音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2011年07月09日
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 アナ・ベレン(Ana Bel?n,1951年生まれ、マドリード出身のシンガー・女優)とビクトル・マヌエル(V?ctor Manuel,1947年生まれ、アストゥリアス地方出身のシンガーソングライター)の夫婦は早くからデュオで活動し、70年代後半から80年代前半にかけてのスペインの“移行期”を代表するアーティストと言われる。

 少しばかり歴史的な背景を振り返っておくと、第二次世界大戦での敗戦によって各国のファシズム体制は崩れ去った。そんな中、スペインは1975年のフランコ総統死去まで独裁体制を引きずり、西洋諸国や日本のような現在の民主的体制が確立されるのに時間がかかった国である。アナ・ベレンとビクトル・マヌエルの世代のアーティストたちは、ポスト世界大戦の生まれでありながらも、スペインの個別事情からみると、フランコ体制の下で生まれ育ち、やがて現代の自由なEUの一国になるまでを体験した、そんな激動の世代というわけである。

 他方、スペインは他のいくつかのヨーロッパ諸国と同じく、ローマ時代から脈々と連なる歴史の深みを感じさせる国でもある。そのことが筆者にとっての先入観となってしまっているのかもしれないのだけれど、以前紹介したジョアン・マヌエル・セラーの 「メディテラネオ(地中海)」 などを聴いても、今の地中海と同時に、悠久の過去の地中海(近世の海戦の舞台、古代のローマやカルタゴの交易や戦役などなど)も連想してしまう。ボストンやカリフォルニアなどという地名を聞いてもこういう発想は働かないのだが、イタリアとかスペインとかの地名を聞くと、不思議なことにそういう壮大な歴史のイメージが膨らむ。

 これら二重の意味で、「アルカラの門」は歴史の重なりを感じさせる曲である。実際、この曲の歌詞には、カルロス3世(スペイン王、1759~88年)から、内戦を経て、いま現在その門を見ている自分自身まで、様々な登場人物が順に描写される。この門はもともとあった16世紀の門をカルロス3世が新たに建設させたもので、首都マドリードにとって、東側(フランス、カタルーニャなど)方面への玄関口だったという。この曲の詞の中では、カルロス3世がお供の者たちとこの門を通る姿が描写されている。

 曲が進んで次のヴァースでは、1930年代のスペイン市民戦争時の光景、さらに次のヴァースでは1960年代の学生運動が取り上げられ、その次に現代の門の様子が描写される。つまりは、アルカラの門という実在のモニュメントが、過去から現代までその場所でこうした様々な歴史の光景を見つめ続けてきたことを詞にしているというわけである。

 これだけで終わるとあまり面白くないのだけれど、最後に、自分自身がアルカラの門の前で立ち止まり、ふとそれを見つめるというシーンが詞に含まれている。その表現が“誰かに見られている気がして立ち止まり、気付くとそこにアルカラの門があった”というもので、つまりは、現在の自分自身も長い歴史を見てきたアルカラの門に見られているという設定が面白い。

 ちなみに、作詞作曲はルイス・メンドとベルナルド・フステルを中心とするスペインのフォーク・ロック・バンド、スブルバーノ(Suburbano)によるが、アナ・ベレンとビクトル・マヌエルのヒットにより、このデュオの代表曲としてすっかり定着している。





Ana Bel?n & V?ctor Manuel / Para la ternura siempre hay tiempo (1986年)
Ana Bel?n & V?ctor Manuel / Dos grandes con historia (1992年)←ベスト盤
Ana Bel?n & V?ctor Manuel / Mucho m?s que dos (1994年)←ゲスト多彩なライブ盤


追記: ちなみに、プロフィール欄の写真が、このアルカラ門です(2012年春現在)。





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Last updated  2012年05月26日 15時18分48秒
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