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橋の欄干を過ぎてゆく
風が涼しい夏の終章だった
間遠に聞えていたのは
祭囃子の太鼓の音だったろうか
橋下の
空間とも水面ともつかぬ
暗がりに
蛍がぼんやり光っているのを
みつめていた
(
あのとき
何故 もっと
話し合えなかったのだろう
何故 もっと お互いを
ぶつけ合えなかったのだろう
橋を半分戻れば
もう至近の距離に
あなたがいるというのに
引き返す決断もなく
その夜わたしは
橋に背を向け帰ってしまった )
夏休みも終わったある日
思い定めて
あなたを訪ねるべく
橋の半ばにさしかかると
対岸の斜面一杯
燃えるように
彼岸花が咲いていた
その日は
橋を通る風の元素さえ
とても鋭利で
かすかにそよぐ
彼岸花の蕊の百千が
十指をさし伸べ
手話を話しているかのようでした
天真の原風景が
わたしの心象を
癒してくれたのでしょうか
わたしは
風と一緒に橋を渡り切ると
まっすぐ 足早に
あなたの家へと向っていました