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修二と美優は、セブ島の空港に降り立った。飛行機のタラップに
足を踏み出した途端、ムッとするような熱気を含んだ空気を感じる。
匂いも日本の空気とは違って、いかにも南国らしい植物の匂いを
含んでいる。
今回この国でお世話になることになっている松尾という男性が、
空港で美優達を出迎えてくれた。40才前後だろうか。修二の事務
所の社長の友人だそうだ。
15年程前にこの国に移住し事業を始め、かなりの成功を収めて
いるらしい。
短髪で日に焼けた精悍な顔つき。いかにも成功した人物らしい自
信に満ち溢れた笑顔が眩しい。ただ、どことなく瞳の奥に鋭さを感
じるのは、外国で数々の修羅場をくぐってきた人物特有のものだろ
うか。
松尾には、ボディーガードのような体格のいいジョーという男が同
行していた。いかにもそれらしく、黒いスーツに黒のサングラスとい
ういでたちだ。やはり日本とは違って、安全な国ではないのだなと感
じる。
客船に乗り、松尾の屋敷のある島に向かう。船着場から約10分
車を走らせると目の前に大きな白い門が見えてきた。その横に続く
背の高い塀は、どこまで続いているのだろうか。
門を入ると見える白い建物。門から建物まで100メートルほどだ
ろうか。まさに白亜の豪邸とも言うべき構えの家。
「すごーい」
思わず感嘆の声を漏らした。子供のようにはしゃぐ美優を見て、松
尾が優しく微笑む。家の中に入ると、天井の高いいかにも南国らし
い開放感溢れるリビングが広がっている。
リビングの右手にはカウンターバーが設置され、正面の窓の向こ
う側にはプールが見える。そのプールの向こうには砂浜と海が続い
ており、まるでリゾートホテルのように素敵だ。
屋敷の中には、ジョーと同様黒いスーツにサングラスをかけた数人
のボディーガードがいる。彼らさえいなければ、完璧なシチュエーショ
ンなのに残念だ。すべては安全のためだと思い、気にかけないよう
にするしかない。
案内された部屋は、いかにも豪邸のゲストルームという感じのもの
だった。キングサイズのベッドに、凝った装飾が施された広いバスルー
ム。
約1ヶ月間、修二とこの夢のような空間に滞在するのだ。そう考える
だけでワクワクし、はち切れんばかりの笑顔がこぼれる。
到着後一週間は、修二とあちこち観光したり、プールや海で泳いだり、
松尾に連れられ船室もある割と大きなボートで他の島に渡ったりして過
ごした。夕食にはバーベキューをしたり、食事もおいしく毎日が天国み
たいだ。
修二とこうして、ここで永遠に過ごせたらどんなに幸せだろうか。時間
が止まればいいのに。心からそう願った。
その次の一週間、修二は仕事で留守にすることになった。
例の写真撮影だ。この仕事があるからこそ、ここに来ることが出来た
のだから、少しの間離れ離れになることも我慢をしなくてはいけない。
「行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」
朝、そう言って修二を送り出した。チュッとキスをし、手を振る。まる
で夫婦みたいだと、一人ニヤける。
幸せだ。
「修二がいなくてつまらないだろう。ちょっと海に出るかね」
修二を送り出した後、手持ち無沙汰にしている美優を見かねたの
か、松尾が笑って声をかけてきた。
「あ、はい」
修二が行ってしまった途端、特にすることも見つからず、魂が抜け
たようにソファに座っていたのだ。気持ちを見透かされた美優は、気
まずく笑って答えた。
屋敷の裏側に出て、海岸への階段を下りる。簡易な船着場に繋が
れたいつものボート。慣れた手つきで手早く出航の準備を済ませる
松尾。
天から降り注ぐ太陽の光と、太陽の光を反射する海水からの光が
キラキラと松尾に注がれている。いかにも海の男という感じで凛々しい。
肩の部分が紐で結ぶ形になっている涼しげなワンピースを着た美優
は、首を傾げながらそんな松尾を見ていた。美優の視線に気付いたの
か、ふとこちらを見る松尾。人見知りをする美優は、今までは修二を
介して松尾を見ていたが、今は修二がいない。二人きりであることの
気まずさを感じ、慌てて視線を逸らす。
第10話へ つづく
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