ぼくの細道・つれづれ草

ぼくの細道・つれづれ草

2006.06.17
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          水引草の咲くなべに

        山あいに湧き出す
        天然の水が飲みたいという
        娘は理科教師
        息子は現代医学を研修中
        それでも
        その子の母である妻は
        病に効く霊水の存在を
        信じているらしい

        国分寺 泉涌寺 佛性寺
        寺のつく地名が多いこのあたりは
        昔は聖地だったのかも知れないね
        泉涌寺から車で山路をたどり
        木立をくぐりぬけ
        佛性寺のだらだら坂を上りつめると
        水汲場に出る
        泉とも涌井とも言えそうな
        清冽な水の一滴一滴は
        すでに自然の摂理として
        生命を宿しているのか
        ああ 樹林のあわいを
        夏果ての太陽光線が
        幾条もの帯となって
        射し込んでくる

            そう あの日も 病室の窓辺には
            陽の光が 斜めに射し込んでいた
            「これが癌病巣です」
            おまえが喪失したばかりの
            片方の乳房は
             おまえの生命を乖離し
            丼一杯大の物体と化し
            それは 朱に染まって
            ゴム手袋の
            外科医の手に委ねられていた

           ( あれから三年
            あの日の
            いや あの日から連続する
            おまえの痛みや苦しみを
            真実おれの痛みや苦しみともして
            共有し合ったろうか )

        今は ただ 素直に信じて
        この水に
        賦活の力を与え給えと
        祈ることぐらいは出来そうだ
        それに
        このあたりの森の空気は
        青葉のアルコールと
        青葉のアルデヒドが
        充満していて
         きっと 身体にいいと思うよ

        たやすいことだよ
        ポリ容器三杯の水が
        やがて なくなれば
        また 二人して
        汲みに来ればいい
        der  Brastkrebs(乳癌)
        こんな言葉はもう忘れよう

       - ああ そこらいっぱい 水引草が咲いているね ー








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Last updated  2006.06.19 13:31:57
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