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第1話は こちら
「名前は?」
「森田美優」
「電話番号?」
「090-3613-xxxx」
少し事務的に質問する修二。まるで魔法にかかったかのように素直に
質問に答える美優。
なぜ、修二は私の電話番号を聞くのだろう? なぜ、私は修二の質問
に答えているんだろう? 何に利用されるか分からないのに。答える必要
なんてないのに。そもそも、このシチュエーションはなに? 通りすがりの
人が見たら、真昼間のオフィス街で、カップルがいちゃついていると思わ
れるんじゃないかしら。僅かの間に、いろんな思いが美優の頭の中を駆
け巡る。
修二の声が、今直接目の前で話している人間の声なのか、どこか遠く
から聞こえてくる声なのか、ポワーンと頭の中で木霊しているみたいだ。暑
さのせいでどうかしてしまったのだろうか。
「090-3613-xxxxだね」
ジーンズのポケットから自分の携帯を取り出し、番号を入力し始める修二。
一回聞いただけで覚えるなんて、修二って記憶力いいんだ。今、自分が置
かれているシチュエーションが、まるで人事のようにぼんやりそんなことを考
える。
突然、美優の携帯が鳴り出した。思わずビクッとする。
電話だ。あ、そうだ。私はいま仕事中だったんだ。会社からかな? 電話、
出なくちゃ。そう思うものの、まるで金縛りに遭ったかのように体が動かない。
何も言えず、電話に出ることも出来ない。ただキョロキョロ瞳を動かし修二
の瞳を窺っているだけの美優を見て、修二がニッコリ笑った。
「今の電話、俺からだから。登録しておいて」
パチンと折り畳みの携帯を閉じる。
「え?」
またしても、ちゃんとした言葉にならない。今の電話が修二からの電話だと、
冷静にこの状況を考えたら分かりそうなものだ。完全に頭の中が混乱してし
まっている。
「じゃ」
じゃ? じゃ、って......。ちょっと......。
自分の言いたいことだけ言って立ち去る修二。言葉なく、美優はただ呆然と
その後姿を見送った。今のは、何? 夢? ふと我に返り時計を見る。
「いけない」
ようやくまともな言葉を発し、会社への道を急ぐ。
大学卒業後、今の会社に入社した。3ヶ月間の研修期間が終わり、ようやく一
人前の仕事を任されるようになってきたところだ。良く言えばマイペース、悪く言
えばトロい美優だが、何とか頑張ってやっている。ここで帰社が遅れたら、上司
に目を付けられるかも知れない。慣れないパンプスを恨みながら、美優は走っ
た。
第3話へ つづく
太陽の光に包まれて最終話 October 23, 2006
太陽の光に包まれて第15話 October 22, 2006
太陽の光に包まれて第14話 October 21, 2006