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ヴィンセント劇場<第二幕>


ヒンヤリした空気を感じ、包まった毛布の中で、ヴィンセントはゆっくりと目を開けた。
大木が林立する森林地帯の深いブッシュの中で、朝靄が汐が退く様に薄れて行くさまを捉えると、眼前の大木を覚めやらぬ目を上え、上えと漂わせる。
木々の峰の間に、陽光が時の迫る事を知らしめている。
八時間あまり潜んでいたブッシュから身を起こし、ヴィンセントはセッティングしておいたライフルにそっと手を伸ばした。
素早い動作でスコープカバーを上げると、おもむろに射撃体勢を取る。
左腕に組み込まれた時計に、ライフルを構え乍ら一瞥する。
『予定時間5分前』ゆっくりと安全装置を外すと、スコープに集中、2000メートル前方の予定目標が真近に迫る。
右目の網膜に映るのは、標的が現れる建物のドア。ヴィンセントは標的に覚えがある事を思い出す。(何処かで会った、いやっ、よく知っている奴だ)
しかし、スコープに人の姿が飛び込むや否や、その思いは何処に飛んでしまう。
(ターゲット確認!)
右手の人差し指にゆっくりと力を込め乍ら、カウントダウンを始める。
スコープに映る偉丈夫な男は、ドアの前で大きな伸びをしながら空を振り仰いでいる。
(・・・7、6、5、・・・)
指先が最後の段階に入るや否や、もう一つの影がスコープに飛び込んできた。
「マリン!!」無意識の内に声が出てしまう。
走り込んで来た影は、標的の男に駆け寄り、飛び上がる様に抱きついた。
(マリンの父上か・・・どうりで覚えが有った筈だ・・・)
ヴィンセントの人差し指は、とうにトリガーから外れ、無意識の内に安全装置は掛かっていた。(撃てる訳が無い・・・)
ライフルを抱え込んで、潜んで居たブッシュに身を沈めると、俯いて暫し物思いに沈み込んでしまう。(情報部の奴らめ・・・)
左手を握りしめると、いつの間にか握りしめて居た小石が、鈍い音を立てて砕け散る。
自ら立てた音に促されるように、ヴィンセントは抱えていたライフルを分解し始めた。
(・・なる様になるさ・・・)
小さなパーツに分解されたライフルを、腰から引き出した袋に投げ込むと、総重量13Kgだった荷物を左手にぶら下げながら立ち上がり、見える筈の無いマリンとその父親の居る方へ一喝して、森の奥深くへ歩き出した。
(・・任務の失敗は初めてでは無いしな・・・)

その後、ヴィンセントが最前線任務を言い渡された事は、言う迄も無い。


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