単純作業ではなく、専門性を求められる対人業務へのシフトが、強く求められているのです。 今は対物業務から対人業務への過渡期にあるといえ、 どの業務を効率化すべきか、どの業務に薬剤師が注力すべきかを 手探りで探している状態ということもできます。 一方で、薬局や薬剤師に期待される役割は大きくなるばかりです。 健康サポート薬局や地域連携薬局、専門医療機関連携薬局、トレーシングレポート、 調剤後のフォローアップ、リファイル処方など新たな業務が目白押しです。(p.116)この後、薬剤師が専門性を生かした業務へとシフトしてけるよう、単純作業をいかにロボット化、ICT化していくかが記されていきます。そこでは、著者がその実現に向けて取り組んできたことや、その成果が紹介されています。薬局業界の今後の道筋が示された、素晴らしい一冊でした。
2023.07.09
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伊坂さんの呼びかけで始まった「螺旋プロジェクト」。 8人の作家さんたちが、「海族」vs.「山族」の対立を描いたり、 共通キャラクター、シーン、象徴モチーフを登場させるなど、 ルールを踏まえながら 原始から未来までの歴史物語を一斉に描いています。 伊坂さんは、本著表題作の『シーソーモンスター』で昭和後期を、 もう一つのお話の『スピンモンスター』で近未来のパートを担当。 ***『シーソーモンスター』は、北山家の嫁・宮子と姑・セツの対立を軸としながら、義父の死に疑問を抱いた元情報員の宮子が、その真相を追う様が描かれていきます。最後は思いもよらぬ展開で、さらに『スピンモンスター』にも影響が及ぶのですが、後から振り返れば、なぜ気付けなかったのだろうという悔しさも残ったお話でした。一方、『スピンモンスター』は、見知らぬ男から一通の手紙を託された配達人の水戸が、その男の友人・中尊寺と共に、その男の死と人工知能・ウェレカセリの闇に迫るお話で、水戸にとって因縁の相手である檜山が、その都度水戸の前に立ちはだかります。ただし、全てが解明されてのエンディングではないため、「?」感は拭えません。 *** 「それでもなかなか嫌とは言えないものだよ。 面白いことに、人はね、『大丈夫?』と訊かれれば、 『大丈夫』とうなずいてしまうものなんだよ。 決まり文句だ。 大丈夫じゃない時にも、病気が悪くなっている時にも、大丈夫、と答えてしまう。 不思議なものだね」(p.11)「確かに、そうだなぁ」と、感心させられたところ。「このことは、常に頭に置いておかねば」と、改めて思いました。 「おかげで私も興味が出たんだ。 教科書に載っている歴史上の人物が、年表のような薄っぺらいものじゃなくて、 地面の上でちゃんと生活していた、自分たちと同じ人間だと感じられたんだ。 聖武天皇にも頼朝にも物語はある。」(p.61)「自分たちと同じ人間だと感じられた」こんな風に思ってもらえるような教え方が出来れば、もう最高です。
2023.07.09
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カイドウはルフィの手で地中深く殴り飛ばされ、 落下する「鬼ヶ島」は巨大な龍となったモモの助が「焔雲」で受け止めた。 オロチの悪政も、カイドウにおびえる日々も終わりを告げ、 「ワノ国」は、光月モモの助が統治する国に、そして勝利の宴。 四皇カイドウ、四皇ビッグ・マム敗北のニュースが世界を駆け巡る。 モンキー・D・ルフィは、 ユースタス・C・キッド、トラファルガー・ローと共に、 政府から”30億ベリー”という破格の懸賞金を懸けられ、 赤髪のシャンクス、千両道化のバギー、”黒ひげ”ティーチと並んで四皇に加えられることに。一方、古代兵器「プルトン」の謎を追うロビンは、ローと共に光月スキヤキに導かれ、海底に眠るかつてのワノ国へ。そこで、3つ目のロード”歴史の本文(ポーネグリフ)”を目にすると共に、開国とは国の防御癖を破壊し、古代兵器を解放することを意味すると知らされる。その頃、海軍本部大将・緑牛(アラマキ)が、サカズキに制止されているにもかかわらず、ルフィの首を取るべくワノ国に乗り込む。ヤマト、モモの助による想定以上の応戦に、アラマキが本気でその力を発揮しようとすると、そこにシャンクスの覇気が襲い掛かったのだった。 ***海軍本部のシーンでは、菅原文太さん(赤犬・サカズキ)、田中邦衛さん(黄猿・ボルサリーノ)、勝新太郎さん(藤虎・イッショウ)、小林旭さん(黒馬・テンセイ)等々豪華メンバーが登場。松田優作さん(青雉・クザン)の姿は見えませんでしたが、ワノ国では、原田芳雄さん(緑牛・アラマキ)が姿を見せてくれました。革命軍参謀総長・炎帝サボが、アラバスタ王国国王・コブラを殺害し、王女・ビビが失踪したとのニュースが流れているのが気になりますね。
2023.07.02
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「この世の喜びよ」で第168回芥川賞を受賞した井戸川射子さんが、 第43回野間文芸新人賞を、史上初の選考委員満場一致で受賞した表題作と、 小説家としてのデビュー作である「膨張」とを合わせて収録したもので、 紙面に添えられた最後の頁番号が’162’というコンパクトな一冊。 しかしながら、「この世の喜びよ」と同様、 読み進めるのには、想像以上にかなりの労力を要しました。 ***表題作は、近所を淀川が流れている児童養護施設で暮らす小学5年生の集が、日々の様子を、淡々と関西弁で語っていくという形で展開していくのですが、私は関西弁を聞いたり話したりすることは、普段から当たり前のようにしている状況なので、そこがネックとなって、読み進めるのが困難ということにはならないはず……それでも、関西弁を活字として拾い上げ、理解するとなると、また、違った難しさが生じてしまうからなのかとも考えましたが、阪神タイガースの岡田監督の囲み取材でのやりとりを、そのまま活字として掲載した記事を読むのに、苦労したことはただの一度もありません。そして、アドレスホッパーについて、標準的な日本語で描写した「膨張」を読み始めても、読み進めるのに要する労力は、ほとんど変わりませんでした。これは、やはり関西弁がネックになっていたわけではないと悟った私は、改めて、本書のページを最初から捲り直し、あることに気付いたのです。井戸川さんの書く文章は、一つ一つはそれ程長いわけではないけれど、改行が極端に少ない。そのため、見開き2頁に渡り、ぎっしりと活字が詰め込まれた状態になっていることが多く、読み手は、息継ぎのタイミングが上手くつかめないまま、読み続けなければならない。その結果、息苦しくなり、次第に疲れがたまり、読み進めるペースが遅くなってしまう……井戸川さんが描き出す世界観は独特のものがあり、読む者に強烈なインパクトを与えます。だからこそ、数々の賞を受賞し、今注目される作家となっておられるのです。そして、それを支えている一つの要素として、このような個性的な文体があるのでしょう。今後の井戸川さんの作品が楽しみです。
2023.07.02
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