ぼくの細道・つれづれ草

ぼくの細道・つれづれ草

2006.03.06
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カテゴリ: カテゴリ未分類


 とかげの尻尾




  (とかげの尻尾は切れても元どおりに再生する)
  (これはbodyに尻尾が再生するのであって)
  (切れた尻尾にもbodyは再生するだろうか)

  置かれた状況とは関係のないことを考えていた
  ガラス窓に外の面の秋の陽が翳っていた
  あれは外科病棟の医務室
  よく太った執刀医が
  手術の経過を説明していた
  説明してもらっているという意識はなかった
  眼の前のいかついデスクの上
  シャーレーに置かれた血まみれの肉塊
  丼鉢一杯くらいの嵩だったろうか

  それは 妻のbodyから切除された
  それは 妻の片方の乳房だった
  『これが癌の病巣です』
  よく太った執刀医が
  ゴム手袋をした手で
  肉塊をなぞった
  いや なぞったように
  見えただけのことかも知れない

  生命あるものから分離してしまった
  このモノはいったい
  (まだ有機物と言えるのだろうか)
  (これが人の身体の一部だろうか)
  一見 食品スーパーに並んだ
  パック入りの牛肉や豚肉と変わらない
  そのモノを前にして
  わたしは 執刀医に向かって
  『ありがとうございました』
  と言えばいいのか
  『ご苦労様でございました』
  と言えばいいのか
  ただ途惑うばかりだった 





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Last updated  2006.03.06 14:49:25
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