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ときによって
子供ほど残酷なものはない
非日常のもの
おのれの結界へ踏み込むものに
まがまがしい敵意を研ぐことがある
「おフデ」
立ち小便をしないという点では
たしかに女性でしたが
年齢不詳
髪は縮れ毛で雀の巣
いつも草履履きで
「おんどりゃー」と
悪童連を追い掛けるさまは
まさに羅刹の相でした
「差別」 「被差別」の言葉など
知ろうわけもなく
「おフデ」と見れば
子供らは
異端者のように
石を投げた
正気と風狂の”あやめ”は何
木の芽時ともなれば
誰しも少しは浮かれたくなるもの
菜の花 蓮華 あんずの花から花へと
ふらり ふらり出歩く
「おフデ」へ
石つぶてが飛び
血をみることもあったのでした
哲人ソクラテスの妻は
じゃじゃ馬的悪女だったそうです 「おフデ」のこと 今にして思えば
かのクサンティッペを連想する
虐げられた
風狂の季節を癒す 瞑想と安息の
片時とてあったのだろうか
そんな「おフデ」の
しんみりとした
自慢話をひとつだけきいた
ー村の青年団の誰かが
こっそり夜這いに来たというのですー
桜の花咲くころ
「おフデ」は昇天した
ー自然死ー
蓬髪には
桜の花が二三本
かざされてあったそうな
お弔いは誰が出したか
今は誰も知らない